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きっかりいつもの時間に目を覚ましたスネイプは、ベッドから起き上がると普段と変わりない黒い服に腕を通した。
今日は1月9日。彼の誕生日だ。しかし幼い頃とは違い、特別な日という感覚はなく、この歳にもなると特に気にも留めなくなっていた。年の始まりの月の9日目というだけだ。ただ、そう思っていない者もいるようだが。
身支度を終えたスネイプはいつものように朝食に向かうため部屋の扉を開けた。途端に流れ込んでくる冷気にほんの少しだけ体を震わせた。
「あ!スネイプ先生、おはようございます!」
寮から出てきたグリーンのネクタイをした生徒がスネイプに声をかけた。
「ミス・モチヅキ……」
声のした方に顔を向けたスネイプはつぶやいた。名前を呼ばれて嬉しそうに笑みを零した彼女は、スネイプに近づくと徐に懐から杖を取り出した。スネイプは訝しげに眉をひそめた。
「オーキデウス!」
ユイが呪文を唱えると、ポンッと可愛らしい音とともに紫色の花で作られた冠が現れ、スネイプの頭に乗せられた。なんとも言えぬ顔で彼女を見るスネイプだが、ユイの次の一声に多少表情を和らげた。
「先生!お誕生日おめでとうございます!」
「毎年毎年、君は飽きもせず律儀なことだな……」
頭から花の冠を取ると、しばしそれを見つめたスネイプはすっと表情を引き締めユイを見下ろした。
「しかし、教師に向かって杖を振るのはいただけませんな」
「あっ……えへへ……」
「笑って誤魔化すな。そもそも廊下での呪文の使用は禁止だとミスター・フィルチがうるさく言っていたことを忘れたのかね?」
詰め寄るスネイプに徐々にユイから笑みが消えていく。
「スリザリンから5点げん――」
「わああごめんなさーーーい!」
「おい、待てモチヅキ!」
スネイプの声を遮り大きな声を出したユイは、減点から逃れるように玄関ホールへと続く階段を駆け上っていった。
地下の廊下に残されたスネイプはひとつため息をつき、困ったように薄く笑みを浮かべた。彼女の背に向かって減点を告げることもできたのに、そうしなかったスネイプは大分彼女に絆されているようだ。
「ずいぶん甘くなったものだな……」
スネイプは呟くと、自分も階段を上った。
「あら、セブルス。珍しく可愛らしいものを持っていますね。誰かからの贈り物ですか?」
大広間に向かう途中で今度はマクゴナガル先生に会った。彼女の視線は先ほどユイからもらったばかりの花冠に注がれていた。部屋に置いてくるのを忘れていた。スネイプは花冠を見ながらふっと息を吐いた。
「ええ、まあ、そんなところですな」
「これは確か……スミレという日本でよく見られる花ですね。ミス・モチヅキでしょうか……セブルス、この花の花言葉はご存知ですか?」
花の知識と贈り主の検討をつけた彼女にスネイプは驚いた。
「……さあ、知りませんな。生憎わたしはそういうものには疎いのでな」
スネイプがそう答えると、それもそうだとでも言うようにマクゴナガル先生は小さく頷いた。
「小さな幸せ。それが花言葉ですよ。贈り主はあなたに小さな幸せが訪れることを願っているのでしょうね。素敵なものを貰われましたね」
マクゴナガル先生は微笑むと廊下を歩いていった。
スネイプはもう一度スミレの花に視線を落とした。すでに彼はユイから、小さな幸せをもらっている。祝いの言葉と彼女の気持ち。たったそれだけだが彼にとっては十分だった。気にも留めなくなったと思っていたが、心の底の方では彼女から祝われることが毎年の楽しみになっていたようだ。
来年は何をされることやら。1年も先のことを考えながら、スネイプは一度自室へ戻ることにした。ルーピンやダンブルドアに見つかってからかわれる前に。
今日は1月9日。彼の誕生日だ。しかし幼い頃とは違い、特別な日という感覚はなく、この歳にもなると特に気にも留めなくなっていた。年の始まりの月の9日目というだけだ。ただ、そう思っていない者もいるようだが。
身支度を終えたスネイプはいつものように朝食に向かうため部屋の扉を開けた。途端に流れ込んでくる冷気にほんの少しだけ体を震わせた。
「あ!スネイプ先生、おはようございます!」
寮から出てきたグリーンのネクタイをした生徒がスネイプに声をかけた。
「ミス・モチヅキ……」
声のした方に顔を向けたスネイプはつぶやいた。名前を呼ばれて嬉しそうに笑みを零した彼女は、スネイプに近づくと徐に懐から杖を取り出した。スネイプは訝しげに眉をひそめた。
「オーキデウス!」
ユイが呪文を唱えると、ポンッと可愛らしい音とともに紫色の花で作られた冠が現れ、スネイプの頭に乗せられた。なんとも言えぬ顔で彼女を見るスネイプだが、ユイの次の一声に多少表情を和らげた。
「先生!お誕生日おめでとうございます!」
「毎年毎年、君は飽きもせず律儀なことだな……」
頭から花の冠を取ると、しばしそれを見つめたスネイプはすっと表情を引き締めユイを見下ろした。
「しかし、教師に向かって杖を振るのはいただけませんな」
「あっ……えへへ……」
「笑って誤魔化すな。そもそも廊下での呪文の使用は禁止だとミスター・フィルチがうるさく言っていたことを忘れたのかね?」
詰め寄るスネイプに徐々にユイから笑みが消えていく。
「スリザリンから5点げん――」
「わああごめんなさーーーい!」
「おい、待てモチヅキ!」
スネイプの声を遮り大きな声を出したユイは、減点から逃れるように玄関ホールへと続く階段を駆け上っていった。
地下の廊下に残されたスネイプはひとつため息をつき、困ったように薄く笑みを浮かべた。彼女の背に向かって減点を告げることもできたのに、そうしなかったスネイプは大分彼女に絆されているようだ。
「ずいぶん甘くなったものだな……」
スネイプは呟くと、自分も階段を上った。
「あら、セブルス。珍しく可愛らしいものを持っていますね。誰かからの贈り物ですか?」
大広間に向かう途中で今度はマクゴナガル先生に会った。彼女の視線は先ほどユイからもらったばかりの花冠に注がれていた。部屋に置いてくるのを忘れていた。スネイプは花冠を見ながらふっと息を吐いた。
「ええ、まあ、そんなところですな」
「これは確か……スミレという日本でよく見られる花ですね。ミス・モチヅキでしょうか……セブルス、この花の花言葉はご存知ですか?」
花の知識と贈り主の検討をつけた彼女にスネイプは驚いた。
「……さあ、知りませんな。生憎わたしはそういうものには疎いのでな」
スネイプがそう答えると、それもそうだとでも言うようにマクゴナガル先生は小さく頷いた。
「小さな幸せ。それが花言葉ですよ。贈り主はあなたに小さな幸せが訪れることを願っているのでしょうね。素敵なものを貰われましたね」
マクゴナガル先生は微笑むと廊下を歩いていった。
スネイプはもう一度スミレの花に視線を落とした。すでに彼はユイから、小さな幸せをもらっている。祝いの言葉と彼女の気持ち。たったそれだけだが彼にとっては十分だった。気にも留めなくなったと思っていたが、心の底の方では彼女から祝われることが毎年の楽しみになっていたようだ。
来年は何をされることやら。1年も先のことを考えながら、スネイプは一度自室へ戻ることにした。ルーピンやダンブルドアに見つかってからかわれる前に。
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