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6月半ば。ユイがデスイーター残党捕獲任務の帰りに、セブルスから「一緒に住もう」と言われて約1年半ほどが経った。
ホグワーツ魔法魔術学校を無事卒業し、癒者 として働き出して数ヶ月後に正式にプロポーズを受け、ついに今日、ユイたちの式が挙げられる。
ギリシャ神話に登場する、全知全能の最高神ゼウスの正妻であり、結婚や母性、貞節を司る女神「ジュノー(ヘラ)」が守護する月が6月であることから、この月に結婚すると幸せになれるという言い伝えがある。
人々はそれを「ジューンブライド」と呼んでいる。
英国、スコットランド地方の奥地にひっそりと存在する魔法界に、その言い伝えを知る者がいるかは定かではないが、魔法など存在しない世界から来たユイはこれをよく知り、そして憧れていた。
ユイたっての希望で6月に挙げられることになったわけだが、彼女のわがままとも取れるそれに、セブルスはただただ呆れたように微笑んでいた。
「だって、ジューンブライドですよ! 素敵じゃないですか!」神話の話をして輝く笑顔でそう言ったユイに対し、「君は、そういうのが好きだったな」とため息をつきながらセブルスは目を細めていた。
「さあ、いいわ。できたわよ、完璧ね!」
モリーの弾んだ声に、ドレッサーに向かって椅子に腰掛けていたユイは、鏡に映る自分の姿をまじまじと見た。
「わぁああ……」
ユイは感嘆の声をあげた。綺麗に施された普段より濃い化粧により、童顔のユイも随分大人びて見えた。
在学中に伸ばした前髪は両サイドに流されて編み込まれており、耳下あたりの低い位置でゆるくまとめられている。
「ほら、立って」
モリーの手を取りユイは立ち上がった。すでにドレスに着替えていたユイは全身を鏡に映した。
肩から腕にかけて花柄のレースが散りばめてあり、腰から下はシンプルなチュールのボリュームスカートになっている。大きく背中があいたデザインのドレスは、すっきりしていてスタイルも良く見える。
「ユイ、すっごく綺麗……」
立ち会っていたハーマイオニーがため息をついた。彼女も式に備えてドレスアップしている。
ハーマイオニーは花嫁の付き添い人であるブライズメイドのリーダー的存在、メイド・オブ・オナーを任されている。ユイの一番の親友である彼女に頼んだのだ。
ブライズメイドは他に、ジニー、トンクス、パンジー、ルーナの4人で固められた。ちなみにアッシャーはハリー、ロン、ドラコ、シリウスだ。
そしてベストマンを務めるのはリーマスだった。彼がセブルスから頼まれたときはそれはもう驚いた顔をしていた。
「あ、ありがとう、ハーマイオニー」
ユイは恥ずかしそうに微笑んだ。
「モリーさん、本当にありがとうございます!ケーキもモリーさんが作ってくださってるって聞きました」
「いいのよ。私がやりたかったんだから。それに、娘がもう一人できたみたいで嬉しいわ」
モリーはにこにこと微笑んでいる。ユイとセブルスは彼女の家である『隠れ穴』で結婚式を挙げる。
『隠れ穴』には5日ほど前から訪れていた。今その一室でモリーによって花嫁姿に変身させてもらっていた。
ユイのおかげで息子が軽傷で済んだこと、そしてセブルスが自分の息子のように可愛がるハリーのことをずっと守ってきた人物だと知った時、そんな二人の結婚式なのだから、ぜひともとアーサーとモリーが場所を提供してくれたのだ。
「そうだわユイ、彼も準備が終わった頃じゃないかしら。まだ会ってないんでしょう? 行ってきなさい」
式までまだ少し時間があるわ。モリーはそう言ってユイを促す。心なしか彼女はウキウキしているように見える。
「は、はい」
ユイは急に緊張しだした。
「また後でね」
そう言うハーマイオニーに手を振り、もう一度モリーに礼を言ってから部屋を出て、ユイは庭に向かった。
おかしなところはないだろうか。いや、モリーさんがやってくれたんだから大丈夫。何より先ほど鏡で見たじゃないか。
大丈夫。大丈夫。そう心の中で繰り返しながら綺麗に刈られた芝生の上を歩いた。
ついにその人を見つけた。ビシッとタキシードを着こなした長身の男性。7年間見てきた真っ黒な服と廊下を歩く度にはためく黒いローブではない姿に、緊張が増す。
高鳴る胸を落ち着かせるように、ユイは深呼吸した。
「せ、先生……!」
声が震えた。少し離れたところから呼ぶユイの声に反応して、彼は振り返る。
ゆっくりと彼に近づくユイは彼の姿がはっきり見えると、思わず目を丸くした。
肩ほどまで伸びていた彼の髪は首周りが見えるほどバッサリと切られていたのだ。さらに、ワックスか何かでサイドの髪は後ろへ流されていた。
今までの彼と180度違う雰囲気に、ユイはしばらくその場で固まってしまった。ユイを送り出す際、モリーがやけに笑顔だったのはこのせいか。
ユイに近寄るセブルスも、今までになく美しい姿になっている彼女に、言葉が出ないようだった。彼女の手を取り、抱き寄せたセブルスは珍しく泣きそうな顔をしていた。
「綺麗だ……とても」
目を細めて、ようやく紡がれたセブルスの言葉に、ユイは頬を染めた。
「せ、先生も、その髪型とか、何もかも全部、すごくかっこいいです!」
褒めちぎるユイに彼は照れたように頬を掻いた。
「ああ……なんだ、その、ウィーズリーの母親とルーピンと奴の嫁にうるさく言われてな……」
「ドーラたちに?」
『そんな格好で式に出るつもりなの!?』
『髪を切ったのはいつだい?』
『神聖な式なんだから、ちゃんとセットしなきゃいけません!!』
3人がかりでそう言われ、セブルスはされるがままだったらしい。昨晩突如モリーに髪を切られたんだとか。
「すごく似合ってますよ、先生」
ユイは柔らかく微笑んだ。
「セブルスでいい」
「え?」
「わたしはもう、君の『先生』ではないだろう?卒業してどれくらい経つ?セブルスでいいと何度も言っているだろう」
「えへへ……つい、癖で」
長年慣れ親しみ、染み付いてしまった呼び方。咄嗟な時や指摘された時は『セブルス』と呼んでいても、時間が経てばまた今までのように『先生』と呼んでしまうのだ。
「妻から先生とは呼ばれたくない」
「……気をつけます」
困った顔をする彼の口から出た『妻』という言葉に、照れくささと同時に、これから本当に彼と一緒になるのだという実感が湧き、嬉しさがこみ上げ頬が緩んだ。
「だらしない顔をするな」
「セブルスだって」
人のことを言えないほど、彼の表情も緩み切っていた。ユイにしか見せない顔だろう。むしろ他の、例えばロンやシリウスが見たらおそらく吐き気を催すに違いない。
「そろそろ時間か……行くぞ」
姿現し特有の弾けるような音が聞こえだした。参列客たちが続々と集まってきているようだ。ユイはセブルスと腕を組みながら、一度『隠れ穴』に戻った。
芝生の上に散りばめられた白い花びらでできたウェディングロード。
それを挟んだ両側に設けられた参列席には、ダフネやザビニ、双子のウィーズリーなどのホグワーツの友人や、マクゴナガル先生など、見知った姿が多く見られた。
ウェディングロードの先には、四角い木の枠に白いチュールとピンクや白のバラの花で飾られたウェディングアーチがあった。そのアーチの下で、ユイとセブルスは両手を繋いだまま見つめ合っている。
両脇に並ぶハリーやハーマイオニーたちが2人を見守るなか、セブルスが誓いの言葉を紡ぐ。
「私、セブルス・スネイプは、君を妻とし、今日よりいかなる時も共にあることを誓います」
「私、ユイ・モチヅキは、あなたを夫とし、生涯あなたを支えることを誓います」
交互に誓いを述べた後、声をそろえて続けた。
「良い時も悪い時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、死が二人を分かつまで、愛し慈しみ、貞節を守ることをここに誓います」
2人は互いに視線を合わせたまま笑みを浮かべた。
「2人の結婚に異議のある方はいませんね?異議がなければ拍手でもって祝福ください」
ベストマンのリマースが、進行を務めていた。
参列席からフレッドとジョージの「異議なーし!」と言う声が飛んできた。他の参列客たちはくすくす笑いながら拍手を送った。彼らの元寮監のマクゴナガル先生は、今日ばかりは二人を咎めず、微笑んでいた。リーマスもクスッと笑った。
「ありがとうございます。当然ですよね。それでは、新郎、新婦、誓いのキスを」
リーマスの言葉を受け、セブルスはユイを力強く引き寄せ、深く口付けた。参列席から大きな歓声と拍手が湧き起こった。
「これにより、皆様の立ち会いの元、2人は夫婦となりました。セブルス、ユイ、結婚おめでとう」
リーマスが杖を軽く振ると、淡いピンク色の花びらが舞い落ち、煌めく星とともに小さな青い鳥が現れ、ユイとセブルスの周りをさえずりながら、星と一緒にパタパタと飛び回った。
「ありがとう、リーマス」
ユイはセブルスに寄り添いながら、照れくさそうに笑っていた。
リーマスやシリウス、トンクスの魔法により、先ほどまで参列客たちが座っていた椅子は放射状に移動され、空いた中央はダンスフロアに変わっていた。
ダンスフロアを囲むように、ブルーのテーブルクロスが掛けられた丸いテーブルが並び、各々好きな席に座っている。一際大きなテーブルには、モリー特製のウェディングケーキやカップケーキなどが並べられている。
中央では、ユイとセブルスが音楽に合わせてゆったりと踊っていた。
しばらくして、ロンがハーマイオニーをリードし、その次にトンクスに引っ張られてリーマスがダンスフロアに出てきた。困った顔をしながらも嬉しそうなリーマスを見て、ユイはセブルスと顔を見合わせて微笑んだ。
一組、また一組と踊り始め、ダンスフロアは混み合ってきた。
「ユイ」
「はい?」
セブルスの背中に腕を回し、体を預けていたユイは、顔をあげた。
「……幸せか?」
彼の言葉に目をパチクリさせたあと、ユイは顔を綻ばせて応える。
「……ええ、とっても」
「そうか……わたしもだ……君と出会えて本当によかった。君が、この世界に来てくれて。君がいてくれたおかげでわたしは再び生きる理由ができた。大げさに聞こえるかもしれないが……」
セブルスがいつもより多く喋るときは、何か心配事があるときだ。今もまた、ユイに伝えておきたいことがあるのかもしれない。彼女は黙って、セブルスが続けるのを待った。
「わたしは一度ならず過ちを犯してきた。このことはこれから先もどかで何かをきっかけに自分に返ってくるかもしれない。これからも君に苦労をかけるだろうな……」
「大丈夫ですよ。心配いりません」
セブルスの憂いごとを吹き飛ばすかのように、ユイは力強く応えた。
「さっき誓ったでしょう?良い時も……」
「……悪い時も。ああ、そうだったな」
セブルスは目を細めた。微かに声が震えているような気がした。
どんなことがあっても、添い遂げると誓ったのだ。たとえまた別の闇の勢力が出てきて、セブルスのような元デスイーターの身に何かが迫ってしまったとしても。何があっても、側で支え続けると。
思い思いに過ごす参列客のように、セドリックやネビルを交えてハーマイオニーやパンジーらと談笑していると、写真撮影のために、ユイとセブルス、ハリーたちアッシャーやブライズメイドが呼ばれた。
「馬子にも衣装だな」
ハリーたちと果樹園の近くに移動し、他のメンバーが集まるのを待っていると、やってきたドラコからそう言われた。
「もう、失礼ね!」
ユイが頬を膨らませて怒って見せた後、2人はぷっと吹き出した。
「おめでとう、ユイ」
「ありがとう、ドラコ」
「ユイー!ユイ!やっと会えた!」
シリウスが駆け寄ってきた。リーマスとトンクスも一緒だ。ユイの周りには代わる代わる人が集まっていたため、なかなか声を掛けられなかったようだ。
「騒々しいぞ」
「うるせーな。おい、ユイ、こいつのことが嫌になったらいつでも俺んとこ来いよ」
「夫の目の前で人の妻をたぶらかすような発言をするな愚か者」
いつものようなやり取りに、ユイはくすくす笑った。
「さあさあ、みんな、もう少しこっちにきて。ここの方がいいだろう」
撮影道具を持ったアーサーが、写真写りの良さそうな場所へユイたちを誘導した。
軽く睨み合うセブルスとシリウスを宥めながらアーサーの元へ移動する。ユイとセブルスを中心に、アーサーの指示で立ち位置が決められていった。
「よし、オーケーだ。いいかーい?撮るよーにっこり笑ってー!」
三脚のようなものに乗せた大きなカメラの横に立つアーサーの声で、ユイとセブルス、そしてブライズメイドとアッシャーたちは、カメラに向かって姿勢を正し、今日一番の笑顔を浮かべた。
バシャッという大きな音を立ててシャッターが切られる。カメラから立ち昇る白い煙は、青い空に吸い込まれていった。
ホグワーツ魔法魔術学校を無事卒業し、
ギリシャ神話に登場する、全知全能の最高神ゼウスの正妻であり、結婚や母性、貞節を司る女神「ジュノー(ヘラ)」が守護する月が6月であることから、この月に結婚すると幸せになれるという言い伝えがある。
人々はそれを「ジューンブライド」と呼んでいる。
英国、スコットランド地方の奥地にひっそりと存在する魔法界に、その言い伝えを知る者がいるかは定かではないが、魔法など存在しない世界から来たユイはこれをよく知り、そして憧れていた。
ユイたっての希望で6月に挙げられることになったわけだが、彼女のわがままとも取れるそれに、セブルスはただただ呆れたように微笑んでいた。
「だって、ジューンブライドですよ! 素敵じゃないですか!」神話の話をして輝く笑顔でそう言ったユイに対し、「君は、そういうのが好きだったな」とため息をつきながらセブルスは目を細めていた。
「さあ、いいわ。できたわよ、完璧ね!」
モリーの弾んだ声に、ドレッサーに向かって椅子に腰掛けていたユイは、鏡に映る自分の姿をまじまじと見た。
「わぁああ……」
ユイは感嘆の声をあげた。綺麗に施された普段より濃い化粧により、童顔のユイも随分大人びて見えた。
在学中に伸ばした前髪は両サイドに流されて編み込まれており、耳下あたりの低い位置でゆるくまとめられている。
「ほら、立って」
モリーの手を取りユイは立ち上がった。すでにドレスに着替えていたユイは全身を鏡に映した。
肩から腕にかけて花柄のレースが散りばめてあり、腰から下はシンプルなチュールのボリュームスカートになっている。大きく背中があいたデザインのドレスは、すっきりしていてスタイルも良く見える。
「ユイ、すっごく綺麗……」
立ち会っていたハーマイオニーがため息をついた。彼女も式に備えてドレスアップしている。
ハーマイオニーは花嫁の付き添い人であるブライズメイドのリーダー的存在、メイド・オブ・オナーを任されている。ユイの一番の親友である彼女に頼んだのだ。
ブライズメイドは他に、ジニー、トンクス、パンジー、ルーナの4人で固められた。ちなみにアッシャーはハリー、ロン、ドラコ、シリウスだ。
そしてベストマンを務めるのはリーマスだった。彼がセブルスから頼まれたときはそれはもう驚いた顔をしていた。
「あ、ありがとう、ハーマイオニー」
ユイは恥ずかしそうに微笑んだ。
「モリーさん、本当にありがとうございます!ケーキもモリーさんが作ってくださってるって聞きました」
「いいのよ。私がやりたかったんだから。それに、娘がもう一人できたみたいで嬉しいわ」
モリーはにこにこと微笑んでいる。ユイとセブルスは彼女の家である『隠れ穴』で結婚式を挙げる。
『隠れ穴』には5日ほど前から訪れていた。今その一室でモリーによって花嫁姿に変身させてもらっていた。
ユイのおかげで息子が軽傷で済んだこと、そしてセブルスが自分の息子のように可愛がるハリーのことをずっと守ってきた人物だと知った時、そんな二人の結婚式なのだから、ぜひともとアーサーとモリーが場所を提供してくれたのだ。
「そうだわユイ、彼も準備が終わった頃じゃないかしら。まだ会ってないんでしょう? 行ってきなさい」
式までまだ少し時間があるわ。モリーはそう言ってユイを促す。心なしか彼女はウキウキしているように見える。
「は、はい」
ユイは急に緊張しだした。
「また後でね」
そう言うハーマイオニーに手を振り、もう一度モリーに礼を言ってから部屋を出て、ユイは庭に向かった。
おかしなところはないだろうか。いや、モリーさんがやってくれたんだから大丈夫。何より先ほど鏡で見たじゃないか。
大丈夫。大丈夫。そう心の中で繰り返しながら綺麗に刈られた芝生の上を歩いた。
ついにその人を見つけた。ビシッとタキシードを着こなした長身の男性。7年間見てきた真っ黒な服と廊下を歩く度にはためく黒いローブではない姿に、緊張が増す。
高鳴る胸を落ち着かせるように、ユイは深呼吸した。
「せ、先生……!」
声が震えた。少し離れたところから呼ぶユイの声に反応して、彼は振り返る。
ゆっくりと彼に近づくユイは彼の姿がはっきり見えると、思わず目を丸くした。
肩ほどまで伸びていた彼の髪は首周りが見えるほどバッサリと切られていたのだ。さらに、ワックスか何かでサイドの髪は後ろへ流されていた。
今までの彼と180度違う雰囲気に、ユイはしばらくその場で固まってしまった。ユイを送り出す際、モリーがやけに笑顔だったのはこのせいか。
ユイに近寄るセブルスも、今までになく美しい姿になっている彼女に、言葉が出ないようだった。彼女の手を取り、抱き寄せたセブルスは珍しく泣きそうな顔をしていた。
「綺麗だ……とても」
目を細めて、ようやく紡がれたセブルスの言葉に、ユイは頬を染めた。
「せ、先生も、その髪型とか、何もかも全部、すごくかっこいいです!」
褒めちぎるユイに彼は照れたように頬を掻いた。
「ああ……なんだ、その、ウィーズリーの母親とルーピンと奴の嫁にうるさく言われてな……」
「ドーラたちに?」
『そんな格好で式に出るつもりなの!?』
『髪を切ったのはいつだい?』
『神聖な式なんだから、ちゃんとセットしなきゃいけません!!』
3人がかりでそう言われ、セブルスはされるがままだったらしい。昨晩突如モリーに髪を切られたんだとか。
「すごく似合ってますよ、先生」
ユイは柔らかく微笑んだ。
「セブルスでいい」
「え?」
「わたしはもう、君の『先生』ではないだろう?卒業してどれくらい経つ?セブルスでいいと何度も言っているだろう」
「えへへ……つい、癖で」
長年慣れ親しみ、染み付いてしまった呼び方。咄嗟な時や指摘された時は『セブルス』と呼んでいても、時間が経てばまた今までのように『先生』と呼んでしまうのだ。
「妻から先生とは呼ばれたくない」
「……気をつけます」
困った顔をする彼の口から出た『妻』という言葉に、照れくささと同時に、これから本当に彼と一緒になるのだという実感が湧き、嬉しさがこみ上げ頬が緩んだ。
「だらしない顔をするな」
「セブルスだって」
人のことを言えないほど、彼の表情も緩み切っていた。ユイにしか見せない顔だろう。むしろ他の、例えばロンやシリウスが見たらおそらく吐き気を催すに違いない。
「そろそろ時間か……行くぞ」
姿現し特有の弾けるような音が聞こえだした。参列客たちが続々と集まってきているようだ。ユイはセブルスと腕を組みながら、一度『隠れ穴』に戻った。
芝生の上に散りばめられた白い花びらでできたウェディングロード。
それを挟んだ両側に設けられた参列席には、ダフネやザビニ、双子のウィーズリーなどのホグワーツの友人や、マクゴナガル先生など、見知った姿が多く見られた。
ウェディングロードの先には、四角い木の枠に白いチュールとピンクや白のバラの花で飾られたウェディングアーチがあった。そのアーチの下で、ユイとセブルスは両手を繋いだまま見つめ合っている。
両脇に並ぶハリーやハーマイオニーたちが2人を見守るなか、セブルスが誓いの言葉を紡ぐ。
「私、セブルス・スネイプは、君を妻とし、今日よりいかなる時も共にあることを誓います」
「私、ユイ・モチヅキは、あなたを夫とし、生涯あなたを支えることを誓います」
交互に誓いを述べた後、声をそろえて続けた。
「良い時も悪い時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、死が二人を分かつまで、愛し慈しみ、貞節を守ることをここに誓います」
2人は互いに視線を合わせたまま笑みを浮かべた。
「2人の結婚に異議のある方はいませんね?異議がなければ拍手でもって祝福ください」
ベストマンのリマースが、進行を務めていた。
参列席からフレッドとジョージの「異議なーし!」と言う声が飛んできた。他の参列客たちはくすくす笑いながら拍手を送った。彼らの元寮監のマクゴナガル先生は、今日ばかりは二人を咎めず、微笑んでいた。リーマスもクスッと笑った。
「ありがとうございます。当然ですよね。それでは、新郎、新婦、誓いのキスを」
リーマスの言葉を受け、セブルスはユイを力強く引き寄せ、深く口付けた。参列席から大きな歓声と拍手が湧き起こった。
「これにより、皆様の立ち会いの元、2人は夫婦となりました。セブルス、ユイ、結婚おめでとう」
リーマスが杖を軽く振ると、淡いピンク色の花びらが舞い落ち、煌めく星とともに小さな青い鳥が現れ、ユイとセブルスの周りをさえずりながら、星と一緒にパタパタと飛び回った。
「ありがとう、リーマス」
ユイはセブルスに寄り添いながら、照れくさそうに笑っていた。
リーマスやシリウス、トンクスの魔法により、先ほどまで参列客たちが座っていた椅子は放射状に移動され、空いた中央はダンスフロアに変わっていた。
ダンスフロアを囲むように、ブルーのテーブルクロスが掛けられた丸いテーブルが並び、各々好きな席に座っている。一際大きなテーブルには、モリー特製のウェディングケーキやカップケーキなどが並べられている。
中央では、ユイとセブルスが音楽に合わせてゆったりと踊っていた。
しばらくして、ロンがハーマイオニーをリードし、その次にトンクスに引っ張られてリーマスがダンスフロアに出てきた。困った顔をしながらも嬉しそうなリーマスを見て、ユイはセブルスと顔を見合わせて微笑んだ。
一組、また一組と踊り始め、ダンスフロアは混み合ってきた。
「ユイ」
「はい?」
セブルスの背中に腕を回し、体を預けていたユイは、顔をあげた。
「……幸せか?」
彼の言葉に目をパチクリさせたあと、ユイは顔を綻ばせて応える。
「……ええ、とっても」
「そうか……わたしもだ……君と出会えて本当によかった。君が、この世界に来てくれて。君がいてくれたおかげでわたしは再び生きる理由ができた。大げさに聞こえるかもしれないが……」
セブルスがいつもより多く喋るときは、何か心配事があるときだ。今もまた、ユイに伝えておきたいことがあるのかもしれない。彼女は黙って、セブルスが続けるのを待った。
「わたしは一度ならず過ちを犯してきた。このことはこれから先もどかで何かをきっかけに自分に返ってくるかもしれない。これからも君に苦労をかけるだろうな……」
「大丈夫ですよ。心配いりません」
セブルスの憂いごとを吹き飛ばすかのように、ユイは力強く応えた。
「さっき誓ったでしょう?良い時も……」
「……悪い時も。ああ、そうだったな」
セブルスは目を細めた。微かに声が震えているような気がした。
どんなことがあっても、添い遂げると誓ったのだ。たとえまた別の闇の勢力が出てきて、セブルスのような元デスイーターの身に何かが迫ってしまったとしても。何があっても、側で支え続けると。
思い思いに過ごす参列客のように、セドリックやネビルを交えてハーマイオニーやパンジーらと談笑していると、写真撮影のために、ユイとセブルス、ハリーたちアッシャーやブライズメイドが呼ばれた。
「馬子にも衣装だな」
ハリーたちと果樹園の近くに移動し、他のメンバーが集まるのを待っていると、やってきたドラコからそう言われた。
「もう、失礼ね!」
ユイが頬を膨らませて怒って見せた後、2人はぷっと吹き出した。
「おめでとう、ユイ」
「ありがとう、ドラコ」
「ユイー!ユイ!やっと会えた!」
シリウスが駆け寄ってきた。リーマスとトンクスも一緒だ。ユイの周りには代わる代わる人が集まっていたため、なかなか声を掛けられなかったようだ。
「騒々しいぞ」
「うるせーな。おい、ユイ、こいつのことが嫌になったらいつでも俺んとこ来いよ」
「夫の目の前で人の妻をたぶらかすような発言をするな愚か者」
いつものようなやり取りに、ユイはくすくす笑った。
「さあさあ、みんな、もう少しこっちにきて。ここの方がいいだろう」
撮影道具を持ったアーサーが、写真写りの良さそうな場所へユイたちを誘導した。
軽く睨み合うセブルスとシリウスを宥めながらアーサーの元へ移動する。ユイとセブルスを中心に、アーサーの指示で立ち位置が決められていった。
「よし、オーケーだ。いいかーい?撮るよーにっこり笑ってー!」
三脚のようなものに乗せた大きなカメラの横に立つアーサーの声で、ユイとセブルス、そしてブライズメイドとアッシャーたちは、カメラに向かって姿勢を正し、今日一番の笑顔を浮かべた。
バシャッという大きな音を立ててシャッターが切られる。カメラから立ち昇る白い煙は、青い空に吸い込まれていった。