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教科書や図書室内の本を何冊も机の上に乗せ、姿が隠れるほど積み重なった本の山の陰で望月結衣はレポート課題をこなしていた。これは彼女のいつもの勉強スタイルだった。

魔女狩りについて思うところの最後の一文を書き終えたところで、ユイは一息入れた。

ふうと小さく息を吐いた後、両手を組んで天井に向けて大きな伸びをした。その時ユイは、積み重ねた本の向こうにセブルス・スネイプがいることに気づいた。

向かいの席の、正面から2席ほど離れたところで彼は本を読んでいた。腕を伸ばした状態のユイが視界に入ったのか、セブルスがこちら側に視線をやった。

「……相変わらずだな」

本の山を見て、セブルスは呆れ気味に呟いた。言葉数は少なく、辛辣な言葉をもらうこともあるが、話ができることがユイは嬉しかった。

「ああ、ちょうど良かった!スネイプくんに教えてもらいたいことがあって……また頼んでもいいかな?」

本の山を動かして、セブルスが見えるようにしながらユイは言った。

「ああ、構わない」

セブルスはそう言うと、読んでいた本を閉じ、席を立ってユイの正面の席に移動した。その間ユイは本の山を脇に押しやって、薬学の本を置けるスペースを作った。

羊皮紙のレポートをバッグにしまい、代わりに『魔法薬学大全集ー火傷の薬から幸運の液体までー』というタイトルの分厚い薬学の本を取り出した。

「ありがとう。えっとね……これ、ここなんだけど。何度やってもこの本の手順通りだとうまくいかないの」

開かれた本にはたくさんの書き込みがあった。セブルスが初めてこれを見たときは、自分と似ていると思って少しだけ親近感を抱いたものだ。

目当てのページを探したユイは、指をさしながら本をセブルスの方へ向けた。

「ハナハッカ・エキスか……上級魔法薬だな。本来なら5年生以上のレベルのものだ」

「そっか……それじゃあ難しいかな?」

「……僕を誰だと思っている」

セブルスは片方の口角を少しだけ上げてみせた。かすかな表情の変化だが、それは自信に満ち溢れている顔だった。

「さ、さすがです、スネイプ先生!」

小さく手を叩きながら『先生』と呼ぶと、セブルスは満更でもないような表情になった。二十数年後には本当に先生になっているのだが。

魔法薬学に精通しており、教え方も上手なセブルスは、この頃から教師に向いていたんだなと、彼から何度か教えてもらったことのあるユイは思っていた。


「で、具体的にどこでつまずいているんだ?」

「ここ。この3行目の『煎った胡桃の粉末5gを鍋に入れた後、時計回りに2回攪拌させる』ってところ」

ユイは本に書かれた内容を読み上げた。この過程を行なうと、鍋からシューシューと煙が上がってしまうのだ。

「ああ、それか。胡桃の粉末は3gでいいんだ」

「え!? それだけでいいの? っていうか、分量が間違ってたの!?」

ユイは驚きを隠せなかった。そしてすぐさま本のページの”5g”に二重線を引き、”3g”と訂正した。

「ありがとう。今度はこれで作ってみる」

「完成できたら報告してくれるか。間違ってはいないと思うが……念のためだ」

「大丈夫だよ。魔法薬学が得意なセブルスのことは信じてるから」

ユイは言ってからハッと気づいた。

「あ、ごめんなさい、スネイプくん!」

ユイは慌てて謝った。

「……僕は一度も、ファーストネームで呼ぶなとは、言っていない」

眉間に皺を寄せながら、セブルスは言った。

「そ、そっか。ありがとう、セブルス。また薬学教えてね」

ユイは微笑みそう言うと、机の上に置いていた本を浮かせて、元の場所に戻しに行った。

セブルスのところへ戻り、早速調合をしに自寮へ帰ろうと荷物をまとめた。

「それじゃあまたね、セブルス」

バッグを肩にかけ、セブルスに一言告げてから、図書室の出口に向かおうとした。

「あ、モチヅキ!」

ユイは足を止めて、セブルスを振り返った。

「ん?」

「……あー、名前……」

「……え?」

はっきりとしないセブルスの言葉に、ユイの頭には疑問符が浮かび上がった。


「名前で、呼んでもいいか……?」


ボソボソと小さな声で呟いたが、ユイにははっきりと聞こえた。

小躍りしそうになるのを必死で耐えた。脳内では狂喜乱舞していたが、ユイはポーカーフェイスを保ちながら、微笑をたたえてこう言った。


「……私は一度も、ファーストネームで呼ばないでなんて、言ってないでしょ?」


セブルスはポカンとした後、ふんっと鼻を鳴らした。

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