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どうしてこんなことになったのだろう。こんなことなら、あんなことしなければよかった。
ユイは後悔しながら校内を全速力で走り抜けていた。
「ユイ!なんで逃げるんだい?私は君と話がしたいだけなんだよ!」
ユイの後ろから輝く笑顔で追いかけてくるのは、波打つ金色の髪に澄んだ空のような青色の瞳をしたハンサムな男だった。その端正な顔立ちの男は、今学期『闇の魔術に対する防衛術』の担当としてホグワーツに赴任してきたばかりの教師、ギルデロイ・ロックハートだ。
彼が通り過ぎれば大抵の女子生徒は黄色い声を上げ、切ないため息をこぼす。しかし、ユイの反応は彼女たちとは正反対だった。
ユイは今学期やってくる先生のことはよく知っていた。彼が本当は相当面倒臭い人であると。
彼の被害者となるハリーのことを物語で読んでいたため、できるだけ避けようとしていた。それでも一応はお世話になる教師だ。初めて彼に会った時に礼儀と思って笑顔で挨拶をしたのが間違いだった。見事に気に入られてしまったのだ。
——あなた教師だよね!なんで生徒に興味持っちゃうかな!?生徒との距離感わかってないよね!勘違いも甚だしいよ!
自分も教師に恋愛感情を持っていることは棚に上げてユイは心の中で訴えた。
「うぶっ」
なんとか振り切ろうと角を曲がった瞬間、ユイは黒い何かにぶつかった。ふわっと薬品の臭いが鼻をかすめ、ユイは冷や汗をかいた。見上げると、やはり彼がものすごい形相でユイを見下ろしていた。
「すすすスネイプ先生!!すみません!!」
「ミス・モチヅキ、君は一体何を——」
「ユイー!」
減点でも言い渡しそうな雰囲気だったが、ヒッと小さく悲鳴を上げたユイと聞き覚えのある面倒な男の声を耳にしたセブルスは、咄嗟に自分のローブをバサッと広げ、ユイを包み、彼女の姿を覆い隠した。
突然真っ暗になったことに、ユイは慌てた。
「しばらくそのまま静かにしていろ」
そう上から聞こえてきて、ここがセブルスのローブの中であることがわかり、ユイは顔を真っ赤にさせた。
「は、はい」となんとか返事をしたものの、密着していることでセブルスの体温や、薬草や薬品の臭いに混じって香るセブルスの匂いを直に感じ、ユイの心臓は今にも飛び出しそうだった。
「ユイ!……おや?これはこれはスネイプ先生、ごきげんよう。ところで、こちらにユイが来ませんでしたか?どうも彼女は照れ屋さんなようで、私と会って話してくれないんですよ」
ロックハートはニコニコと笑みを浮かべながら話した。自分がユイから避けられていることなど全く気付いていないようだ。
「……さあ? 見ていませんな。それよりロックハート、先ほどレイブンクローの女子生徒があなたに用事があると言っておりましたぞ。女性に優しいあなただ。まさか待たせるようなことはないでしょうな?」
「なんと!それはいけませんね!私の研究室へ行ったのかな?急がなくては!それではスネイプ先生、また。あ、そうそう、ユイに会ったら私のところへ来てくれるよう、話してくれませんか?お願いしますよ!」
そう言うと、セブルスの返事も聞かずにロックハートは引き返して行った。
「……もういいだろう」
セブルスはローブを広げ、ユイを解放した。
「あ、ありがとう、ございました……」
ふらふらとセブルスから離れて礼を言ったユイは、すでにゆでダコのようになっていた。
「まったく君も、面倒な男に好かれてしまいましたな」
ため息を吐きながら、セブルスは言った。
「まったく嬉しくありません……なんであんな人が先生できるんでしょうか……」
「同感だな。ダンブルドアの考えていることは分からん」
二度目のため息を吐きながら、セブルスは先ほどのロックハートの言葉を思い出した。
「それで、君はあの男のところに行くのか?来るようにと言っていたが」
「い、行くわけないじゃないですか!」
ユイは頭をブンブン振って否定した。
「でしょうな」
セブルスは鼻で笑った。
ようやく心臓が落ち着いてきたところで、ユイはセブルスにずいっと近づいた。
「あ、あの、これから時間ありますか? 紅茶が飲みたいです! 先生のところに行ってもいいですか?」
「……またわたしに作らせるのかね?」
「だって、先生の紅茶が一番ですから!」
にこにこと微笑みながら言うユイに、セブルスはまたため息をついた。ローブを翻し歩き出したセブルスを心配そうにユイは見つめる。
「先生?」
「……来ないのかね?」
セブルスの言葉に、ユイはパッと笑顔を浮かべて彼を追いかけた。
「それにしても、先生があの人に優しい口調で話しているの、ものすごく気持ち悪かったです」
「……減点されたいのかね?」
セブルスは低い声でそう呟いた。
「わあああごめんなさい、なんでもないです!」
慌てて謝るユイに、セブルスはほんの少し口角を上げた。
いつものようなやり取りをしながら、セブルスとユイは並んで地下牢教室への階段を降りて行った。
ユイは後悔しながら校内を全速力で走り抜けていた。
「ユイ!なんで逃げるんだい?私は君と話がしたいだけなんだよ!」
ユイの後ろから輝く笑顔で追いかけてくるのは、波打つ金色の髪に澄んだ空のような青色の瞳をしたハンサムな男だった。その端正な顔立ちの男は、今学期『闇の魔術に対する防衛術』の担当としてホグワーツに赴任してきたばかりの教師、ギルデロイ・ロックハートだ。
彼が通り過ぎれば大抵の女子生徒は黄色い声を上げ、切ないため息をこぼす。しかし、ユイの反応は彼女たちとは正反対だった。
ユイは今学期やってくる先生のことはよく知っていた。彼が本当は相当面倒臭い人であると。
彼の被害者となるハリーのことを物語で読んでいたため、できるだけ避けようとしていた。それでも一応はお世話になる教師だ。初めて彼に会った時に礼儀と思って笑顔で挨拶をしたのが間違いだった。見事に気に入られてしまったのだ。
——あなた教師だよね!なんで生徒に興味持っちゃうかな!?生徒との距離感わかってないよね!勘違いも甚だしいよ!
自分も教師に恋愛感情を持っていることは棚に上げてユイは心の中で訴えた。
「うぶっ」
なんとか振り切ろうと角を曲がった瞬間、ユイは黒い何かにぶつかった。ふわっと薬品の臭いが鼻をかすめ、ユイは冷や汗をかいた。見上げると、やはり彼がものすごい形相でユイを見下ろしていた。
「すすすスネイプ先生!!すみません!!」
「ミス・モチヅキ、君は一体何を——」
「ユイー!」
減点でも言い渡しそうな雰囲気だったが、ヒッと小さく悲鳴を上げたユイと聞き覚えのある面倒な男の声を耳にしたセブルスは、咄嗟に自分のローブをバサッと広げ、ユイを包み、彼女の姿を覆い隠した。
突然真っ暗になったことに、ユイは慌てた。
「しばらくそのまま静かにしていろ」
そう上から聞こえてきて、ここがセブルスのローブの中であることがわかり、ユイは顔を真っ赤にさせた。
「は、はい」となんとか返事をしたものの、密着していることでセブルスの体温や、薬草や薬品の臭いに混じって香るセブルスの匂いを直に感じ、ユイの心臓は今にも飛び出しそうだった。
「ユイ!……おや?これはこれはスネイプ先生、ごきげんよう。ところで、こちらにユイが来ませんでしたか?どうも彼女は照れ屋さんなようで、私と会って話してくれないんですよ」
ロックハートはニコニコと笑みを浮かべながら話した。自分がユイから避けられていることなど全く気付いていないようだ。
「……さあ? 見ていませんな。それよりロックハート、先ほどレイブンクローの女子生徒があなたに用事があると言っておりましたぞ。女性に優しいあなただ。まさか待たせるようなことはないでしょうな?」
「なんと!それはいけませんね!私の研究室へ行ったのかな?急がなくては!それではスネイプ先生、また。あ、そうそう、ユイに会ったら私のところへ来てくれるよう、話してくれませんか?お願いしますよ!」
そう言うと、セブルスの返事も聞かずにロックハートは引き返して行った。
「……もういいだろう」
セブルスはローブを広げ、ユイを解放した。
「あ、ありがとう、ございました……」
ふらふらとセブルスから離れて礼を言ったユイは、すでにゆでダコのようになっていた。
「まったく君も、面倒な男に好かれてしまいましたな」
ため息を吐きながら、セブルスは言った。
「まったく嬉しくありません……なんであんな人が先生できるんでしょうか……」
「同感だな。ダンブルドアの考えていることは分からん」
二度目のため息を吐きながら、セブルスは先ほどのロックハートの言葉を思い出した。
「それで、君はあの男のところに行くのか?来るようにと言っていたが」
「い、行くわけないじゃないですか!」
ユイは頭をブンブン振って否定した。
「でしょうな」
セブルスは鼻で笑った。
ようやく心臓が落ち着いてきたところで、ユイはセブルスにずいっと近づいた。
「あ、あの、これから時間ありますか? 紅茶が飲みたいです! 先生のところに行ってもいいですか?」
「……またわたしに作らせるのかね?」
「だって、先生の紅茶が一番ですから!」
にこにこと微笑みながら言うユイに、セブルスはまたため息をついた。ローブを翻し歩き出したセブルスを心配そうにユイは見つめる。
「先生?」
「……来ないのかね?」
セブルスの言葉に、ユイはパッと笑顔を浮かべて彼を追いかけた。
「それにしても、先生があの人に優しい口調で話しているの、ものすごく気持ち悪かったです」
「……減点されたいのかね?」
セブルスは低い声でそう呟いた。
「わあああごめんなさい、なんでもないです!」
慌てて謝るユイに、セブルスはほんの少し口角を上げた。
いつものようなやり取りをしながら、セブルスとユイは並んで地下牢教室への階段を降りて行った。
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