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子リア育成日記…?


「スターダストレボリューション!!」


突然、聖域にムウの怒号が響く――


「どうした!?」
「何があったんだ!?」
「また教皇が何かやらかしたか?」


上から順にシュラ、カミュ、サガ、とムウの怒りを感じ取り教皇の間に現れる。


「何だ何だ?」
「何が起きたの!?」
その三人を筆頭に、次々と集まる黄金メンバー



……そこには、黒こげになったシオンを見下すムウの姿があった。



「…ムウ……?」
ミロが恐々ムウに声を掛ける。
「……何でしょうか?」

……心なしか、ムウの声のトーンが普段より低い。

「いや…一体何が……?」
ミロの言葉にムウは振り返る。


――何故か、ムウは『少年』を抱き上げていた


気を失っているようだが……赤茶の髪に、あどけなさが残った顔立ちにはどこか見覚えがある。



そして何より、その少年は黄金聖衣を纏っていた。


…その聖衣の形状は……


――紛れもない、正真正銘の獅子座の聖衣――


「……!?」
「む、ムウ…まさか……!?」


その少年を見て、シュラとアイオロスが目を見開く。


「そのまさかです……」

ムウは一瞬シオンに目をやるとかなり長い溜め息を吐き出す。


「この少年は……」



次の瞬間、聖域に凄まじい叫び声が轟く。







「アイオリアです」






『はぁーー!!?』



「ちょっと待て!!そ、それがアイオリアか!?」
「し、信じられない……」

デスマスクとアフロディーテがムウに抱かれているアイオリアに目をやる。

「…真実ですよ……」
「一体何があったんだ?」

アルデバランの問い掛けに、ムウは複雑な表情で説明を始めた。



―時間は遡ることほんの数分前―



この時、アイオリアはサガと共に執務の手伝いをしていた。


「よし……アイオリア、そこの書類を全て教皇の所に持って行ってくれ。それが終われば、今日の執務は終わりだ」
「あぁ、わかった」
書類の山を軽々と持ち上げ、アイオリアはシオンの元へと行く。



「教皇、書類を持って……うわ!?」
シオンの部屋に入ろうとしたアイオリアは誰かとぶつかる。


その弾みで、持っていた書類が全て床にばらまかれてしまう。


「な…アイオリア!?」
「書類が!……って、教皇!!」

アイオリアはぶつかった人物を認め、声を荒げる。

「まさか…また執務をサボろうとして……!!」
「し…しまった……!!」
シオンは逃げ出す。
アイオリアもすかさずシオンを追い掛ける。

――しかし、シオンは逃走に便利なテレポーテーションが使えるのだ。


おそらくシオンは見事に逃げ切るだろう。


「くっ……!」


だが、シオンを捕まえる方法はある。


(聞こえるか、ムウ!)

アイオリアはシオンを追いながらムウに小宇宙通信を繋げる。


――そう……シオンと同じ異能者のムウは、シオンを止められる人物の一人だ。

(どうしましたアイオリア?)

ムウからすぐに返事が来る。

(今すぐ教皇の間に来てくれないか!?)

(構いませんが…何かあったのですか……?)

訝しむムウにアイオリアは言葉を濁しながらも言う。

(…また…教皇が……)

(…!またですか……!)

……それだけでムウはアイオリアの状況を察したようだ。

(あぁ…俺だけだと取り逃がすだろうから……)

(わかりました。今すぐ其方へ行きましょう)

そこでムウからの連絡が途絶える。


……おそらく、白羊宮から全速力で此処に移動しているのだろう。


――そして、アイオリアは広々とした教皇の間に出る。


「教皇!!」
「む……!!」


そこでアイオリアはシオンの姿を認める。


「ど、退くのだアイオリア!」
「退きません!」
アイオリアは扉を閉めると仁王立ちをする。


「逃げても無駄です……もうすぐムウが来てくれますから」
「な……!?」
アイオリアは驚くシオンに徐々に近付く。
「観念して部屋に戻って下さい!!」
「ぬぅ……!!」


……だが、シオンも負けてはいられない。


「ええい!退け、アイオリア!!」
シオンは小宇宙を高める。

普通の人だったら、足止め以上の効果が発揮されるだろうがそうはいかない。

「ど…退きません!!」

一瞬アイオリアはたじろぐが、仮にも聖闘士最強を誇る黄金聖闘士の一人。


シオンの小宇宙に対抗してアイオリアは己の小宇宙を高める。

そんな二人の小宇宙がせめぎ合い、空気が僅かに振動する。


―その時、悲劇は起こった―


シオンが纏う教皇の法衣の袖から、小さな瓶が転がり落ちる。


しかも単体では無く複数の――


「……?」
「な…!?しまった……!!」


シオンが声を上げた時は既に遅かった――


瓶が割れ、教皇の間にモクモクと煙が発生する。


「っ…これは……!?」
アイオリアは慌てて手で口元を覆うが、その足はふらついている。

「ごほっ…!い、いかん……!」
「げほ…!力が…抜けて……」

シオンはテレポーテーションを駆使してその場から消えるが、アイオリアは倒れてしまう。



「アイオリア!!…ごほっ……!?」
入れ違うように、ムウが扉を開けて教皇の間に現れる。
「これは……!?」
煙は、少し先のものでも全く見えない程立ち込めている。
「く……!」
ムウはすかさず小宇宙を高める。


「スターライトエクスティンクション!!」


発生した数多の光が、煙を消滅させる。


そこで、ムウは倒れたアイオリアの姿を発見する。
「アイオリア……!?」
すかさずムウはアイオリアに駆け寄る。
「しっかりして下さい!アイオ…リア……?」


ムウはそこで『異変』に気付いた。

「……」
ムウは無言でアイオリアを抱き起こす。


――だが、その体は一回りも二回りも小さくなっている。


ムウはアイオリアを抱き上げ、静かに言う。
「……これはどういう事です?」


――ムウの視線の先には、アイオリアの様子を見に戻ってきたシオンの姿があった。


「いや…それは……」
冷や汗を流すシオンに、ムウは怒りを露わにさせる。
「貴方という人は……!!」
「ま、待てムウ!これは……!」


シオンの制止も虚しく、ムウは怒りの小宇宙を燃やして――


―――


「……という事です」
『……』
ムウの説明に全員が言葉を失う。
「私はこれから、アイオリアを獅子宮に運びます……シオンをお願いしますね」
言うなり、ムウはテレポーテーションで消える。


「……ってこれからどうするんだよ!」
「そうだ…確か今日は……!」
ミロとカミュが互いに顔を見合わせる。


―そう、今日は……―


――場所は変わって白羊宮の入り口――


「やっと聖域に着いたな!」
「あぁ」
「皆元気かな?」
「…我が師よ……」
「またそれか氷河……」
星矢を筆頭に紫龍、瞬、氷河、四人から少し離れて一輝、と……青銅五人が集結していた。


何を隠そう……今日は日本から星矢達が遊びに来る日なのだ。


四人はそれぞれ心待ちにしている様子だが……一輝はいち早く聖域の異変を感じる。
「…浮かれている場合じゃ無いな…様子がおかしい……」
「…?そうかな……」
瞬は首を傾げるが、その隣で紫龍が一輝に同意する。
「確かに…聖域の空気が少し張り詰めている……」
「あ……そういえば、二人がいない」
星矢が白羊宮の様子をうかがう。


――いつもなら白羊宮の入り口でムウとアイオリアが星矢達を迎えるのだが……今回は二人の姿が見えない。


「本当だ……」
「何かあったのか……?」
瞬と氷河が訝しむ。


と、そこに


「会いたかったぞ氷河!」
「その声は……!」
氷河が駆け出す。
白羊宮から姿を現したのは、ムウでもアイオリアでも無く……



「我が師カミュよーー!!」
「氷河ーー!!」



氷河の師、カミュだ。
二人は勢いよく抱き合い、感動の再会を果たす。

「「「「……」」」」

……星矢達は言葉を失う。

「落ち着けカミュ!今はそれどころじゃないだろうが!」
カミュの後ろからミロが現れ、すかさずカミュの頭を小突く。
「はっ…そうだった……」
カミュは名残惜しそうに氷河から離れる。
「久しぶり二人とも!」
「あぁ、久しぶりだな」
ミロが星矢達に笑顔を向ける。
「ミロ、何かあったのか……?」
「聖域の空気がいつもと違うような気がするんだが……」
紫龍と一輝の言葉に、ミロとカミュは言葉を濁す。
「ぅ……」
「その…だな……」
「?どうしたんだよ?」
星矢が首を傾げ二人を見る。
「……」
意を決したカミュが星矢に向き合う。
「星矢…実は…アイオリアが倒れたんだ……」
「え……!?」
「教皇の薬の被害に……」
カミュは申し訳なさそうに目を伏せる。
「今、ムウが獅子宮でアイオリアを看ているんだ」
「だからムウもいなかったのか……」
ミロの言葉に紫龍は納得したように呟く。

「とにかく、アイオリアはまだ意識が戻っていない……暫くの間は安静にさせた方がいいだろうから……」
カミュが溜め息をつく。
「…わかったよ……」
シュン…と目を伏せる星矢。


無理も無いだろう……アイオリアと星矢は恋人同士なのだ。


アイオリアがムウと共に白羊宮に迎えに来るのは、いち早く星矢に会う為だ。


「すまないな…星矢……」
「俺達がもっとしっかりしていれば……」
「ふ、二人が謝る事は無いよ」
星矢は必見に首を横に降る。
「あ、そういえば……俺達天秤宮に泊まる事になってるんだ」
「天秤宮に?」
「老師が許可してくれたんだ」
「成る程な……」
紫龍の言葉にミロは納得した様子だが……
「ってそれじゃあ獅子宮を通るじゃないか!?」
「アイオリアを起こさないように静かに通るから……!」
瞬がお願い、と両手を合わせる。
「そ…そこまで言うなら…断れないな……」

(後ろで一輝が怖いし……)

心の中でミロはそう付け足す。


……現に、瞬の後ろで一輝が怖い顔をしてミロを睨んでいる。

「そういえば…二人はどうしてここに?」
「あぁ…これから薬の材料の調達にな」
「アルデバランが先に行ってるから、これから合流するところだ」
「そうだったんだ」
瞬が納得したように二人を見る。
「アルデバランもいないのか……」
「……本当にすまない」
「だから、謝る事は無いって」
揃って頭を下げる二人に星矢は思わず苦笑する。


二人に別れを告げると、五人は天秤宮を目指した。



―――



朦朧とした意識が急速に浮上する。


頭がズキズキと痛み、吐き気がする――


「ぅ……」


どうにか上体を起こし、辺りを見渡す。


その時、何者かが部屋に入って来る。


「気が付きましたか?」
「っ!?」



―――



星矢達は巨蟹宮に到着したところだった。


「あれ……?」
「どうした瞬?」
一輝の声に瞬は首を傾げながらも答える。
「ここって…巨蟹宮だよね……?」
「あぁ…それがどうした?」
「…今…アフロディーテが……」
瞬がまさに言おうとした瞬間、デスマスクと共にアフロディーテが現れた。

「あー、お前らか」
「やぁ、久しぶりだね」

「久しぶり!……ってどうしてアフロディーテがここに?」
……星矢の言葉も尤もだ。

普段のアフロディーテなら、自宮の薔薇の手入れを欠かさず行っている為、あまり双魚宮から出て来ない筈だが……どういう訳か、この巨蟹宮にいる。

「いや…教皇の間から何とも言えない小宇宙が漂ってきてね……」
「落ち着くまで避難させてくれ、だとよ」
こっちはいい迷惑だ、とボヤくデスマスクにアフロディーテは苦笑する。
「仕方ないだろう?あんな事になったんだから……」
「それもそうだな」


……あんな事とは勿論、アイオリアが倒れた事だ。


現在、教皇の間ではサガとアイオロスの手によりシオンが監禁されており、アイオリアを元に戻す薬を必死に開発している。


「教皇も不備だよね」
「あれは自業自得じゃねーのか?ムウが言ってたぜ?」


そう……監禁される間際、助けを求めたシオンに対し、ムウは「自業自得です」ときっぱり小宇宙通信で言い放ったのだ。

(ムウ……/汗)
(…教皇……大丈夫かな?)

星矢達の心配をよそに、デスマスクは「あ、そうだ」と小さな袋を紫龍に渡す。

「それは……?」
「老師から差し入れだとよ」
「暫く聖域を留守にするから渡してくれって頼まれたんだ」


中身は童虎特製の桃まんだ。


「すげー……」
「うん、美味しそう……」
「老師の桃まんは美味いぞ?」
目を輝かせる星矢と瞬に、紫龍は袋から桃まんを出して二人に渡す。


二人は早速桃まんを頬ばる。


「う…美味い!」
「うん、程良い甘さで凄く美味しいよ」
星矢と瞬は思わず笑顔になる。

そんな二人の様子を見て、紫龍は満足げに頷くと氷河と一輝にも桃まんを渡す。

「確かに……老師の桃まんは出来たても美味いが、少し冷めても充分に美味いからな……今度レシピを教わるかな」
全員が桃まんを食べる様子を横目で見ながらデスマスクは呟く。
「ふふ……その時は宜しくね」
「わかってるって」
その呟きにアフロディーテがすかさず反応したが、デスマスクは当然だと言わんばかりに言葉を返す。


「美味しかった~」
「あぁ!また作ってくれるかな?」
余程美味だったのか、星矢と瞬はすぐに食べ終える。
ついで氷河も食べ終え、紫龍は部屋の隅にいた一輝が珍しく甘い物を完食した事に少なからず驚く。


「それじゃ、天秤宮に行こうぜ」
「そうだな」
五人が天秤宮に向けて移動しようとしたその時―――




獅子宮から、凄まじい小宇宙を感じた――




「え……!?」
「な、何だ!?」
突然の出来事に星矢達は驚く。


ちなみに…アフロディーテとデスマスクは小宇宙を感じた瞬間、光の速さで獅子宮へと向かった。


「俺達も行くぞ!」
「あ、あぁ!」

いち早く一輝が駆け出し、その後を星矢達が追いかける形となる。


(アイオリア……!)


獅子宮にいる恋人が脳裏をよぎる。


すかさず星矢はスピードを速めた。



―――



「くっ……!」
不覚だ……ムウは心の内でそう思った。


――まさか、『このような事態』になっていたとは思っていなかったからだ。


バチバチと帯電している体を無理やり動かす。


(早く行かなければ…『彼』が何をするか……!)


ムウはすぐに『彼』の小宇宙を探る。


「…!いけない…このままでは……!」
間に合ってくれと祈りながら、ムウはテレポートでその場から消えた。



―――



「ハァっ!ハァ……!」

辺りを見渡し、無事である事を確認して呼吸を整える。

「ハァ…ハァ……」

まだ頭がズキズキと痛むが、深呼吸を何回も繰り返すと僅かに治まった。

「ハァ…チッ……」

呼吸が落ち着いた時、思わず舌打ちをした。

「何だってンだよ……」

目を覚ました時にいたあの人物……

聖衣を見る限り、自分と同じ黄金聖闘士だという事は理解した。


だが……『一体何故自分の宮にいるのか』は理解できなかった。


「何のつもりだったんだ……?」

…体が先に反応してしまい、思わず攻撃をしてしまったが……

「…あの程度じゃ簡単にやられねーか……」

仮にも自分と同じ黄金聖闘士……あの攻撃で簡単に倒せるわけが無い。

「おい、こんな所で何してやがる?」
「…!?」

声が聞こえた方向を向き、臨戦態勢を取る。

「っ!?……テメェは!!」
「あ……?」



―――



星矢達は獅子宮にやって来た所だった。
「着いたぞ」
星矢と一輝を先頭に、五人は獅子宮の中へ入ってゆく。
「…アイオリア……!」
「……気持ちはわかるが、今は冷静になれ星矢」
一輝に叱責され「わかってる…」と星矢は力無く言葉を返す。


その時――


ゴチッ!!
「いたっ!?」
「っ!?」


星矢が誰かと出会い頭にぶつかった。


しかも、相手は星矢と変わらない身長だったのか……互いに頭突きをするような形となり、同時に尻餅をつく。


「いてて……」
「星矢、大丈夫か?」
すかさず氷河が患部に手をかざして冷やしてやる。
「なんとか……」
星矢はぶつかってきた人物を見る。


……どうやら、自分達とさほど変わらない少年のようだ。


「…ッテエな……どこ見てんだよ!?」
額を押さえながらその少年は星矢を睨む。

「ご、ごめん!」

反射的に星矢は謝るが、他の四人は黙ってはいない。
「ちょっと、ぶつかっておいてそんな言い方はないよ!」
「先ずは謝るという事を知らないのか?」
瞬と一輝が少年に詰め寄る。
「ぇ…みんな……?」
「星矢、お前が謝る事は無い」
「そうだ……礼儀を知らない奴に謝る必要は無い」
紫龍と氷河も冷ややかな視線で少年を見る。
「…ぅ……」
そんな四人に耐えきられなくなったのか、少年が躊躇いがちに呟く。
「わ…悪かったな…ぶつかって……」
「い、いいよ……俺もちゃんと前を見てなかったし」


……ひとまず少年と和解(?)したようだ。


「あ…そういえば、君はどうして獅子宮にいるの?」
瞬がふと思った疑問を口にする。
「確かに……アイオリアかムウの知り合いか?」
「……は?」
一輝が尋ねると、少年は眉間にシワを寄せて言い放った。


(((……か、感じ悪っ!!)))


……言うまでも無く、紫龍と氷河と星矢は同時にそう思った。


ちなみに……一輝が怒りに拳を震わせているが、瞬が必死に抑えている。


「何言ってんだよ、オレは……」
少年が訝しみ口を開く。


と、その時


「見つけたぞ!」


「っ…!?アイツら…追って来たのか……!」


その声を聞いた瞬間、少年が拳を構える。

現れたのはデスマスクとアフロディーテだった。



「あ、デスマスクとアフロディーテ」
「どうしたの?」
星矢と瞬の言葉に「ちょっとな……」とデスマスクが曖昧に返事をする。
「さぁ、大人しく部屋に戻るんだ」
アフロディーテが少年に手を差し伸べるが、少年はその手を忌々しそうに睨み付ける。
「っ…!誰がテメェらと一緒に戻るかよ!!」
突如、少年が小宇宙を高める。
「え…!?」
「この小宇宙…まさか……!?」
瞬が驚く横で、紫龍が信じらんないと言わんばかりの様子で目を見開く。


瞬間――少年の小宇宙が炸裂する。


「ライトニングボルトーー!!」
雷を纏った拳がアフロディーテに向けて繰り出される。


しかし、その間に割り込む影が――


「ぎゃぴー!?」
「デスマスク!?」
バチバチと体がスパークし、デスマスクは倒れてしまう。

「デスマスク…私をかばって……」

すかさずアフロディーテが小宇宙を送ってデスマスクの回復を行う。


「今の技って……あ!」
瞬が突然声を上げる。


少年が逃げ出していたからだ。

「ま、待てよ!!」

星矢が少年の後を追う。

「っ…!来るなよ!!」
少年は必死に走って星矢を引き離そうとする。
「は…速い……!」


徐々に二人の差が開く。


しかし――突如として一人の人影が少年の目の前に現れる。


「な…!?」


少年は回避しようとしたが、スピードが出過ぎている為そうはいかない。


「……暫くの間、大人しくして頂きますよ」


現れた人物はムウだ。


ムウは素早く少年に近寄ると、少年の首筋に手刀を叩き込む。


そして、そのまま前のめりに倒れる少年をやんわりと受け止める。


「ムウ……?」
「星矢…彼が迷惑をかけましたね……」
ムウは複雑な表情で少年と星矢を見る。
「ムウ、どういう事か説明してもらうぞ」
アフロディーテの治療のお陰で、すっかり回復したデスマスクがムウを睨む。
「勿論そのつもりです……」
ムウは少年を軽々と抱き上げる。
「デスマスク、アフロディーテ…それに星矢達も…これから教皇の間に行って下さい。……詳しい話はそこでします」
星矢達が言葉を発する前にムウは消えてしまう。

……これ以上この場にいても意味が無いので、星矢達は大人しく教皇宮へと向かった。

――教皇の間には、現在十二宮にいる黄金聖闘士が全員集まっていた


「一体何だってんだよ……」
「災難だったなデスマスク……」
アフロディーテから事情を聞いたカノンがデスマスクに同情する。
「そういえば……ムウはどうした?一緒じゃないのか?」
「先に行ってろって言われただけだから……」
サガが星矢達に尋ねるが、星矢は首を傾げる。


と、その時


『全員揃いましたね』
ムウから小宇宙通信でその場にいた全員にムウの声が届く。
「ムウ?」
『すみません…今獅子宮から出られないので……』
「おいムウ…まさかあのガキを……?」
『えぇ、先程寝かせた所です』
ムウは言葉を続ける。
『…不覚にも、私もデスマスクと同様にライトニングボルトを食らいましたが……』
「ムウ、一体何があったんだ?」
サガの言葉に、ムウは数秒の沈黙の後に答えた。

『……今から言う事は冗談ではありません』

先ずはそう断りを入れる。

『先ず、星矢達に説明しましょう……あの子供は、シオンの薬によって若返ったアイオリアです』
「「「「えーー!?」」」」
告げられた事実に、星矢達は衝撃を受ける。

「ほ…本当の話なのか……?」
「無論だ」
一輝の呟きにシャカがハッキリと答える。
『…問題は次です……』
「まだ何かあるのか……?」
紫龍の言葉に、ムウが『えぇ…』と更に言葉を続ける。



その言葉に、その場にいた全員が耳を疑った――



『今のアイオリアには、私達の記憶はありません』



「「「「はぃいーー!!!??」」」」



言うまでもなく、聖域に凄まじい叫び声が轟いた。



『正確に言えば…今のアイオリアは、当時の記憶しか持ち合わせていないようです……なので、今の私達に関する記憶はありません』
「じゃあ…星矢達の事は……」
恐る恐るデスマスクが口を開く。
『…覚えていないでしょうね……』
ムウが溜め息をつく様子が見て取れる。
「だからあの時ぶつかっても……」
星矢は複雑な表情で数分前の出来事を思い出す。

確かに、出会い頭にぶつかった時にアイオリアは星矢を見ても特に反応しなかったのだ。

『先程気絶させたので、まだ目を覚ますのは先でしょうが……』
「目覚めても、今のアイオリアは混乱するだけだな……」
サガが頭を抱える。

「全く…教皇はとんでもない事をしてくれたな……」

アイオロスが静かに怒りの小宇宙を燃やす。

…まぁ、実の弟が被害にあったのだから無理も無いだろうが……

「全くだ……」
サガも頷きアイオロスに同意する。
「一刻も早くアイオリアを元に戻さねば……!」
『そうですね…いずれにせよ、一刻も早くシオンに薬を作ってもらわなければ…アイオリアが何をするか……』
「どういう意味だよムウ?」
その言葉に星矢は首を傾げる。
『それは……』
「…とにかく、今はこれからどうするかという事だろ?」
言葉を濁すムウを遮るようにカノンが言葉を切り出す。
『え、えぇ……』
「私は教皇を見張っていよう…逃げ出そうものならギャラクシアンエクスプロージョンを食らわせてやる……!!」
サガは早速教皇の間から出て行く。

……この時、サガの髪が若干黒かったような気がしたが、今はそれどころではない。

他の人達も、それぞれ何をするかを決めると持ち場へと帰る。

呆然とする星矢達も、ムウに促されひとまず天秤宮へと向かった。



……しかし、ムウの予感は的中する――




――翌日、アイオリアが聖域を抜け出したのだ……――




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