一難去ってまた一難
「では……この三人で決まりだな」
ハーデスは一同を見回し、依存が無いことを確かめる。
「この人結構好みなんだけどな~」
「よさんかパンタソス」
ある一枚の絵を抱えて呟くパンタソスにオネイロスが鋭い視線を向ける。
「構わないよ、この三枚の絵以外は処分する予定だし」
ハーデスはパンタソスに笑みを浮かべる。
「やった♪」
「それではハーデス様……」
ヒュプノスの言葉にハーデスは頷く。
「余はこれから作業に取りかかる……邪魔をするで無いぞ」
ハーデスは三枚の絵を抱えて部屋へ入ってゆく。
「フフ……」
画材を揃え、アローンは三つのキャンパスに向き合う。
「さあ……始めようか」
三枚の絵を見本に、キャンパスにかなりの勢いでそれぞれ絵を描いていく。
その絵に描かれていたのは――
その日…シオンは任務から帰り、いつも通りに眠りについた、が……
――突然、体が燃えるような熱に襲われる
意識が朦朧とし、思考があまり働かない状態だ。
だが、風邪では無いことは僅かな思考回路でも理解できた。
(…風邪…では、無い…か……?)
―シオンはそこで意識を手放した――
「ん…?朝……?いや……寝過ごしたな」
窓から差し込む光に日はそれなりに高い位置にあることをシオンは認める。
「私としたことが……しかし…あれは一体何だったのだ……?」
真夜中の出来事に首を傾げながらも、シオンはベッドから身を起こし――硬直した。
「おーい、いい加減起きてるかシオン?」
そして……マニゴルドが部屋の扉を開けて現れる。
「「うわぁああーー!!?」」
―白羊宮から上がった二人の悲鳴が、聖域に響き渡った―
「どうしたんだシオン!?」
「何があったんじゃ!!」
悲鳴を聞きつけ、テンマと童虎が駆けつける。
そこで二人が見たのは……
硬直したマニゴルドと……シーツにくるまり、真っ赤になったシオンだった。
「……どうしたんじゃシオン?」
「……何かあったのか?」
マニゴルドとシオンを交互に見て、状況が把握できない童虎とテンマ。
「…テンマ……今なら、お前の気持ちがわかるぞ」
「?」
シオンの言葉にテンマは意味がわからない様子。
「…私も…お前と同じ事になってしまった……」
シオンはゆっくりとベッドから立ち上がる。
そこで――二人はシオンの体の異変に気づいた
「シオンーー!?」
「そんな…シオンまで!?」
二人も驚きが隠せない。
――…そう、シオンまで女になっていたのだ――
――しかし、悲劇は終わらない
「た、大変だ!!」
カルディアが突然、息を切らして現れる。
「どうしたんじゃカルディア?」
童虎の問いに、カルディアは呼吸を整えてから答えた。
「はぁ…はぁ……デジェルが……」
「デジェルがどうしたんじゃ?」
ガシッと童虎の肩を掴んでカルディアは言葉を荒げた。
「デジェルが部屋から出てこないんだよ!!」
「「えぇええーー!!?」」
童虎とテンマの声が、聖域に響き渡る。
「幾ら呼び掛けても『入ってくるな!』の一点張りで……」
何があったんだよ…と悲しみに浸かっているカルディア。
「…まさか……」
「うぅむ……」
テンマと童虎は互いに目を合わせる。
と、そこに
「全員揃っているな?」
カルディアの背後からアスミタが現れる。
「うわ!?」
「アスミタ!?」
「何の用だよ!?」
カルディアが仰け反るように離れ、童虎が驚き、テンマが身構える。
「何故そんなに驚く…まぁいい」
それより、とアスミタはシオンに視線―といっても目は閉じているが―を向ける。
「やはり…異変が起きたようだな」
「やはり…?どういう意味だ?」
シオンの問いに、アスミタは説明を始めた。
「昨晩…瞑想を行っていた時に不思議な小宇宙を感じた…数は三つ……恐らくハーデスの仕業だろう」
「そういえばあの時…アローンは見せしめに何かやるって……」
「…まさか…デジェルも……?」
……カルディアの言葉は誰も否定しなかった。
「デジェルーー!!」
たまらずカルディアが走り出す。
「カルディア!?」
「わしらも宝瓶宮に行くぞテンマ!」
「あぁ!!」
「私も…!」
「シオンはここにいるんだ……マニゴルドは置いていこう」
シオンも行こうとしたが、アスミタに止められ部屋の扉を閉められる。
「なっ!?ちょっと待て!!」
白羊宮にシオンとマニゴルドを残してテンマたちはカルディアを追って宝瓶宮へと向かった。
―場所は変わって宝瓶宮―
「え……?」
「これは……」
「ふむ……」
三人は入って早々に言葉を失った。
…何故なら……
「頼む、出てきてくれよデジェル!」
「何度言えばわかるカルディア!」
カルディアが部屋の中にいるデジェルを説得しているが……その部屋の扉が見事に凍りついているのだ。
「…デジェルだな……内側から扉を凍らせたのか」
「冷静に解説してる場合じゃないアスミタ!」
童虎とテンマはまだ茫然としているが、アスミタの声にカルディアがツッコミが入る。
「ちょっと待つんじゃ……アスミタ、お主…昨晩に小宇宙をいくつ感じたんじゃった?」
「三つだ」
アスミタの返事に童虎は「うぅむ……」と首を傾げる。
「一つはシオン……もう一つはデジェルで間違い無いじゃろう…じゃが…最後の一つは一体……?」
「……それは私にもわからん」
アスミタが首を横に振る。
そこに、通りかかった人物がいた。
「お前たち、こんな所でどうした?」
「アルデバラン!!」
牡牛座のアルデバランだ。
テンマがアルデバランに駆け寄る。
「アルデバランこそ、どうしたんだ?」
「実は、任務の報告をしようと先程教皇の間に行ったんだが……」
言葉を濁すアルデバランに童虎が訝しむ。
「……どうしたんじゃ?」
「…帰りに、双魚宮を通ったら……」
そう言ってアルデバランは一枚の紙と一輪の薔薇を差し出す。
「薔薇……?」
「何だ?」
カルディアが横から受け取る。
「このような書き置きがあったんだ」
全員その書き置きを覗き込む
そこに書かれていたのは……
ほんの一文
―捜さないで下さい―
「「「アルバフィカぁーー!!?」」」
聖域に、叫び声が轟いた。
その頃、アルバフィカは――
「何故…こんな……」
聖域のはずれに位置する、魔宮薔薇の園のド真ん中で一人泣いていた(笑)。
「カルディア、お主はデジェルを頼む!わしらはアルバフィカを捜すぞ!」
「任せろ!」
カルディアは早速凍りついた扉の前に立つ。
「早く行こうぜ!」
「落ち着け…と言いたいが……テンマの言うとおり、早く捜した方が良いだろう」
アスミタの言葉にアルデバランが頷く。
「そうだな……とにかく、見つかったら連絡を入れるんだ」
四人は早速、アルバフィカの捜索を始めた。
「どこに行ったんだろ……?」
テンマは三人と別れ、森の中を歩いていた。
――そこは以前、アルバフィカと初めて会った時と同じ道のりだった。
「確か……近くに魔宮薔薇の園があるんだっけ」
その時のことを思い出し、テンマは苦笑を浮かべる。
その時――
(……あれ?)
――吹き抜ける風に、僅かに薔薇の香気を感じた
「まさか……」
気が付けば、テンマは駆け出していた。
見渡す限りの真紅の薔薇の中、空色の影を見つけることは容易いことだった。
「アルバフィカ……」
「…!?」
思わずテンマが声をかけると、アルバフィカが驚きテンマを見る。
「あのさ…凄く聞き辛いんだけど…まさか、アルバフィカも……?」
……アルバフィカはテンマの言葉に無言で頷く。
「やっぱり……」
「……すまないが、一人にさせて欲しい」
目を伏せ、呟くようにアルバフィカは言った。
「そんな…!今は俺しかいないからさ…その…話しだけでもいいかな?」
テンマの言葉に一瞬躊躇った様子を見せたアルバフィカだが、魔宮薔薇を消してテンマに近付く。
「アルバフィカ……!」
「すまない…こんな姿を……見られたく無かったから……」
「そ、それ俺もわかるよ!」
目を伏せ、そう呟いたアルバフィカにテンマは思わず声を荒げる。
「そ、それに……っ!?」
不意にテンマは言葉を止めた。
――何者かの気配を感じたからだ
「……誰だ」
黒薔薇を取り出したアルバフィカが鋭い声で言い放つ。
「……仕方ありませんね」
現れたのは――
三巨頭の一人……ミーノスだ。
「お前は……!!」
「天馬星座が一人になる時を待っていましたが……まあ、良いでしょう」
言うなり、ミーノスはコズミックマリオネーションで二人の体の自由を奪う。
「っ!?またかよ……!?」
「く……!!」
アルバフィカは胸の内で危惧する。
せめて、他の黄金聖闘士の誰かがいれば状況は変わるだろう。
だが――今、この場にいる黄金聖闘士はアルバフィカだけだ
(このままでは、テンマが……!)
しかし……次の瞬間、ミーノスはアルバフィカの考えとは全く違うことを言った。
「面倒ですね……このまま二人とも連れて行きましょう」
「えぇええーー!!?」
……テンマが悲鳴を上げるのも無理は無い。
「狙いは俺だけだろ!?何でアルバフィカまで連れて行くんだよ!?」
「言った筈です…面倒ですから、と」
(私とテンマを連れて行く方が面倒だと思うが……)
アルバフィカは心の中で呟くが、口に出さなかった。
「さあ…此方に来なさい」
「い、いやだ……!!」
口では抵抗するが……体は言うことを全くきかない。
(ここまでなのか……!?)
言いようの無い悔しさが、アルバフィカの胸に広がる。
――その時
「そうはさせるか!!」
「エクスカリバー!!」
テンマの前に金色の矢が突き刺さり、アルバフィカの前に斬撃が走り、コズミックマリオネーションの糸を断ち切った。
「っ……!?」
「無事か二人とも?」
「此処にいたんだな……」
ミーノスの間に割って入ったのはシジフォスとエルシドだ。
「シジフォス!?」
「エルシド…!?…何故此処に……!?」
二人が驚きの声を上げる。
「アスミタから連絡があったんだ……アルバフィカがいなくなったから捜せ、とな」
「……」
「まさか冥闘士が現れるとは思わなかったが……」
エルシドがミーノスを睨みつける。
「まさかこうも早く他の黄金聖闘士に見つかるとは……」
……だが、ミーノスは引き下がる様子を見せない。
「ここで引き下がってはハーデス様に申し訳が立ちません……まとめてかかって来なさい」
「二人は渡さないぞ!」
「冥界へ還るがいい……!!」
小宇宙を高めるミーノスに、シジフォスとエルシドはテンマとアルバフィカを守るように立ちはだかる。
――現場はまさに一触即発――
そして…それぞれが技を繰り出そうとした、その時――!!
「廬山百龍覇ぁーー!!」
「なっ!?」
突如、ミーノスの真横から無数の龍が襲いかかる。
「ど、童虎!?」
テンマが思わず声を上げる。
――そう、技の発生源は童虎だった。
―そして、廬山百龍覇が直撃したミーノスは星となった―
「無事かテンマ!!」
瞬時に童虎が駆けより、テンマを抱き締める。
「く、苦しい童虎……」
「おぉ、すまんな」
テンマの訴えを聞き、童虎はすぐにテンマを解放する。
「なんとか間に合ったようだな」
童虎の影から静かにアスミタが現れる。
「あぁ……テンマ、これからは一人で出歩くのは止めた方がいいだろう」
シジフォスの言葉にテンマは渋々頷いた。
「わかったよ…さっきもアルバフィカを巻き込んじゃったし……」
「テンマ……」
アルバフィカが言葉を発しようとしたが、アスミタが遮る。
「それは君にも同じ事が言えるぞ?アルバフィカ」
「…?どういう意味だ?」
アスミタの言葉にアルバフィカは首を傾げる。
「先程の冥闘士は、君を狙っていたからだ」
その言葉に全員が固まった。
「…ちょっと待て……何故アルバフィカが狙われる?」
「…単刀直入に言うと……」
エルシドの言葉にアスミタはアッサリと答える。
「テンマを狙うハーデスと同じだな」
――それは、つまり……
「「はぁああ!?」」
「なんと!?」
エルシドとシジフォスが声を上げたのは全く同時だ。
流石に童虎も驚く。
ちなみにアルバフィカはというと……その場にうずくまっている。
「アルバフィカ!?」
テンマが駆け寄る。
「…そんな……」
……どうやら、かなりのショックを受けたようだ。
「…と、とにかく……今は聖域に帰ろう」
シジフォスの言葉に全員が賛成した
―それから数日後―
「だーかーらーー!!何で童虎はいつも俺を追いかけてくるんだよ!?」
テンマは今日も童虎から逃げていた。
童虎の過保護精神にウンザリしたテンマが逃げた結果……童虎に追われているのだ。
「相変わらずよくやるよな」
「全くな……」
教皇の手伝いをやる為、近くを通りかかっていたマニゴルドとシオンはそんな二人の様子を傍観していた。
「二人とも見てないで助けろよーー!!」
「待たんかテンマ!!」
テンマの叫びが虚しく響く。
―こっちだ!―
(この声……!?)
とっさにテンマは声のした方に物陰に隠れる。
「どこに行ったんじゃ……?」
童虎が周りを見渡す。
「どうかしたか童虎?」
そこにアルバフィカが現れる。
「アルバフィカ?いや、テンマを捜しているんじゃが……」
「…私は見ていないが……」
首を横に振るアルバフィカを見て、童虎はため息を吐く。
「逃げられてしまったか……わざわざすまんな」
「いや……」
童虎が立ち去るのを確認したアルバフィカはテンマに声をかける。
「……もう大丈夫だ」
「助かったよ……ありがとうアルバフィカ」
笑顔を向けるテンマにアルバフィカは少し照れながらも、これからどうすればいいか、考えを巡らせる。
だが――
「見つけたぞテンマ!!」
「嘘だろ!?」
「戻って来たのか……!?」
運悪く童虎が戻って来てしまい、テンマは慌てだす。
「さぁ、観念せい!」
「やなこったーー!」
テンマが駆け出し、童虎がテンマの後を追う。
「待つんじゃ!!」
「しつこい童虎!…何とかしてくれアルバフィカ!」
「っ……!」
テンマの言葉に一瞬驚くが、アルバフィカはどこからともなく薔薇を取り出すと……
「……ロイヤルデモンローズ」
……なすすべ無く童虎は倒れた。
「威力はそれ程では無いから、逃げるなら今だ」
「ありがとう!」
二人は全速力でその場から逃げ出した。
―――
「ごめんなサーシャ…迷惑をかけて……」
あれから、二人は教皇の間……アテナの元へ逃げてきたのだ。
「いいのよ、テンマ…アルバフィカも大変でしたね」
「申し訳ありません……」
うなだれるアルバフィカにサーシャは優しく言葉をかける。
「だけど……元に戻る方法はまだ見つからないんだろ?」
「えぇ……デジェルとセージも協力してくれているんだけど……」
サーシャは申し訳無さそうに目を伏せる。
「そっか……」
「だけど、テンマと皆は必ず元に戻すから……!」
「…アテナ様……」
サーシャの言葉にアルバフィカは感銘を受ける。
「だけど…戻ったらまた童虎が……」
「童虎が?」
首を傾げるサーシャにテンマは説明した。
「童虎がそんなことを……?」
「あぁ……どうしよう」
「私も…迂闊に双魚宮から出られないからな……」
アルバフィカもあれ以来、ミーノスに狙われているようで……聖域から出ようものなら必ずどこからともなくミーノスが現れるのだ。
「そういうことなら、しばらく此処にいてもいいわよ?」
「本当に!?」
「しかし、アテナ様にご迷惑をかけるわけには……!」
「私なら構いませんから、気にしないでください」
サーシャの笑顔にアルバフィカも思わずたじろぐ。
「わ、わかりました」
「ありがとうサーシャ!」
――それから二人は、暫くの間は一緒に過ごしたそうです
「…やはり一筋縄ではいかぬか…次はどうするかな……」
その頃、ハーデスは次なる趣向を考えていたそうな……
……後書き?
さぁやって来ました!無事にシリーズ第二弾を迎えましたよ
シオ「無事では無いだろうが!!(怒)」
フィカ「本当に前回の後書きから被害者を出したな……」
デジェ「何故私まで……(怒)」
落ち着いてシオンにデジェル……(汗)
デジェ「そもそも、どのような基準でこの被害者を選んでいるんだ(怒)」
テン「あ、確かに気になる」
シオ「どうせろくでもない理由だろうが……」
ぅ…り、理由ならあるよ!
フィカ「何……?」
デジェ「ならば説明してみろ」
先ず、テンマは主人公だから
テン「そ、そんな理由で……(ガックリ)」
他の人達は……次回じゃ駄目?
シオ「何故次回に持ち越す!!(怒)」
フィカ「やはり理由が無いのか……」
ち、違うよ!次が最後だからあの人が直々に説明するんだよ!
デジェ「あの人…だと……?」
テン「誰だよ?」
それは次回明かされる
シオ「結局は次回に持ち越しか……」
あはは(汗)…こんな作品ですが、どうか最後まで付き合ってやって下さい……
ちなみに、次回も被害者が拡大します
全員『はぁあーー!?』
終われ
ハーデスは一同を見回し、依存が無いことを確かめる。
「この人結構好みなんだけどな~」
「よさんかパンタソス」
ある一枚の絵を抱えて呟くパンタソスにオネイロスが鋭い視線を向ける。
「構わないよ、この三枚の絵以外は処分する予定だし」
ハーデスはパンタソスに笑みを浮かべる。
「やった♪」
「それではハーデス様……」
ヒュプノスの言葉にハーデスは頷く。
「余はこれから作業に取りかかる……邪魔をするで無いぞ」
ハーデスは三枚の絵を抱えて部屋へ入ってゆく。
「フフ……」
画材を揃え、アローンは三つのキャンパスに向き合う。
「さあ……始めようか」
三枚の絵を見本に、キャンパスにかなりの勢いでそれぞれ絵を描いていく。
その絵に描かれていたのは――
その日…シオンは任務から帰り、いつも通りに眠りについた、が……
――突然、体が燃えるような熱に襲われる
意識が朦朧とし、思考があまり働かない状態だ。
だが、風邪では無いことは僅かな思考回路でも理解できた。
(…風邪…では、無い…か……?)
―シオンはそこで意識を手放した――
「ん…?朝……?いや……寝過ごしたな」
窓から差し込む光に日はそれなりに高い位置にあることをシオンは認める。
「私としたことが……しかし…あれは一体何だったのだ……?」
真夜中の出来事に首を傾げながらも、シオンはベッドから身を起こし――硬直した。
「おーい、いい加減起きてるかシオン?」
そして……マニゴルドが部屋の扉を開けて現れる。
「「うわぁああーー!!?」」
―白羊宮から上がった二人の悲鳴が、聖域に響き渡った―
「どうしたんだシオン!?」
「何があったんじゃ!!」
悲鳴を聞きつけ、テンマと童虎が駆けつける。
そこで二人が見たのは……
硬直したマニゴルドと……シーツにくるまり、真っ赤になったシオンだった。
「……どうしたんじゃシオン?」
「……何かあったのか?」
マニゴルドとシオンを交互に見て、状況が把握できない童虎とテンマ。
「…テンマ……今なら、お前の気持ちがわかるぞ」
「?」
シオンの言葉にテンマは意味がわからない様子。
「…私も…お前と同じ事になってしまった……」
シオンはゆっくりとベッドから立ち上がる。
そこで――二人はシオンの体の異変に気づいた
「シオンーー!?」
「そんな…シオンまで!?」
二人も驚きが隠せない。
――…そう、シオンまで女になっていたのだ――
――しかし、悲劇は終わらない
「た、大変だ!!」
カルディアが突然、息を切らして現れる。
「どうしたんじゃカルディア?」
童虎の問いに、カルディアは呼吸を整えてから答えた。
「はぁ…はぁ……デジェルが……」
「デジェルがどうしたんじゃ?」
ガシッと童虎の肩を掴んでカルディアは言葉を荒げた。
「デジェルが部屋から出てこないんだよ!!」
「「えぇええーー!!?」」
童虎とテンマの声が、聖域に響き渡る。
「幾ら呼び掛けても『入ってくるな!』の一点張りで……」
何があったんだよ…と悲しみに浸かっているカルディア。
「…まさか……」
「うぅむ……」
テンマと童虎は互いに目を合わせる。
と、そこに
「全員揃っているな?」
カルディアの背後からアスミタが現れる。
「うわ!?」
「アスミタ!?」
「何の用だよ!?」
カルディアが仰け反るように離れ、童虎が驚き、テンマが身構える。
「何故そんなに驚く…まぁいい」
それより、とアスミタはシオンに視線―といっても目は閉じているが―を向ける。
「やはり…異変が起きたようだな」
「やはり…?どういう意味だ?」
シオンの問いに、アスミタは説明を始めた。
「昨晩…瞑想を行っていた時に不思議な小宇宙を感じた…数は三つ……恐らくハーデスの仕業だろう」
「そういえばあの時…アローンは見せしめに何かやるって……」
「…まさか…デジェルも……?」
……カルディアの言葉は誰も否定しなかった。
「デジェルーー!!」
たまらずカルディアが走り出す。
「カルディア!?」
「わしらも宝瓶宮に行くぞテンマ!」
「あぁ!!」
「私も…!」
「シオンはここにいるんだ……マニゴルドは置いていこう」
シオンも行こうとしたが、アスミタに止められ部屋の扉を閉められる。
「なっ!?ちょっと待て!!」
白羊宮にシオンとマニゴルドを残してテンマたちはカルディアを追って宝瓶宮へと向かった。
―場所は変わって宝瓶宮―
「え……?」
「これは……」
「ふむ……」
三人は入って早々に言葉を失った。
…何故なら……
「頼む、出てきてくれよデジェル!」
「何度言えばわかるカルディア!」
カルディアが部屋の中にいるデジェルを説得しているが……その部屋の扉が見事に凍りついているのだ。
「…デジェルだな……内側から扉を凍らせたのか」
「冷静に解説してる場合じゃないアスミタ!」
童虎とテンマはまだ茫然としているが、アスミタの声にカルディアがツッコミが入る。
「ちょっと待つんじゃ……アスミタ、お主…昨晩に小宇宙をいくつ感じたんじゃった?」
「三つだ」
アスミタの返事に童虎は「うぅむ……」と首を傾げる。
「一つはシオン……もう一つはデジェルで間違い無いじゃろう…じゃが…最後の一つは一体……?」
「……それは私にもわからん」
アスミタが首を横に振る。
そこに、通りかかった人物がいた。
「お前たち、こんな所でどうした?」
「アルデバラン!!」
牡牛座のアルデバランだ。
テンマがアルデバランに駆け寄る。
「アルデバランこそ、どうしたんだ?」
「実は、任務の報告をしようと先程教皇の間に行ったんだが……」
言葉を濁すアルデバランに童虎が訝しむ。
「……どうしたんじゃ?」
「…帰りに、双魚宮を通ったら……」
そう言ってアルデバランは一枚の紙と一輪の薔薇を差し出す。
「薔薇……?」
「何だ?」
カルディアが横から受け取る。
「このような書き置きがあったんだ」
全員その書き置きを覗き込む
そこに書かれていたのは……
ほんの一文
―捜さないで下さい―
「「「アルバフィカぁーー!!?」」」
聖域に、叫び声が轟いた。
その頃、アルバフィカは――
「何故…こんな……」
聖域のはずれに位置する、魔宮薔薇の園のド真ん中で一人泣いていた(笑)。
「カルディア、お主はデジェルを頼む!わしらはアルバフィカを捜すぞ!」
「任せろ!」
カルディアは早速凍りついた扉の前に立つ。
「早く行こうぜ!」
「落ち着け…と言いたいが……テンマの言うとおり、早く捜した方が良いだろう」
アスミタの言葉にアルデバランが頷く。
「そうだな……とにかく、見つかったら連絡を入れるんだ」
四人は早速、アルバフィカの捜索を始めた。
「どこに行ったんだろ……?」
テンマは三人と別れ、森の中を歩いていた。
――そこは以前、アルバフィカと初めて会った時と同じ道のりだった。
「確か……近くに魔宮薔薇の園があるんだっけ」
その時のことを思い出し、テンマは苦笑を浮かべる。
その時――
(……あれ?)
――吹き抜ける風に、僅かに薔薇の香気を感じた
「まさか……」
気が付けば、テンマは駆け出していた。
見渡す限りの真紅の薔薇の中、空色の影を見つけることは容易いことだった。
「アルバフィカ……」
「…!?」
思わずテンマが声をかけると、アルバフィカが驚きテンマを見る。
「あのさ…凄く聞き辛いんだけど…まさか、アルバフィカも……?」
……アルバフィカはテンマの言葉に無言で頷く。
「やっぱり……」
「……すまないが、一人にさせて欲しい」
目を伏せ、呟くようにアルバフィカは言った。
「そんな…!今は俺しかいないからさ…その…話しだけでもいいかな?」
テンマの言葉に一瞬躊躇った様子を見せたアルバフィカだが、魔宮薔薇を消してテンマに近付く。
「アルバフィカ……!」
「すまない…こんな姿を……見られたく無かったから……」
「そ、それ俺もわかるよ!」
目を伏せ、そう呟いたアルバフィカにテンマは思わず声を荒げる。
「そ、それに……っ!?」
不意にテンマは言葉を止めた。
――何者かの気配を感じたからだ
「……誰だ」
黒薔薇を取り出したアルバフィカが鋭い声で言い放つ。
「……仕方ありませんね」
現れたのは――
三巨頭の一人……ミーノスだ。
「お前は……!!」
「天馬星座が一人になる時を待っていましたが……まあ、良いでしょう」
言うなり、ミーノスはコズミックマリオネーションで二人の体の自由を奪う。
「っ!?またかよ……!?」
「く……!!」
アルバフィカは胸の内で危惧する。
せめて、他の黄金聖闘士の誰かがいれば状況は変わるだろう。
だが――今、この場にいる黄金聖闘士はアルバフィカだけだ
(このままでは、テンマが……!)
しかし……次の瞬間、ミーノスはアルバフィカの考えとは全く違うことを言った。
「面倒ですね……このまま二人とも連れて行きましょう」
「えぇええーー!!?」
……テンマが悲鳴を上げるのも無理は無い。
「狙いは俺だけだろ!?何でアルバフィカまで連れて行くんだよ!?」
「言った筈です…面倒ですから、と」
(私とテンマを連れて行く方が面倒だと思うが……)
アルバフィカは心の中で呟くが、口に出さなかった。
「さあ…此方に来なさい」
「い、いやだ……!!」
口では抵抗するが……体は言うことを全くきかない。
(ここまでなのか……!?)
言いようの無い悔しさが、アルバフィカの胸に広がる。
――その時
「そうはさせるか!!」
「エクスカリバー!!」
テンマの前に金色の矢が突き刺さり、アルバフィカの前に斬撃が走り、コズミックマリオネーションの糸を断ち切った。
「っ……!?」
「無事か二人とも?」
「此処にいたんだな……」
ミーノスの間に割って入ったのはシジフォスとエルシドだ。
「シジフォス!?」
「エルシド…!?…何故此処に……!?」
二人が驚きの声を上げる。
「アスミタから連絡があったんだ……アルバフィカがいなくなったから捜せ、とな」
「……」
「まさか冥闘士が現れるとは思わなかったが……」
エルシドがミーノスを睨みつける。
「まさかこうも早く他の黄金聖闘士に見つかるとは……」
……だが、ミーノスは引き下がる様子を見せない。
「ここで引き下がってはハーデス様に申し訳が立ちません……まとめてかかって来なさい」
「二人は渡さないぞ!」
「冥界へ還るがいい……!!」
小宇宙を高めるミーノスに、シジフォスとエルシドはテンマとアルバフィカを守るように立ちはだかる。
――現場はまさに一触即発――
そして…それぞれが技を繰り出そうとした、その時――!!
「廬山百龍覇ぁーー!!」
「なっ!?」
突如、ミーノスの真横から無数の龍が襲いかかる。
「ど、童虎!?」
テンマが思わず声を上げる。
――そう、技の発生源は童虎だった。
―そして、廬山百龍覇が直撃したミーノスは星となった―
「無事かテンマ!!」
瞬時に童虎が駆けより、テンマを抱き締める。
「く、苦しい童虎……」
「おぉ、すまんな」
テンマの訴えを聞き、童虎はすぐにテンマを解放する。
「なんとか間に合ったようだな」
童虎の影から静かにアスミタが現れる。
「あぁ……テンマ、これからは一人で出歩くのは止めた方がいいだろう」
シジフォスの言葉にテンマは渋々頷いた。
「わかったよ…さっきもアルバフィカを巻き込んじゃったし……」
「テンマ……」
アルバフィカが言葉を発しようとしたが、アスミタが遮る。
「それは君にも同じ事が言えるぞ?アルバフィカ」
「…?どういう意味だ?」
アスミタの言葉にアルバフィカは首を傾げる。
「先程の冥闘士は、君を狙っていたからだ」
その言葉に全員が固まった。
「…ちょっと待て……何故アルバフィカが狙われる?」
「…単刀直入に言うと……」
エルシドの言葉にアスミタはアッサリと答える。
「テンマを狙うハーデスと同じだな」
――それは、つまり……
「「はぁああ!?」」
「なんと!?」
エルシドとシジフォスが声を上げたのは全く同時だ。
流石に童虎も驚く。
ちなみにアルバフィカはというと……その場にうずくまっている。
「アルバフィカ!?」
テンマが駆け寄る。
「…そんな……」
……どうやら、かなりのショックを受けたようだ。
「…と、とにかく……今は聖域に帰ろう」
シジフォスの言葉に全員が賛成した
―それから数日後―
「だーかーらーー!!何で童虎はいつも俺を追いかけてくるんだよ!?」
テンマは今日も童虎から逃げていた。
童虎の過保護精神にウンザリしたテンマが逃げた結果……童虎に追われているのだ。
「相変わらずよくやるよな」
「全くな……」
教皇の手伝いをやる為、近くを通りかかっていたマニゴルドとシオンはそんな二人の様子を傍観していた。
「二人とも見てないで助けろよーー!!」
「待たんかテンマ!!」
テンマの叫びが虚しく響く。
―こっちだ!―
(この声……!?)
とっさにテンマは声のした方に物陰に隠れる。
「どこに行ったんじゃ……?」
童虎が周りを見渡す。
「どうかしたか童虎?」
そこにアルバフィカが現れる。
「アルバフィカ?いや、テンマを捜しているんじゃが……」
「…私は見ていないが……」
首を横に振るアルバフィカを見て、童虎はため息を吐く。
「逃げられてしまったか……わざわざすまんな」
「いや……」
童虎が立ち去るのを確認したアルバフィカはテンマに声をかける。
「……もう大丈夫だ」
「助かったよ……ありがとうアルバフィカ」
笑顔を向けるテンマにアルバフィカは少し照れながらも、これからどうすればいいか、考えを巡らせる。
だが――
「見つけたぞテンマ!!」
「嘘だろ!?」
「戻って来たのか……!?」
運悪く童虎が戻って来てしまい、テンマは慌てだす。
「さぁ、観念せい!」
「やなこったーー!」
テンマが駆け出し、童虎がテンマの後を追う。
「待つんじゃ!!」
「しつこい童虎!…何とかしてくれアルバフィカ!」
「っ……!」
テンマの言葉に一瞬驚くが、アルバフィカはどこからともなく薔薇を取り出すと……
「……ロイヤルデモンローズ」
……なすすべ無く童虎は倒れた。
「威力はそれ程では無いから、逃げるなら今だ」
「ありがとう!」
二人は全速力でその場から逃げ出した。
―――
「ごめんなサーシャ…迷惑をかけて……」
あれから、二人は教皇の間……アテナの元へ逃げてきたのだ。
「いいのよ、テンマ…アルバフィカも大変でしたね」
「申し訳ありません……」
うなだれるアルバフィカにサーシャは優しく言葉をかける。
「だけど……元に戻る方法はまだ見つからないんだろ?」
「えぇ……デジェルとセージも協力してくれているんだけど……」
サーシャは申し訳無さそうに目を伏せる。
「そっか……」
「だけど、テンマと皆は必ず元に戻すから……!」
「…アテナ様……」
サーシャの言葉にアルバフィカは感銘を受ける。
「だけど…戻ったらまた童虎が……」
「童虎が?」
首を傾げるサーシャにテンマは説明した。
「童虎がそんなことを……?」
「あぁ……どうしよう」
「私も…迂闊に双魚宮から出られないからな……」
アルバフィカもあれ以来、ミーノスに狙われているようで……聖域から出ようものなら必ずどこからともなくミーノスが現れるのだ。
「そういうことなら、しばらく此処にいてもいいわよ?」
「本当に!?」
「しかし、アテナ様にご迷惑をかけるわけには……!」
「私なら構いませんから、気にしないでください」
サーシャの笑顔にアルバフィカも思わずたじろぐ。
「わ、わかりました」
「ありがとうサーシャ!」
――それから二人は、暫くの間は一緒に過ごしたそうです
「…やはり一筋縄ではいかぬか…次はどうするかな……」
その頃、ハーデスは次なる趣向を考えていたそうな……
……後書き?
さぁやって来ました!無事にシリーズ第二弾を迎えましたよ
シオ「無事では無いだろうが!!(怒)」
フィカ「本当に前回の後書きから被害者を出したな……」
デジェ「何故私まで……(怒)」
落ち着いてシオンにデジェル……(汗)
デジェ「そもそも、どのような基準でこの被害者を選んでいるんだ(怒)」
テン「あ、確かに気になる」
シオ「どうせろくでもない理由だろうが……」
ぅ…り、理由ならあるよ!
フィカ「何……?」
デジェ「ならば説明してみろ」
先ず、テンマは主人公だから
テン「そ、そんな理由で……(ガックリ)」
他の人達は……次回じゃ駄目?
シオ「何故次回に持ち越す!!(怒)」
フィカ「やはり理由が無いのか……」
ち、違うよ!次が最後だからあの人が直々に説明するんだよ!
デジェ「あの人…だと……?」
テン「誰だよ?」
それは次回明かされる
シオ「結局は次回に持ち越しか……」
あはは(汗)…こんな作品ですが、どうか最後まで付き合ってやって下さい……
ちなみに、次回も被害者が拡大します
全員『はぁあーー!?』
終われ