失われし神々の系譜:撮影秘話
それは、聖戦が終わって約半年が経ったある日の事――
世界が平和になったのを良い事に、女神が突拍子のない事を言ったのだ。
「折角イケメンが揃っているのにもったいないですわ」
その女神の一言に、執務室の空気が音を立てて凍りついた。
「あ、アテナ…それはどういう意味でしょうか……?」
かろうじて、サガがやや引きつった笑みを浮かべて沙織に申し上げる。
「言葉の通りですわサガ、貴方達黄金聖闘士は、聖闘士の中でも屈指のイケメンなのですよ。もう少しその顔を活かせるような仕事を増やすべきです」
「……お言葉ですがアテナ、私達は自分の外見についてそのように思った事はありません」
「貴方が言っても説得力はありませんよアフロディーテ」
「!!」
沙織に一刀両断され、アフロディーテはショックを受けてしまう。
「今のは仕方ありませんね……アフロディーテ、一度自分の顔を鏡で見てきなさい」
「顔に何かついてるのか?」
「そういう問題ではありません」
聖闘士一の美しさを誇る魚座なのに、本人には全く自覚がない。
それがアフロディーテの性格だから仕方ない…直ぐに悟った執務当番のムウは、書類に目を通しながら静かに溜息を吐いた。
「……そうですわ!!」
沙織は何か思いついたように、パンと手を合わせる。
「貴方達を主人公にして撮影を行えば良いのです!!」
「……はい?」
サガの目が点になる。
「聖闘士の力をもってすれば特撮も顔負けな演出が可能ですし、危険なシーンの撮影もスタントマンは不要です」
「あ…アテナ……?」
「……私達の声に耳を傾ける気配は全くないね。ところでムウ、『とくさつ』とは何だ?」
「ミロや星矢達が好きなヒーローものです。貴鬼も今の仮○ライダー好きですし。…嫌な予感しかありませんね……」
冷や汗をダラダラと流すサガの横で、ムウがアフロディーテの質問に答えながら遠い目をしている。
「そうと決まれば早速日本に戻って会議です!!辰巳、飛行機の準備を!!」
「お待ちくださいアテナぁああああ!!」
サガの悲鳴も虚しく……その翌日に、我儘な沙織の計画が実行されてしまった――
次の日――シオンとカノンを含める黄金聖闘士が、女神によって教皇の間に呼び出された。
しかし、前日のやり取りをサガ達から聞いていた為、全員の表情はかなり暗いものだ。
「皆さん、浮かない顔をしてどうしたのです?」
『誰のせいだと思ってるんだよ!!』
(一部心の広い奴を除く)全員の思いがリンクする。
「アテナ、私達に用とは一体……?」
黄金聖闘士を代表して、ムウが沙織に申し上げる。
「実は…今日は、皆さんに大切な話があります」
沙織は、背中に隠していた本を出してみせる。
その本には『失われし神々の系譜』というタイトルが表記されていた。
「…それは…一体……?」
「台本です」
沙織はにこやかに笑みを浮かべ、言葉を続ける。
「これから、貴方達はアレスと先代の黄金聖闘士達と戦ってもらいます」
『はぁああああ!!?』
十二宮に、黄金聖闘士の悲鳴が轟いた。
「それはどういう意味ですかアテナ!?」
「せ、先代の黄金って誰!?老師と教皇以外に生きてる人がいたのかよ!?」
「落ち着けアイオリアにミロ!!」
「貴方もですよカミュ、冷気がダダ漏れではありませんか」
そう言葉を放つムウは何故か、シャカとアルデバランと共に距離を取っている。
「……は!!お主ら、今すぐ落ち着くのじゃ!!」
同時に、童虎も距離を取りながら慌てふためく一同を落ち着かせようと試みる。
しかし、時既に遅し。
「老師、そうは言ってもだなぁ」
デスマスクの言葉を遮るように、小宇宙を高めたシオンの技が炸裂する。
「狼狽えるな小僧共ーーー!!」
『うわぁああああ!!!??』
「…だから言ったのじゃ……」
「…老師…そういう事は…もう少し早く……」
シオンの狼狽えるな小僧に巻き込まれたシュラが、息も絶え絶えの状態で童虎に言った。
「……アテナ、先程から貴方の背後から小宇宙を感じるのですが」
シオンの猛攻から逃げ延びたシャカが、沙織の後ろに視線を向けながら言った。
「流石はシャカ、よく気付きましたね」
沙織は後ろを振り返りながら、言葉を続ける。
「今回の撮影に協力してくださる方々を紹介しようと思って、貴方達を此処に呼んだのです」
「協力者?」
そこで、シャカは先程の沙織の言葉を思い出す。
『これから、貴方達はアレスと先代の黄金聖闘士達と戦ってもらいます』
「ま、まさかアテナ……」
「えぇ。皆さん、出てきてください」
沙織の言葉に導かれるように、続々と姿を現したのは……
「な…なんと!?」
「お、お前達は!?」
「久し振りだな……シオン、童虎」
そう……そこには、前聖戦の黄金聖闘士達が集っていたのだ。
「シジフォス!?マニゴルドにアルバフィカ……!!」
「デフテロスに…アスプロス……」
「へへっ、久し振り!!」
「レグルス!?」
驚愕の表情を浮かべる二人に対し、レグルスがにこやかな笑顔を浮かべ手を振ってくる。
「ま、マジかよ……」
「相変わらず…アテナの行動力は凄まじいものですね……」
苦々しい表情を浮かべるデスマスクの横で、ムウは頭を抱えていた。
「明日からにでも撮影を行う予定ですので、今日は貴方達の親睦会を行おうと思って召集を掛けさせて頂きました。撮影スケジュールは追々連絡しますから」
そう言いながら、沙織は早々に席を立とうとする。
「アテナ、どちらへ?」
「暫く仕事の関係で日本へ戻らなくてはならないのです。あ、後から星矢達が此方に来る予定なので、早めに準備をしておいてください」
アイオロスの言葉に、沙織はやや早口で説明した。
ちらちら時計を見ているので、恐らく時間が切羽詰っているのだろう。
「どこまで身勝手なんだよったく……」
「何か仰いましたか?」
デスマスクがぼやいた瞬間、沙織から凄まじい小宇宙が放たれる。
「…イイエナニモ……」
「では、後は頼みましたよ」
にっこりと可愛らしい笑顔を浮かべ、沙織は優雅にその場を後にした。
「…まぁ…お前も苦労してんだな……」
「そりゃどうも……」
同情したのか、マニゴルドがデスマスクの肩を軽く叩いた。
「ってか、よくアンタら断らなかったな」
「あん?知らねーのか?」
カルディアがチラチラと周囲の様子を窺うと、小さな声でこう言った。
「……敵にまわすと、とんでもなくおっかない女神信者がいるから、迂闊な事が言えないんだよ」
その視線は、親しげにアイオロスとアイオリアに話しかけているシジフォスに向けられていた。
「……アンタも苦労してんのな」
「もう慣れっこだよ」
半ばヤケクソといった様子で、カルディアは言った。
「そういえば、アテナの話では星矢達も此方に来るのでしたね。すぐに準備をしなければ」
「そうじゃな、何か菓子でも作ってやらんと。お主等の紹介は星矢達が来てからで良いかの?」
「勿論さ、現代の聖闘士達がどのような人物か会ってみたいからね」
……そんなこんなで、この『失われし神々の系譜』の撮影が始まろうとしていた。
世界が平和になったのを良い事に、女神が突拍子のない事を言ったのだ。
「折角イケメンが揃っているのにもったいないですわ」
その女神の一言に、執務室の空気が音を立てて凍りついた。
「あ、アテナ…それはどういう意味でしょうか……?」
かろうじて、サガがやや引きつった笑みを浮かべて沙織に申し上げる。
「言葉の通りですわサガ、貴方達黄金聖闘士は、聖闘士の中でも屈指のイケメンなのですよ。もう少しその顔を活かせるような仕事を増やすべきです」
「……お言葉ですがアテナ、私達は自分の外見についてそのように思った事はありません」
「貴方が言っても説得力はありませんよアフロディーテ」
「!!」
沙織に一刀両断され、アフロディーテはショックを受けてしまう。
「今のは仕方ありませんね……アフロディーテ、一度自分の顔を鏡で見てきなさい」
「顔に何かついてるのか?」
「そういう問題ではありません」
聖闘士一の美しさを誇る魚座なのに、本人には全く自覚がない。
それがアフロディーテの性格だから仕方ない…直ぐに悟った執務当番のムウは、書類に目を通しながら静かに溜息を吐いた。
「……そうですわ!!」
沙織は何か思いついたように、パンと手を合わせる。
「貴方達を主人公にして撮影を行えば良いのです!!」
「……はい?」
サガの目が点になる。
「聖闘士の力をもってすれば特撮も顔負けな演出が可能ですし、危険なシーンの撮影もスタントマンは不要です」
「あ…アテナ……?」
「……私達の声に耳を傾ける気配は全くないね。ところでムウ、『とくさつ』とは何だ?」
「ミロや星矢達が好きなヒーローものです。貴鬼も今の仮○ライダー好きですし。…嫌な予感しかありませんね……」
冷や汗をダラダラと流すサガの横で、ムウがアフロディーテの質問に答えながら遠い目をしている。
「そうと決まれば早速日本に戻って会議です!!辰巳、飛行機の準備を!!」
「お待ちくださいアテナぁああああ!!」
サガの悲鳴も虚しく……その翌日に、我儘な沙織の計画が実行されてしまった――
次の日――シオンとカノンを含める黄金聖闘士が、女神によって教皇の間に呼び出された。
しかし、前日のやり取りをサガ達から聞いていた為、全員の表情はかなり暗いものだ。
「皆さん、浮かない顔をしてどうしたのです?」
『誰のせいだと思ってるんだよ!!』
(一部心の広い奴を除く)全員の思いがリンクする。
「アテナ、私達に用とは一体……?」
黄金聖闘士を代表して、ムウが沙織に申し上げる。
「実は…今日は、皆さんに大切な話があります」
沙織は、背中に隠していた本を出してみせる。
その本には『失われし神々の系譜』というタイトルが表記されていた。
「…それは…一体……?」
「台本です」
沙織はにこやかに笑みを浮かべ、言葉を続ける。
「これから、貴方達はアレスと先代の黄金聖闘士達と戦ってもらいます」
『はぁああああ!!?』
十二宮に、黄金聖闘士の悲鳴が轟いた。
「それはどういう意味ですかアテナ!?」
「せ、先代の黄金って誰!?老師と教皇以外に生きてる人がいたのかよ!?」
「落ち着けアイオリアにミロ!!」
「貴方もですよカミュ、冷気がダダ漏れではありませんか」
そう言葉を放つムウは何故か、シャカとアルデバランと共に距離を取っている。
「……は!!お主ら、今すぐ落ち着くのじゃ!!」
同時に、童虎も距離を取りながら慌てふためく一同を落ち着かせようと試みる。
しかし、時既に遅し。
「老師、そうは言ってもだなぁ」
デスマスクの言葉を遮るように、小宇宙を高めたシオンの技が炸裂する。
「狼狽えるな小僧共ーーー!!」
『うわぁああああ!!!??』
「…だから言ったのじゃ……」
「…老師…そういう事は…もう少し早く……」
シオンの狼狽えるな小僧に巻き込まれたシュラが、息も絶え絶えの状態で童虎に言った。
「……アテナ、先程から貴方の背後から小宇宙を感じるのですが」
シオンの猛攻から逃げ延びたシャカが、沙織の後ろに視線を向けながら言った。
「流石はシャカ、よく気付きましたね」
沙織は後ろを振り返りながら、言葉を続ける。
「今回の撮影に協力してくださる方々を紹介しようと思って、貴方達を此処に呼んだのです」
「協力者?」
そこで、シャカは先程の沙織の言葉を思い出す。
『これから、貴方達はアレスと先代の黄金聖闘士達と戦ってもらいます』
「ま、まさかアテナ……」
「えぇ。皆さん、出てきてください」
沙織の言葉に導かれるように、続々と姿を現したのは……
「な…なんと!?」
「お、お前達は!?」
「久し振りだな……シオン、童虎」
そう……そこには、前聖戦の黄金聖闘士達が集っていたのだ。
「シジフォス!?マニゴルドにアルバフィカ……!!」
「デフテロスに…アスプロス……」
「へへっ、久し振り!!」
「レグルス!?」
驚愕の表情を浮かべる二人に対し、レグルスがにこやかな笑顔を浮かべ手を振ってくる。
「ま、マジかよ……」
「相変わらず…アテナの行動力は凄まじいものですね……」
苦々しい表情を浮かべるデスマスクの横で、ムウは頭を抱えていた。
「明日からにでも撮影を行う予定ですので、今日は貴方達の親睦会を行おうと思って召集を掛けさせて頂きました。撮影スケジュールは追々連絡しますから」
そう言いながら、沙織は早々に席を立とうとする。
「アテナ、どちらへ?」
「暫く仕事の関係で日本へ戻らなくてはならないのです。あ、後から星矢達が此方に来る予定なので、早めに準備をしておいてください」
アイオロスの言葉に、沙織はやや早口で説明した。
ちらちら時計を見ているので、恐らく時間が切羽詰っているのだろう。
「どこまで身勝手なんだよったく……」
「何か仰いましたか?」
デスマスクがぼやいた瞬間、沙織から凄まじい小宇宙が放たれる。
「…イイエナニモ……」
「では、後は頼みましたよ」
にっこりと可愛らしい笑顔を浮かべ、沙織は優雅にその場を後にした。
「…まぁ…お前も苦労してんだな……」
「そりゃどうも……」
同情したのか、マニゴルドがデスマスクの肩を軽く叩いた。
「ってか、よくアンタら断らなかったな」
「あん?知らねーのか?」
カルディアがチラチラと周囲の様子を窺うと、小さな声でこう言った。
「……敵にまわすと、とんでもなくおっかない女神信者がいるから、迂闊な事が言えないんだよ」
その視線は、親しげにアイオロスとアイオリアに話しかけているシジフォスに向けられていた。
「……アンタも苦労してんのな」
「もう慣れっこだよ」
半ばヤケクソといった様子で、カルディアは言った。
「そういえば、アテナの話では星矢達も此方に来るのでしたね。すぐに準備をしなければ」
「そうじゃな、何か菓子でも作ってやらんと。お主等の紹介は星矢達が来てからで良いかの?」
「勿論さ、現代の聖闘士達がどのような人物か会ってみたいからね」
……そんなこんなで、この『失われし神々の系譜』の撮影が始まろうとしていた。