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旧版:失われし神々の系譜

「責尸気魂葬破!!」


マニゴルドの掌に、青白い光が集束する。

「っ!!」

当たる直前、デスマスクは瞬間移動を駆使しすんでの所で回避した。

「どうした?逃げるだけか?」
「ちっ……」

舌打ちするデスマスクだが、その思考は、目の前のマニゴルドではなく、ワルハラ宮に向かったカミュ達の事を案じていた。

(さっきの小宇宙の爆発から、カミュの小宇宙がほとんど感じられねぇ…かろうじて、弟子二人の小宇宙が分かる程度だが……)

「考え事か?隙だらけだぜ!!」

デスマスク目掛け、マニゴルドは再び責尸気魂葬破を繰り出すべく小宇宙を集束させる。

「天魔降伏!!」
「おわっ!?」

シャカの放った一撃が、マニゴルドを直撃した。

だが……いかに黄金聖闘士屈指の力を持っていようと、守護星座の異なる者の攻撃は、凶衣には通用しない。

吹き飛ばされるも、マニゴルドはすぐさま受け身をとり、攻撃体勢に入った。


「……やはり、牽制程度にしかならないか」

開眼しているシャカの瞳は、静かにマニゴルドを捉える。

「…はっ…歴代揃って、乙女座っていうのは厄介なものだな」

マニゴルドは一瞬、シャカを睨むが、すぐに視線はデスマスクに戻す。

「ま、今の俺には関係ないがな………」


マニゴルドの指先に、鬼火が灯る。

「ちっ…!!シャカ、後ろを頼む!!」

対し、デスマスクも指先に燐気を集束させる。

「積尸気鬼蒼焔!!」
「積尸気冥界波!!」


二つの技がぶつかり合い、せめぎ合う。


が、やがて両者の技は跡形も無く消えてしまった。


「ちっ……お前も結構厄介な相手みたいだな」
「そりゃどうも」

舌打ちをするマニゴルドに対し、デスマスクは笑みを浮かべる。

「い…一体何が……」

目の前で起きた現象に、トールが茫然と呟く。

「積尸気鬼蒼焔…あの技は、魂を火種にして放つ技だ」

カーンによる障壁を展開し、警戒しながら、シャカが静かに言葉を放つ。

「デスマスクは冥界波で、鬼蒼焔の火種となる魂を冥界に飛ばしたのだ。火種を失えば、燃える事は出来ないからな」
「そういうこった……まぁ、ソイツも気づいただろうがな」

デスマスクは、マニゴルドを軽く睨みながらそう呟く。

「さて、どう出るんだ?魂葬破も鬼蒼焔も、俺には通じねぇよ」
「…確かに、魂葬破を繰り出した所で同じように相殺されるだけだな」

そう告げるマニゴルドだが、殺意が消えた様子はまるでない。

その様子に、デスマスクはすっと目を細める。


(…シャカ、三人を頼むぞ)

テレパシーでそうシャカに告げると、デスマスクは一気に小宇宙を高める。

「じゃあ、一気に決めさせてもらおうかな」

――瞬間、デスマスクは一気に間合いを詰める。


「っ!?」

デスマスクの五指に宿った紫の光を捉え、マニゴルドは咄嗟に上体を捻る。

直撃こそしなかったが、余波でヘッドパーツが外れ、宙を舞う。

金属が割れる軽い音がした後、額の部分から二つに割れたヘッドパーツが雪原に落下した。


「避けたって事は、この技も効くって事だな」

五指に紫電を宿したデスマスクが、にやりと笑う。

「ちっ……その技、お前が作ったのか」
「まぁな」

マニゴルドの額から、一筋の血が流れた。

その血を乱暴に拭うと、デスマスクを睨み付ける。

「積尸気紫雷爪…こんな程度だけど、一応接近戦で闘えないと都合が悪いんでね」

(…おい…トール、だったな?お前、その斧以外にも攻撃方法はあるか?あったら…)

マニゴルドに話しながら、デスマスクはトールにテレパシーを送る。

「何なら、もう一発くれてやる!!」
(変に反応すんな!!……お前はその武器以外でも、何か技を使えるか?)

激しい肉弾戦を繰り広げながら、マニゴルドに気付かれないようにテレパシーを送る事は、長くは持たないだろう。

「っ……」
トールは両の手に構えていた巨大な戦斧を、静かに地面に突き立てる事で、肯定の意を表した。

(よし…じゃあ、俺が合図を出すから、その時に一発頼むぞ…シャカとソレント)

次いで、デスマスクは二人へテレパシーを送る。


(どうせシャカは聞いてるかもしれねぇがな)
(当然であろう。要件を良いたまえ)

トールと同様に、デスマスクはシャカとソレントにも手短に頼み事をした。


(本当にやるのかね……!?)
(いちかばちかだがな…何もせずに、やられっぱなしなのは気にくわねぇ)


「ちょこまか逃げてんじゃねぇ!!」
「っ!!」


一瞬の隙を突かれ、デスマスクはマニゴルドの責尸気魂葬破を直撃してしまう。


「ぐぁっ!?」
「これでトドメだ……!!」


体勢を崩したデスマスクに、跳躍するように接近したマニゴルドは、左脚を腹部へと鋭く見舞う。
同時に、その右脚はデスマスクの背中を挟むように固定される。

「がはっ……!?」

黄金聖衣に亀裂が走り、デスマスクの口から血の塊が吐き出されるが……マニゴルドはその様子に嗤いながら、無慈悲に身体を捻らせる。


「アクベンス!!」


瞬間――デスマスクの身体が、両断された……かのように見えた。


(何だ……!?)


マニゴルドが『違和感』に気付いた時は、既に遅かった。



「今だ!!」

何処からか、デスマスクの声が響く。



「タイタニック・ハーキュリーズ!!」



トールの怒号と共に、紫電を纏った烈風の拳が地面を抉りながらマニゴルドに放たれる。

「なっ!?」

流石のマニゴルドも、焦りの表情を浮かべトールの拳を回避した。

「あの斧だけじゃなかったのかよ……!!」
「人を見た目で判断するなって事だな」


――何時の間にか、マニゴルドの目の前に、デスマスクが瞬間移動をしていた。


「てめぇ……!?」

マニゴルドがすかさず攻撃体勢に入るが、同時にシャカの凛とした声が響いた。

「天空破邪魑魅魍魎!!」


じゃら!!と勢い良く数珠を鳴らし、シャカは無数の魑魅魍魎を召喚した。


「っ!?馬鹿め…俺の技を忘れたか」

一瞬目を見開くも、マニゴルドは責尸気魂葬破を繰り出すべく小宇宙を集束させる。


……が、その表情はすぐに驚愕に染まる。


思うように小宇宙が集まらないのだ。


「な……!?」

「一つ教えてやるよ……」


デスマスクの右腕に、青い焔が集束し、燐気の珠を作り出す。


右腕だけではない――シャカの魑魅魍魎達が、全て燐気の珠に変化していた。


「俺は、『先代の技は使えない』なんて、一言も言ってないぜ?偽物野郎が」




燐気の珠が、爆ぜる。

目も開けられない程の、凄まじい爆風が吹き荒れるが、程無く静寂が訪れる。





「…ってぇ……だから使いたくなかったんだよなぁ」

その呟きと共に、デスマスクがふらふらと立ち上がった


「こ、これは……」
「俺の体質みたいなもんだ…無意識の内に、必要以上に魂を集めて無駄に火力が高くなっちまうんだ。今回のは、シャカに火種を用意してもらっただけマシだけどな」

まぁ、とデスマスクは肩を竦めながらちらりと視線を向ける。

「お陰で、一発ぶちかませたわけだ」

その先には、仰向けに倒れているマニゴルドがいた。

「それより、お前にそんな技があったなんてな?」

警戒を怠らないが、デスマスクはソレントに向けて言葉を投げかける。

「デッドエンド・プレリュード……旋律を耳にした相手の神経に作用し、感覚をずらす技です」

そう言いながら、ソレントは口元の金色のフルートを下した。

シャカが天空破邪魑魅魍魎を放つと同時に、ソレントがフルートを奏でていたのだ。
その旋律は魑魅魍魎達の声でほとんどかき消されたように思えたが…人の耳では聞こえない音域を奏で、マニゴルドの肉体に聞かせたのである。


「結果として、その感覚のずれが、小宇宙の燃焼に直結したのでしょう……」
「肉体は借り物だから、些細なずれでも致命的だったって事か…?まぁ、結果オーライってヤツだ」


『く、そ……』

バキ、と亀裂が走る音が耳に響く。


マニゴルドの身を覆っていた狂衣が、砕けだしたのだ。


『またしても…聖闘士に……』
「残念だったな?聖闘士なんかにやられてよ」

デスマスクは、マニゴルドを…正確には、マニゴルドの狂衣を見下ろす。


「これで、先代の魂が解放されるな」
『っ……』


誰もが勝利を確信した、その時だった――

その場にいた全員が、突如として、凄まじい小宇宙の重圧を感じたのだ。


「なっ……!?」
「この小宇宙……!?」

シャカがはっとした表情で、ある方角を見やる。

「ワルハラ宮から…!?それに、この小宇宙は……」


――そう、先程感じた恐ろしい重圧を伴う異質な小宇宙と、二つの小宇宙がぶつかり合っている。


「この小宇宙…氷河と……」
「アイザック……!?」

ソレントも驚愕の表情に染まる。

二人が戦っているという事は、まだヒルダは無事なのだろう……だが、二人の小宇宙が押されているのは、手に取るように理解できた。

『…くくっ…ははは……!!』

その小宇宙を感じ、狂衣に宿る狂闘士の思念が、狂ったように嗤う。

「てめぇ、まさか……」
『…所詮、俺は時間稼ぎにすぎん………せいぜい足掻くが良い、聖闘士共』


次の瞬間、バキリ、と音を立て狂衣が砕け散った。

破片は光の粒子となって、跡形も無く消滅する。

「ちっ……!!」

デスマスクは舌打ちをすると、シャカとソレントの方へ向きながら声を荒げた。

「お前等、すぐにワルハラ宮へ行け!!」
「っ!?で、ですが……」
「俺は念のため此処に残る…先代の事もあるしな」

そうソレントに告げるデスマスクの視線は、意識を失っているマニゴルドに向けられている。

「先代はもう大丈夫だろうが……ワルハラ宮の方からカミュの小宇宙がほとんど感じない所を見ると、向こうの状況はかなり悪い」
「っ……」

デスマスクの言う通り、マニゴルドと戦う直前に凄まじい小宇宙を感じて以降、カミュの小宇宙をほとんど感じない状態だ。

「ジークフリートの小宇宙もまるで感じない…まさか……」
「…そう簡単にやられる奴では無いだろうが……」

トールの呟きにそう答えたアルベリッヒが立ち上がり、口元の血を拭う。

「お前達に協力するのは気に食わないが……こればかりは、そのような事は言えないようだな」
「はっ……」

アルベリッヒの言葉に、デスマスクは肩を竦めるとシャカに向き直る。

「先代が目覚め次第、後を追い掛ける。そっちは任せたぞ」
「………」

シャカは無言で頷き、片手で印を結んだ。


「この人数ならば、私のテレポートでもワルハラ宮へ飛べるだろう…行くぞ」


そう告げた瞬間、シャカはデスマスクとマニゴルド以外の者を連れて、瞬間移動でワルハラ宮へと飛んだ。


「………ちっ」

目覚めぬ先代の傍らで、デスマスクは思わず舌打ちをした。


(アイオリア達はまだ交戦中、ミロ達は…終わったか…シャカ達が間に合えば良いが……)


先代の目覚めを待つデスマスクの胸中は、焦りと苛立ちに溢れていた。


「聖域に残っている連中も、何もなければ良いんだがな……」


その呟きは、アスガルドの吹雪にかき消される――
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