旧版:失われし神々の系譜
「ローリングディフェンス!!」
チェーンが行う回転運動に、複数の真紅の閃光が弾かれる。
「っ……」
瞬は手元に戻った鎖を見て、息を呑んだ。
――カルディアのスカーレットニードルが命中した部分の鎖には、針穴のような傷が穿たれ、鉄の焼ける臭いと共に煙が立ち上っていた。
(さっきまで、こんな事にはならなかったのに……)
「防御するだけか?つまんねぇな!!」
心臓から、凄まじい熱を指先に集中させながらカルディアは挑発する。
「勝手に言っていろ!!」
イオが繰り出す拳を軽々と避け、カルディアは右の人差し指をイオに向ける。
「イオ!!」
そのカルディアの様子に、すかさず瞬はチェーンを展開させ、防御の体勢に入る。
――瞬間、カルディアの『左』の人差し指が、瞬に向けられた。
「瞬!!」
「っ!?」
ミロの声と同時に、アンドロメダの鎖の防衛本能が、主の瞬を守るべく陣を展開させる。
真紅の閃光は、全て鎖に阻まれたかに見えた――だが、
瞬の身体を、一筋の閃光が貫いた。
「――!?」
針のような小さな傷が一つだけ……だが、その傷口から、全身の神経が焼かれるような激痛が、瞬の身体を蝕んだ。
「うあぁああああ!?」
「何……!?」
傷口を押さえ、悲鳴を上げる瞬の様子に、イオは目を瞠る。
「あのアンドロメダの鎖の防御を突破したというのか……!?」
「……先程のスカーレットニードルは、全く同じ軌道に二発放ったものだ」
ミロが苦渋の表情で、言葉を続ける。
「アンドロメダの鎖は、確かに鉄壁の防御を誇る……だが、スカーレットニードルは針が通る隙間さえあれば相手に命中する技だ」
「それが、あの鎖の防御を突破した事とどう関係あると……」
そう言ったのは、ミロの手当を受けていたハーゲンだった。
「…つまり…一発目を防いだ時、二発目が回転運動をする鎖と鎖の隙間を縫うように入り込み、瞬の身体に命中したという事だ」
「な……!?」
「へぇ、中々賢いじゃねぇか」
カルディアが、真紅に染まる己の爪に舌を這わせながら嗤う。
「ハーゲンと言ったな?もう動けるな」
「あ、あぁ」
「……そこの二人を頼んだそ」
ミロが視線を、フェンリルとフレアに向ける。
ハーゲンが頷く事を確認し、ミロは外套を翻すと、カルディアと瞬の間に割って入った。
「一つだけ納得いかん……瞬の様子は、普通のスカーレットニードルを受けた時の反応ではない」
ミロはきっとカルディアを睨むと、両の人差し指に小宇宙を込め、真紅の爪を出現させる。
「それに…その心臓の熱……普通の小宇宙によるものでは無いな」
「そこまで分かってるなら、答えを教えてやろうかな――っ!!」
瞬間、カルディアがミロに真紅の閃光を繰り出した!!
だが、ミロは腕を一閃させると、カルディアの閃光を全て弾いた。
しかし……攻撃を防いだミロの表情は、険しいものだった。
「っ…この技…スカーレットニードルでは無いのか……!?」
ミロの指先――真紅に染まった爪から、僅かに白煙が昇っている。
「全部防いだのか……中々やるじゃねぇか」
「……その心臓の熱量が、攻撃に反映されていると見受けるが」
笑みを浮かべるカルディアに、ミロは射貫くような眼差しを向ける。
「…その通り……この技は、唯のスカーレットニードルじゃねぇ」
カルディアはうっそりと目を細める。
「スカーレットニードル・カタケオ……この心臓の熱を込め、相手の神経を焼き切る技だ」
「カタケオ(火葬)…!?それで瞬は……」
そこまで言った時、ミロは背後の瞬が立ち上がる気配を感じる。
「…僕なら…大丈夫です……」
ミロはその言葉に、振り返る事もせずに言い放つ。
「……瞬、下がれ」
「で、でも……」
「下がれと言ったんだ……チェーンの防御が破られた以上、お前の鎖は当てにならん」
ミロは、カルディアに真紅の爪を向ける。
「貴様の相手はこの俺だ」
その瞳には、激しい闘志の炎が宿っていた。
「…『あの時』と同じ目だ」
一瞬、笑みを消してカルディアはそう呟くが、すぐに嗤った。
「なら、その自信へし折ってやるよ」
再び、ミロに真紅の閃光が襲い掛かる!!
だが、ミロは表情を変えずに人差し指を一閃させ、先程と同様に閃光を全て弾いた。
「……悪いが、この勝負、すぐに終わらせてもらおう」
「何だと……!?」
ミロは一瞬だけ、目を閉じる。
「随分余裕じゃねぇか!!」
カルディアが閃光を繰り出そうとした瞬間――ミロの瞳が…紅い輝きを放つ瞳が、カッと見開かれる。
「リストリクション!!」
「な……!?」
突然ミロから繰り出された赤い光を受け、カルディアの身体が硬直する。
「その反応…やはり、先代はこの技を使えないようだな」
元の瞳に戻ったミロの人差し指に、小宇宙が集束する。
「終わりだ……!!」
――真紅の閃光が、放たれる。
「っ…一発だけか?」
だが、カルディアは倒れない。
ミロの放った一撃は、カルディアの胸の中心…心央点より少し上の位置を穿っていたが、そこは蠍座の星命点ではない。
数発同時ならば兎も角、一発だけでは左程ダメージを与えられない。
だが、ミロは目を閉じ、カルディアに背を向けて言い放った。
「……一発だけで十分だ」
「何だと……」
ミロの言葉に、カルディアは眉を顰める……が、
次の瞬間――その一点の傷から、全身に亀裂が走る!!
「なっ……!?」
カルディアは驚愕の表情を浮かべ、ガクリと膝を付いた。
『き…さま……何を……』
カルディアの声に、ノイズがかったような声が重なる。
その声が、狂衣に宿る狂闘士の声なのだろう。
「……蠍の眼は、得物の急所を見抜く為に在る」
ミロは顔だけ僅かに振り向き、カルディアに静かに告げる。
「スカーレットニードルを撃てば、先代の急所である星命点を穿つ事にもなる…間違いなく、先代の命を奪う事になるだろう……」
だが、とミロは言葉を続ける。
「瞬達が時間を稼いでくれたお陰で、本体である貴様の急所を見抜く事が出来た。幸い、星命点に重なっていない場所にあったから、先代にほぼダメージを与える事無く、本体である貴様を破壊出来たのだ」
『……!!」
カルディア……否、狂衣に宿る狂闘士は、憎しみの眼差しでミロを睨み付ける。
『貴様……』
だが、その表情は、すぐに嘲笑へと変わった。
『一応、見事とだけ言っておこう…だが……』
「――!?」
カルディアの呟きと共に、遠くから凄まじい小宇宙の爆発を感じた。
「な…何だ、今の小宇宙は……!?」
凄まじい小宇宙に、イオは驚きを隠せない。
「っ…!!チェーンが……!!」
その時、瞬の角鎖が音を立てながらある方角を示す。
その方角は――ワルハラ宮だ。
『水瓶座では、相性が悪かったようだな……』
「どういう意味だ!!」
声を荒げるミロだが、カルディアは嘲笑うような笑みを浮かべたまま、仰向けに倒れる。
その直後、音を立てて狂衣が粉々に砕け散った。
「お…お姉様……!!」
「フレア様!!」
フレアもその小宇宙を感じ、青ざめてその場に座り込んでしまう。
ハーゲンが肩を支えるも、フレアの瞳には涙が溜まっていた。
「ハーゲン、お姉様が……!!」
「…くそっ!!」
ミロは拳を握り締め、瞬達と向き合う。
「お前達はソイツを守れ、先代の蠍座が味方とも限らないし……また新手が現れる可能性もあるからな」
そう言い放つと、ミロは一同に背を向けた。
「み、ミロ……!?」
「……俺はカミュと合流する」
ざわり、とミロの小宇宙と共に、豊かな金髪が翻る。
「これ以上…仲間を…我が友を、連中に傷つけさせてたまるか!!」
「ま、待ってくださいミロ!!」
瞬の制止も虚しく、ミロはその場から消えてしまう。
「っ……」
「……瞬、ソイツは拘束しなくても良いのか?」
そう告げたイオの視線の先には、倒れたカルディアの姿があった。
「……その人なら、もう大丈夫」
だけど…と、瞬は視線をワルハラ宮のある方角へと向けた。
「…嫌な予感がする……」
その呟きは、吹雪に消えた。
チェーンが行う回転運動に、複数の真紅の閃光が弾かれる。
「っ……」
瞬は手元に戻った鎖を見て、息を呑んだ。
――カルディアのスカーレットニードルが命中した部分の鎖には、針穴のような傷が穿たれ、鉄の焼ける臭いと共に煙が立ち上っていた。
(さっきまで、こんな事にはならなかったのに……)
「防御するだけか?つまんねぇな!!」
心臓から、凄まじい熱を指先に集中させながらカルディアは挑発する。
「勝手に言っていろ!!」
イオが繰り出す拳を軽々と避け、カルディアは右の人差し指をイオに向ける。
「イオ!!」
そのカルディアの様子に、すかさず瞬はチェーンを展開させ、防御の体勢に入る。
――瞬間、カルディアの『左』の人差し指が、瞬に向けられた。
「瞬!!」
「っ!?」
ミロの声と同時に、アンドロメダの鎖の防衛本能が、主の瞬を守るべく陣を展開させる。
真紅の閃光は、全て鎖に阻まれたかに見えた――だが、
瞬の身体を、一筋の閃光が貫いた。
「――!?」
針のような小さな傷が一つだけ……だが、その傷口から、全身の神経が焼かれるような激痛が、瞬の身体を蝕んだ。
「うあぁああああ!?」
「何……!?」
傷口を押さえ、悲鳴を上げる瞬の様子に、イオは目を瞠る。
「あのアンドロメダの鎖の防御を突破したというのか……!?」
「……先程のスカーレットニードルは、全く同じ軌道に二発放ったものだ」
ミロが苦渋の表情で、言葉を続ける。
「アンドロメダの鎖は、確かに鉄壁の防御を誇る……だが、スカーレットニードルは針が通る隙間さえあれば相手に命中する技だ」
「それが、あの鎖の防御を突破した事とどう関係あると……」
そう言ったのは、ミロの手当を受けていたハーゲンだった。
「…つまり…一発目を防いだ時、二発目が回転運動をする鎖と鎖の隙間を縫うように入り込み、瞬の身体に命中したという事だ」
「な……!?」
「へぇ、中々賢いじゃねぇか」
カルディアが、真紅に染まる己の爪に舌を這わせながら嗤う。
「ハーゲンと言ったな?もう動けるな」
「あ、あぁ」
「……そこの二人を頼んだそ」
ミロが視線を、フェンリルとフレアに向ける。
ハーゲンが頷く事を確認し、ミロは外套を翻すと、カルディアと瞬の間に割って入った。
「一つだけ納得いかん……瞬の様子は、普通のスカーレットニードルを受けた時の反応ではない」
ミロはきっとカルディアを睨むと、両の人差し指に小宇宙を込め、真紅の爪を出現させる。
「それに…その心臓の熱……普通の小宇宙によるものでは無いな」
「そこまで分かってるなら、答えを教えてやろうかな――っ!!」
瞬間、カルディアがミロに真紅の閃光を繰り出した!!
だが、ミロは腕を一閃させると、カルディアの閃光を全て弾いた。
しかし……攻撃を防いだミロの表情は、険しいものだった。
「っ…この技…スカーレットニードルでは無いのか……!?」
ミロの指先――真紅に染まった爪から、僅かに白煙が昇っている。
「全部防いだのか……中々やるじゃねぇか」
「……その心臓の熱量が、攻撃に反映されていると見受けるが」
笑みを浮かべるカルディアに、ミロは射貫くような眼差しを向ける。
「…その通り……この技は、唯のスカーレットニードルじゃねぇ」
カルディアはうっそりと目を細める。
「スカーレットニードル・カタケオ……この心臓の熱を込め、相手の神経を焼き切る技だ」
「カタケオ(火葬)…!?それで瞬は……」
そこまで言った時、ミロは背後の瞬が立ち上がる気配を感じる。
「…僕なら…大丈夫です……」
ミロはその言葉に、振り返る事もせずに言い放つ。
「……瞬、下がれ」
「で、でも……」
「下がれと言ったんだ……チェーンの防御が破られた以上、お前の鎖は当てにならん」
ミロは、カルディアに真紅の爪を向ける。
「貴様の相手はこの俺だ」
その瞳には、激しい闘志の炎が宿っていた。
「…『あの時』と同じ目だ」
一瞬、笑みを消してカルディアはそう呟くが、すぐに嗤った。
「なら、その自信へし折ってやるよ」
再び、ミロに真紅の閃光が襲い掛かる!!
だが、ミロは表情を変えずに人差し指を一閃させ、先程と同様に閃光を全て弾いた。
「……悪いが、この勝負、すぐに終わらせてもらおう」
「何だと……!?」
ミロは一瞬だけ、目を閉じる。
「随分余裕じゃねぇか!!」
カルディアが閃光を繰り出そうとした瞬間――ミロの瞳が…紅い輝きを放つ瞳が、カッと見開かれる。
「リストリクション!!」
「な……!?」
突然ミロから繰り出された赤い光を受け、カルディアの身体が硬直する。
「その反応…やはり、先代はこの技を使えないようだな」
元の瞳に戻ったミロの人差し指に、小宇宙が集束する。
「終わりだ……!!」
――真紅の閃光が、放たれる。
「っ…一発だけか?」
だが、カルディアは倒れない。
ミロの放った一撃は、カルディアの胸の中心…心央点より少し上の位置を穿っていたが、そこは蠍座の星命点ではない。
数発同時ならば兎も角、一発だけでは左程ダメージを与えられない。
だが、ミロは目を閉じ、カルディアに背を向けて言い放った。
「……一発だけで十分だ」
「何だと……」
ミロの言葉に、カルディアは眉を顰める……が、
次の瞬間――その一点の傷から、全身に亀裂が走る!!
「なっ……!?」
カルディアは驚愕の表情を浮かべ、ガクリと膝を付いた。
『き…さま……何を……』
カルディアの声に、ノイズがかったような声が重なる。
その声が、狂衣に宿る狂闘士の声なのだろう。
「……蠍の眼は、得物の急所を見抜く為に在る」
ミロは顔だけ僅かに振り向き、カルディアに静かに告げる。
「スカーレットニードルを撃てば、先代の急所である星命点を穿つ事にもなる…間違いなく、先代の命を奪う事になるだろう……」
だが、とミロは言葉を続ける。
「瞬達が時間を稼いでくれたお陰で、本体である貴様の急所を見抜く事が出来た。幸い、星命点に重なっていない場所にあったから、先代にほぼダメージを与える事無く、本体である貴様を破壊出来たのだ」
『……!!」
カルディア……否、狂衣に宿る狂闘士は、憎しみの眼差しでミロを睨み付ける。
『貴様……』
だが、その表情は、すぐに嘲笑へと変わった。
『一応、見事とだけ言っておこう…だが……』
「――!?」
カルディアの呟きと共に、遠くから凄まじい小宇宙の爆発を感じた。
「な…何だ、今の小宇宙は……!?」
凄まじい小宇宙に、イオは驚きを隠せない。
「っ…!!チェーンが……!!」
その時、瞬の角鎖が音を立てながらある方角を示す。
その方角は――ワルハラ宮だ。
『水瓶座では、相性が悪かったようだな……』
「どういう意味だ!!」
声を荒げるミロだが、カルディアは嘲笑うような笑みを浮かべたまま、仰向けに倒れる。
その直後、音を立てて狂衣が粉々に砕け散った。
「お…お姉様……!!」
「フレア様!!」
フレアもその小宇宙を感じ、青ざめてその場に座り込んでしまう。
ハーゲンが肩を支えるも、フレアの瞳には涙が溜まっていた。
「ハーゲン、お姉様が……!!」
「…くそっ!!」
ミロは拳を握り締め、瞬達と向き合う。
「お前達はソイツを守れ、先代の蠍座が味方とも限らないし……また新手が現れる可能性もあるからな」
そう言い放つと、ミロは一同に背を向けた。
「み、ミロ……!?」
「……俺はカミュと合流する」
ざわり、とミロの小宇宙と共に、豊かな金髪が翻る。
「これ以上…仲間を…我が友を、連中に傷つけさせてたまるか!!」
「ま、待ってくださいミロ!!」
瞬の制止も虚しく、ミロはその場から消えてしまう。
「っ……」
「……瞬、ソイツは拘束しなくても良いのか?」
そう告げたイオの視線の先には、倒れたカルディアの姿があった。
「……その人なら、もう大丈夫」
だけど…と、瞬は視線をワルハラ宮のある方角へと向けた。
「…嫌な予感がする……」
その呟きは、吹雪に消えた。