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旧版:失われし神々の系譜

―聖域の十二宮―

第一宮の白羊宮の入り口に複数の人影が現れる。

いずれも共通しているのは……紅い、血のような輝きを放っている鎧を身に纏っている。
彼らは頷き合うと白羊宮へ足を踏み入れる


その時――


「止まりなさい!!」

行く手に立ちはだかったのは、紫苑の髪を風になびかせ、黄金の鎧を纏っている若者だ。

「何者です?……返答によっては貴方達を攻撃します」
「……」

黒髪の男性が無言で一歩進み出る……代表ということだろう。


他の人物達もそうだが……ヘッドパーツで目元が隠れている為、表情が全く見えない。


「その聖衣…お前が現代の牡羊座か?」
「……えぇ、私はこの白羊宮を守護する牡羊座のムウ」

若者―ムウは鋭い視線を向ける。

「もう一度聞きます……貴方達は何者です?」
ムウの言葉に感情が入っていない声で男性は答えた。

「我々は狂闘士(バーサーカー)……オリンポス十二神が一柱、アレスを守護する戦士」
「狂闘士…?…アレス……」

(確かアレスは、城壁の破壊者の名を持つアテナと対極の軍神…それが何故……!?)


言葉を反芻するムウに、男性は淡々と続ける。

「我々の目的はただ一つ」


「女神、アテナの命だ」


「っ…!?そのような事はさせません!!」
小宇宙を高め、ムウは臨戦態勢に入る。

「そこを退け、牡羊座……我々にかなうと思っているのか?」

……確かに、ムウ一人に対して相手の数は四人……明らかにムウが不利に見える。

「アテナを守護する聖闘士として……此処から先へは行かせません!!」

身構えるムウに男性は「そうか…」と呟くように言う。
「ならば、容赦はしない」

小宇宙を高めたムウが高々と手を掲げる。

「スターダストレボリューション!!」

無数の星々の煌めきが、男性に襲いかかる!!



――しかし、男性が腕を一閃させると、見えない斬撃で打ち消された。


「…その程度なのか?」

「な……!?」
余波がムウの頬を掠め、一筋の血を流させる。

「そんな…この技は……!?」

驚くムウに、輝く凍気と無数の黒薔薇が襲いかかる。

「っ!!」
ムウは光の障壁を出現させ、弾き返す。

「その技…クリスタルウォールか」
「っ…?!何故技の名前を……?!」

驚きを隠せないムウに当然だ、と答えたのは黒薔薇を放った空色の髪の若者だ。

「その技を私達は見たことがある……お前が先程使ったものもな」
「…?!」
再び黒薔薇を取り出し、ムウに向ける。


「かつて、幾多の闘いを共にした同志が使っていたからな……その人物は、お前の先代にあたる者だ」
「先代の…牡羊座……!?まさか、貴方達は……!?」
「お喋りはここまでだ」

凍気を纏った淡い新緑の髪の若者が、小宇宙を高める。

「なるべく小宇宙を浪費したくなかったが、仕方ない」

空色の髪の若者と顔を見合わせると、再び連携を放つ。

「何度やっても同じです、クリスタルウォール!!」
瞬く間に現れる障壁に、悉く跳ね返される。

だが……それが狙いだった。

「その技は彼のものとは違い、正面からの攻撃しか跳ね返すことが出来ないのだろう?」
「なっ……?!」

……ムウが驚くのも無理は無い。
一度見ただけで、ムウのクリスタルウォールの特性を見破ったのだ。

そして、ムウは漸く気付いた。


――あの黒髪の男性が、消えていたのだ


「っ……!?」


気付いた時は、既に遅かった――


「ぐ…!!」

脇腹に激痛が走る。

黄金聖衣をも断ち斬り、ムウの体を斬り裂いた……その剣のように研ぎ澄まされた拳は、ムウ自身もよく知っているものだ。

「たわいも無い」
ムウの背後には、あの黒髪の男性が立っていた。

――ガラスが砕けるような音を立て、クリスタルウォールの障壁が砕け散る


しかし……ムウは傷口を押さえながら、なおも立ち続けている。

「そのような傷を受けてもまだ立つか……」
「当たり…前です……!」

ムウは意志が消えていない瞳で四人を睨み付ける。

「アテナの命を守ることが…我々、アテナの聖闘士の役目です!」
「随分と威勢が良いなぁ……」

真紅の爪を出現させている紺碧の髪の若者―先代蠍座の黄金聖闘士だった人物―が笑みを浮かべながら言った。

「だが、俺達はお前に構ってる程ヒマじゃねーんだよ」

スゥ……と真紅の爪をムウに向けて言い放つ。



「だから……とっとと死ねよ」



―――



「お前も感じたかミロ……!」
「当たり前だろ!…あんな小宇宙、感じない奴はどれだけ鈍感なんだよ……」

ミロとカミュは、教皇のシオンから与えられた任務から聖域に戻る途中だった。

しかし、その途中で強大な小宇宙を感じ取り、その発生源となった場所に向かっているのだ。



だが、その場所を訪れた時……二人は言葉を失う――


「な…!?これは…一体……!?」
「な、何だ…これは……!?」



―――そう、辺り一帯の大地がひっくり返されたように激しく変化していたのだ。



「まるで…大地が返ったようだ……」
カミュが呆然とした様子で呟く。

「だ、誰がこんな……」
ミロの呟きが風に消える。


しかし、カミュはその大地から微かな小宇宙を感じ取る。


「っ……?!」
「カミュ?!」
カミュは変わり果てた大地へ身を投じる。

「どうしたんだよ?」
慌ててミロも大地へと降り立つが、カミュは辺りを鋭く見渡しながらミロに言った。

「……一瞬だが、老師の小宇宙を感じた」
「老師の……?」
「あぁ……」
気のせいだったのか…?とカミュが訝しんだ、その時――


「……!?」
「この小宇宙…!間違いない!!」
二人は同時に小宇宙を感じ取り走り出す。



――ひどく弱々しい小宇宙だが、その主は一人しかいない。



やがて二人は一つの瓦礫の山の前で立ち止まる。

「……この下か」
「よし……」
ミロは小宇宙を高めると、真紅の爪を出現させ狙いを定める。


「スカーレットニードル!!」


――瓦礫が粉砕され、露わにされたその人物に二人は絶句した

「な……!?」
「嘘だろ……?!」


―――全身が血に濡れた、天秤座の童虎がそこにいた



「しっかりして下さい、老師!!」
カミュが駆け寄り、童虎を助け起こす。

真紅の爪を出現させたままだったミロが血止めの真央点を突くと、カミュがすかさず己の小宇宙を童虎に送る。

「ぅ……」
「っ!気がつきましたか、老師」
うっすらと目を開け、童虎は二人の姿を認める。

「お主ら……」
「まだ動いてはいけません……一体、何があったのです?」

カミュの問い掛けに童虎は答えず、カミュの腕を振りほどき、立ち上がろうとする。

「ぬぅ……!」
「老師?!」
「無茶です!まだ動いたら傷が広がります!!」

膝をつく童虎に駆け寄る二人だが、童虎はそれを制した。

「わしに構うな!お主らは聖域へ……!」
「老師をこの場に残せと…!?そのようなこと……!!」
「行くんじゃ!!このままでは、アテナが……!!」
そこまで言いかけた童虎は言葉を呑む。

ミロとカミュもハッと顔を見合わせて聖域の方角に目をやる。



――一瞬だが、聖域から凄まじい小宇宙を感じたのだ

「今の小宇宙は…ムウ……!?」
「いや、他にも複数の小宇宙を感じたが…一体……」

ミロとカミュは呆然とした様子で呟く。

「いかん…このままでは……」
立ち上がり前に進もうとした童虎だが、その体はすぐにふらつき……

「老師!?」
崩れるように倒れる童虎の体をカミュが辛うじて受け止める。

「カミュ…!…老師は?」
「……気を失ったようだ」

カミュは素早く童虎の容態を見るとミロに視線を向ける。

「ミロ、先に聖域に行ってくれ……私は老師と共に後から行く」

カミュの言葉に一瞬驚くミロだが、やがて頷くと聖域へと走り去る。

「…一体、何が起きたというのだ……」

呆然と呟くカミュだが、やがて童虎の肩を担ぎ、親友の後を追った。




―――




「な…何だこれは……?!」
白羊宮へ足を踏み入れたミロは言葉を失った。




――壁と床は抉れ、柱が破壊され……激しい戦いがあった事は一目瞭然だった。




「ムウは……?無事でいるのか!?」
ミロは意識を集中させ、ムウの小宇宙を感じ取る。


―今にも消えそうな、弱々しい小宇宙を―


「ムウ……!!」
すかさずミロは駆け出す。


やがて……ミロの視界に飛び込んだ光景は――



―血溜まりの中に広がる、紫苑の髪―



「っ!?ムウ!!?」



―牡羊座のムウの、変わり果てた姿だった……―

―――


ミロが白羊宮を訪れたと同時刻――


彼等は、十二宮の巨蟹宮にいた。


「何だよココ?」
「これは…死面(デスマスク)か……?」
空色の髪の若者が目を細める。


――巨蟹宮の辺り一面が、死面に覆われていたからだ。


「死面、ね……それは俺の名前だよ」


巨蟹宮の奥から、青白い燐気と共に現れたのは、蟹座の黄金聖闘士のデスマスクだ。


「で、アンタらか?侵入者ってのは」
「だったらどうするんだよ?」


紺碧の髪の若者の言葉に、デスマスクがすぅ……と目を細める。


「決まってんだろ?お前らもこの死面の仲間入りにさせてやるよ」
「ヤなこった……っつーか、コレお前の趣味かよ?」

デスマスクは答えずに小宇宙を高める。


「成る程……覚悟はあるようだな」
冷気を発生させながら淡い新緑の髪の若者がデスマスクを見据える。


「ならば、牡羊座と同じように消えてもらう……」
「やれるもんならやってみろ!!」
デスマスクは指先に己の小宇宙を集中させる。

――――




「ムウ!しっかりするんだ!!」
ミロはムウの体を抱き起こし、愕然とした。
「な…!?この傷は……!?」

ムウの体に刻まれている、鋭利な刃物で斬られたような傷と、十四の針穴のような傷……いずれも、血がとめどなく流れ出ている。

その傷を見て、ミロは声を震わせた。
「馬鹿な…!?これは…スカーレットニードルに…エクスカリバーか……!?」

蠍座を描く十四の軌跡に、黄金聖衣をも断ち斬るその傷は……紛れもなく、自分と山羊座の黄金聖闘士であるシュラにしか扱う事が出来ないものだ。


――疑問が次から次へと湧いてくる。


だが、今のムウの状態は酷く危険なものだ。


「っ……!」
ミロはムウの真央点を突き、慣れないながらも己の小宇宙を送り出す。


小宇宙を送りながらミロは周囲を見渡し――言葉を失う


「……!?」


――白羊宮の床の一部が、凍りついている。

否、それだけでは無い……


壊れた柱の近くには、黒い薔薇が落ちていた。


「あれは…まさか……?!」
「ミロ!!」

そこに、カミュが童虎の肩を担いで現れる。

「カミュ…!老師は……?」
「まだ意識が無い…とりあえず、安全な場所で回復を、と思っていたのだが……」

カミュはミロの腕の内にいるムウと、周囲に視線を巡らせる。

「……どうやら、ただ事では無いようだな」
「あぁ……」
ミロが頷く。


――その時


「ぅ……」
「っ!ムウ!?」


ムウが微かに呻き、うっすらと目を開けた。


「…ミ…ロ……?」
「気が付いたか?」
「私は……っ!!」

無理やり体を動かそうとしたのか、ムウは激痛に顔を歪める。

「まだ動くな!…酷い傷だからな……」
「そうは…いきません……!」
ミロの言葉を無視してムウは立ち上がる。

が、すぐに膝をついてしまう。

「ムウ!」
慌ててミロがムウに駆け寄る。

「ムウ…一体何があったんだ……?」
童虎を床に寝かせたカミュがムウに尋ねる。

「このままでは…アテナの命が……!」
ムウは苦しげに呟くように言う。

だが、その言葉にミロとカミュは衝撃を受ける。

「アテナの命が…どういう事だ?!」
「ミロ…カミュ……。私に構わず、先へ行って下さい…!このままでは……!」

ムウの言葉は途中で途切れる。



―巨蟹宮で、強力な小宇宙を感じたからだ―



ミロとカミュもその小宇宙を感じ取り、互いに顔を見合わせる。

「俺は先に行く!カミュはムウを!」
ミロは言うなり、光の速さでその場から消える。

カミュは今にも倒れそうなムウを支えて小宇宙を送る。

「ムウ、一体誰にやられたんだ?」
「…それは……」
カミュの問いにムウは一瞬言葉を濁す。

やがて、意を決したようにムウは何があったのかを語り出す。


「まさか…そのような事が……!?」
ムウの言葉にカミュは驚きを隠せない様子だ。
「…事実です…それに……」

『カミュ、ムウ!聞こえるか!?』

不意に、ミロの小宇宙の声が二人に届く。

「ミロ…?どうした?」
怪訝そうにカミュが言葉を返すが、ミロの様子は酷く慌てていた。

『で…デスマスクが……!』

「デスマスクが……?何があったんだ?」


――次に発せられたミロの言葉に、二人は絶句した。


『デスマスクが氷漬けになっているんだよ!!』




―――




巨蟹宮に辿り着いたミロは、その入り口で氷漬けにされたデスマスクの姿を目の当たりにした。


構えからして、積尸気冥界波を繰り出している時にやられたのだろう……その表情は驚きに染まっていた。

試しにミロは、スカーレットニードルで氷を砕こうとしたが……

ひび割れどころか、傷一つ入らないのだ。


『どういう事だミロ!?』
「実は……」

ミロが状況を説明すると、ムウが『やはり…』と呟く。

『ミロ……その氷は、貴方の力だけでは砕くことは出来ません』

「何…!?どういう意味だムウ!」
声を荒げるミロにムウは言葉を選ぶように話す。

『…その氷は、言わばカミュの氷と同じです……いや、カミュよりも強力なものでしょう』

「何だと……!?」


驚くミロだが、ムウは更に言葉を続ける。

『…私の考えが間違いでなければ…今、聖域に侵入しているのは……』


次の言葉に、ミロとカミュは絶句した。


『老師とシオン……かつて、この二人と戦いを共にした……』




――先代の、黄金聖闘士……!!




『な…?!そんな馬鹿な!!』

ミロが驚きの声を上げる。

『前聖戦では、老師と教皇以外の聖闘士は全員亡くなったんじゃなかったのか!?』

そう……ミロの言う通り、前聖戦で生き残ったのは天秤座の童虎、そして現在は教皇の地位にいる牡羊座のシオンの二人だけだ。

「…えぇ…ミロの言う通りです……。ですが、彼等と対峙した時に気になる名前を聞いたのです」
『…?名前……?』

ミロの言葉にムウは頷く。

「…先代の黄金聖闘士達は『狂闘士』と名乗り、アテナの命を狙っています……」
『何……!?』
「彼等と対峙した時に聞いたのです……アテナの命を狙っている者の名は……」

ムウの言葉は途中で切れる。


人馬宮から、凄まじい小宇宙を感じ取ったからだ。




聖域を揺るがす程の小宇宙を――


『な……!?』
「この小宇宙は…アイオロスか……!?」
「…恐らく…インフィニティブレイクを使用したのでしょう……」

小宇宙を集中させると、射手座のアイオロスが守護する人馬宮で戦いが起こっている様子がわかった。

「行って下さい、カミュ……老師は私に任せて下さい」
「ムウ……!」
カミュは驚きムウを見る。

だが……ムウのその眼差しには、覚悟が秘められていた。

「……わかった」
カミュは童虎のそばに跪き天秤座の聖衣に触れる。

「老師……天秤座の武器をお借りします」
カミュが天秤座の聖衣から取り出したのは黄金に輝く剣(ソード)だ。

「後は頼んだぞ、ムウ」
「えぇ……」
ムウが頷く事を確認したカミュは、光の速さでミロの元へと向かう。




―人馬宮―





「……少しはやるようだな」
黒髪の男性が感心したように呟く。


だが、その体には一切のダメージを負っていない。


それは後ろにいる三人も同じだった。


「だが、それだけか?」
男性が視線を向ける。


視線の先にいるのは、射手座の黄金聖闘士――アイオロスだ。


「っ……」
アイオロスは僅かに息を呑むと、辛うじて言葉を発する。

「インフィニティブレイクを…斬り裂いたのか……?!」
「そうだが……それがどうした?」
平然と答える男性に、アイオロスは目を見開く。

「っ…!…馬鹿な……!?」
「言いたい事はそれだけか?」

紺碧の髪の若者が笑みを浮かべる。

「牡羊座にしろ蟹座にしろ…現代の黄金聖闘士は質が落ちたな……」

嘆かわしいと言わんばかりに淡い新緑の髪の若者が呟く。

「…!!ムウとデスマスクの事か……!?」
「確かそう名乗ってたっけな……。倒した事に変わりはねーし」
笑みを浮かべたまま、紺碧の髪の若者はアイオロスに狙いを定める。
「じゃ、とっとと消えろ」
「……!!


―スカーレットニードル!!―


真紅の閃光が、アイオロスに迫る。




だが、それよりも早く割り込む影があった。

「ライトニングプラズマ!!」


無数の雷光が、真紅の閃光を打ち消す。
「何……!?」
アイオロスの前には、短い赤茶の髪の若者がいた。


「兄さん……!」
「……助かった、アイオリア」

アイオリアは素早くアイオロスの無事を確認すると油断なく拳を構える。

「雷の拳……獅子座の聖闘士か」
淡い新緑の髪の若者がアイオリアを見据えて呟く。

「だったら好都合だ……二人纏めて消してやる」
紺碧の髪の若者が、真紅の爪を素早く二人に向ける。


「スカーレットニードル!!」


幾重もの真紅の閃光が二人に迫る。


アイオリアとアイオロスは迎え撃とうとするが――


――それだけでは無かった……――


「食らえ……!!」


閃光を縫うように、黒髪の男性が二人に斬りかかって来たのだ。


「なっ!?」
「くっ……!!」


すんでのところで二人は別々に飛んで避ける。



「逃がすか!!」
紺碧の髪の若者はアイオリア、黒髪の男性はアイオロスにそれぞれ狙いを定める。

「くっ……!!」
アイオリアは己の拳に小宇宙を集中させ、雷を放つ。

「ライトニングボルト!!」
「はっ、効くかよ!」
いとも簡単にライトニングボルトをかわされ、アイオリアは思わず拳を握り締める。

「とっととくたばれ!!スカーレットニードル!!」
「…!!ライトニングプラズマ!!」
二人の小宇宙が激しくぶつかる。



しかし―――



アイオリアの視界に、『何か』がよぎる。
「…?!」
「アイオリア!!」
黒髪の男性と交戦していたアイオロスが声を上げた時は、既に遅かった――




「馬鹿な奴だ……」




その言葉と共に濃厚な薔薇の香りを感じた瞬間、アイオリアは膝を付いた。



深紅の薔薇を片手に持ち、アイオリアを見下していたのは、空色の髪の若者だ。



「くっ…!!」
「おっと、隙だらけだぜ」

ふらつきながら立ち上がろうとしたアイオリアに、紺碧の髪の若者が容赦なくスカーレットニードルを打ち込む。

「ぐぁあ!?」
激痛に悲鳴を上げるアイオリアに、追い討ちをかけるように新緑の髪の若者は小宇宙を高める。

「これで最後だ……」



――周囲に凍気が溢れ出す。



「消えろ……!!」



―オーロラエクスキューション!!―





―――





ミロとカミュがその小宇宙を感じたのは、丁度デスマスクを解放した時だった。


「今のは……!?」
天秤座の武器を片手にカミュが呟く。

「アイオリア…アイオロス……!?」
「…あの二人もやられたのか……だったら、こんな所でモタモタしてる場合じゃねぇな……」

デスマスクは二人に先へ行くよう促すと自分も出口へと向かう。


「大丈夫なのか?デスマスク……」
「ダメージ自体は大したもんじゃねーよ」

デスマスクは振り返りミロとカミュを均等に見る。

「それより、早く奴等を追わねーと……」
「……そうだな」

カミュは頷くと天秤座の武器を握り締める。

「アイオリアとアイオロスは私に任せてくれ…後は……」
「あぁ、俺達に任せろ」
ミロとデスマスクは頷き合うとすぐにその場から消えた。

「……!!」

二人の後に続こうとしたカミュは磨羯宮から発せられる小宇宙を感じ取る。

「シュラ…!!…急がなければ……」
カミュは急いで人馬宮へと向かった。


―――



磨羯宮では、山羊座のシュラが侵入者と対峙していた。


「俺は山羊座のシュラ……此処から先へは行かせないぞ」

鋭い眼光で睨み付けるシュラに臆する事無く、黒髪の男性が進み出る。

「そこを退け、山羊座……牡羊座達の二の舞になりたいか?」
「如何なる相手であろうと、アテナを守護する事が聖闘士の勤めだ。…それに……」

シュラは手刀を構えて小宇宙を高める。

「同胞達の為にも、此処を退くわけにはいかん!!」

刃の如く鋭く研ぎ澄まされた小宇宙を放つ。


聖剣―エクスカリバー―の斬撃が、男性に迫る。

「……それが答えか」


しかし、男性が腕を一閃させるとエクスカリバーの斬撃は打ち消された。


「っ!?それは…まさか……!?」
「ならば……容赦はしない」

男性は声と共に、一瞬のうちにシュラの懐に入り込む。

「っ!?」
シュラは繰り出された手刀を辛うじて受け止めた。

だが、鍔迫り合いの中、男性が言った言葉にシュラは顔色を変える。

「お前達は先に行っていろ……すぐ片付けて追い付く」
「なっ…?!」
「んじゃ、先に行ってるぜ」

男性の後ろに控えていた他の三人が、シュラの横を走り抜ける。

「っ…!!行か、せる、かぁ!!」
シュラは渾身の力で男性を弾き飛ばして距離を取る。


「聖剣乱舞―――」
手刀を構えたシュラの小宇宙が、一気に高まる。


「エクスカリバー!!」


繰り出された斬撃が、死角なく縦横無尽に駆け巡る。



「っ…!?」
黒髪の男性は自分の周囲の斬撃を相殺させるが、シュラの斬撃は三人の所まで届いていた。


「げっ……」
「そう慌てるな……」
新緑の髪の若者が小宇宙を高めながら振り返る。

「避けられないのならば、防げば良いだけだ」
新緑の髪の若者が手をかざす。

すると、瞬く間に氷の壁が出現した。

斬撃を受け止めた氷壁は、表面に僅かに傷が入るものの、砕ける様子を見せない。


「……少しはやるようだな」
氷壁越しに新緑の髪の若者が呟く。
「だが、私達には届かなかったな…先を急ぐぞ……」
「あぁ」


氷壁が音も無く砕け散る。




既に、三人の姿はなかった。




「っ……!!」
「余所見をする暇があるとはな」
思わず舌打ちをするシュラに黒髪の男性が斬りかかる。

シュラはすかさず弾き返すと、声を荒げた。
「貴様等、何故アテナの命を狙う!!」
「知れたこと……我等の主の命令だからだ」
「主…だと……?」
激しく繰り広げられる斬撃のぶつかり合いの中、シュラは黒髪の男性に問い掛ける。

「貴様…一体……?」
「……良いだろう」
互いに距離を取ったところで、黒髪の男性はシュラの問い掛けに答えた。


「我等は『狂闘士(バーサーカー)』、オリンポス十二神が一柱……アレス様を守護する戦士だ」
「何……!?」
驚きの声を上げるシュラに、黒髪の男性はさらに言葉を続けた。

「俺は山羊座の狂闘士……エルシド」
黒髪の男性――エルシドは小宇宙を高める。

「これ以上話しても無駄だな……貴様は此処で倒れるのだからな」
「……誰が倒れるだと?」
シュラは拳を握り締めて小宇宙を高める。

「此処で倒れるわけにはいかない……せめて、貴様を倒すまではな!!」


刃のごとき光が、シュラの瞳に灯る。



「……成る程、威勢と覚悟だけは立派だな」
シュラの言葉にエルシドは感心したように呟いた。

「同じような事を言った牡羊座は相応の最期だった、という事か……」
「何だと……!?」
目をむくシュラに、エルシドは感情が込められていない眼差しを向ける。

「我等にも果たさねばならない事がある…故に、命を賭して我等を阻止しようとした牡羊座を斬った……それだけだ」
「……!!」
エルシドはシュラを見据えて手刀を構える。


「貴様も、我が刃の露となるが良い」
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