聖闘士達がクトゥルフ始めたようです
カノン「さて、いよいよ最終回だぞお前達」
サガ「長かったな」
ムウ「長かったですね」
カノン「ごふっ……お、俺だってこんなに長くなるとは思っていなかったからな」
アフロディーテ「開幕からカノンのSAN値を削るのはやめようか?全員地下に移動している所だったよね?」
カノン「そ、そうだな……サガとカミュが持っている懐中電灯で照らしながら進んでいる事にしよう」
カミュ「戦闘ではなく、このような形で懐中電灯が役立つとはな」
カノン「不定形の軟泥が溢れ出していた穴はとても広い上、掘られた地面の断面も溶けたバターのように固定されているから問題ないぞ?」
ミロ「そ、それは安心して良いのか……?」
カノン「因みに、アイデアか地質学×5のロールを行う事が出来るが?」
PL一同『遠慮(する/します)』
カノン「全員遠慮する事は無いだろうに……このロールに成功しても、SAN値が減るような事は無いからな?」
カミュ「此処でダイス運を使い果たしたくは無いのだ」
カノン「あっはい……さて、そんな不気味な穴を30メートル程降りると、直径10メートル程の地下空洞に出るぞ」
アイオリア「地下空洞?」
カノン「アイデアか生物学のロールが出来るが……」
PL一同『遠慮(する/します)』
カノン「だから此処でSAN値が減るわけでは無いというのに……(´・ω・`)」
アフロディーテ「まぁまぁ(汗)じゃあ、そこからロールプレイを行おうか?」
☆ ☆ ☆
地下空洞に出た一行は、そこで奇妙な物体を発見した。
綺麗なドーム状となっている空間で、その表面は先程降りてきた穴と同じように固定されているが、あちこちから水がしみ出している。
「これは、水が……」
「……恐らく、台風の影響でしょう」
しみ出した水は、地下空洞内に大きな水たまりを作っている。
よく見てみると、その水たまりの中央に、少しだけ土が盛り上がった場所がある。
「…!?あれは……!?」
懐中電灯の光に照らされ、『それ』の姿が露わになる。
直径は20センチ程だろうか…その土が盛り上がった場所に、白と青のマーブル模様をした奇妙な球体が鎮座していた。
☆ ☆ ☆
カノン「ほれ、全員目星を振れ」
ミロ「えー」
カノン「拒否権は無いからな、さっさと振れ」
カミュ「仕方が無いな……」
〈目星〉
ムウ(75)→04(クリティカル!!)
サガ(55)→23(成功)
アイオリア(45)→35(成功)
ミロ(25)→87(失敗)
シュラ(65)→48(成功)
カミュ(55)→62(失敗)
カノン「ミロとカミュが仲良く失敗か…だが、こんな所でクリティカルを出されてもな……」
ムウ「わ、私のせいですか……!?」
カノン「まぁ良い。先ずは目星に失敗している奴も分かる情報だ。繭の表面が僅かにいびつになっているのが分かるぞ。天井から水滴が落ちる度に、化学反応を起こしているかのようにシュワシュワと少しだけ表面が溶けるぞ」
シュラ「やはり水に弱いのか……」
カノン「さて、これからが目星に成功した情報だ」
サガ「SAN値が減る事では……」
カノン「無いから安心しろ。その凹んでいる部分から中が透け、何か細長いモノが盛んに動いているのが見えるぞ」
アイオリア「繭が脆くなっているのか……?」
カノン「そういう事だ。ここで、楓に変化が現れるぞ」
ムウ「何ですって?」
カノン「『そうだ…私は、お父さんと登った山で、これを見つけたんだ……』そう呟くな」
サガ「お父さん…?今まで父親の事を言った事が無い筈だが」
ムウ「記憶が戻ったという事でしょうか……?」
カノン「さて……」
ミロ「あ、悪い顔してる」
カノン「悪いが此処で、繭のPOW4とお前達のPOWの抵抗ロールを行ってもらう」
ミロ「て、抵抗ロール?」
カミュ「導入編の何処かでやったあれか」
カノン「あぁそうだ…待てよ…?…ミロとシュラ以外は自動成功じゃないか」
ミロ「は!?」
シュラ「な、なにい……!?」
カノン「じゃあ二人は祈れ」
〈POW4との抵抗ロール〉
ミロ(90)→86(成功)
シュラ(95)→64(成功)
ミロ「あ、あぶねぇ……(汗)」
カノン「まぁ、相手のPOW4だからな……じゃあ、此処で一番のイベントで盛り上がり場所だが……」
アイオリア「……な、何だカノン?俺の顔に何か付いているか?」
カノン「折角だ、此処はアイオリアに読んでもらおう」
アイオリア「は!?」
カノン「この描写文を読むだけだ、頼む←」
アイオリア「な、何故俺が……」
カノン「ナレーションといえばお前だろう←」
アイオリア「そ、そうなのか……!?」
ムウ「中の人ネタじゃないですか」
カノン「細かい事は気にするな←」
アイオリア「よ、よく分からないが、読めば良いんだな……?」
カノン「あぁ、頼むぞ」
※以下からカルトナウの描写文(原文まま)です※
☆ ☆ ☆
大きな地鳴りと共に、空洞の奥の壁が崩れた。
そして、ぽっかりと口を開いた横穴から、なにかが流れ出してきた。
これはいったいなんなのだ!
灰色で、ぐねぐねと無秩序に蠢く肉塊。
それが押し合い、絡み合い、まさぐるようにして空洞に流れ込んでくる。
やがて、これらが巨大で軟らかなヘビのようなものであることがわかった。
いや、軟体動物の触手なのか?
まさか、これは生き物の一部だというのか!?
どこからか、妙な声が聞こえていた。
「け・はいいえ、えぷ、んぐふ、ふる・ふうる、ぐはあん、ふたぐん」
それは本当に声だったのだろうか。
耳を介さず、脳に直接聞こえてきたような気がする。
「け・はいいえ、ふたぐん、んぐふ、しゅど・める」
その未知の言葉には、より高度な存在への敬意が感じられた。
そうだ、それはすなわち、この言葉を発する者には、人間並か――もしかすると、それ以上の知性があるということだ。
そして、君たちは気付いた。
地下空洞にあふれ出した、この灰色の肉塊こそが、この声の主であること……そして、人間がまだ表面をなでることしかできていない、深く広大な地底の住人であることに!
☆ ☆ ☆
カノン「さぁ、神話生物クトーニアンとご対面だ!!」
ミロ「うわあああああ!!」
カミュ「シュド・メルでないだけマシだな」
ムウ「冷静に言っている場合ではありません。この言い回し、明らかにSAN値チェックに失敗したら駄目な気配しかしません……!!」
アイオリア「……か、カノン……」
カノン「ご苦労だったなアイオリア……あ、喪失するSAN値を見てしまったか?」
アイオリア「………(無言で頷き)」
シュラ「アイオリアがあのような顔をするとは……カノン、喪失するSAN値はいくつだ?」
カノン「祈れ。成功で1D3、失敗で1D20の喪失だ」
ミロ「失敗したら洒落にならないぞ!! ((((;゜Д゜)))))))」
カノン「あぁ、ずっとすっぽかしていた不定の狂気にも陥る可能性があるからな」
アフロディーテ「SAN値の20%を喪失したら不定の狂気になるからね」
カミュ「それは確か、ゲーム内で一時間の間に喪失したSAN値が、SAN値の20%に達したら陥るのではないのか?」
カノン「ゲームの中だと時間が曖昧になったりするからな…今回は、一度にSAN値20%分喪失したら不定の狂気、という事にさせてくれ」
カミュ「ふむ、了解した」
カノン「ダイスの邪神への祈りは済んだか?さぁ、振れ」
サガ「あ、アテナ……!!(汗)」
〈SAN値チェック〉
ムウ(67)→64(成功)
サガ(66)→46(成功)
アイオリア(72)→96(失敗)
ミロ(52)→05(成功)
シュラ(56)→32(成功)
カミュ(81)→57(成功)
ミロ「アイオリアあああああ!!??」
カノン「アイオリア以外全員成功…しかも、ミロはSAN値チェックでなければクリティカルとは……」
アフロディーテ「アイオリアも普通のダイスロールだったらファンブルなんだけどね(汗)」
アイオリア「す、すまない……(汗)」
カノン「アイオリアのダイスはこれ(っ20面ダイス)な……先ずは成功した奴、いくつ減るかダイスを振ってくれ」
ムウ「(ころころ)……2ですね」
サガ「(ころころ)……1だ」
ミロ「(ころころ)……俺も1だ」
シュラ「(ころころ)…うっ…さ、3……」
カミュ「(ころころ)……2だ」
カノン「ちっ…サガが左程減らなかったか」
サガ「露骨な舌打ちだな」
カノン「さて、アイオリア…ダイスの邪神への祈りは済んだか?」
アイオリア「うう…ええい面倒!!(ころころ)」
全員『…………』
全員『………13!?』
カノン「13か…ぎりぎり不定の狂気は無しだ」
アイオリア「よ、喜ぶべきなのか……!?」
カミュ「喜ぶのは早いぞ、一時的狂気へのアイデアロールがある」
カノン「そういう事だ、さぁアイオリア、アイデアを振れ」
〈運命のアイデアロール〉
アイオリア(70)→61(成功しちゃった)
カノン「おめでとう、一時的狂気だな☆これでアイオリアも初発狂だな?神話技能に5%追加してくれ」
アイオリア「(絶句)」
アフロディーテ「……症状を決めようか」
アイオリア「…10面ダイスだったか……?」
カノン「これで殺人癖が出たら、噂に名高い悪鬼リアが出来るな」
サガ「そ、それはフラグというものd「あ」……は?」
アイオリア「……先に謝る、すまない(汗)」
カノン「……ぶはっ!!wwwwダイスの邪神空気読みすぎじゃないかwwwww」
ムウ「…見事に6ですね……」
カノン「もうアイオリアの狂気の症状は悪鬼リア固定で良いんじゃないのか?wwwww」
ムウ「それでは、人が目の前で死ななければ正気に戻らないのでは?」
サガ「悪鬼…魔拳…うっ……」
アイオリア「俺よりもサガのSAN値が……(汗)」
カノン「折角だ、アイオリアが不意討ちで攻撃する対象をダイスで選ぼうじゃないか(ニヤニヤ)」
ミロ「うわあカノンの悪そうな顔!!」
カノン「ムウから十二宮の順番に1D5で当てはめてっと(ころころ)…5か。なら、アイオリアはカミュに攻撃してもらうぞ。当然、武道とこぶしの組み合わせロールだ」
アイオリア「すまないカミュ……!!」
〈武道、こぶしの組み合わせ〉
アイオリア(81、70)→74(失敗)
アイオリア「よ、良かった……」
カノン「ちっ……じゃあ、精神分析やりたい奴は先にロールしろ、その結果を踏まえてロールプレイをしてもらう」
アイオリア「どんなロールプレイをしろと……」
カノン「俺がそれっぽくまとめて書いてやるから、そこら辺は安心しろ」
アイオリア「安心できんな(即答)」
カミュ「…取り敢えず、精神分析だ」
〈精神分析〉
カミュ(81)→91(失敗)
カミュ「な、何……!?」
カノン「悪鬼リア継続かwwww」
サガ「わ、私も精神分析だ!!」
カノン「本当はもう一回アイオリアに攻撃してもらいたかったが、仕方無い…大目に見てやろう」
〈精神分析〉
サガ(71)→30(成功)
サガ「成功だ……」
カノン「ちっ…じゃあ、アイオリアが正気に戻るまでの間は、ムウ達がロールプレイをしていたという事にしておこうか……あ」
サガ「今度は何だ……」
カノン「一応アイデアが振れるg『遠慮(する/します)』……じゃあ、ロールプレイな(´・ω・`)」
☆ ☆ ☆
突如として現れた触手生物――クトーニアンの触手は、それ以上空洞に入ってくる気配は無い。
突如として現れた巨大な生物に、ムウ達はほんの僅かな間、呆気に取られていた。
――その一瞬の沈黙を打ち破ったのは、アイオリアだった。
近くにいたカミュに、アイオリアは鋭い一撃を見舞おうと拳を向けたのだ。
「アイオリア!?」
幸いにも、その拳はカミュの髪を掠めた程度だったが、躊躇いが一切感じられない。
「……外したか」
アイオリアの瞳には、明らかな狂気が宿り、にやりと嗤うその表情は、カミュが知るアイオリアとはまるで違う人物のようだ。
「アイオリア、何を……!?」
カミュの声を聞き、サガ達が慌てて振り返る。
「あ、アイオリア……!?」
「次は外さん…一気に殺してやろう」
暗闇の中でも分かる程にぎらつく瞳は、まるで得物を狙う獣のようだ。
「くっ……よせ、アイオリア!!」
アイオリアを止めるべく駆け寄るサガに加勢しようとしたムウだったが、背後からガラガラとキャリーケースの車輪が転がる音が聞える。
「っ…!?まさか……!?」
慌てて振り返ったムウが目にしたのは、放心した表情でキャリーケースを引きずる楓の姿だった。
「たいせつにしてよ……大切にするよ。まもってよ……守るよ」
「待ちなさい楓!!」
「む、ムウ!?」
驚くミロを余所に、ムウは楓の元へ駆け出す。
「ちっ…アイオリアは俺達が何とかする、ミロはムウと楓を頼む」
「わ、分かった」
シュラに促され、ミロもムウに続き楓の元へと向かう。
「待ちなさい、楓!!」
既にムウが楓の腕を掴み、止めようとしていたが、楓はムウの声も聞こえていない様子だった…ムウの手を振り払い、繭の元へ向かおうとしていた。
そして、うわ言のように、ただこう呟いている。
「おおきくなるまで、じっとしているんだ。くらいところで、じっと……じっと……」
☆ ☆ ☆
カノン「てっきりムウだけかと思っていたが、ミロも来たか」
ミロ「え、俺いらなかった……?」
カノン「ぶっちゃけると、此処が一番の山場で最重要ロールプレイ場所だ」
ミロ「」
ムウ「…ミロ、せめて何か言いなさい……」
ミロ「い、いや、その……」
カノン「さぁ、頑張ってロールプレイをしてもらおうか(ニヤニヤ)」
カミュ「頑張れミロ」
ミロ「うわあああ!!プレッシャーかけないでカミュ!!」
☆ ☆ ☆
「行ってはなりません、楓!!」
ムウは楓の前方に回り込み、必死に行く手を遮る。
必然的に、水たまりに脚を突っ込む事になってしまったが、今のムウは楓を止める事の方が重大だった。
「あれに近付いては駄目です……!!」
肩を掴み、必死に楓に呼びかけるムウだが、楓は相変わらず放心状態で、その視線はムウではなく繭に向けられていた。
(ど、どうすれば……)
今まではムウの言葉になら反応を見せていた楓が、此処まで変わってしまうなら、あの繭の元に行ってしまうとどうなるか……ミロはその先を想像し、身震いした。
(お、俺は、どうしたら……)
「こうなったら……!!」
意を決し、ミロは背後から楓が手に持っていたキャリーケースを掴んだ。
だが、楓はその手を離そうとしない。
「楓、暗い所に閉じこもるなんて馬鹿な事はよせ!!…前に、また一緒に動物園に行くと約束しただろう?二度と外に出られなくなってしまうぞ!!」
ミロがそう声を荒げた時――一瞬だが、楓の動きがピタリと止まった。
「……そと?」
「……!!」
その反応を、ムウは見逃しはしない。
「…ミロの言う通りです。此処から一緒に外に出て、また一緒に公園や動物園に行きましょう?」
「いっしょ、に……?」
☆ ☆ ☆
カノン「ここら辺で良いだろう…今回は、ロールをしてもらうぞ」
ムウ「技能な何になるのです?」
カノン「精神分析か言いくるめで行ってもらおうか」
ミロ「……俺も?」
カノン「勿論だ」
ミロ「うわあああ!!俺言いくるめ45しかねぇよ!?」
カノン「安心しろ…取り敢えず……ムウは+10、ミロは……ロールプレイを頑張っていたから大目に見てやろう、+20の値で振れ」
ミロ「よ、よし……」
〈言いくるめ〉
ムウ(75+10=85)→15(成功)
ミロ(45+20=65)→61(成功)
ミロ「あ、あぶねぇ……!!(汗)」
カノン「良かったな、じゃあこの結果を踏まえてロールプレイを再開しようじゃないか」
☆ ☆ ☆
「わ、私…は……」
楓はそう小さく呟きながら、ムウとミロの手を握った。
二人は顔を見合わせ、無言で楓の手ぎゅっと握り返す。
そして――地下空洞いっぱい…クトーニアンにまで響かんばかりに、楓は叫んだ。
「一緒に、外に出る!!」
瞬間、パキパキと何かにヒビが入る音がその場にいた全員の耳に届いた。
「…!!あれは……!?」
正気に戻ったアイオリアが、驚きの声を上げる。
その視線は、繭に向けられている。
「…!?繭が……!?」
ムウ達もアイオリアと同じように、繭へ目を見やり、目を見開いた。
硬そうに見えた石の球―繭にヒビが入り、内側へと崩れていく。
球の内部には水晶のような細かな結晶が詰まっており、そこから灰色をしたミミズのようなものが這い出てくる。
それは先端に無数の触手を生やしており、胴体がイカのようにも見える。
「あ、あれは……」
「恐らく、あれの子供、だろうな……」
言葉を失うシュラの横で、カミュが冷静な声で告げる。
事実、繭の上でうろうろしていたそのミミズ―クトーニアンの幼生を取り囲む水たまりに触手を慎重に垂らし、橋を架けようとしていた。
「お父さん……」
そう呟いたのは、楓だった。
「楓……!?」
「お父さん…どこ……?」
楓はその呟きと同時に、意識を失ってしまう。
「……!!」
瞬時にムウが楓の身体を支えた為、楓が地面に倒れる事は無かった。
「ムウ、楓は……?」
「……もう大丈夫です」
カミュにそう告げると、楓を片腕で支えながら、ムウはサングラスに手を触れながら言葉を続ける。
「目が覚めれば、楓の記憶は元に戻っているでしょう……これも、もう必要は無い筈です」
「だ、だが……」
アイオリアが言おうとしている事は、誰もが分かっている。
「……あれは、そのままにしましょう」
「……そうだな」
カミュがクトーニアンの幼生に目を向けながら、溜め息をつく。
「日本にはこんな諺があったな?触らぬ神に祟りなし、と」
「それに、楓を早く病院に連れて行きたいです……万が一、という事がありますから」
「……そう、だな」
アイオリアは渋い表情を浮かべているが、渋々頷く。
「では、早く此処から出よう……」
クトーニアンの親子を刺激しないよう注意しながら、サガ達は来た道を戻っていった。
――地下駐車場内は、先程の騒動が嘘のように静まり返っていた。
正確には、衝突した車や、あちこちに穿たれた穴はそのままだった。
だが、表の方からけたたましいサイレンの音が聞こえてくる……警察が出動したという事は容易に把握出来た。
「…流石はアイオロス、だな」
「兄さんが?」
地下空洞では電波が繋がらなかったが、電波が通じるようになった今、携帯を確認していたシュラがアイオリアに携帯のメール画面を見せる。
そこには、『日比谷の地下駐車場内で発生した事故の対処に向かう。シュラ達も気を付けるように。全てが終わったら、こっちに来て手伝ってくれると助かるんだけどな?』と書かれていた。
それを見たアイオリアも、慌てて自分の携帯を確認した。
「……兄さん」
同じようなメールが届いていたのだろう…アイオリアは、肩を落として脱力した。
「アイオロス…こうなる事を分かっていたのでしょうか……」
横から、アイオリアの携帯画面を見たムウも、同様に脱力している。
「相変わらず食えない奴だ……」
溜め息混じりにそう呟いたサガだったが、その表情は瞬時に驚きへと変化した。
「教授?どうか…し……」
サガの視線を追ったミロの表情も、強張ったものとなる。
「…貴方は……!?」
ムウは、腕の中で眠る楓を抱き締める。
ムウ達の目の前に居たのは、電人Nだった。
『あぁ…繭が失われてしまったのか……』
白無垢の仮面のせいで目の場所が分からない筈だが、確かに電人Nの視線は楓に向けられている。
「何を企んでいたのか知らないが、残念だったな」
臨戦態勢に入るアイオリア達だが、電人Nは両手を上げ、首を横に振った。
『もう、君達と何かするという気は一切無い……今回は縁が無かったのだ』
電人Nは静かにそう告げると、くるりと踵を返す。
『佐比売党が結成されて四百年、白無垢の巫女を失ってから80年……いずれはまた、シュド・メル様の声を聞ける日も来よう』
「ま、待て!!」
車の影に消えた電人Nを追いかけたシュラだったが、既に電人Nの姿は無かった。
「っ…一体何処へ……」
茫然としたシュラだったが、そこへ遠くからシュラと…アイオリアを呼ぶ声が響いた。
「シュラ!!リア!!」
「兄さん!?」
「アイオロス!?」
驚く二人を余所に、アイオロスは軽く手を上げながら駆け寄って来る。
「遅かったじゃないか。……どうやら、終わったようだな?」
アイオロスはムウ達を見ながら、何かを確信したような表情になる。
「……えぇ、ひとまずは終わりましたよ」
ムウはそう答えると、無造作にサングラスを外した。
「ですが、まだやる事は残っていますよ?」
「…そうか、じゃあ、引き続きムウに『依頼』しよう」
アイオロスはにこやかな笑みを浮かべ、ムウに『依頼』をした。
数日後――東京、羽田空港――
「楓…!!楓ぇ!!」
空港の一角で、親子が感動の再会を果たしていた。
「お父さん、お母さん!!」
「良かった…!!無事で、本当に……!!」
「良かったな……」
「えぇ……」
その様子を、少し離れた場所でアイオリアとムウは見守っていた。
迎えに来る両親の元に楓を届ける…これが、アイオロスからの『依頼』だった。
―意識を取り戻した楓は、記憶をはっきりと取り戻しており、日常生活には支障が無いとすぐ病院で診断された。
だが、同時に、繭と意識が混濁していた時の事は全て忘れてしまっていた。
これまで優しくしてくれた、という事は覚えているようだったが、同時にムウの事を母親と呼んでいた時や、アイオリア達の事も忘れてしまったのだ。
「お父さん、お母さん、私の事守ってくれた人がいるの」
ひとしきり抱き締め合った所で、楓がムウ達の元に駆け寄って来た。
「この人達、探偵さんなの。こっちの人が、おかあさん」
自分の口から出た言葉に驚き、楓は自分の口を押える。
「え、えっと、探偵さん……お名前教えて?」
一瞬だけ顔を見合わせたムウとアイオリアだが、ムウはすぐ笑顔になると、自己紹介をした。
「私はムウ…探偵事務所の所長をしています。隣の彼は、助手のアイオリアです」
「ムウさん、と…アイオリアさん」
楓に初めて名を呼ばれ、二人は何処か照れくさい感情を抱いた。
(そういえば…楓に初めて、名前を呼ばれましたね……)
ムウは今までの楓との生活を振り返りながら、胸の内でそう呟いた。
ムウ達はこの数奇な楓との出会いを、そして…楓はムウ達の優しさを、ずっと忘れないだろう。
☆ ☆ ☆
カノン「喜べお前達、これで白無垢の母のシナリオは終了だ」
カミュ「オチは見事にムウだったな」
カノン「仕方ないだろう…今の今までスルーしてきたが、お前達の職業が何なのかを忘れたのか?」
ミロ「医者と大学教授と警察と……」
カノン「ムウ達が楓を送り届けている頃、お前達は何かしら仕事をしていたという事にしておく←」
サガ「いい加減な……」
アフロディーテ「本当なら、この後SAN値回復と技能成長になるのかな……?」
カノン「あぁ…その事だが」
ムウ「何ですか?」
カノン「それは後日行う」
ミロ「は?」
カノン「メタ発言をすると中の人が実家に帰るから、それまでの間はこのセッションに対する質問を受け付けようと思う」
アイオリア「それは俺達からでも良いのか?」
カノン「無論そのつもりだ」
シュラ「ふむ……なら早速」
カノン「待てシュラ……ちゃんとまとめて答える話を上げるから(汗)」
カミュ「受け付ける期間はいつまでだ?」
カノン「俺とサガの誕生日前までは…一応……」
サガ「ざっくりしすぎではないか……」
カノン「うるさい、こっちもやる事があるんだよ」
ムウ「やる事ですか?」
『おいカノン、キャラシとかいうのはこれで良いのか?』
シュラ「この声…デスマスクか?」
カノン「あぁ、次にやるシナリオが決まったからな。デスマスクを誘っていたんだ」
アフロディーテ「あぁ、シナリオ使用の許可が出たのかい?」
カノン「まぁな。自由に使っても良いとあったが……一応、な」
サガ「いつの間に……次はデスマスクが加わるのか?」
カノン「いや、年中三人にやってもらう。俺も一応加わるが」
シュラ「は!?」
アフロディーテ「KPは私がやらせてもらうよ」
カノンとアフロディーテとデスマスク以外『ええええええ!?』
サガ「長かったな」
ムウ「長かったですね」
カノン「ごふっ……お、俺だってこんなに長くなるとは思っていなかったからな」
アフロディーテ「開幕からカノンのSAN値を削るのはやめようか?全員地下に移動している所だったよね?」
カノン「そ、そうだな……サガとカミュが持っている懐中電灯で照らしながら進んでいる事にしよう」
カミュ「戦闘ではなく、このような形で懐中電灯が役立つとはな」
カノン「不定形の軟泥が溢れ出していた穴はとても広い上、掘られた地面の断面も溶けたバターのように固定されているから問題ないぞ?」
ミロ「そ、それは安心して良いのか……?」
カノン「因みに、アイデアか地質学×5のロールを行う事が出来るが?」
PL一同『遠慮(する/します)』
カノン「全員遠慮する事は無いだろうに……このロールに成功しても、SAN値が減るような事は無いからな?」
カミュ「此処でダイス運を使い果たしたくは無いのだ」
カノン「あっはい……さて、そんな不気味な穴を30メートル程降りると、直径10メートル程の地下空洞に出るぞ」
アイオリア「地下空洞?」
カノン「アイデアか生物学のロールが出来るが……」
PL一同『遠慮(する/します)』
カノン「だから此処でSAN値が減るわけでは無いというのに……(´・ω・`)」
アフロディーテ「まぁまぁ(汗)じゃあ、そこからロールプレイを行おうか?」
☆ ☆ ☆
地下空洞に出た一行は、そこで奇妙な物体を発見した。
綺麗なドーム状となっている空間で、その表面は先程降りてきた穴と同じように固定されているが、あちこちから水がしみ出している。
「これは、水が……」
「……恐らく、台風の影響でしょう」
しみ出した水は、地下空洞内に大きな水たまりを作っている。
よく見てみると、その水たまりの中央に、少しだけ土が盛り上がった場所がある。
「…!?あれは……!?」
懐中電灯の光に照らされ、『それ』の姿が露わになる。
直径は20センチ程だろうか…その土が盛り上がった場所に、白と青のマーブル模様をした奇妙な球体が鎮座していた。
☆ ☆ ☆
カノン「ほれ、全員目星を振れ」
ミロ「えー」
カノン「拒否権は無いからな、さっさと振れ」
カミュ「仕方が無いな……」
〈目星〉
ムウ(75)→04(クリティカル!!)
サガ(55)→23(成功)
アイオリア(45)→35(成功)
ミロ(25)→87(失敗)
シュラ(65)→48(成功)
カミュ(55)→62(失敗)
カノン「ミロとカミュが仲良く失敗か…だが、こんな所でクリティカルを出されてもな……」
ムウ「わ、私のせいですか……!?」
カノン「まぁ良い。先ずは目星に失敗している奴も分かる情報だ。繭の表面が僅かにいびつになっているのが分かるぞ。天井から水滴が落ちる度に、化学反応を起こしているかのようにシュワシュワと少しだけ表面が溶けるぞ」
シュラ「やはり水に弱いのか……」
カノン「さて、これからが目星に成功した情報だ」
サガ「SAN値が減る事では……」
カノン「無いから安心しろ。その凹んでいる部分から中が透け、何か細長いモノが盛んに動いているのが見えるぞ」
アイオリア「繭が脆くなっているのか……?」
カノン「そういう事だ。ここで、楓に変化が現れるぞ」
ムウ「何ですって?」
カノン「『そうだ…私は、お父さんと登った山で、これを見つけたんだ……』そう呟くな」
サガ「お父さん…?今まで父親の事を言った事が無い筈だが」
ムウ「記憶が戻ったという事でしょうか……?」
カノン「さて……」
ミロ「あ、悪い顔してる」
カノン「悪いが此処で、繭のPOW4とお前達のPOWの抵抗ロールを行ってもらう」
ミロ「て、抵抗ロール?」
カミュ「導入編の何処かでやったあれか」
カノン「あぁそうだ…待てよ…?…ミロとシュラ以外は自動成功じゃないか」
ミロ「は!?」
シュラ「な、なにい……!?」
カノン「じゃあ二人は祈れ」
〈POW4との抵抗ロール〉
ミロ(90)→86(成功)
シュラ(95)→64(成功)
ミロ「あ、あぶねぇ……(汗)」
カノン「まぁ、相手のPOW4だからな……じゃあ、此処で一番のイベントで盛り上がり場所だが……」
アイオリア「……な、何だカノン?俺の顔に何か付いているか?」
カノン「折角だ、此処はアイオリアに読んでもらおう」
アイオリア「は!?」
カノン「この描写文を読むだけだ、頼む←」
アイオリア「な、何故俺が……」
カノン「ナレーションといえばお前だろう←」
アイオリア「そ、そうなのか……!?」
ムウ「中の人ネタじゃないですか」
カノン「細かい事は気にするな←」
アイオリア「よ、よく分からないが、読めば良いんだな……?」
カノン「あぁ、頼むぞ」
※以下からカルトナウの描写文(原文まま)です※
☆ ☆ ☆
大きな地鳴りと共に、空洞の奥の壁が崩れた。
そして、ぽっかりと口を開いた横穴から、なにかが流れ出してきた。
これはいったいなんなのだ!
灰色で、ぐねぐねと無秩序に蠢く肉塊。
それが押し合い、絡み合い、まさぐるようにして空洞に流れ込んでくる。
やがて、これらが巨大で軟らかなヘビのようなものであることがわかった。
いや、軟体動物の触手なのか?
まさか、これは生き物の一部だというのか!?
どこからか、妙な声が聞こえていた。
「け・はいいえ、えぷ、んぐふ、ふる・ふうる、ぐはあん、ふたぐん」
それは本当に声だったのだろうか。
耳を介さず、脳に直接聞こえてきたような気がする。
「け・はいいえ、ふたぐん、んぐふ、しゅど・める」
その未知の言葉には、より高度な存在への敬意が感じられた。
そうだ、それはすなわち、この言葉を発する者には、人間並か――もしかすると、それ以上の知性があるということだ。
そして、君たちは気付いた。
地下空洞にあふれ出した、この灰色の肉塊こそが、この声の主であること……そして、人間がまだ表面をなでることしかできていない、深く広大な地底の住人であることに!
☆ ☆ ☆
カノン「さぁ、神話生物クトーニアンとご対面だ!!」
ミロ「うわあああああ!!」
カミュ「シュド・メルでないだけマシだな」
ムウ「冷静に言っている場合ではありません。この言い回し、明らかにSAN値チェックに失敗したら駄目な気配しかしません……!!」
アイオリア「……か、カノン……」
カノン「ご苦労だったなアイオリア……あ、喪失するSAN値を見てしまったか?」
アイオリア「………(無言で頷き)」
シュラ「アイオリアがあのような顔をするとは……カノン、喪失するSAN値はいくつだ?」
カノン「祈れ。成功で1D3、失敗で1D20の喪失だ」
ミロ「失敗したら洒落にならないぞ!! ((((;゜Д゜)))))))」
カノン「あぁ、ずっとすっぽかしていた不定の狂気にも陥る可能性があるからな」
アフロディーテ「SAN値の20%を喪失したら不定の狂気になるからね」
カミュ「それは確か、ゲーム内で一時間の間に喪失したSAN値が、SAN値の20%に達したら陥るのではないのか?」
カノン「ゲームの中だと時間が曖昧になったりするからな…今回は、一度にSAN値20%分喪失したら不定の狂気、という事にさせてくれ」
カミュ「ふむ、了解した」
カノン「ダイスの邪神への祈りは済んだか?さぁ、振れ」
サガ「あ、アテナ……!!(汗)」
〈SAN値チェック〉
ムウ(67)→64(成功)
サガ(66)→46(成功)
アイオリア(72)→96(失敗)
ミロ(52)→05(成功)
シュラ(56)→32(成功)
カミュ(81)→57(成功)
ミロ「アイオリアあああああ!!??」
カノン「アイオリア以外全員成功…しかも、ミロはSAN値チェックでなければクリティカルとは……」
アフロディーテ「アイオリアも普通のダイスロールだったらファンブルなんだけどね(汗)」
アイオリア「す、すまない……(汗)」
カノン「アイオリアのダイスはこれ(っ20面ダイス)な……先ずは成功した奴、いくつ減るかダイスを振ってくれ」
ムウ「(ころころ)……2ですね」
サガ「(ころころ)……1だ」
ミロ「(ころころ)……俺も1だ」
シュラ「(ころころ)…うっ…さ、3……」
カミュ「(ころころ)……2だ」
カノン「ちっ…サガが左程減らなかったか」
サガ「露骨な舌打ちだな」
カノン「さて、アイオリア…ダイスの邪神への祈りは済んだか?」
アイオリア「うう…ええい面倒!!(ころころ)」
全員『…………』
全員『………13!?』
カノン「13か…ぎりぎり不定の狂気は無しだ」
アイオリア「よ、喜ぶべきなのか……!?」
カミュ「喜ぶのは早いぞ、一時的狂気へのアイデアロールがある」
カノン「そういう事だ、さぁアイオリア、アイデアを振れ」
〈運命のアイデアロール〉
アイオリア(70)→61(成功しちゃった)
カノン「おめでとう、一時的狂気だな☆これでアイオリアも初発狂だな?神話技能に5%追加してくれ」
アイオリア「(絶句)」
アフロディーテ「……症状を決めようか」
アイオリア「…10面ダイスだったか……?」
カノン「これで殺人癖が出たら、噂に名高い悪鬼リアが出来るな」
サガ「そ、それはフラグというものd「あ」……は?」
アイオリア「……先に謝る、すまない(汗)」
カノン「……ぶはっ!!wwwwダイスの邪神空気読みすぎじゃないかwwwww」
ムウ「…見事に6ですね……」
カノン「もうアイオリアの狂気の症状は悪鬼リア固定で良いんじゃないのか?wwwww」
ムウ「それでは、人が目の前で死ななければ正気に戻らないのでは?」
サガ「悪鬼…魔拳…うっ……」
アイオリア「俺よりもサガのSAN値が……(汗)」
カノン「折角だ、アイオリアが不意討ちで攻撃する対象をダイスで選ぼうじゃないか(ニヤニヤ)」
ミロ「うわあカノンの悪そうな顔!!」
カノン「ムウから十二宮の順番に1D5で当てはめてっと(ころころ)…5か。なら、アイオリアはカミュに攻撃してもらうぞ。当然、武道とこぶしの組み合わせロールだ」
アイオリア「すまないカミュ……!!」
〈武道、こぶしの組み合わせ〉
アイオリア(81、70)→74(失敗)
アイオリア「よ、良かった……」
カノン「ちっ……じゃあ、精神分析やりたい奴は先にロールしろ、その結果を踏まえてロールプレイをしてもらう」
アイオリア「どんなロールプレイをしろと……」
カノン「俺がそれっぽくまとめて書いてやるから、そこら辺は安心しろ」
アイオリア「安心できんな(即答)」
カミュ「…取り敢えず、精神分析だ」
〈精神分析〉
カミュ(81)→91(失敗)
カミュ「な、何……!?」
カノン「悪鬼リア継続かwwww」
サガ「わ、私も精神分析だ!!」
カノン「本当はもう一回アイオリアに攻撃してもらいたかったが、仕方無い…大目に見てやろう」
〈精神分析〉
サガ(71)→30(成功)
サガ「成功だ……」
カノン「ちっ…じゃあ、アイオリアが正気に戻るまでの間は、ムウ達がロールプレイをしていたという事にしておこうか……あ」
サガ「今度は何だ……」
カノン「一応アイデアが振れるg『遠慮(する/します)』……じゃあ、ロールプレイな(´・ω・`)」
☆ ☆ ☆
突如として現れた触手生物――クトーニアンの触手は、それ以上空洞に入ってくる気配は無い。
突如として現れた巨大な生物に、ムウ達はほんの僅かな間、呆気に取られていた。
――その一瞬の沈黙を打ち破ったのは、アイオリアだった。
近くにいたカミュに、アイオリアは鋭い一撃を見舞おうと拳を向けたのだ。
「アイオリア!?」
幸いにも、その拳はカミュの髪を掠めた程度だったが、躊躇いが一切感じられない。
「……外したか」
アイオリアの瞳には、明らかな狂気が宿り、にやりと嗤うその表情は、カミュが知るアイオリアとはまるで違う人物のようだ。
「アイオリア、何を……!?」
カミュの声を聞き、サガ達が慌てて振り返る。
「あ、アイオリア……!?」
「次は外さん…一気に殺してやろう」
暗闇の中でも分かる程にぎらつく瞳は、まるで得物を狙う獣のようだ。
「くっ……よせ、アイオリア!!」
アイオリアを止めるべく駆け寄るサガに加勢しようとしたムウだったが、背後からガラガラとキャリーケースの車輪が転がる音が聞える。
「っ…!?まさか……!?」
慌てて振り返ったムウが目にしたのは、放心した表情でキャリーケースを引きずる楓の姿だった。
「たいせつにしてよ……大切にするよ。まもってよ……守るよ」
「待ちなさい楓!!」
「む、ムウ!?」
驚くミロを余所に、ムウは楓の元へ駆け出す。
「ちっ…アイオリアは俺達が何とかする、ミロはムウと楓を頼む」
「わ、分かった」
シュラに促され、ミロもムウに続き楓の元へと向かう。
「待ちなさい、楓!!」
既にムウが楓の腕を掴み、止めようとしていたが、楓はムウの声も聞こえていない様子だった…ムウの手を振り払い、繭の元へ向かおうとしていた。
そして、うわ言のように、ただこう呟いている。
「おおきくなるまで、じっとしているんだ。くらいところで、じっと……じっと……」
☆ ☆ ☆
カノン「てっきりムウだけかと思っていたが、ミロも来たか」
ミロ「え、俺いらなかった……?」
カノン「ぶっちゃけると、此処が一番の山場で最重要ロールプレイ場所だ」
ミロ「」
ムウ「…ミロ、せめて何か言いなさい……」
ミロ「い、いや、その……」
カノン「さぁ、頑張ってロールプレイをしてもらおうか(ニヤニヤ)」
カミュ「頑張れミロ」
ミロ「うわあああ!!プレッシャーかけないでカミュ!!」
☆ ☆ ☆
「行ってはなりません、楓!!」
ムウは楓の前方に回り込み、必死に行く手を遮る。
必然的に、水たまりに脚を突っ込む事になってしまったが、今のムウは楓を止める事の方が重大だった。
「あれに近付いては駄目です……!!」
肩を掴み、必死に楓に呼びかけるムウだが、楓は相変わらず放心状態で、その視線はムウではなく繭に向けられていた。
(ど、どうすれば……)
今まではムウの言葉になら反応を見せていた楓が、此処まで変わってしまうなら、あの繭の元に行ってしまうとどうなるか……ミロはその先を想像し、身震いした。
(お、俺は、どうしたら……)
「こうなったら……!!」
意を決し、ミロは背後から楓が手に持っていたキャリーケースを掴んだ。
だが、楓はその手を離そうとしない。
「楓、暗い所に閉じこもるなんて馬鹿な事はよせ!!…前に、また一緒に動物園に行くと約束しただろう?二度と外に出られなくなってしまうぞ!!」
ミロがそう声を荒げた時――一瞬だが、楓の動きがピタリと止まった。
「……そと?」
「……!!」
その反応を、ムウは見逃しはしない。
「…ミロの言う通りです。此処から一緒に外に出て、また一緒に公園や動物園に行きましょう?」
「いっしょ、に……?」
☆ ☆ ☆
カノン「ここら辺で良いだろう…今回は、ロールをしてもらうぞ」
ムウ「技能な何になるのです?」
カノン「精神分析か言いくるめで行ってもらおうか」
ミロ「……俺も?」
カノン「勿論だ」
ミロ「うわあああ!!俺言いくるめ45しかねぇよ!?」
カノン「安心しろ…取り敢えず……ムウは+10、ミロは……ロールプレイを頑張っていたから大目に見てやろう、+20の値で振れ」
ミロ「よ、よし……」
〈言いくるめ〉
ムウ(75+10=85)→15(成功)
ミロ(45+20=65)→61(成功)
ミロ「あ、あぶねぇ……!!(汗)」
カノン「良かったな、じゃあこの結果を踏まえてロールプレイを再開しようじゃないか」
☆ ☆ ☆
「わ、私…は……」
楓はそう小さく呟きながら、ムウとミロの手を握った。
二人は顔を見合わせ、無言で楓の手ぎゅっと握り返す。
そして――地下空洞いっぱい…クトーニアンにまで響かんばかりに、楓は叫んだ。
「一緒に、外に出る!!」
瞬間、パキパキと何かにヒビが入る音がその場にいた全員の耳に届いた。
「…!!あれは……!?」
正気に戻ったアイオリアが、驚きの声を上げる。
その視線は、繭に向けられている。
「…!?繭が……!?」
ムウ達もアイオリアと同じように、繭へ目を見やり、目を見開いた。
硬そうに見えた石の球―繭にヒビが入り、内側へと崩れていく。
球の内部には水晶のような細かな結晶が詰まっており、そこから灰色をしたミミズのようなものが這い出てくる。
それは先端に無数の触手を生やしており、胴体がイカのようにも見える。
「あ、あれは……」
「恐らく、あれの子供、だろうな……」
言葉を失うシュラの横で、カミュが冷静な声で告げる。
事実、繭の上でうろうろしていたそのミミズ―クトーニアンの幼生を取り囲む水たまりに触手を慎重に垂らし、橋を架けようとしていた。
「お父さん……」
そう呟いたのは、楓だった。
「楓……!?」
「お父さん…どこ……?」
楓はその呟きと同時に、意識を失ってしまう。
「……!!」
瞬時にムウが楓の身体を支えた為、楓が地面に倒れる事は無かった。
「ムウ、楓は……?」
「……もう大丈夫です」
カミュにそう告げると、楓を片腕で支えながら、ムウはサングラスに手を触れながら言葉を続ける。
「目が覚めれば、楓の記憶は元に戻っているでしょう……これも、もう必要は無い筈です」
「だ、だが……」
アイオリアが言おうとしている事は、誰もが分かっている。
「……あれは、そのままにしましょう」
「……そうだな」
カミュがクトーニアンの幼生に目を向けながら、溜め息をつく。
「日本にはこんな諺があったな?触らぬ神に祟りなし、と」
「それに、楓を早く病院に連れて行きたいです……万が一、という事がありますから」
「……そう、だな」
アイオリアは渋い表情を浮かべているが、渋々頷く。
「では、早く此処から出よう……」
クトーニアンの親子を刺激しないよう注意しながら、サガ達は来た道を戻っていった。
――地下駐車場内は、先程の騒動が嘘のように静まり返っていた。
正確には、衝突した車や、あちこちに穿たれた穴はそのままだった。
だが、表の方からけたたましいサイレンの音が聞こえてくる……警察が出動したという事は容易に把握出来た。
「…流石はアイオロス、だな」
「兄さんが?」
地下空洞では電波が繋がらなかったが、電波が通じるようになった今、携帯を確認していたシュラがアイオリアに携帯のメール画面を見せる。
そこには、『日比谷の地下駐車場内で発生した事故の対処に向かう。シュラ達も気を付けるように。全てが終わったら、こっちに来て手伝ってくれると助かるんだけどな?』と書かれていた。
それを見たアイオリアも、慌てて自分の携帯を確認した。
「……兄さん」
同じようなメールが届いていたのだろう…アイオリアは、肩を落として脱力した。
「アイオロス…こうなる事を分かっていたのでしょうか……」
横から、アイオリアの携帯画面を見たムウも、同様に脱力している。
「相変わらず食えない奴だ……」
溜め息混じりにそう呟いたサガだったが、その表情は瞬時に驚きへと変化した。
「教授?どうか…し……」
サガの視線を追ったミロの表情も、強張ったものとなる。
「…貴方は……!?」
ムウは、腕の中で眠る楓を抱き締める。
ムウ達の目の前に居たのは、電人Nだった。
『あぁ…繭が失われてしまったのか……』
白無垢の仮面のせいで目の場所が分からない筈だが、確かに電人Nの視線は楓に向けられている。
「何を企んでいたのか知らないが、残念だったな」
臨戦態勢に入るアイオリア達だが、電人Nは両手を上げ、首を横に振った。
『もう、君達と何かするという気は一切無い……今回は縁が無かったのだ』
電人Nは静かにそう告げると、くるりと踵を返す。
『佐比売党が結成されて四百年、白無垢の巫女を失ってから80年……いずれはまた、シュド・メル様の声を聞ける日も来よう』
「ま、待て!!」
車の影に消えた電人Nを追いかけたシュラだったが、既に電人Nの姿は無かった。
「っ…一体何処へ……」
茫然としたシュラだったが、そこへ遠くからシュラと…アイオリアを呼ぶ声が響いた。
「シュラ!!リア!!」
「兄さん!?」
「アイオロス!?」
驚く二人を余所に、アイオロスは軽く手を上げながら駆け寄って来る。
「遅かったじゃないか。……どうやら、終わったようだな?」
アイオロスはムウ達を見ながら、何かを確信したような表情になる。
「……えぇ、ひとまずは終わりましたよ」
ムウはそう答えると、無造作にサングラスを外した。
「ですが、まだやる事は残っていますよ?」
「…そうか、じゃあ、引き続きムウに『依頼』しよう」
アイオロスはにこやかな笑みを浮かべ、ムウに『依頼』をした。
数日後――東京、羽田空港――
「楓…!!楓ぇ!!」
空港の一角で、親子が感動の再会を果たしていた。
「お父さん、お母さん!!」
「良かった…!!無事で、本当に……!!」
「良かったな……」
「えぇ……」
その様子を、少し離れた場所でアイオリアとムウは見守っていた。
迎えに来る両親の元に楓を届ける…これが、アイオロスからの『依頼』だった。
―意識を取り戻した楓は、記憶をはっきりと取り戻しており、日常生活には支障が無いとすぐ病院で診断された。
だが、同時に、繭と意識が混濁していた時の事は全て忘れてしまっていた。
これまで優しくしてくれた、という事は覚えているようだったが、同時にムウの事を母親と呼んでいた時や、アイオリア達の事も忘れてしまったのだ。
「お父さん、お母さん、私の事守ってくれた人がいるの」
ひとしきり抱き締め合った所で、楓がムウ達の元に駆け寄って来た。
「この人達、探偵さんなの。こっちの人が、おかあさん」
自分の口から出た言葉に驚き、楓は自分の口を押える。
「え、えっと、探偵さん……お名前教えて?」
一瞬だけ顔を見合わせたムウとアイオリアだが、ムウはすぐ笑顔になると、自己紹介をした。
「私はムウ…探偵事務所の所長をしています。隣の彼は、助手のアイオリアです」
「ムウさん、と…アイオリアさん」
楓に初めて名を呼ばれ、二人は何処か照れくさい感情を抱いた。
(そういえば…楓に初めて、名前を呼ばれましたね……)
ムウは今までの楓との生活を振り返りながら、胸の内でそう呟いた。
ムウ達はこの数奇な楓との出会いを、そして…楓はムウ達の優しさを、ずっと忘れないだろう。
☆ ☆ ☆
カノン「喜べお前達、これで白無垢の母のシナリオは終了だ」
カミュ「オチは見事にムウだったな」
カノン「仕方ないだろう…今の今までスルーしてきたが、お前達の職業が何なのかを忘れたのか?」
ミロ「医者と大学教授と警察と……」
カノン「ムウ達が楓を送り届けている頃、お前達は何かしら仕事をしていたという事にしておく←」
サガ「いい加減な……」
アフロディーテ「本当なら、この後SAN値回復と技能成長になるのかな……?」
カノン「あぁ…その事だが」
ムウ「何ですか?」
カノン「それは後日行う」
ミロ「は?」
カノン「メタ発言をすると中の人が実家に帰るから、それまでの間はこのセッションに対する質問を受け付けようと思う」
アイオリア「それは俺達からでも良いのか?」
カノン「無論そのつもりだ」
シュラ「ふむ……なら早速」
カノン「待てシュラ……ちゃんとまとめて答える話を上げるから(汗)」
カミュ「受け付ける期間はいつまでだ?」
カノン「俺とサガの誕生日前までは…一応……」
サガ「ざっくりしすぎではないか……」
カノン「うるさい、こっちもやる事があるんだよ」
ムウ「やる事ですか?」
『おいカノン、キャラシとかいうのはこれで良いのか?』
シュラ「この声…デスマスクか?」
カノン「あぁ、次にやるシナリオが決まったからな。デスマスクを誘っていたんだ」
アフロディーテ「あぁ、シナリオ使用の許可が出たのかい?」
カノン「まぁな。自由に使っても良いとあったが……一応、な」
サガ「いつの間に……次はデスマスクが加わるのか?」
カノン「いや、年中三人にやってもらう。俺も一応加わるが」
シュラ「は!?」
アフロディーテ「KPは私がやらせてもらうよ」
カノンとアフロディーテとデスマスク以外『ええええええ!?』