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永久に愛し続けよう




夜の帳に包まれた部屋の扉が、音も無く開かれる。


扉を慎重に閉め、奥にあるベッドを確認した。



部屋の主がベッドの中で、目を閉じて横になっているので、既に夢の中……にいると思っていた。



「……部屋に入る時は、ノックぐらいしたらどうだ?」
「何だ…起きてたのかよ」


その声に、星矢は苦笑しながら頭を掻いた。

「起きたのは、ついさっきだ」

溜め息をつきながら、玄武は身体を起こす。

「寝なおそうと思ってそのまま目を閉じて横になっていたら、星矢の気配を感じたんだ……」
「で、狸寝入りしてたのか?あ、横座っても良いか?」

玄武が頷く前に、星矢はベッドへ腰掛ける。

「……それで、こんな時間に何か用か?」

玄武は再び溜め息をつくと、時計に視線を向ける。

時間は、あと数分で日付が変わるといった所だ。

「……明日が何の日か、知らない訳じゃないだろ?」
「12月1日…星矢の誕生日、だろう?」

忘れる訳ないじゃないか、と玄武が言葉を続けると星矢は満足そうに頷く。

「これで知らないなんて言ったらはっ倒してたぜ。それはともかく……」

星矢はじっと、玄武の目を見る。

「……俺が、何でこんな時間に此処に来たのかぐらい、分かれよな」
「……?」

ずい、と近寄る星矢の気迫に押され、玄武は思わず身を引いてしまう。

「お、俺に何か用があるんじゃないのか……?」
「まぁ…用になるんだろうけど……結局俺から言わなきゃ気付かないのかよ」


鈍いんだから…と、星矢は呆れ、半ばヤケクソといった様子でぼやいた。

「玄武に…一番最初に、誕生日を祝って欲しかったんだよ」
「っ……!!」

ようやく星矢の目的を理解した玄武は、申し訳なさそうに「すまない…」と呟く。


「謝らなくても良いよ……もし寝てたら、そのまま寝かせておこうと思ってたし」

まだ怪我人なんだからな、と言った星矢の視線は、玄武の左肩に向けられる。


――未だに取れない包帯が、上着の隙間から覗いていた。


「………」


星矢の表情に、一瞬だけ生じた翳りを、玄武は見逃さなかった。


「……星矢、そこで待っていてくれ」
「何だ?」

突然ベッドから出た玄武に、星矢は首を傾げる。

「…本当は、明日…貴方の誕生日会で渡そうと思っていたんだが……」

部屋に備え付けられていた机の引き出しから、掌に収まる程度の小さな箱を取り出した。

「まさか、プレゼント?」
「あぁ…気に入ってくれるか分からないが……開けてくれ」

差し出した箱を受け取ると、星矢はそっと開けて中を見た。

「これって…指輪?」

そこに入っていたのは、小さな水色の石が埋め込まれ、細かな銀細工が施された指輪だった。

よく見ると、指輪にチェーンが通されていて、ネックレスとして機能するものだと分かる。


「これって確か…トルコ石?」

指輪の石を見て、星矢が声を上げる。

「間違いでは無いが…正式にはターコイズだ」
「ど、どっちでも同じだろ?12月の誕生石だし……合ってるよな?」

その言葉に玄武は頷き、言葉を続ける。

「見て分かるかもしれないが…ネックレスとしても、指輪として使っても良いように作られているから、好きなように付けてくれ」
「…分かった」

星矢はそう言うなり、早速指輪を箱から出し、チェーンを外してしまう。

「玄武」

星矢は玄武の名を呼び、指輪と自分の左手を差し出した。

その様子に玄武は瞠目したが、星矢はすかさず指輪を玄武に握らせ、その手を己の左手へと誘う。

「……玄武は指輪無いのか?」
「生憎……俺の誕生日はとっくに過ぎているからな」
「玄武が誕生日を教えてくれなかったからだろ…次の誕生日は、玄武の誕生石の指輪をプレゼントしてやるよ」

悪戯っぽく笑うと、星矢はこう言葉を続けた。

「その時は…俺が玄武に指輪を付けるから」
「…あぁ…楽しみにしている」

どうやら完全に、元の星矢に戻ったようだ。

その様子に安心したのか、玄武は目を細めながら笑みを浮かべる。


(やはり、星矢には笑顔が一番似合う)


そう思いながら、玄武は星矢の左手の薬指に、指輪を通す。


「……やっぱりちょっと照れるな」
「催促したのは貴方だろうに……」


呆れたように溜め息をつく玄武だが、ちらりと時計に視線を向ける。


――時計の針は、12時をほんの少し過ぎていた。



「……星矢」
「ん?」

玄武は膝を付き、星矢の左手の甲に唇を落とす。



「誕生日おめでとう、星矢」
「…!!ありがとう、玄武」

星矢は笑顔になると、両手で玄武の手を握った。



「これからも…ずっと、貴方と共に……」
「あぁ…嫌だって言っても、絶対に離さないから」


お互いにお互いの手を、強く握る。




「もう夜も遅い…また明日…と言っても、今日か?」
「このまま一緒に寝たら駄目か?」

星矢は、玄武の横で寝る気満々のようだ。

「…また光牙がいじけても知らないぞ……?」

数日前の事を思い出した玄武は、苦い表情をする。

「平気だって」

星矢は立ち上がると、玄武をベッドに押しやる。


……結局、星矢は玄武の横に潜り込む形でベッドに納まった。


「…星矢……」
「良いだろ?…玄武は温かいからさ、こうしてると落ち着くんだ……」


呆れる玄武に構わず、星矢はすり寄る。


玄武も、嫌がる素振りは全く見せなかった。


「おやすみ玄武…愛してるから…ずっと……」
「…あぁ…おやすみ、星矢…俺も…貴方をずっと…愛している……」


二人は軽く口付けを交わすと、そのまま眠りへと身を委ねた。




窓から覗く星明かりが、永久の愛を誓った二人を静かに照らしていた。



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