このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

二人のじゃれあい


―穏やかな日差しが差し込む昼下がり―



双魚宮の自室のソファに座り、アルバフィカは本を読んでいた。


だが……一息つくと、本を閉じて静かに視線を自分の横に向ける。



そこには、自分の髪に指を絡ませているテンマの姿があった。



数日前から、彼とは付き合い始めた仲だが……触れるだけなら毒は関係ない、という事が分かって以降、暇な時はこうして自分の髪に触ってくるのだ。



「……テンマ、私に何か用でもあるのか?」
「い、いや別に…特に何も……迷惑だった?」
「迷惑ではないが…その……」


さらさら…と、テンマの掌から水色の髪が零れ落ちる。


「私の髪……よく飽きずに触れられるな」
「だって…アルバフィカの髪、綺麗だもん」

テンマはアルバフィカの髪を一束救い上げ、再び指を絡める。

テンマは己の指から零れる水色の髪を、ただ見つめていた。


「癖とか全然なくてサラサラで…羨ましいなって思ってさ…ほら、俺の髪ってこんなだし」

テンマはアルバフィカの髪から手を離し、自分の髪に触れながら苦笑した。

「……」

アルバフィカは本をテーブルに置くと、テンマと向き合った。

「…そうか?テンマの髪も綺麗だと思う」
「え……?」

アルバフィカの言葉に、テンマは僅かに目を見開くが…すぐに首を横に振った。

「ぜ、全然綺麗じゃないよ…癖が強いし、短いし……っ!?」

テンマの言葉が、突然途切れる。



アルバフィカが、無言でテンマの頭をそっと撫でたのだ。



「あ、アルバフィカ……!?」
自分の頭を優しく撫でるアルバフィカの仕草に、テンマは赤面しながらも、大人しくしている。

「……テンマの髪、柔らかくて手触りがとても良い」
「そ…そうか……?」

感触を確かめるように、アルバフィカはゆっくりとテンマの頭を撫でる。


癖の強そうな見た目に反して、ふわふわとした柔らかな髪は、ずっと触り続けたくなる感触だ。


「アルバフィカ…ちょっと恥ずかしい……」
「?あぁ、すまない」

アルバフィカと向き合っていたテンマは、耳まで真っ赤にしている。

聖闘士一美しいと謳われるアルバフィカと付き合うようになって日はまだ浅い……数分だけでも、アルバフィカの顔を正面から見ていると気恥ずかしくなってくるのだ。

本人は一切気にしていないが……テンマはアルバフィカと目が合う度に、未だに頬を染めてしまう。


「だが…テンマが髪を触り続ける理由が少し分かった気がする」

アルバフィカがそう言った瞬間、テンマの身体が宙に浮く。

「おわっ!?」

次の瞬間、テンマはアルバフィカの膝の上に座らされていた。

「あ、アルバフィカ……!?」


アルバフィカは後ろからテンマを抱き締め、髪に顔を埋めている。


「もう少しだけ…こうしても良いか……?」

余程テンマの髪質が気に入ったのだろう…後ろ髪に頬を摺り寄せながらアルバフィカが訊ねてくる。

「…う…うん……」

テンマも赤くなりながらも、アルバフィカに己の背を預ける。

「テンマからは…日の香りがするな……」
「アルバフィカも良い匂いがする……」

抱き締めているアルバフィカも、抱き締められているテンマも、いつの間にか笑顔でお互い褒め合っていた。





「……おえっ」
「こんな所で吐くなよカルディア」

そんな光景をうっかり窓から部屋の中を覗き見してしまった不審者…もとい、カルディアとマニゴルドの二人。

「あの二人…いつもあんな感じなのかよ

砂糖を吐きだしそうな程、甘い小宇宙にあてられたカルディアはげんなりした表情でマニゴルドに訊ねた。

「まぁな…むしろ今日はまだ大人しい方だな」
「これでか!?」

マニゴルドの言葉に、カルディアが声を荒げる。

「付き合い始めた頃は暫くデジェルが摩猲宮に避難してたぐらいだからな」
「マジか…俺が長期の任務に行ってる間に……」

その様子を想像したのか、カルディアはデジェルに同情した。

「…だが…まぁ…こりゃ、関わらない方がよさそうだな」

実は…カルディアは前からテンマを狙っていたのだが、シジフォスや童虎に散々邪魔をされて接触する機会が無かったのだ。


今回の覗き魔行為は、アルバフィカと付き合い始めたという事をマニゴルドから聞き「自分の目で確かめなきゃ納得できない」という事で、こうして二人の様子を覗き見をしているのだ。


……まぁ、結果はご覧の通りだ。


「…俺天蠍宮に帰るわ……」
「おぅ、さっさと帰れ」

心なしか、ふらふらした足取りでカルディアがその場から去ってゆく。


「明日大丈夫か?アイツ……」

マニゴルドはカルディアの心配をしながら、今一度部屋の様子を除き見る。



……先程と変わらず、二人がじゃれあっていた。


――だが……一瞬だけ、アルバフィカがマニゴルドに視線を向けた。


マニゴルド達の事を、最初から気付いていたのだ。


つまり、覗き見している連中に見せつけようと…テンマとこうしてじゃれあっている、という事だ。


「…やれやれ……」


中々独占欲が強い……マニゴルドは心の中で呟いた。


「俺もさっさと帰るから、後はお好きなように」


触らぬ美人に祟りなしってな…そのような事を言い残し、マニゴルドはその場を後にした。




「…アルバフィカ、どうかしたか?」
「いや…外に誰か居た気がしたが、気のせいだったようだ」

首を傾げるテンマに、アルバフィカは安心させるようにそう言うと、抱き締める腕に力を込める。


「…テンマ…愛している……」
「……!!」

突然の言葉に、テンマは頬を赤く染める。

「…お…俺も…愛してる……」

消え入りそうな声で、テンマがそう言うと、アルバフィカは柔らかな笑顔を浮かべる。

「テンマ」
「え……っ!?」

アルバフィカの声に、僅かに振り向いたテンマの唇に、柔らかいものが当たった。


「あ、アルバフィカ……!?」
「ふふっ……嫌だったか?」

そう、ふっくらとしたアルバフィカの唇だ。

「い、嫌じゃないけど…恥ずかしい……」
「これから慣れれば良いだけだ」


アルバフィカは再び、テンマに口付けを送る。


「……アルバフィカの唇、柔らかい」
「テンマもね……」




こうして、二人の小宇宙の糖度は増してゆくのであった。







「……おえっ」
「ちょ、デジェル大丈夫か!?」
「大丈夫じゃねぇだろこれ……デジェル連れて隣に避難しようぜ」



隣りの宝瓶宮では、デジェルがマニゴルドとカルディアによって運ばれているのだが、二人は知る由も無い。


end
1/1ページ
    スキ