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あめのひ


――聖域周辺に、突然大雨が降り始める。

「さぶっ!!」
「…雨足が酷くなってきたな……」
全身ずぶ濡れになったマニゴルドとシオンは第一宮の白羊宮に駆け込んで来たところだ。

二人が任務から帰る途中で雨に見舞われたのだ。
「こりゃあヒデェな……雨宿りさせてもらうぜシオン」
「あぁ…タオルを持ってくるが?」
「あー…頼むわ」
マニゴルドの返事を聞きシオンは風呂場へ向かう。

タオルを取り出し、マニゴルドの元に戻ろうとした時……
「……?」
ふと、通路が濡れている事に気付いた。

それも――入り口から出口までちょうど一直線上に

「…誰か通ったのか……?」
首を傾げるシオンだが、これ以上待たせるとマニゴルドが煩くなるので後にした。


―――


場所は変わって金牛宮

アルデバランは自宮から外の様子をうかがっていた。
「よく降るな……」
幸い、自分の宮に戻った時に雨が降り出したので濡れずにすんだのだ。
「止むのには暫くかかるだろうな……」
降り出して数分足らずの間で土砂降りとなり、今は視界が最悪の状態だ。

溜め息を吐きつつ、アルデバランは踵を返し部屋へ戻ろうとした。
「……?」
不意に、金牛宮へ近付いてくる小宇宙を感じ立ち止まる。

「……」
アルデバランは訝しみながらも、目を凝らし雨が降り注いでいる景色を見る。

やがて、一人の人物を認める。

「っ……!」

現れたのは……

「…居たのか…アルデバラン……」

―魚座の黄金聖闘士、アルバフィカだった

「…金牛宮を通らせてもらう……」
アルバフィカはそのままアルデバランの脇を通り過ぎようとする。
だが、アルデバランはアルバフィカを呼び止める。
「待て…まだ雨が降っているんだ、雨宿りぐらいしてもいいんだぞ?」
「……」
アルバフィカは歩みを止める。
「それに、お前の宮は一番最後だろう?このまま帰っても風邪を引くだけだ」
「…だが……」
言葉を濁すアルバフィカ。
「……少し待っててくれ」
言うなりアルデバランは宮の奥へ消える。
「……?」
程なくして、アルデバランは数枚のタオルを持って現れた。
「体を拭くのが先だ……そのままでは本当に風邪を引くぞ?」
アルデバランはタオルを差し出す。
「……」
アルバフィカは差し出されたタオルを無言で見るが、やがておずおずと受け取る。


だが、アルデバランは気付いた。


――その手が、微かに震えていた事に


「震えているぞ…?寒いのか?」
「っ!?」
アルデバランの言葉に、アルバフィカは思わず驚く。
「ち、違うんだ…!!これは……」
アルバフィカは申し訳なさそうに目を伏せる。


――アルバフィカの体に流れる血は、全て猛毒と化しているのだ


「私が近くにいるだけで…お前にどんな影響が出るか……」

それ故、アルバフィカは決して他人に近付こうとはしなかった。

「…だから……」

己のせいで、傷つけることになるという――恐れ

それが形となって現れたのだ。

「……」
アルデバランは無言で手に持っていたタオルを広げると……


バサッ


……アルバフィカに被せた。
「っ!?」
突然のことに、アルバフィカは言葉を失う。

タオルに視界を奪われているが…程なく、少々乱暴な手つきで髪が拭かれていることを感じて理解した。
「な…?!は、離してくれアルデバラン!!」
視界が明確になると、アルバフィカはアルデバランを退かそうとしたが……出来なかった。


アルデバランに抱き締められているような体勢になっていたからだ。
これでは身動きがとれない。

「アルデバラン…!?」
アルデバランは静かにアルバフィカを見る。
「…お前の体質のことは知っている」
「だったら…尚更だ!!」
アルバフィカは声を荒げるが……その声は今にも泣きそうなものだった。
「私は…私のせいで誰かを傷つけたく無いんだ……!!」
だが、アルデバランは離れる気配を見せず……アルバフィカの両方の肩をそっと抱く。
「っ…!!」
「だが、俺は知っている…お前は、気高くも他者を思いやる……優しい心の持ち主だという事をな」
「…優しい…私が……?」
アルデバランは茫然と呟くアルバフィカに微笑みかける。
「そうでなければ、先程の言葉は言わないだろう?」
「…そんなことを言ったのは…お前が初めてだ……」
アルデバランは、強張っていたアルバフィカの体から僅かに力が抜けたことを感じる。
「…今まで…誰とも関わりを持とうとしなかったから……」
「…俺は、お前のことをもっと知りたい」
思わずアルバフィカはアルデバランを見上げる。
「お前を知りたいんだ……仲間として…一人の人間としてもな」
「…アルデバラン……」
アルバフィカは目頭が熱くなることを感じ、慌てて後ろを向いた。


アルバフィカは今まで、他人を遠ざけて生きてきた。

それ故、感じることが決してなかったのだ。

―人の、温もりを―

アルバフィカは初めて、それをアルデバランから感じたのだ。

おそらく、気を抜けば涙が流れてしまうだろう……アルバフィカは心の中で思った。

そんな様子にアルデバランは苦笑しながらもタオル越しにアルバフィカの髪をグシャっと撫でる。
「聖衣の下も濡れているんじゃないか?」
「…それぐらい自分で拭く……」
アルバフィカはアルデバランの手を退かす。

その手は、もう震えてはいなかった


――いつしか、雨は止んでいた


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