ワイトデッキでダメージ9999オーバー! vsデスフェニ
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ランクの低いプロデュエリスト同士の決闘など、昨日の今日でスケジュールが組まれ息つく間もなく当日を迎えるなどよくあることだ。有名なトップデュエリスト同士の対戦なら長い宣伝期間をとり関係各所の調整もそう簡単には終わらないのと大違いだ。今日はマスコミと言えばせいぜい決闘専門ネットチャンネルが一社とデュエルニュース記者が一人な、ブロンズ落ち寸前デュエリスト同士の対戦である。
ちょっとやりにくいなと思う。
もうあとが無い人間は何をやるかわからない。もちろん事前に相手の使用デッキテーマや使う頻度の高い戦術は調べてきているが、プロにすがりつきたい一心でプライドもへったくれもなく強いテーマへ持ち替えている可能性が高い。それこそ、私がうちの社長から提案されたようなデッキ構築だ。
ちら、と観客席を見る。まばらな観客は見慣れた光景。そこに、相手の親類縁者や親しい人間らしき姿はない。
つまり、相手もまだ引退セレモニーのつもりはなさそうだ。
「お前もブロンズ行きがかかってるんだってな」
対戦相手に声をかけられた。私よりも歳下だろうか、緊張で声はこわばり汗も見えた。
「ええ、お互い悔いのないように頑張りましょ」
仲良くするつもりも無い。通り一遍の定型句を返せば、チィッ、と舌打ちが飛んでくる。おいおい、下調べした限りでは癖のない好青年デュエリストだったぞ。
「俺は絶対勝つ。悪いがお前には引退してもらう」
はあそうですかと思う。ブロンズ行きへの焦りはここまで人を捻じ曲げてしまうものなのだろう。
* * *
事務所の社長から言い渡された条件『相手への9999オーバーダメージ』。これを達成するためにはほぼほぼ《隣の芝刈り》が必須だ。
相手のデッキは眺めた限り40枚の可能性が高く、私はもちろん60枚デッキなので、発動に必要な最低限の条件は整っていた。あとはひたすら、手札に《隣の芝刈り》あるいはそれを持ってくるカードが来ることを祈るだけだ。
ざっと自分の最初の手札を眺める。
「……これは無理かもなあ」
思わず自分のプロデュエリスト人生にサヨナラを告げそうになった。
私の運命を左右する五枚の手札。左から《ワイトプリンセス》《生者の書》《生者の書》《ポルターガイスト》《ワイトメア》。
《隣の芝刈り》はもちろん、それを引き込むためのカードもない。
《ポルターガイスト》通常魔法
相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。
その相手のカードを持ち主の手札に戻す。
このカードの発動と効果は無効化されない。
《ポルターガイスト》は後攻の今回あって悪いカードではないが、問題はもう一種類の魔法カードだ。
《生者の書-禁断の呪術-》通常魔法
(1):自分の墓地のアンデット族モンスター1体と相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。
その自分のアンデット族モンスターを特殊召喚する。
その相手のモンスターを除外する。
《生者の書》は墓地にいるアンデットモンスターを場へ特殊召喚するカード。《隣の芝刈り》で墓地へ大量にアンデットモンスターが送られたあとならともかく、一枚もない今どうしろというのか。
おまけにそれが二枚。ため息が出る。
後攻になったので最初のドローに賭けるしかない。手札から相手を妨害するカードもなく、私は先攻の対戦相手がカードを次々召喚していく様を眺め始めていた。
* * *
「絶対勝つの中身がこれなんですか?」
先攻の相手がメインフェイズに移行してだいぶたった。相手フィールドには、何体かのモンスターが召喚されている。
墓地にある2体の効果モンスターと2体のD-HERO。フィールドには《捕食植物ヴェルテ・アナコンダ》と《D-HEROデストロイフェニックスガイ》。
「こういうの親の顔より見たフィールドって言うんでしょう?」
「うるさい黙れ!」
相手がターンエンドを宣言した。おいおいおいおい、ここからさらに展開しなくていいいのだろうか。
相手のエンドフェイズ時に起きる処理は無かった。私のターンだ。
スタンバイフェイズ。
運命のドローフェイズ。《隣の芝刈り》あるいはそれを呼び込めるようなカードをひたすら祈っていた。
「1枚ドロー」
私の右手に握られていたのは《ワイトベイキング》。《隣の芝刈り》でも、それを呼び出せるカードでもない。
さようなら、私というプロデュエリスト。
思わず本当に別れを告げてしまったが、他の手札と合わせ6枚のカードを眺めてふと気がつく。
もしかしたら、なんとかなるかもしれない。多少相手にも手伝ってもらわないといけないし、妨害のタイミングによってはそこでターンエンドだが。
さて、どこまでいけるかな。
ずっとカードを見ていたが、取る戦略が決まり視線を上げて対戦相手を見る。
目が合った。おいおい、そんなに恐れおののかないでくれよ。
まるで幽霊でも見たような顔をしやがって。
「手札から《ポルターガイスト》を発動。相手フィールドの伏せカードを相手手札に戻す」
とりあえずは伏せカードの撤去だ。対戦相手が何を企んでいようとも、相手の場のカードは減らしておくにこしたことはない。相手は悔しそうな顔をしているから、こちらにとってまあまあ悪くない結果だったようだ。
「次に、手札から《ワイトプリンセス》を通常召喚」
《ワイトプリンセス》効果モンスター
星3/光属性/アンデット族/攻1600/守 0
(1):このカードのカード名は、墓地に存在する限り「ワイト」として扱う。
(2):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。
デッキから「ワイトプリンス」1体を墓地へ送る。
(3):自分の手札・フィールドのこのカードを墓地へ送って発動できる。
フィールドの全てのモンスターの攻撃力・守備力はターン終了時まで、そのレベルまたはランク×300ダウンする。
この効果は相手ターンでも発動できる。
薄いピンク色のドレスをまとった、小さな女の子。センター分けのミディアムヘアーが可愛らしいお姫様だ。
「《ワイトプリンセス》が召喚されたことにより(2)の効果発動。デッキから《ワイトプリンス》を墓地へ送る」
私が王子様を墓地に送ろうとデッキに手をかけた瞬間
「手札から《灰流うらら》の効果発動! その効果を無効にする!」
《灰流うらら》チューナー・効果モンスター
星3/炎属性/アンデット族/攻 0/守1800
このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):以下のいずれかの効果を含む魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、
このカードを手札から捨てて発動できる。
その効果を無効にする。
●デッキからカードを手札に加える効果
●デッキからモンスターを特殊召喚する効果
●デッキからカードを墓地へ送る効果
対戦相手の《灰流うらら》により、デッキから王子様を呼ぶ効果は無効にされてしまった。残念だ。
「では、《ワイトプリンセス》(3)の効果を発動。お姫様を墓地へ送り、フィールドのモンスターの攻撃力及び守備力をそのモンスターのレベル×300ダウンさせる」
場には《D-HERO デストロイフェニックスガイ》と《捕食植物ヴェルテアナコンダ》。ヴェルテアナコンダはリンクモンスターでありレベルを持たないため効果を受けないが
「レベル8のデストロイフェニックスガイの攻撃力は、2400下がる」
もともと2500だった《D-HEROデストロイフェニックスガイ》の攻撃力は、たったの100になってしまった。
相手はまた悔しそうな顔をしているが、まだだ。まだ全然足りない。
「手札から《生者の書》を発動。相手の墓地に眠るモンスター1体を除外し、自分の墓地のアンデット族モンスターをフィールドへ特殊召喚する」
相手墓地にあったD-HEROモンスターを1枚除外する。私の墓地に眠るアンデット族モンスターは1枚しかない。
「《ワイトプリンセス》を特殊召喚」
可愛らしいお姫様が、また場に現れた。
「《ワイトプリンセス》の特殊召喚に成功したため、(2)の効果発動。デッキから《ワイトプリンス》を墓地へ送る」
相手がギョッとしていた。
「残念ながら《ワイトプリンセス》の効果は1ターンに1度の制限がなくてね。条件が満たされれば何度でも使える」
一方で、さきほど相手が使った《灰流うらら》は1ターンに1度しか使えない。手札にもう一枚《灰流うらら》を持っていたとしても、もうこのターンには使えないのだ。
墓地に王子様が1枚送られた。
《ワイトプリンス》効果モンスター
星1/闇属性/アンデット族/攻 0/守 0
(1):このカードのカード名は、墓地に存在する限り「ワイト」として扱う。
(2):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。
「ワイト」「ワイト夫人」1体ずつを手札・デッキから墓地へ送る。
(3):自分の墓地から、「ワイト」2体とこのカードを除外して発動できる。
デッキから「ワイトキング」1体を特殊召喚する。
「墓地に《ワイトプリンス》が送られたことにより(2)の効果発動。デッキから《ワイト》および《ワイト夫人》を墓地へ送る」
《ワイト》通常モンスター
星1/闇属性/アンデット族/攻 300/守 200
どこにでも出てくるガイコツのおばけ。
攻撃は弱いが集まると大変。
《ワイト夫人》効果モンスター
星3/闇属性/アンデット族/攻 0/守2200
このカードのカード名は、墓地に存在する限り「ワイト」として扱う。
また、このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、「ワイト夫人」以外のフィールド上のレベル3以下のアンデット族モンスターは戦闘では破壊されず、魔法・罠カードの効果も受けない。
墓地へ、ワイト扱いされるカードがさらに2枚送られた。
「フィールドの《ワイトプリンセス》を墓地へ送り(3)の効果を再び発動。《D-HEROデストロイフェニックスガイ》の攻撃力はさらに2400マイナスされて0だ」
真っ赤な鎧を身にまとった戦士が、重力に耐えきれないかのようにこうべを垂れた。
「そして手札から、二枚目の《生者の書》を発動。あなたの墓地からD-HEROを除外、私の墓地から《ワイトプリンセス》をもう一度特殊召喚する」
相手デュエリストの顔がひきつる。
「《ワイトプリンセス》が特殊召喚されたことにより(2)の効果をみたび発動、デッキから《ワイトプリンス》を墓地に送る。そして墓地に送られた《ワイトプリンス》の(2)の効果発動、デッキから《ワイト》と《ワイト夫人》を墓地へ送る。さらに《ワイトプリンセス》の(3)の効果をみたび発動。お姫様は墓地へ行く」
みるみるうちに、墓地にワイト扱いされるカードが溜まっていく。でも、これだけでは無意味なのだ。場に、あのモンスターを呼び出さなくては。
「墓地の《ワイトプリンス》(3)の効果発動! 墓地にある《ワイトプリンス》《ワイト》《ワイト夫人》を除外することで、デッキからモンスターを特殊召喚する!」
せっかく墓地へ送られたワイトたちが、3枚も除外されてしまった。でも今はそれでいい。
デッキの中、光るカード。それを1枚引き抜きデュエルディスクへ叩きつける。
「墓地に集いし同胞の力を得て、むくろの王は全てを叩き潰す! 来い! 《ワイトキング》!」
《ワイトキング》効果モンスター
星1/闇属性/アンデット族/攻 ?/守 0
このカードの元々の攻撃力は、自分の墓地に存在する「ワイトキング」「ワイト」の数×1000ポイントの数値になる。
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分の墓地の「ワイトキング」または「ワイト」1体をゲームから除外する事で、このカードを特殊召喚する。
しゃれこうべの頂に立つ骸骨の王が、両手を広げてうなり声を上げた。
墓地に集まったワイト及びワイト扱いされるカードは4枚。ワイトキングの攻撃力は4000だ。
「な、なんだたったの4000か!」
対戦相手が叫ぶ。確かに、攻撃力4000ならそこまで高くない。攻撃力3000の《青眼の白龍》は倒せるが、《サイバー・エンド・ドラゴン》なら相打ち、そうでなくても攻撃力を変化させるモンスターなら4000を越えることなどたまにある。
「でも《ワイトキング》にとって攻撃力4000なんてまだまだ序の口!」
手札にいる、また新たなワイトモンスターを見せる。
《ワイトメア》効果モンスター
星1/闇属性/アンデット族/攻 300/守 200
このカードのカード名は、墓地に存在する限り「ワイト」として扱う。
また、このカードを手札から捨てて以下の効果から1つを選択して発動する事ができる。
●ゲームから除外されている自分の「ワイト」または「ワイトメア」1体を選択して自分の墓地に戻す。
●ゲームから除外されている自分の「ワイト夫人」または「ワイトキング」1体を選択してフィールド上に特殊召喚する。
「手札の《ワイトメア》を墓地へ送り効果発動! 私は『ゲームから除外されている自分のワイトまたはワイトメア1体を選択して自分の墓地に戻す』効果を選択! 除外されていた《ワイト》を一枚墓地に送る!」
墓地には、ワイトモンスターは6枚、《ワイトキング》の攻撃力は6000になった。
「《青眼の白龍》2体分の攻撃力、《ワイトキング》としては及第点」
相手の場には、三度にわたる《ワイトプリンセス》の効果により攻撃力が0となった《D-HEROデストロイフェニックスガイ》がいる。
「バトル! 《D-HEROデストロイフェニックスガイ》に攻撃!」
祈るような気持ちだった。使え、使え、そのモンスター効果を使え!
「俺は《D-HEROデストロイフェニックスガイ》の効果発動! 《ワイトキング》と《D-HEROデストロイフェニックスガイ》を選んで破壊する!」
焦った顔の対戦相手を見て、私は自分の勝利を確信した。
「手札から《ワイトベイキング》(2)の効果を発動! このカードを墓地に送ることにより、フィールドのレベル3以下アンデット族モンスターは戦闘および効果で破壊されない!」
《ワイトベイキング》効果モンスター
星1/闇属性/アンデット族/攻 300/守 200
このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードのカード名は、墓地に存在する限り「ワイト」として扱う。
(2):自分フィールドのレベル3以下のアンデット族モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、
代わりに手札のこのカードを捨てる事ができる。
(3):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。
デッキから以下のモンスターを合計2体手札に加える(同名カードは1枚まで)。その後、手札を1枚選んで捨てる。
●「ワイト」
●「ワイトベイキング」以外の「ワイト」のカード名が記されたモンスター
「なにぃ!?」
《ワイトキング》はレベル1アンデット族モンスターだ。憐れ、《D-HEROデストロイフェニックスガイ》は王を道連れにすることなく墓地へ落ちていく。代わりに私の墓地へ行ったのは《ワイトベイキング》。墓地のワイトモンスターは《ワイトベイキング》によって1枚増え、場の《ワイトキング》の攻撃力は7000へ上がっている。
「《ワイトベイキング》(3)の効果発動! 墓地へ送られたとき、デッキからベイキング以外のワイトモンスター二種類を1枚ずつ手札に加え、手札から一枚を捨てる! 私がデッキから選ぶのは《ワイトプリンス》と《ワイトプリンセス》!」
手札にお姫様と王子様が加わる。
「墓地に送るのは《ワイトプリンス》!」
王子様が一枚、墓地に落ちる。《ワイトキング》の攻撃力は8000。
「墓地に送られた《ワイトプリンス》(2)の効果発動! デッキから《ワイト》および《ワイト夫人》を墓地へ送る!」
墓地には、《ワイト》が3枚・《ワイト夫人》が2枚・《ワイトプリンス》が2枚・《ワイトプリンセス》が1枚・《ワイトメア》が1枚・《ワイトベイキング》が1枚ある。合計10枚。
《ワイトキング》の攻撃力は10000になった。
「攻撃対象がなくなったことにより、戦闘は巻き戻り再び戦闘対象を選び直すことができる!」
攻撃力10000のワイトキングが顔を向けるのは、《捕食植物ヴェルテ・アナコンダ》。攻撃力は500だ。
「バトル!」
もう対抗手段も無いのだろう、真っ青になっている対戦相手には悪いが、私にはまだやらねばならないことがある。このままではダメージ9999オーバーにはならない。
《ワイトキング》が《捕食植物ヴェルテ・アナコンダ》に殴りかかった。
「ダメージ計算時、手札からこのカードを墓地へ送り、フィールドのモンスターの攻撃力をレベル×300ダウンする!」
私の右手には《ワイトプリンセス》が握られている。(3)の効果を使うのはこのターン4回目だった。
「な、なぜだ! 《捕食植物ヴェルテ・アナコンダ》はリンクモンスター! それで攻撃力が下がらないことなんてお前もわかってるだろう!」
そう、レベルを持たないリンクモンスターには《ワイトプリンセス》の効果は効かない。
「フィールドにはもう1体! モンスターがいる!」
私の《ワイトキング》だ。お姫様の効果は敵味方関係なく及び、レベル1《ワイトキング》の攻撃力は300下がる。
「な、なんでだよ……」
しかし、画面上に表示される《ワイトキング》の攻撃力は10700。
「王は墓地の同胞の数だけ強くなる! 《ワイトプリンセス》ももちろん《ワイト》扱いされるカードだ!」
最後の《ワイトプリンセス》を含め、墓地の《ワイト》カードは11枚。
「行け! むくろの王よ!」
そこから300引いても、結果的に攻撃力は700アップする。
「ワイトパンチ!!」
《ワイトキング》が《捕食植物ヴェルテ・アナコンダ》を殴って大穴を空ける。王の拳はそのまま対戦相手を殴りつけ、相手のライフポイントはゼロになった。
相手へのダメージ10200ポイント。私の勝ちだ。
ちょっとやりにくいなと思う。
もうあとが無い人間は何をやるかわからない。もちろん事前に相手の使用デッキテーマや使う頻度の高い戦術は調べてきているが、プロにすがりつきたい一心でプライドもへったくれもなく強いテーマへ持ち替えている可能性が高い。それこそ、私がうちの社長から提案されたようなデッキ構築だ。
ちら、と観客席を見る。まばらな観客は見慣れた光景。そこに、相手の親類縁者や親しい人間らしき姿はない。
つまり、相手もまだ引退セレモニーのつもりはなさそうだ。
「お前もブロンズ行きがかかってるんだってな」
対戦相手に声をかけられた。私よりも歳下だろうか、緊張で声はこわばり汗も見えた。
「ええ、お互い悔いのないように頑張りましょ」
仲良くするつもりも無い。通り一遍の定型句を返せば、チィッ、と舌打ちが飛んでくる。おいおい、下調べした限りでは癖のない好青年デュエリストだったぞ。
「俺は絶対勝つ。悪いがお前には引退してもらう」
はあそうですかと思う。ブロンズ行きへの焦りはここまで人を捻じ曲げてしまうものなのだろう。
* * *
事務所の社長から言い渡された条件『相手への9999オーバーダメージ』。これを達成するためにはほぼほぼ《隣の芝刈り》が必須だ。
相手のデッキは眺めた限り40枚の可能性が高く、私はもちろん60枚デッキなので、発動に必要な最低限の条件は整っていた。あとはひたすら、手札に《隣の芝刈り》あるいはそれを持ってくるカードが来ることを祈るだけだ。
ざっと自分の最初の手札を眺める。
「……これは無理かもなあ」
思わず自分のプロデュエリスト人生にサヨナラを告げそうになった。
私の運命を左右する五枚の手札。左から《ワイトプリンセス》《生者の書》《生者の書》《ポルターガイスト》《ワイトメア》。
《隣の芝刈り》はもちろん、それを引き込むためのカードもない。
《ポルターガイスト》通常魔法
相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。
その相手のカードを持ち主の手札に戻す。
このカードの発動と効果は無効化されない。
《ポルターガイスト》は後攻の今回あって悪いカードではないが、問題はもう一種類の魔法カードだ。
《生者の書-禁断の呪術-》通常魔法
(1):自分の墓地のアンデット族モンスター1体と相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。
その自分のアンデット族モンスターを特殊召喚する。
その相手のモンスターを除外する。
《生者の書》は墓地にいるアンデットモンスターを場へ特殊召喚するカード。《隣の芝刈り》で墓地へ大量にアンデットモンスターが送られたあとならともかく、一枚もない今どうしろというのか。
おまけにそれが二枚。ため息が出る。
後攻になったので最初のドローに賭けるしかない。手札から相手を妨害するカードもなく、私は先攻の対戦相手がカードを次々召喚していく様を眺め始めていた。
* * *
「絶対勝つの中身がこれなんですか?」
先攻の相手がメインフェイズに移行してだいぶたった。相手フィールドには、何体かのモンスターが召喚されている。
墓地にある2体の効果モンスターと2体のD-HERO。フィールドには《捕食植物ヴェルテ・アナコンダ》と《D-HEROデストロイフェニックスガイ》。
「こういうの親の顔より見たフィールドって言うんでしょう?」
「うるさい黙れ!」
相手がターンエンドを宣言した。おいおいおいおい、ここからさらに展開しなくていいいのだろうか。
相手のエンドフェイズ時に起きる処理は無かった。私のターンだ。
スタンバイフェイズ。
運命のドローフェイズ。《隣の芝刈り》あるいはそれを呼び込めるようなカードをひたすら祈っていた。
「1枚ドロー」
私の右手に握られていたのは《ワイトベイキング》。《隣の芝刈り》でも、それを呼び出せるカードでもない。
さようなら、私というプロデュエリスト。
思わず本当に別れを告げてしまったが、他の手札と合わせ6枚のカードを眺めてふと気がつく。
もしかしたら、なんとかなるかもしれない。多少相手にも手伝ってもらわないといけないし、妨害のタイミングによってはそこでターンエンドだが。
さて、どこまでいけるかな。
ずっとカードを見ていたが、取る戦略が決まり視線を上げて対戦相手を見る。
目が合った。おいおい、そんなに恐れおののかないでくれよ。
まるで幽霊でも見たような顔をしやがって。
「手札から《ポルターガイスト》を発動。相手フィールドの伏せカードを相手手札に戻す」
とりあえずは伏せカードの撤去だ。対戦相手が何を企んでいようとも、相手の場のカードは減らしておくにこしたことはない。相手は悔しそうな顔をしているから、こちらにとってまあまあ悪くない結果だったようだ。
「次に、手札から《ワイトプリンセス》を通常召喚」
《ワイトプリンセス》効果モンスター
星3/光属性/アンデット族/攻1600/守 0
(1):このカードのカード名は、墓地に存在する限り「ワイト」として扱う。
(2):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。
デッキから「ワイトプリンス」1体を墓地へ送る。
(3):自分の手札・フィールドのこのカードを墓地へ送って発動できる。
フィールドの全てのモンスターの攻撃力・守備力はターン終了時まで、そのレベルまたはランク×300ダウンする。
この効果は相手ターンでも発動できる。
薄いピンク色のドレスをまとった、小さな女の子。センター分けのミディアムヘアーが可愛らしいお姫様だ。
「《ワイトプリンセス》が召喚されたことにより(2)の効果発動。デッキから《ワイトプリンス》を墓地へ送る」
私が王子様を墓地に送ろうとデッキに手をかけた瞬間
「手札から《灰流うらら》の効果発動! その効果を無効にする!」
《灰流うらら》チューナー・効果モンスター
星3/炎属性/アンデット族/攻 0/守1800
このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):以下のいずれかの効果を含む魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、
このカードを手札から捨てて発動できる。
その効果を無効にする。
●デッキからカードを手札に加える効果
●デッキからモンスターを特殊召喚する効果
●デッキからカードを墓地へ送る効果
対戦相手の《灰流うらら》により、デッキから王子様を呼ぶ効果は無効にされてしまった。残念だ。
「では、《ワイトプリンセス》(3)の効果を発動。お姫様を墓地へ送り、フィールドのモンスターの攻撃力及び守備力をそのモンスターのレベル×300ダウンさせる」
場には《D-HERO デストロイフェニックスガイ》と《捕食植物ヴェルテアナコンダ》。ヴェルテアナコンダはリンクモンスターでありレベルを持たないため効果を受けないが
「レベル8のデストロイフェニックスガイの攻撃力は、2400下がる」
もともと2500だった《D-HEROデストロイフェニックスガイ》の攻撃力は、たったの100になってしまった。
相手はまた悔しそうな顔をしているが、まだだ。まだ全然足りない。
「手札から《生者の書》を発動。相手の墓地に眠るモンスター1体を除外し、自分の墓地のアンデット族モンスターをフィールドへ特殊召喚する」
相手墓地にあったD-HEROモンスターを1枚除外する。私の墓地に眠るアンデット族モンスターは1枚しかない。
「《ワイトプリンセス》を特殊召喚」
可愛らしいお姫様が、また場に現れた。
「《ワイトプリンセス》の特殊召喚に成功したため、(2)の効果発動。デッキから《ワイトプリンス》を墓地へ送る」
相手がギョッとしていた。
「残念ながら《ワイトプリンセス》の効果は1ターンに1度の制限がなくてね。条件が満たされれば何度でも使える」
一方で、さきほど相手が使った《灰流うらら》は1ターンに1度しか使えない。手札にもう一枚《灰流うらら》を持っていたとしても、もうこのターンには使えないのだ。
墓地に王子様が1枚送られた。
《ワイトプリンス》効果モンスター
星1/闇属性/アンデット族/攻 0/守 0
(1):このカードのカード名は、墓地に存在する限り「ワイト」として扱う。
(2):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。
「ワイト」「ワイト夫人」1体ずつを手札・デッキから墓地へ送る。
(3):自分の墓地から、「ワイト」2体とこのカードを除外して発動できる。
デッキから「ワイトキング」1体を特殊召喚する。
「墓地に《ワイトプリンス》が送られたことにより(2)の効果発動。デッキから《ワイト》および《ワイト夫人》を墓地へ送る」
《ワイト》通常モンスター
星1/闇属性/アンデット族/攻 300/守 200
どこにでも出てくるガイコツのおばけ。
攻撃は弱いが集まると大変。
《ワイト夫人》効果モンスター
星3/闇属性/アンデット族/攻 0/守2200
このカードのカード名は、墓地に存在する限り「ワイト」として扱う。
また、このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、「ワイト夫人」以外のフィールド上のレベル3以下のアンデット族モンスターは戦闘では破壊されず、魔法・罠カードの効果も受けない。
墓地へ、ワイト扱いされるカードがさらに2枚送られた。
「フィールドの《ワイトプリンセス》を墓地へ送り(3)の効果を再び発動。《D-HEROデストロイフェニックスガイ》の攻撃力はさらに2400マイナスされて0だ」
真っ赤な鎧を身にまとった戦士が、重力に耐えきれないかのようにこうべを垂れた。
「そして手札から、二枚目の《生者の書》を発動。あなたの墓地からD-HEROを除外、私の墓地から《ワイトプリンセス》をもう一度特殊召喚する」
相手デュエリストの顔がひきつる。
「《ワイトプリンセス》が特殊召喚されたことにより(2)の効果をみたび発動、デッキから《ワイトプリンス》を墓地に送る。そして墓地に送られた《ワイトプリンス》の(2)の効果発動、デッキから《ワイト》と《ワイト夫人》を墓地へ送る。さらに《ワイトプリンセス》の(3)の効果をみたび発動。お姫様は墓地へ行く」
みるみるうちに、墓地にワイト扱いされるカードが溜まっていく。でも、これだけでは無意味なのだ。場に、あのモンスターを呼び出さなくては。
「墓地の《ワイトプリンス》(3)の効果発動! 墓地にある《ワイトプリンス》《ワイト》《ワイト夫人》を除外することで、デッキからモンスターを特殊召喚する!」
せっかく墓地へ送られたワイトたちが、3枚も除外されてしまった。でも今はそれでいい。
デッキの中、光るカード。それを1枚引き抜きデュエルディスクへ叩きつける。
「墓地に集いし同胞の力を得て、むくろの王は全てを叩き潰す! 来い! 《ワイトキング》!」
《ワイトキング》効果モンスター
星1/闇属性/アンデット族/攻 ?/守 0
このカードの元々の攻撃力は、自分の墓地に存在する「ワイトキング」「ワイト」の数×1000ポイントの数値になる。
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分の墓地の「ワイトキング」または「ワイト」1体をゲームから除外する事で、このカードを特殊召喚する。
しゃれこうべの頂に立つ骸骨の王が、両手を広げてうなり声を上げた。
墓地に集まったワイト及びワイト扱いされるカードは4枚。ワイトキングの攻撃力は4000だ。
「な、なんだたったの4000か!」
対戦相手が叫ぶ。確かに、攻撃力4000ならそこまで高くない。攻撃力3000の《青眼の白龍》は倒せるが、《サイバー・エンド・ドラゴン》なら相打ち、そうでなくても攻撃力を変化させるモンスターなら4000を越えることなどたまにある。
「でも《ワイトキング》にとって攻撃力4000なんてまだまだ序の口!」
手札にいる、また新たなワイトモンスターを見せる。
《ワイトメア》効果モンスター
星1/闇属性/アンデット族/攻 300/守 200
このカードのカード名は、墓地に存在する限り「ワイト」として扱う。
また、このカードを手札から捨てて以下の効果から1つを選択して発動する事ができる。
●ゲームから除外されている自分の「ワイト」または「ワイトメア」1体を選択して自分の墓地に戻す。
●ゲームから除外されている自分の「ワイト夫人」または「ワイトキング」1体を選択してフィールド上に特殊召喚する。
「手札の《ワイトメア》を墓地へ送り効果発動! 私は『ゲームから除外されている自分のワイトまたはワイトメア1体を選択して自分の墓地に戻す』効果を選択! 除外されていた《ワイト》を一枚墓地に送る!」
墓地には、ワイトモンスターは6枚、《ワイトキング》の攻撃力は6000になった。
「《青眼の白龍》2体分の攻撃力、《ワイトキング》としては及第点」
相手の場には、三度にわたる《ワイトプリンセス》の効果により攻撃力が0となった《D-HEROデストロイフェニックスガイ》がいる。
「バトル! 《D-HEROデストロイフェニックスガイ》に攻撃!」
祈るような気持ちだった。使え、使え、そのモンスター効果を使え!
「俺は《D-HEROデストロイフェニックスガイ》の効果発動! 《ワイトキング》と《D-HEROデストロイフェニックスガイ》を選んで破壊する!」
焦った顔の対戦相手を見て、私は自分の勝利を確信した。
「手札から《ワイトベイキング》(2)の効果を発動! このカードを墓地に送ることにより、フィールドのレベル3以下アンデット族モンスターは戦闘および効果で破壊されない!」
《ワイトベイキング》効果モンスター
星1/闇属性/アンデット族/攻 300/守 200
このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードのカード名は、墓地に存在する限り「ワイト」として扱う。
(2):自分フィールドのレベル3以下のアンデット族モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、
代わりに手札のこのカードを捨てる事ができる。
(3):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。
デッキから以下のモンスターを合計2体手札に加える(同名カードは1枚まで)。その後、手札を1枚選んで捨てる。
●「ワイト」
●「ワイトベイキング」以外の「ワイト」のカード名が記されたモンスター
「なにぃ!?」
《ワイトキング》はレベル1アンデット族モンスターだ。憐れ、《D-HEROデストロイフェニックスガイ》は王を道連れにすることなく墓地へ落ちていく。代わりに私の墓地へ行ったのは《ワイトベイキング》。墓地のワイトモンスターは《ワイトベイキング》によって1枚増え、場の《ワイトキング》の攻撃力は7000へ上がっている。
「《ワイトベイキング》(3)の効果発動! 墓地へ送られたとき、デッキからベイキング以外のワイトモンスター二種類を1枚ずつ手札に加え、手札から一枚を捨てる! 私がデッキから選ぶのは《ワイトプリンス》と《ワイトプリンセス》!」
手札にお姫様と王子様が加わる。
「墓地に送るのは《ワイトプリンス》!」
王子様が一枚、墓地に落ちる。《ワイトキング》の攻撃力は8000。
「墓地に送られた《ワイトプリンス》(2)の効果発動! デッキから《ワイト》および《ワイト夫人》を墓地へ送る!」
墓地には、《ワイト》が3枚・《ワイト夫人》が2枚・《ワイトプリンス》が2枚・《ワイトプリンセス》が1枚・《ワイトメア》が1枚・《ワイトベイキング》が1枚ある。合計10枚。
《ワイトキング》の攻撃力は10000になった。
「攻撃対象がなくなったことにより、戦闘は巻き戻り再び戦闘対象を選び直すことができる!」
攻撃力10000のワイトキングが顔を向けるのは、《捕食植物ヴェルテ・アナコンダ》。攻撃力は500だ。
「バトル!」
もう対抗手段も無いのだろう、真っ青になっている対戦相手には悪いが、私にはまだやらねばならないことがある。このままではダメージ9999オーバーにはならない。
《ワイトキング》が《捕食植物ヴェルテ・アナコンダ》に殴りかかった。
「ダメージ計算時、手札からこのカードを墓地へ送り、フィールドのモンスターの攻撃力をレベル×300ダウンする!」
私の右手には《ワイトプリンセス》が握られている。(3)の効果を使うのはこのターン4回目だった。
「な、なぜだ! 《捕食植物ヴェルテ・アナコンダ》はリンクモンスター! それで攻撃力が下がらないことなんてお前もわかってるだろう!」
そう、レベルを持たないリンクモンスターには《ワイトプリンセス》の効果は効かない。
「フィールドにはもう1体! モンスターがいる!」
私の《ワイトキング》だ。お姫様の効果は敵味方関係なく及び、レベル1《ワイトキング》の攻撃力は300下がる。
「な、なんでだよ……」
しかし、画面上に表示される《ワイトキング》の攻撃力は10700。
「王は墓地の同胞の数だけ強くなる! 《ワイトプリンセス》ももちろん《ワイト》扱いされるカードだ!」
最後の《ワイトプリンセス》を含め、墓地の《ワイト》カードは11枚。
「行け! むくろの王よ!」
そこから300引いても、結果的に攻撃力は700アップする。
「ワイトパンチ!!」
《ワイトキング》が《捕食植物ヴェルテ・アナコンダ》を殴って大穴を空ける。王の拳はそのまま対戦相手を殴りつけ、相手のライフポイントはゼロになった。
相手へのダメージ10200ポイント。私の勝ちだ。