ワイトデッキでダメージ9999オーバー! vsデスフェニ
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確かに最近の私は、戦績が奮っているとは言い難かった。
「さあ、どっちにするか選びなさい」
所属事務所社長の馬鹿みたいに偉そうな机の上には、《D-HEROデストロイフェニックスガイ》のカード。
私は今、自分のデッキテーマを捨てるかプロデュエリストを諦めるかの二択を迫られている。
* * *
私はどこにでもいるしがないプロデュエリスト。大好きなワイトテーマにこだわりすぎて、最近の戦績はだいぶ黒星が多い。
ただそれでも、強いだけがプロデュエリストじゃない。テーマにこだわって観客を沸かせるタイプや、ニッチな人気のテーマにすがって生き延びてるプロだって、デュエルで食べていれば立派なプロデュエリストだ。
人気があって集客ができて、もっとあけすけに言えばお金をかき集められればプロデュエリストとして成功していると言える。強さはその手法のひとつにすぎない。
「それであんたが人気出てるなら文句言わないわよ」
社長が呆れた様子で椅子に座る。いいクッションなんだろう、人間一人が座ったのに音もしない。
「確かにあんたはどんな手段を使っても強くなって頂点を目指すタイプのデュエリストじゃないけどね? 限度ってものがあるの」
机上のタブレットには、私の基本的なプロフィールとともに今期リーグの戦績と現在のランク及び特記事項が情け容赦なく表示されていた。
次負けたらブロンズへ降格。
ブロンズとは、プロテストを合格したひよっこが、実質研修のようなルーキーランクの次に上がってくるランクだ。ここまで落ちることを嫌ってその前に引退するプロも珍しくない。そう、ちょうど今の私のタイミング。
栄枯盛衰の激しいプロデュエリスト界だ、一時は栄華を極めたトップデュエリストが勝てなくなりどんどんランクを下げていくことは珍しくない。それでもシルバーでしばらく踏みとどまって限界を感じ引退コースが一般的だ。
だから引退時のランクが「シルバー」か「ブロンズ」では与える印象がかなり違うし、セカンドキャリアにも影響してくる。
次の決闘が、デュエリストとして私の人生悪い意味で賭かってると言っていい。
「いやあ、まさかここまで落ちるとはさすがに思ってませんでしたけど」
つい30分前、各自の最新ランクが告知され、私のランクを見た事務所社長が頭抱えながら他のスタッフたちと社長室に引きこもった。
その後しばらくしてスタッフが社長室から出てきて、即座に私が呼び出されて、今に至る。
「愛用するデッキテーマを大切にするのは悪くない、あんたの場合それ込みでファンもついてるし」
「それ込みというか、私のファンって実質ワイトデッキファンしかいませんよね」
社長が般若の面になる。怖い。
「わかってるなら! お前自身にファンをつけないと!!」
理屈はわからなくもないのだ。ワイトデッキで勝ち星を重ねれば、間違いなく今より人気は出る。でも、
「そのためにコレって言うんですか?」
机の上に置かれた紫のカードに目をやる。
《D-HEROデストロイフェニックスガイ》
融合・効果モンスター
星8/闇属性/戦士族/攻2500/守2100
レベル6以上の「HERO」モンスター+「D-HERO」モンスター
このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):相手フィールドのモンスターの攻撃力は、
自分の墓地の「HERO」カードの数×200ダウンする。
(2):自分・相手ターンに発動できる。
自分フィールドのカード1枚とフィールドのカード1枚を選んで破壊する。
(3):このカードが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。
次のターンのスタンバイフェイズに、自分の墓地から「D-HERO」モンスター1体を選んで特殊召喚する。
少し前に解禁されたデスティニーヒーローの融合モンスター、デストロイフェニックスガイ。
いまや、このカードをデッキに入れていない方が少数派ではないだろうか。
「そう! どのデッキにも3枚の関連カードとエクストラデッキにこの子と融合補助リンクモンスター《捕食植物ヴェルテ・アナコンダ》を入れるだけ! 保険程度とも言えないくらいの強さ!」
《捕食植物ヴェルテ・アナコンダ》
リンク・効果モンスター
リンク2/闇属性/植物族/攻 500
【リンクマーカー:左下/右下】
効果モンスター2体
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターはターン終了時まで闇属性になる。
(2):2000LPを払い、
「融合」通常・速攻魔法カードまたは「フュージョン」通常・速攻魔法カード1枚をデッキから墓地へ送って発動できる。
この効果は、その魔法カード発動時の効果と同じになる。
この効果の発動後、ターン終了時まで自分はモンスターを特殊召喚できない。
社長の語気が強くなる。
「幸いあんたはもともと融合モンスターも《捕食植物ヴェルテ・アナコンダ》もエクストラに入れてるし、メインは《隣の芝刈り》前提の六十枚デッキ。メインデッキに三枚入れるだけならいくらでも自由が効くでしょう」
「さっきから言ってますけど相性悪いんですってば」
《隣の芝刈り》通常魔法
自分のデッキの枚数が相手よりも多い場合に発動できる。
デッキの枚数が相手と同じになるように、自分のデッキの上からカードを墓地へ送る。
《隣の芝刈り》が発動した場合、だいたい20枚前後が墓地に行く。60枚のうちの20枚だ。その中に《D-HEROデストロイフェニックスガイ》を出すために必要な《フュージョン・デステニー》 や融合素材がいたら、もう召喚できなくなる。
《フュージョン・デステニー》通常魔法
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
(1):自分の手札・デッキから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
「D-HERO」モンスターを融合素材とするその融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターは次のターンのエンドフェイズに破壊される。
このカードの発動後、ターン終了時まで自分は闇属性の「HERO」モンスターしか特殊召喚できない。
あまり相性がいいとは言えない。あと
「今猫も杓子も《D-HEROデストロイフェニックスガイ》じゃないですか……嫌いなんですよそういうの」
「お黙り。好き嫌いで勝てるなら誰も苦労しないのよ」
社長の言う事も間違ってはいない。
「そして勝てないプロデュエリストに発言権はない」
豪華な社長椅子に座っていた彼女がガタッと勢いよく立ち上がる。ただでさえ高めに身長にハイヒールを合わせるものだから、私より目線がだいぶ上だ。
「選ばせてあげるわ。このカードをデッキに入れてプロを続けるか、純正ワイトにこだわってアマチュアになるか」
私はおそらく、苦虫を噛み潰したような顔をしていただろう。そんなもの選択肢は一つしかない。
「……勝てばいいんでしょう?」
そのカードに手を伸ばす。
「わかればよろしい」
事務所社長は満足げに微笑んだ。
「つまり、勝てれば純正ワイトにこだわってもいいと?」
《D-HEROデストロイフェニックスガイ》へ伸ばしていた手を引っ込める。事務所社長は驚きとまた怒りの表情を浮かべる。
「もし私が、ちょっとマイナーでギミックもシンプルなわかりやすいテーマデッキファンだとします。応援してたデュエリストが、勝てないからってリーグ採用率50%を越える超強いカードをデッキに入れだして、おまけにそれが愛用テーマと相性が良くないとなればかなり幻滅します」
淡々と推測を述べる。
「ただでさえ少ないファンを裏切るようなことはしたくありません」
事務所社長が口を挟んでこないところを見ると、話を聞き続けてくれる程度には説得力があるらしい。
「かと言って、確かに負け続けてブロンズまで落ちたプロデュエリストを抱える余裕はこの事務所には無いでしょう」
事務所側のメリット、と言えるほど多くもない提案を続ける。
「だから、あと一回だけ、ワイトでデュエルやらせて下さいよ。そのデュエルで負けたら引退します。代わりに勝ったらまだしばらく純正ワイト……いやワイト中心アンデットくらいならやるかもしれませんが、まあワイトでもう少し頑張ります」
やり手の女社長の目は、ブレない。
「これは結構あなたのためを思っての提案だったのだけど」
机に置かれたままの戦士族融合カードを手にとる。
「そこまで覚悟を決めてるなら無粋ね、好きになさい。ただし今回に限らずブロンズ落ちしたら即引退よ」
もちろんだ。むしろそこまで待ってもらえるのなら、かなり寛大な処遇だろう。
「一応聞くけど、負けて引退したあとの人生プランは?」
「戦う前から負けたあとのことなんて考えるもんじゃないですよ社長」
「ノープランとはね」
まるで舞台の上のように、大げさに肩をすくませる。
「言っておきますが、ワイトしか回せずブロンズ落ちまでした元プロに、プロデュエリストマネジメント会社の社員の枠は事務員ですら存在しないわ」
「えっ」
正直に言えば、少しあてにしていたからちょっと焦る。
「いやいや、アンデットなら一通り回せますから」
「あら、負けたあとのこと考えていたの?」
なんだかんだ決闘を愛する人間には甘いこの女社長も、そこまでは助けてくれないらしい。
「へいへい、要するに次のデュエル勝てばいいんでしょう」
頭をかきながら、負けられない決闘には代わり無いのだと思う。私の頭は改めて見直すデッキ構築でいっぱいだ。
「それだけではダメ」
「ふぇっ?」
急にダメ出しを食らい、頭に浮かんでいたデッキ構築は吹き飛んでしまった。
「あなたが使うのはワイトデッキ。《ワイトキング》の効果『墓地にあるワイトもしくはワイトキングのカードの数×1000の攻撃力となる』を使った高い攻撃力で、相手のライフを削り取る派手なビートダウンが持ち味」
私の使うワイトデッキの説明を懇切丁寧にされた。内容は百も承知だが、今から何を言い出すのか。
「相手プレイヤーへのダメージ9999オーバーで勝ちなさい」
それは、ワイトキングの攻撃力を10000あるいはそれ以上にしろと同義。いや、前者の場合それだけでは足りない可能性の方が高い。攻撃力を10000にした上でダイレクトアタックを決めなければ、相手モンスターの攻撃力に阻害され9999ダメージは出なくなってしまう。
「ワイトデッキでファンを獲得し続けたいなら、これくらいやれないとうちの事務所で面倒見きれないわ」
自分もすでに条件を出しているのだ、断ることはできないだろう。厄介な条件を背負わされたものだ。
「……わかりました」
女社長のうっすらとした笑みが見えた。
「で? 私の次の相手が決まるのっていつなんです?」
頭の痛い上乗せ条件を考えたくなくて、別の話題を振る。
「あら、知らなかったの?」
健気にも、私の情報を表示させ続けていたタブレットはとうに画面が消えていた。社長が長ったらしいパスワードを打ち込んでロックを外し、しばらく操作する。
「さっきこの試合が終わって、あなたの次の相手は決まったばっかりよ」
どれどれと覗き込む。勢いだけのルーキーか、シルバーから上がれない自称中堅かはたまた
「あー……これ私のお仲間ですねえ……」
「あなたと同じ扱いはかわいそうよ」
「ひどいです社長」
同じくブロンズ行きがかかってしまった元ゴールドプロデュエリストの名前と写真が表示されていた。
「さあ、どっちにするか選びなさい」
所属事務所社長の馬鹿みたいに偉そうな机の上には、《D-HEROデストロイフェニックスガイ》のカード。
私は今、自分のデッキテーマを捨てるかプロデュエリストを諦めるかの二択を迫られている。
* * *
私はどこにでもいるしがないプロデュエリスト。大好きなワイトテーマにこだわりすぎて、最近の戦績はだいぶ黒星が多い。
ただそれでも、強いだけがプロデュエリストじゃない。テーマにこだわって観客を沸かせるタイプや、ニッチな人気のテーマにすがって生き延びてるプロだって、デュエルで食べていれば立派なプロデュエリストだ。
人気があって集客ができて、もっとあけすけに言えばお金をかき集められればプロデュエリストとして成功していると言える。強さはその手法のひとつにすぎない。
「それであんたが人気出てるなら文句言わないわよ」
社長が呆れた様子で椅子に座る。いいクッションなんだろう、人間一人が座ったのに音もしない。
「確かにあんたはどんな手段を使っても強くなって頂点を目指すタイプのデュエリストじゃないけどね? 限度ってものがあるの」
机上のタブレットには、私の基本的なプロフィールとともに今期リーグの戦績と現在のランク及び特記事項が情け容赦なく表示されていた。
次負けたらブロンズへ降格。
ブロンズとは、プロテストを合格したひよっこが、実質研修のようなルーキーランクの次に上がってくるランクだ。ここまで落ちることを嫌ってその前に引退するプロも珍しくない。そう、ちょうど今の私のタイミング。
栄枯盛衰の激しいプロデュエリスト界だ、一時は栄華を極めたトップデュエリストが勝てなくなりどんどんランクを下げていくことは珍しくない。それでもシルバーでしばらく踏みとどまって限界を感じ引退コースが一般的だ。
だから引退時のランクが「シルバー」か「ブロンズ」では与える印象がかなり違うし、セカンドキャリアにも影響してくる。
次の決闘が、デュエリストとして私の人生悪い意味で賭かってると言っていい。
「いやあ、まさかここまで落ちるとはさすがに思ってませんでしたけど」
つい30分前、各自の最新ランクが告知され、私のランクを見た事務所社長が頭抱えながら他のスタッフたちと社長室に引きこもった。
その後しばらくしてスタッフが社長室から出てきて、即座に私が呼び出されて、今に至る。
「愛用するデッキテーマを大切にするのは悪くない、あんたの場合それ込みでファンもついてるし」
「それ込みというか、私のファンって実質ワイトデッキファンしかいませんよね」
社長が般若の面になる。怖い。
「わかってるなら! お前自身にファンをつけないと!!」
理屈はわからなくもないのだ。ワイトデッキで勝ち星を重ねれば、間違いなく今より人気は出る。でも、
「そのためにコレって言うんですか?」
机の上に置かれた紫のカードに目をやる。
《D-HEROデストロイフェニックスガイ》
融合・効果モンスター
星8/闇属性/戦士族/攻2500/守2100
レベル6以上の「HERO」モンスター+「D-HERO」モンスター
このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):相手フィールドのモンスターの攻撃力は、
自分の墓地の「HERO」カードの数×200ダウンする。
(2):自分・相手ターンに発動できる。
自分フィールドのカード1枚とフィールドのカード1枚を選んで破壊する。
(3):このカードが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。
次のターンのスタンバイフェイズに、自分の墓地から「D-HERO」モンスター1体を選んで特殊召喚する。
少し前に解禁されたデスティニーヒーローの融合モンスター、デストロイフェニックスガイ。
いまや、このカードをデッキに入れていない方が少数派ではないだろうか。
「そう! どのデッキにも3枚の関連カードとエクストラデッキにこの子と融合補助リンクモンスター《捕食植物ヴェルテ・アナコンダ》を入れるだけ! 保険程度とも言えないくらいの強さ!」
《捕食植物ヴェルテ・アナコンダ》
リンク・効果モンスター
リンク2/闇属性/植物族/攻 500
【リンクマーカー:左下/右下】
効果モンスター2体
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターはターン終了時まで闇属性になる。
(2):2000LPを払い、
「融合」通常・速攻魔法カードまたは「フュージョン」通常・速攻魔法カード1枚をデッキから墓地へ送って発動できる。
この効果は、その魔法カード発動時の効果と同じになる。
この効果の発動後、ターン終了時まで自分はモンスターを特殊召喚できない。
社長の語気が強くなる。
「幸いあんたはもともと融合モンスターも《捕食植物ヴェルテ・アナコンダ》もエクストラに入れてるし、メインは《隣の芝刈り》前提の六十枚デッキ。メインデッキに三枚入れるだけならいくらでも自由が効くでしょう」
「さっきから言ってますけど相性悪いんですってば」
《隣の芝刈り》通常魔法
自分のデッキの枚数が相手よりも多い場合に発動できる。
デッキの枚数が相手と同じになるように、自分のデッキの上からカードを墓地へ送る。
《隣の芝刈り》が発動した場合、だいたい20枚前後が墓地に行く。60枚のうちの20枚だ。その中に《D-HEROデストロイフェニックスガイ》を出すために必要な《フュージョン・デステニー》 や融合素材がいたら、もう召喚できなくなる。
《フュージョン・デステニー》通常魔法
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
(1):自分の手札・デッキから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
「D-HERO」モンスターを融合素材とするその融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターは次のターンのエンドフェイズに破壊される。
このカードの発動後、ターン終了時まで自分は闇属性の「HERO」モンスターしか特殊召喚できない。
あまり相性がいいとは言えない。あと
「今猫も杓子も《D-HEROデストロイフェニックスガイ》じゃないですか……嫌いなんですよそういうの」
「お黙り。好き嫌いで勝てるなら誰も苦労しないのよ」
社長の言う事も間違ってはいない。
「そして勝てないプロデュエリストに発言権はない」
豪華な社長椅子に座っていた彼女がガタッと勢いよく立ち上がる。ただでさえ高めに身長にハイヒールを合わせるものだから、私より目線がだいぶ上だ。
「選ばせてあげるわ。このカードをデッキに入れてプロを続けるか、純正ワイトにこだわってアマチュアになるか」
私はおそらく、苦虫を噛み潰したような顔をしていただろう。そんなもの選択肢は一つしかない。
「……勝てばいいんでしょう?」
そのカードに手を伸ばす。
「わかればよろしい」
事務所社長は満足げに微笑んだ。
「つまり、勝てれば純正ワイトにこだわってもいいと?」
《D-HEROデストロイフェニックスガイ》へ伸ばしていた手を引っ込める。事務所社長は驚きとまた怒りの表情を浮かべる。
「もし私が、ちょっとマイナーでギミックもシンプルなわかりやすいテーマデッキファンだとします。応援してたデュエリストが、勝てないからってリーグ採用率50%を越える超強いカードをデッキに入れだして、おまけにそれが愛用テーマと相性が良くないとなればかなり幻滅します」
淡々と推測を述べる。
「ただでさえ少ないファンを裏切るようなことはしたくありません」
事務所社長が口を挟んでこないところを見ると、話を聞き続けてくれる程度には説得力があるらしい。
「かと言って、確かに負け続けてブロンズまで落ちたプロデュエリストを抱える余裕はこの事務所には無いでしょう」
事務所側のメリット、と言えるほど多くもない提案を続ける。
「だから、あと一回だけ、ワイトでデュエルやらせて下さいよ。そのデュエルで負けたら引退します。代わりに勝ったらまだしばらく純正ワイト……いやワイト中心アンデットくらいならやるかもしれませんが、まあワイトでもう少し頑張ります」
やり手の女社長の目は、ブレない。
「これは結構あなたのためを思っての提案だったのだけど」
机に置かれたままの戦士族融合カードを手にとる。
「そこまで覚悟を決めてるなら無粋ね、好きになさい。ただし今回に限らずブロンズ落ちしたら即引退よ」
もちろんだ。むしろそこまで待ってもらえるのなら、かなり寛大な処遇だろう。
「一応聞くけど、負けて引退したあとの人生プランは?」
「戦う前から負けたあとのことなんて考えるもんじゃないですよ社長」
「ノープランとはね」
まるで舞台の上のように、大げさに肩をすくませる。
「言っておきますが、ワイトしか回せずブロンズ落ちまでした元プロに、プロデュエリストマネジメント会社の社員の枠は事務員ですら存在しないわ」
「えっ」
正直に言えば、少しあてにしていたからちょっと焦る。
「いやいや、アンデットなら一通り回せますから」
「あら、負けたあとのこと考えていたの?」
なんだかんだ決闘を愛する人間には甘いこの女社長も、そこまでは助けてくれないらしい。
「へいへい、要するに次のデュエル勝てばいいんでしょう」
頭をかきながら、負けられない決闘には代わり無いのだと思う。私の頭は改めて見直すデッキ構築でいっぱいだ。
「それだけではダメ」
「ふぇっ?」
急にダメ出しを食らい、頭に浮かんでいたデッキ構築は吹き飛んでしまった。
「あなたが使うのはワイトデッキ。《ワイトキング》の効果『墓地にあるワイトもしくはワイトキングのカードの数×1000の攻撃力となる』を使った高い攻撃力で、相手のライフを削り取る派手なビートダウンが持ち味」
私の使うワイトデッキの説明を懇切丁寧にされた。内容は百も承知だが、今から何を言い出すのか。
「相手プレイヤーへのダメージ9999オーバーで勝ちなさい」
それは、ワイトキングの攻撃力を10000あるいはそれ以上にしろと同義。いや、前者の場合それだけでは足りない可能性の方が高い。攻撃力を10000にした上でダイレクトアタックを決めなければ、相手モンスターの攻撃力に阻害され9999ダメージは出なくなってしまう。
「ワイトデッキでファンを獲得し続けたいなら、これくらいやれないとうちの事務所で面倒見きれないわ」
自分もすでに条件を出しているのだ、断ることはできないだろう。厄介な条件を背負わされたものだ。
「……わかりました」
女社長のうっすらとした笑みが見えた。
「で? 私の次の相手が決まるのっていつなんです?」
頭の痛い上乗せ条件を考えたくなくて、別の話題を振る。
「あら、知らなかったの?」
健気にも、私の情報を表示させ続けていたタブレットはとうに画面が消えていた。社長が長ったらしいパスワードを打ち込んでロックを外し、しばらく操作する。
「さっきこの試合が終わって、あなたの次の相手は決まったばっかりよ」
どれどれと覗き込む。勢いだけのルーキーか、シルバーから上がれない自称中堅かはたまた
「あー……これ私のお仲間ですねえ……」
「あなたと同じ扱いはかわいそうよ」
「ひどいです社長」
同じくブロンズ行きがかかってしまった元ゴールドプロデュエリストの名前と写真が表示されていた。
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