丸藤亮(カイザー・ヘルカイザー)/遊戯王GX
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元デュエリストにクリスマスなど存在しない。だから、丸藤亮から手渡されたこの小箱は何かの間違いだ。
◇ ◇ ◇
丸藤亮は、昔から決して人の機微に聡い方ではない。それは、プロデュエリストを引退し新リーグ設立という裏方に回ってからも変わらなかった。
「なんですかこれ」
ただでさえ忙しい日々に私自身クリスマスのことを忘れていたくらいだ、亮がそんな世間的なイベントを意識しているとは考えづらい。
「お前が欲しがっていたものだ」
にもかかわらず、である。私の手には小さな高級感ある紙袋が提げられている。明らかに、恋人へ渡すであろう風体のそれ。
私と亮の関係を考えればおかしくないが、丸藤亮が用意したと考えると違和感しかない。
紙袋を前に固まってしまった私には目もくれず、亮は疲れたようにソファーへ座り込んだ。
丸藤亮は外で疲れた様子をなかなか見せない。もともとあまり感情を表に出さない性質だが、内心では決闘やその気配に興奮していて疲れを感じないらしい。ただし、感じないだけでしっかり疲労は溜まっているようで、オフになった途端ドッと出る。彼のオフとは家なりなんなり「内」に入ったときだ。一番ひどいときはマンションの部屋に入った途端崩れ落ちたこともある。
自分が丸藤亮の「内」であるのは嬉しい。
ただ、それとこの紙袋は結びつかない。素直に考えて、丸藤亮が私の欲しいものを知っているとも思えない。なのに、外袋含め箱に描かれているロゴは私の好きなブランドで間違いなかった。
「開けないのか」
不服そうな声がする。
中身含め渡した紙袋に興味がないが、その中身を見る私の反応は気になるらしい。
素直に中から取り出す。箱は小さく軽い。ブランドカラーの包み紙を破るのももったいなくて、テープをはがそうとするもうまくいかない。切ったばかりの爪はなかなかビニールをひっかけてくれなかった。
開封に四苦八苦しながら、ドキドキしなかったといえば嘘になる。ただしそれは「前から欲しかったあのネックレスかもしれない」という期待と「本当にそのネックレスが入っていたらどうしよう」というわずかな恐れによるものだ。
はたしてそれはともに叶えられた。
シンプルな一粒石がついたピンクゴールドネックレス。自分の胸のうちが喜びから疑問へ塗り変わっていくのを感じる。
「なんで?」
亮へ「なぜ私の欲しいものを知っている?」の意は伝わった。ソファーの背もたれ上にある顔が怪訝に歪む。
「おかしいか」
おかしい、と即座に答えなかった自分を褒め称えたい。
「いや、どうしてかなぁって」
精一杯相手を慮った返答をする。
亮の顔はさらに曇った。
「お前が自分で『クリスマスにはこれが欲しい』と言っていなかったか?」
なるほどと納得した。
決闘関連以外で他者の気持ちや希望を察するなど亮の最も苦手とするところと言っていい。ピンポイントで恋人が欲しがるプレゼントを渡すなど、絶対におかしい。でも、そもそも私が求めるものを伝えていたなら合点がいく。
「……そうだっけ?」
私に全く身に覚えがないのを除けば。
私の返答に目を見開いたのは、亮も困惑しているのだろうか。
「先月……お前が泥酔したときだ」
困惑した面持ちを崩さぬまま、亮は語る。
なんでも、先月亮と一緒に呑んだときのこと。しっかり酔いの回った私は、公式の商品紹介ページを亮に見せつけながら「これが!! 欲しいの!!」と大演説したらしい。
やはり全く身に覚えがない。
いや、ベロベロに酔ったことは覚えているし、翌日の二日酔いも記憶にある。
なのに、こんな「いかにも」なプレゼントをねだったことだけ覚えていない。
忘れていることそのものが恐ろしくて青ざめる。今までも亮と酒を飲むことはたびたびあった。そのうち何度かは泥酔もしている。そのたびに、このレベルで私は記憶を失っているのだろうか?
亮から「仕事の付き合いで飲むときは量を減らせ」と言われていたのは、私が覚えていないだけでいつもよっぽどのことをしていたから?
貰ったプレゼントの嬉しさなんて吹き飛んで、目の前がクラクラしてきた。
「おい」
不機嫌そうな亮の声で我に返る。
確かにプレゼントに感謝の言葉ひとつ返さずオロオロしているのは人としてまずい。物そのものは嬉しいのだから、最低でもありがとうの一言を言わねばと思ったときだった。
「俺は何と間違えたんだ」
全く予想外な言葉が返ってきてまた驚いた。
亮の顔をよく見れば、ほんの少し赤くして何か、こう、まるで、恥ずかしがっているような。
「間違え……え?」
彼女が驚くくらいきっちりプレゼントを選んできた男が、一体何を誤ったというのか。
「間違えてなんか……ないよ? 私が欲しかったやつ、だよ? これ」
今度は亮が首をひねった。双方の困惑がピークを迎える。
「なら『なんで?』とはどういう意味だ」
私の疑問は亮に伝わっていなかった。「なぜ私の欲しいものを知っている?」のつもりだった私と、「どうして私が欲しいのと違うものを寄越したの?」の意味で受け取った亮。
すれ違いがバカバカしすぎて乾いた笑いになる。
そのまま亮に抱きついて、ソファーに倒れ込んだ。
「私の勘違い。ありがとう、亮」
亮はいまいち納得していなさそうな顔だったが、私が強く抱きしめればそれに応えるように抱き返してくる。
「まさか亮がこんなの買ってくれるとは思わなくて」
下手すれば、亮はこのブランド名すら知らなかっただろう。そんな男が、わざわざ私のために慣れない売り場をさまよったのかと思うと、少し嬉しい。
「吹雪に言ったらすぐ伝わったぞ、近く買いに行く予定があるとかで一緒に買ってきてもらった」
懐かしい旧友の名前が出てきて、落胆すればいいのか感謝すればいいのかわからなくなる。
「……余計なことは言わなくていいんだよ」
ただ、亮自身忙しいのだ、不慣れなことをせず済むならそれに越したことはない。
それに、吹雪さんの助言がなければ、それこそプレゼントを間違えていた可能性も否定できない。
そこまで考えて、我ながら彼氏の決闘関連以外への信頼が薄いなと思った。
そんな失礼なことを考えていたら、亮が開いた小箱からネックレスを取り出していた。
「後ろを向いてくれ」
何をするつもりなのか、私でもわかる。
「え? つけてくれるの?」
俺がやったらダメなのか、という顔。
「いや、あの、お願いします」
しずしずと後ろを向く。ピンクゴールドを手にした亮の腕が私の首に回る。
「吹雪に、絶対つけてやれと強く言われたからな」
やっぱり余計なこと言うじゃんとも思ったし、吹雪さんへ感謝の気持ちが溢れたりもした。
◇ ◇ ◇
後日、私は「欲しいもの……? 特にないな」としか言わない彼氏へのプレゼント選びに苦戦することになる。
単純に忙しかったのと、まさか亮から贈り物があるとは思わず、全く用意していなかった自分を少しだけ恨んでいる。
終
◇ ◇ ◇
丸藤亮は、昔から決して人の機微に聡い方ではない。それは、プロデュエリストを引退し新リーグ設立という裏方に回ってからも変わらなかった。
「なんですかこれ」
ただでさえ忙しい日々に私自身クリスマスのことを忘れていたくらいだ、亮がそんな世間的なイベントを意識しているとは考えづらい。
「お前が欲しがっていたものだ」
にもかかわらず、である。私の手には小さな高級感ある紙袋が提げられている。明らかに、恋人へ渡すであろう風体のそれ。
私と亮の関係を考えればおかしくないが、丸藤亮が用意したと考えると違和感しかない。
紙袋を前に固まってしまった私には目もくれず、亮は疲れたようにソファーへ座り込んだ。
丸藤亮は外で疲れた様子をなかなか見せない。もともとあまり感情を表に出さない性質だが、内心では決闘やその気配に興奮していて疲れを感じないらしい。ただし、感じないだけでしっかり疲労は溜まっているようで、オフになった途端ドッと出る。彼のオフとは家なりなんなり「内」に入ったときだ。一番ひどいときはマンションの部屋に入った途端崩れ落ちたこともある。
自分が丸藤亮の「内」であるのは嬉しい。
ただ、それとこの紙袋は結びつかない。素直に考えて、丸藤亮が私の欲しいものを知っているとも思えない。なのに、外袋含め箱に描かれているロゴは私の好きなブランドで間違いなかった。
「開けないのか」
不服そうな声がする。
中身含め渡した紙袋に興味がないが、その中身を見る私の反応は気になるらしい。
素直に中から取り出す。箱は小さく軽い。ブランドカラーの包み紙を破るのももったいなくて、テープをはがそうとするもうまくいかない。切ったばかりの爪はなかなかビニールをひっかけてくれなかった。
開封に四苦八苦しながら、ドキドキしなかったといえば嘘になる。ただしそれは「前から欲しかったあのネックレスかもしれない」という期待と「本当にそのネックレスが入っていたらどうしよう」というわずかな恐れによるものだ。
はたしてそれはともに叶えられた。
シンプルな一粒石がついたピンクゴールドネックレス。自分の胸のうちが喜びから疑問へ塗り変わっていくのを感じる。
「なんで?」
亮へ「なぜ私の欲しいものを知っている?」の意は伝わった。ソファーの背もたれ上にある顔が怪訝に歪む。
「おかしいか」
おかしい、と即座に答えなかった自分を褒め称えたい。
「いや、どうしてかなぁって」
精一杯相手を慮った返答をする。
亮の顔はさらに曇った。
「お前が自分で『クリスマスにはこれが欲しい』と言っていなかったか?」
なるほどと納得した。
決闘関連以外で他者の気持ちや希望を察するなど亮の最も苦手とするところと言っていい。ピンポイントで恋人が欲しがるプレゼントを渡すなど、絶対におかしい。でも、そもそも私が求めるものを伝えていたなら合点がいく。
「……そうだっけ?」
私に全く身に覚えがないのを除けば。
私の返答に目を見開いたのは、亮も困惑しているのだろうか。
「先月……お前が泥酔したときだ」
困惑した面持ちを崩さぬまま、亮は語る。
なんでも、先月亮と一緒に呑んだときのこと。しっかり酔いの回った私は、公式の商品紹介ページを亮に見せつけながら「これが!! 欲しいの!!」と大演説したらしい。
やはり全く身に覚えがない。
いや、ベロベロに酔ったことは覚えているし、翌日の二日酔いも記憶にある。
なのに、こんな「いかにも」なプレゼントをねだったことだけ覚えていない。
忘れていることそのものが恐ろしくて青ざめる。今までも亮と酒を飲むことはたびたびあった。そのうち何度かは泥酔もしている。そのたびに、このレベルで私は記憶を失っているのだろうか?
亮から「仕事の付き合いで飲むときは量を減らせ」と言われていたのは、私が覚えていないだけでいつもよっぽどのことをしていたから?
貰ったプレゼントの嬉しさなんて吹き飛んで、目の前がクラクラしてきた。
「おい」
不機嫌そうな亮の声で我に返る。
確かにプレゼントに感謝の言葉ひとつ返さずオロオロしているのは人としてまずい。物そのものは嬉しいのだから、最低でもありがとうの一言を言わねばと思ったときだった。
「俺は何と間違えたんだ」
全く予想外な言葉が返ってきてまた驚いた。
亮の顔をよく見れば、ほんの少し赤くして何か、こう、まるで、恥ずかしがっているような。
「間違え……え?」
彼女が驚くくらいきっちりプレゼントを選んできた男が、一体何を誤ったというのか。
「間違えてなんか……ないよ? 私が欲しかったやつ、だよ? これ」
今度は亮が首をひねった。双方の困惑がピークを迎える。
「なら『なんで?』とはどういう意味だ」
私の疑問は亮に伝わっていなかった。「なぜ私の欲しいものを知っている?」のつもりだった私と、「どうして私が欲しいのと違うものを寄越したの?」の意味で受け取った亮。
すれ違いがバカバカしすぎて乾いた笑いになる。
そのまま亮に抱きついて、ソファーに倒れ込んだ。
「私の勘違い。ありがとう、亮」
亮はいまいち納得していなさそうな顔だったが、私が強く抱きしめればそれに応えるように抱き返してくる。
「まさか亮がこんなの買ってくれるとは思わなくて」
下手すれば、亮はこのブランド名すら知らなかっただろう。そんな男が、わざわざ私のために慣れない売り場をさまよったのかと思うと、少し嬉しい。
「吹雪に言ったらすぐ伝わったぞ、近く買いに行く予定があるとかで一緒に買ってきてもらった」
懐かしい旧友の名前が出てきて、落胆すればいいのか感謝すればいいのかわからなくなる。
「……余計なことは言わなくていいんだよ」
ただ、亮自身忙しいのだ、不慣れなことをせず済むならそれに越したことはない。
それに、吹雪さんの助言がなければ、それこそプレゼントを間違えていた可能性も否定できない。
そこまで考えて、我ながら彼氏の決闘関連以外への信頼が薄いなと思った。
そんな失礼なことを考えていたら、亮が開いた小箱からネックレスを取り出していた。
「後ろを向いてくれ」
何をするつもりなのか、私でもわかる。
「え? つけてくれるの?」
俺がやったらダメなのか、という顔。
「いや、あの、お願いします」
しずしずと後ろを向く。ピンクゴールドを手にした亮の腕が私の首に回る。
「吹雪に、絶対つけてやれと強く言われたからな」
やっぱり余計なこと言うじゃんとも思ったし、吹雪さんへ感謝の気持ちが溢れたりもした。
◇ ◇ ◇
後日、私は「欲しいもの……? 特にないな」としか言わない彼氏へのプレゼント選びに苦戦することになる。
単純に忙しかったのと、まさか亮から贈り物があるとは思わず、全く用意していなかった自分を少しだけ恨んでいる。
終
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