丸藤亮(カイザー・ヘルカイザー)/遊戯王GX
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最後の記憶は、亮先輩の部屋で先輩がしばらく電話をしていた光景だ。
ふ、と目を覚ますと、自分が柔らかなベッドシーツにくるまれていることがわかる。んん、とシーツを巻き込み、シャワーの水音を聞きながら寝返りを打つ。
どうやら先輩の部屋で眠っていたらしい。はっきりしない頭の中、起きなくてはとは思う。
いや、理性ではもっとしっかりわかっているのだ。自分はのんきにベッドで眠っている場合ではない。先輩の部屋で先輩のベッドを借りて、寝こけている場合ではないのだ。
今は何時だろう。早くベッドを出て、シャワーを浴びている先輩にひとことふたこと挨拶をし、自分の部屋へ帰らなくてはいけない。
まぶたが重い。視界が狭まる。
水が滴り落ちる音はしなくなり、ドライヤーがたてる騒がしい風の音になっていた。
先輩は髪が長いから、きっとドライヤーにも時間がかかるだろうなんてどうでもいいことに思い至って。
今の私だって制服のままベッドで寝ているから生地にシワが寄る、とか、さらにそれらしい起きなくてはいけない理由を思い浮かべる。
早く、起きなきゃ。
思考すらも脈絡がなくなりながら、そして、私の記憶は途切れた。
次に目を覚ましたとき、部屋は暗くなっていた。
月は雲に隠れているのか、光は部屋の中を照らすに足りない。視界は暗いままで、目が開いているのかいないのか、自分でもよくわからない。
どうやら、私は眠っていたらしい。
目をこすろうとして、腕がなにかで押さえられていることがわかる。なにか体全体も不自然な姿勢をしている気がする。
なんとか首をまわして気がついたのは、自分の後ろに誰かが寝ているようだと、それが愛しの相手であるということだった。
丸藤亮が、私の身体を抱えて眠っている。
よく私は叫ばなかったものだ、いや、驚きすぎて声も出ないのかもしれない。
そのとき、雲に隠れていた月の明かりがサッと先輩の顔に降り注ぐ。
穏やかな寝顔だ。
自分の心が、驚きから好意に塗りつぶされたのがわかった。好きな相手の知らなかった一面を見て、不覚にも胸をときめかせている。
恥ずかしさに先輩の顔から視線を外しつつも、この居心地の良さに体を預けたくなる。
だって、私が先輩を好きになって、先輩に告白して、なぜか受け入れてもらって、一応付き合ってはいるものの、今日までずっと恋人らしいことなんてほとんどしてこなかった。
それゆえに、先輩は特に私のことなど好きではないのだという確信めいた自信すらある。
それでも拒否されないのは嬉しかったし、自分から手を離そうとも思わなかった。
だから初めて先輩の部屋に入れてもらったときは心躍ったものだ。まさかそれからずっとおしゃべりだけして消灯前に帰される日が続くとは思わなかったが。
それを思えば、今のこの状況が不思議で仕方がなく、そして同時に嬉しくて仕方がない。こうして抱きしめられている腕をふりほどくなど全く考えられないくらいには、心が躍っているのだ。
少しためらったが、先輩の手を握ってみる。私たちは手を繋いだことだってないのに、おかしな感じだ。
先輩の指をつまんで、一本一本折りたたんだり広げてみたりする。普段カードを扱うことはあっても、私に触れることはない指。
先輩の手のひらに軽く爪を立てて、ゆるゆると円を描く。
「なーんーでー先輩はこんなことするんですかー」
もちろん返事など期待していない独り言。
「まずかったか?」
だったはずなのに。自分の後頭部から声がして、あわてて振り返ろうとするも先輩がきつく抱きしめてきてかなわない。
「えっ? 亮先輩? 起きて? ええっ!?」
困惑している自分は単語でしかしゃべれなかった。
「嫌なのか?」
私を抱きしめる力は緩まず、ただ質問だけが降ってくる。それに対して、何も返せない自分がいた。
もちろん嫌なわけではない、むしろ嬉しい。嬉しくないわけない。ただ、改めてそれを告げようとすると、恥ずかしくて言葉に詰まってしまった。
「……悪いことをしたな」
亮先輩はそれを肯定と受け取ったらしい。先輩の両手が緩む。身体が離れそうになる。
私から離れていくその熱がただただ惜しかった。
「そんなこと……ありません」
先輩は悪いことなんてしていない。それをなんとかして伝えなくてはいけないと思った。
ベッドの中で、先輩の方へ向き直る。やっぱり亮先輩の顔は見れないまま、その胸に自分の顔をうずめた。
すり……とおでこを寄せれば、先輩の腕が私の身体をつかまえる。力強い。
先輩はあんなに細いのに、よくこんな力が出るなと冷静に考えてしまった。冷静ついでに、今ならあの疑問も問いかけることができそうだ。
「あの」
「どうした」
いつもと変わらない、やや低い声がする。先輩に私からも抱きつく。声に安心して、問いかけもよどむことなく出てきた。
「私は亮先輩のこと好きですけど、私のこと好きでもない先輩がどうしてこんなことするんですか?」
返事はなかった。急に不安になる。
何か、先輩に嫌な思いをさせてしまう質問だっただろうか?
「お前は……」
先輩がやっと口を開いたものの、先ほどまでより声に張りがない。そしてまた沈黙が流れた。
亮先輩に抱きつき、私の視界は真っ暗だ。私自身の不安を表すような、黒。だが、その不安はすぐ消えることになった。
「俺はお前のことが好きなんだが」
「えっ」
反射的に出た声は、ずいぶん間抜けな音になってしまった。不安こそなくなったものの、今度浮かぶのは疑問符だ。どういうことだろう? 意味がよくわからない。
「どうして……俺が好きではないと?」
そしてさらに質問が重なる。
「ええっ?」
今度は自分の困惑だ。それを説明しないといけないのだろうか?
自分の大好きな相手に、いかに自分があなたから愛されていないと感じていたか説明しないといけないのだろうか?
「ええと……」
もしそうなら、なかなか難しいことを聞いてくる。いくつも羅列していると自分の心が折れそうなので、一番決定的なことだけ伝えることにした。
「先輩は……私のこと一度も好きだと言わなかったから……」
「言わないと伝わらないのか!?」
まるで、ターンエンドを告げなければターンは終わらないと今知った人のような驚き。
「私はテレパシーが使えないので……」
「それは知っている」
アカデミアでも一番の戦績を持つ男に、自分はエスパーではないと説くのはなんとも滑稽だった。私も先輩も大真面目なのに。
あとなぜだろう、先輩が私の頭を撫でている。
「なんで撫でてるんですか?」
「好きだという気持ちを伝えている」
「言葉にしてください」
亮先輩の言葉が返ってこないので、先輩は戸惑っているんだろうなと思う。もしかしたら、先輩のちょっと珍しい顔が見れるかもしれない。
首を持ち上げて先輩の顔を見ようとしたら、頭を撫でていた手にぐぐぐと力が込められたのがわかった。
「あの、先輩」
「だめだ」
やめてください、と伝える前に否定される。
「もしかして照れてるんですか?」
グイグイと押し込まれる私の頭が、肯定の意志表示になっている。なんだか楽しくなってきて、先輩を抱きしめる腕に力をこめた。
私の顔はさらに亮先輩の胸に押し付ける形になって、ようやく先輩の手が私の頭を抑えなくなる。先輩からも抱きしめられて、私はとても気分がいい。
そう、気分はとっても良かったのだけど、どうでもいいことに気が付いてしまうのも私だ。
「あー……先輩、私制服のままです」
私が先輩の背に回した腕を引き抜こうとしても、今度は先輩が私から離れない。
「どうせ部屋には帰れないだろう、寝ていけばいい」
それもそうかと思い、まぶたを閉じる。
私だって、先輩から離れたいわけじゃないのだ。
終
ふ、と目を覚ますと、自分が柔らかなベッドシーツにくるまれていることがわかる。んん、とシーツを巻き込み、シャワーの水音を聞きながら寝返りを打つ。
どうやら先輩の部屋で眠っていたらしい。はっきりしない頭の中、起きなくてはとは思う。
いや、理性ではもっとしっかりわかっているのだ。自分はのんきにベッドで眠っている場合ではない。先輩の部屋で先輩のベッドを借りて、寝こけている場合ではないのだ。
今は何時だろう。早くベッドを出て、シャワーを浴びている先輩にひとことふたこと挨拶をし、自分の部屋へ帰らなくてはいけない。
まぶたが重い。視界が狭まる。
水が滴り落ちる音はしなくなり、ドライヤーがたてる騒がしい風の音になっていた。
先輩は髪が長いから、きっとドライヤーにも時間がかかるだろうなんてどうでもいいことに思い至って。
今の私だって制服のままベッドで寝ているから生地にシワが寄る、とか、さらにそれらしい起きなくてはいけない理由を思い浮かべる。
早く、起きなきゃ。
思考すらも脈絡がなくなりながら、そして、私の記憶は途切れた。
次に目を覚ましたとき、部屋は暗くなっていた。
月は雲に隠れているのか、光は部屋の中を照らすに足りない。視界は暗いままで、目が開いているのかいないのか、自分でもよくわからない。
どうやら、私は眠っていたらしい。
目をこすろうとして、腕がなにかで押さえられていることがわかる。なにか体全体も不自然な姿勢をしている気がする。
なんとか首をまわして気がついたのは、自分の後ろに誰かが寝ているようだと、それが愛しの相手であるということだった。
丸藤亮が、私の身体を抱えて眠っている。
よく私は叫ばなかったものだ、いや、驚きすぎて声も出ないのかもしれない。
そのとき、雲に隠れていた月の明かりがサッと先輩の顔に降り注ぐ。
穏やかな寝顔だ。
自分の心が、驚きから好意に塗りつぶされたのがわかった。好きな相手の知らなかった一面を見て、不覚にも胸をときめかせている。
恥ずかしさに先輩の顔から視線を外しつつも、この居心地の良さに体を預けたくなる。
だって、私が先輩を好きになって、先輩に告白して、なぜか受け入れてもらって、一応付き合ってはいるものの、今日までずっと恋人らしいことなんてほとんどしてこなかった。
それゆえに、先輩は特に私のことなど好きではないのだという確信めいた自信すらある。
それでも拒否されないのは嬉しかったし、自分から手を離そうとも思わなかった。
だから初めて先輩の部屋に入れてもらったときは心躍ったものだ。まさかそれからずっとおしゃべりだけして消灯前に帰される日が続くとは思わなかったが。
それを思えば、今のこの状況が不思議で仕方がなく、そして同時に嬉しくて仕方がない。こうして抱きしめられている腕をふりほどくなど全く考えられないくらいには、心が躍っているのだ。
少しためらったが、先輩の手を握ってみる。私たちは手を繋いだことだってないのに、おかしな感じだ。
先輩の指をつまんで、一本一本折りたたんだり広げてみたりする。普段カードを扱うことはあっても、私に触れることはない指。
先輩の手のひらに軽く爪を立てて、ゆるゆると円を描く。
「なーんーでー先輩はこんなことするんですかー」
もちろん返事など期待していない独り言。
「まずかったか?」
だったはずなのに。自分の後頭部から声がして、あわてて振り返ろうとするも先輩がきつく抱きしめてきてかなわない。
「えっ? 亮先輩? 起きて? ええっ!?」
困惑している自分は単語でしかしゃべれなかった。
「嫌なのか?」
私を抱きしめる力は緩まず、ただ質問だけが降ってくる。それに対して、何も返せない自分がいた。
もちろん嫌なわけではない、むしろ嬉しい。嬉しくないわけない。ただ、改めてそれを告げようとすると、恥ずかしくて言葉に詰まってしまった。
「……悪いことをしたな」
亮先輩はそれを肯定と受け取ったらしい。先輩の両手が緩む。身体が離れそうになる。
私から離れていくその熱がただただ惜しかった。
「そんなこと……ありません」
先輩は悪いことなんてしていない。それをなんとかして伝えなくてはいけないと思った。
ベッドの中で、先輩の方へ向き直る。やっぱり亮先輩の顔は見れないまま、その胸に自分の顔をうずめた。
すり……とおでこを寄せれば、先輩の腕が私の身体をつかまえる。力強い。
先輩はあんなに細いのに、よくこんな力が出るなと冷静に考えてしまった。冷静ついでに、今ならあの疑問も問いかけることができそうだ。
「あの」
「どうした」
いつもと変わらない、やや低い声がする。先輩に私からも抱きつく。声に安心して、問いかけもよどむことなく出てきた。
「私は亮先輩のこと好きですけど、私のこと好きでもない先輩がどうしてこんなことするんですか?」
返事はなかった。急に不安になる。
何か、先輩に嫌な思いをさせてしまう質問だっただろうか?
「お前は……」
先輩がやっと口を開いたものの、先ほどまでより声に張りがない。そしてまた沈黙が流れた。
亮先輩に抱きつき、私の視界は真っ暗だ。私自身の不安を表すような、黒。だが、その不安はすぐ消えることになった。
「俺はお前のことが好きなんだが」
「えっ」
反射的に出た声は、ずいぶん間抜けな音になってしまった。不安こそなくなったものの、今度浮かぶのは疑問符だ。どういうことだろう? 意味がよくわからない。
「どうして……俺が好きではないと?」
そしてさらに質問が重なる。
「ええっ?」
今度は自分の困惑だ。それを説明しないといけないのだろうか?
自分の大好きな相手に、いかに自分があなたから愛されていないと感じていたか説明しないといけないのだろうか?
「ええと……」
もしそうなら、なかなか難しいことを聞いてくる。いくつも羅列していると自分の心が折れそうなので、一番決定的なことだけ伝えることにした。
「先輩は……私のこと一度も好きだと言わなかったから……」
「言わないと伝わらないのか!?」
まるで、ターンエンドを告げなければターンは終わらないと今知った人のような驚き。
「私はテレパシーが使えないので……」
「それは知っている」
アカデミアでも一番の戦績を持つ男に、自分はエスパーではないと説くのはなんとも滑稽だった。私も先輩も大真面目なのに。
あとなぜだろう、先輩が私の頭を撫でている。
「なんで撫でてるんですか?」
「好きだという気持ちを伝えている」
「言葉にしてください」
亮先輩の言葉が返ってこないので、先輩は戸惑っているんだろうなと思う。もしかしたら、先輩のちょっと珍しい顔が見れるかもしれない。
首を持ち上げて先輩の顔を見ようとしたら、頭を撫でていた手にぐぐぐと力が込められたのがわかった。
「あの、先輩」
「だめだ」
やめてください、と伝える前に否定される。
「もしかして照れてるんですか?」
グイグイと押し込まれる私の頭が、肯定の意志表示になっている。なんだか楽しくなってきて、先輩を抱きしめる腕に力をこめた。
私の顔はさらに亮先輩の胸に押し付ける形になって、ようやく先輩の手が私の頭を抑えなくなる。先輩からも抱きしめられて、私はとても気分がいい。
そう、気分はとっても良かったのだけど、どうでもいいことに気が付いてしまうのも私だ。
「あー……先輩、私制服のままです」
私が先輩の背に回した腕を引き抜こうとしても、今度は先輩が私から離れない。
「どうせ部屋には帰れないだろう、寝ていけばいい」
それもそうかと思い、まぶたを閉じる。
私だって、先輩から離れたいわけじゃないのだ。
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