正岡子規/文豪とアルケミスト
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「先生、好きです、大好きです」
私はボロボロと涙をこぼしながら、先生に告白していた。
だって、叶わない恋だとわかっていて、振られるとわかっていて、その上で告白するだなんて惨めにも程がある。
ああなんで、こんなクリスマスの日にこんな捨て身の告白してるんだろう。昼間は、夜こうして先生と見に行くイルミネーションを楽しみにしていたのに。
それでも、思いは言葉は止まらなかった。
「どうか、このどうしようもない私を、哀れんで一緒に居てはくれませんか」
緊張と悲しさとその他諸々で、自分でもよくわからない芝居がかった口調になった。
先生、と問いながら、ああ嫌だ先生からの反応全てが怖いと思っている。
断られたくない。嫌われたくない。
先生の顔が見れない。
「俺は」
先生が口を開いた。
「そんな風に、自分を卑下する司書さんが嫌いだ」
嫌いだ、と聞こえた言葉は私の心臓を握り潰した。
嫌いだって、先生私のこと嫌いだって。
振られるとは思っていたけど、まさか嫌われているとまでは予想がつかなかった。
どうしよう、私このままショックで死んじゃうかもしれない。
「俺は司書さんの良いところをいっぱい知ってるつもりだけどな」
振った女に、そんなフォローいらないです。
「ご、ごめんなさい」
自分でも何に謝っているのかわからない謝罪を口にする。
「なんで謝る」
「嫌いな相手に、呼び出されて、先生にはごめいわくを……」
「司書さん」
はー、とため息をつく音。
目の前を白い息が横切る。
嫌だ、私これ以上先生に嫌われたくない。
「司書さんのいいところ」
先生の両手が私の頬を挟み、顔を持ち上げられた。
いつも通りの、優しい笑みを浮かべた先生だ。
「いつも一生懸命。それで、俺たち文豪のことを考えてくれる。仕事に手を抜かない。細かいところまでよく気がつく。そんなに得意じゃないのに、べーすぼーるに付き合ってくれる」
言い切って、先生がニカッと笑った。嬉しいことがあったときにする、目がぎゅーっと細くなるあの笑顔。
「俺は、そんな司書さんが好きだ。だから、今日こんな風に司書さんに誘われたのがめちゃくちゃ嬉しかった」
何を言われているのかよくわからない。
理解が追いつかない。
呆けていると、先生はじれったそうに言葉を重ねた。
「俺は司書さんのことが好きだから、そんな風に司書さんを悪く言われるのが我慢ならない」
えっと、つまり
「え……?」
嫌われていたわけではないらしい。それどころか、先生は私のことが好きだったらしい。
「嘘」
「嘘をついてどうする」
即座に否定された。
「むしろ色々聞きたいのはこっちの方だ」
すん、と顔が真面目になる。
「こんな日を司書さんから誘われて、俺そういう意味で間違いないのか自信なかったから、夏目と森さんと露伴先生に聞いて回って」
よく見知った先生方の名前がこんな形で出てきて慌てた。
「待ってください私が先生を誘ったのお三方がご存知なんですか!?」
「ええと、あと吉川先生と中島君と牧水と」
多すぎる。先生自信なさすぎやしませんか。
「一体何人に聞いて回ったんですか……」
名だたる文豪を指折り数えた先生は、両手を使い出したあたりで数えるのを諦めた。
「まあみんな、『司書はみんなお前のことが好き』って結論付けてくれたから」
それを聞いてへなへなと腰が抜けてしまった。
それなりに普通に過ごしていたつもりだったが、私は大層わかりやすい女だったらしい。
「司書さん、大丈夫か?」
「全然ダメです……」
先生に助けてもらいながら立ち上がり、近くのベンチに座る。先生は私の隣に腰掛けた。
「俺から告白したかったのに」
不満と居心地の悪さと照れをごちゃまぜにした顔をする。
「先に告白し始めるわ大泣きするわで、どうすればいいか全然わからなかった」
つい数分前のことなのに、そのことを持ち出されると随分恥ずかしい。
「なんであんなこと言ったんだ」
ただし、それに関しては私だって反論がある。
「誘ったって、先生私のこと好きだって反応じゃ全然ありませんでしたし」
「俺喜んでただろ!?」
「『友人と遊びに行くの楽しみ!』ぐらいに見えましたよ!」
「そうか……」
しゅん、と肩を落とす先生が面白い。
「でもそれだけか? それであんな大泣きするのか司書は!?」
「しませんよ……」
本題は、こっちだ。
「昼間、なんで『司書さんの結婚式には俺も呼んでくれよな』なんて言ったんですか」
そう、ああ私は脈無いんだと思ったのは先生のこの発言のせいなのだ。
クリスマスイブに結婚式を挙げるカップル、というおめでたいような羨ましいような二人を見てから、しばらく考え込んでいたデート相手にぽつりとこんなことを言われたら、誰だって脈無しだと思うだろう。
私に問いただされた先生は、ぱちくりと目を見開いた。そして、気まずそうに視線をそらす。
「ああ、それは……」
ごにょごにょと言葉の歯切れが悪い。
「それは?」
「……俺たちのこの身で、結婚できるかなんてわからないだろう」
絞り出すような声だった。
驚いたのは私の方だ、予想外に真剣な声だったから。
「いつ死ぬかわからないって意味でもそう。無事生き残っても、ずっとこの時代に生まれ育ってきた司書さんと『転生』した俺が結婚できるかなんてわからない。この恋が実りそうだと浮かれていたところに、そんなことをとうとうと考えて思わず、な」
ぽんぽんと、頭に軽く手が触れる。
「司書さんのウェディングドレス姿を見てみたい、ってところから考え始めたんだ、許してくれ」
先生の顔はまた笑顔に戻った、言いにくいことを言い終えて、もう満足してしまったかのような。
「まあでも、そんな先のこと今考える必要ないよな」
それでも私はそんな話に納得出来なかった。
「もう遅いし図書館に「結婚しましょう」
先生の言葉を遮る。
さっきよりもさらに驚いたような先生の顔。
「しましょう、結婚。先生と私で。もちろん今じゃないですけど、将来的に、公的にも私的にも私先生の妻になりたいです」
ああでも、もちろん
「先生が嫌だというのならば別ですが」
「いや、そんな、まさか」
口をぱくぱくさせて金魚みたいだと、使い古された表現を思う。
先生に見せる俳句に使ったら、きっと朱を入れられてしまうけど、当の先生は添削する余裕もなさそうだ。
「俺と司書さんが結婚か……そうか……」
ぼうっとこちらを見つめる先生の目から、つうと涙が溢れてきた。
慌てたのは私だ。
「え、先生そんなに嫌でしたか」
「俺は嬉し涙を流しちゃ駄目か?」
先生は髪をぐしゃぐしゃかき回し、顔を拭い、はあと今日一番大きな息を吐いた。
「ああ、こういうときなんて言うか最近知ったんだ。司書さん、聞いてくれ」
嬉し涙まで流した人が、今更一体何を言うのか興味が沸いた。
「わかりました」
先生が、私の手を両手で握った。
「結婚を前提に付き合ってください」
そんな言い回しもあったなあ、なんて思う。
そしてそんなの、答えは決まりきってる。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
私は、先生の手を握り返した。
終
私はボロボロと涙をこぼしながら、先生に告白していた。
だって、叶わない恋だとわかっていて、振られるとわかっていて、その上で告白するだなんて惨めにも程がある。
ああなんで、こんなクリスマスの日にこんな捨て身の告白してるんだろう。昼間は、夜こうして先生と見に行くイルミネーションを楽しみにしていたのに。
それでも、思いは言葉は止まらなかった。
「どうか、このどうしようもない私を、哀れんで一緒に居てはくれませんか」
緊張と悲しさとその他諸々で、自分でもよくわからない芝居がかった口調になった。
先生、と問いながら、ああ嫌だ先生からの反応全てが怖いと思っている。
断られたくない。嫌われたくない。
先生の顔が見れない。
「俺は」
先生が口を開いた。
「そんな風に、自分を卑下する司書さんが嫌いだ」
嫌いだ、と聞こえた言葉は私の心臓を握り潰した。
嫌いだって、先生私のこと嫌いだって。
振られるとは思っていたけど、まさか嫌われているとまでは予想がつかなかった。
どうしよう、私このままショックで死んじゃうかもしれない。
「俺は司書さんの良いところをいっぱい知ってるつもりだけどな」
振った女に、そんなフォローいらないです。
「ご、ごめんなさい」
自分でも何に謝っているのかわからない謝罪を口にする。
「なんで謝る」
「嫌いな相手に、呼び出されて、先生にはごめいわくを……」
「司書さん」
はー、とため息をつく音。
目の前を白い息が横切る。
嫌だ、私これ以上先生に嫌われたくない。
「司書さんのいいところ」
先生の両手が私の頬を挟み、顔を持ち上げられた。
いつも通りの、優しい笑みを浮かべた先生だ。
「いつも一生懸命。それで、俺たち文豪のことを考えてくれる。仕事に手を抜かない。細かいところまでよく気がつく。そんなに得意じゃないのに、べーすぼーるに付き合ってくれる」
言い切って、先生がニカッと笑った。嬉しいことがあったときにする、目がぎゅーっと細くなるあの笑顔。
「俺は、そんな司書さんが好きだ。だから、今日こんな風に司書さんに誘われたのがめちゃくちゃ嬉しかった」
何を言われているのかよくわからない。
理解が追いつかない。
呆けていると、先生はじれったそうに言葉を重ねた。
「俺は司書さんのことが好きだから、そんな風に司書さんを悪く言われるのが我慢ならない」
えっと、つまり
「え……?」
嫌われていたわけではないらしい。それどころか、先生は私のことが好きだったらしい。
「嘘」
「嘘をついてどうする」
即座に否定された。
「むしろ色々聞きたいのはこっちの方だ」
すん、と顔が真面目になる。
「こんな日を司書さんから誘われて、俺そういう意味で間違いないのか自信なかったから、夏目と森さんと露伴先生に聞いて回って」
よく見知った先生方の名前がこんな形で出てきて慌てた。
「待ってください私が先生を誘ったのお三方がご存知なんですか!?」
「ええと、あと吉川先生と中島君と牧水と」
多すぎる。先生自信なさすぎやしませんか。
「一体何人に聞いて回ったんですか……」
名だたる文豪を指折り数えた先生は、両手を使い出したあたりで数えるのを諦めた。
「まあみんな、『司書はみんなお前のことが好き』って結論付けてくれたから」
それを聞いてへなへなと腰が抜けてしまった。
それなりに普通に過ごしていたつもりだったが、私は大層わかりやすい女だったらしい。
「司書さん、大丈夫か?」
「全然ダメです……」
先生に助けてもらいながら立ち上がり、近くのベンチに座る。先生は私の隣に腰掛けた。
「俺から告白したかったのに」
不満と居心地の悪さと照れをごちゃまぜにした顔をする。
「先に告白し始めるわ大泣きするわで、どうすればいいか全然わからなかった」
つい数分前のことなのに、そのことを持ち出されると随分恥ずかしい。
「なんであんなこと言ったんだ」
ただし、それに関しては私だって反論がある。
「誘ったって、先生私のこと好きだって反応じゃ全然ありませんでしたし」
「俺喜んでただろ!?」
「『友人と遊びに行くの楽しみ!』ぐらいに見えましたよ!」
「そうか……」
しゅん、と肩を落とす先生が面白い。
「でもそれだけか? それであんな大泣きするのか司書は!?」
「しませんよ……」
本題は、こっちだ。
「昼間、なんで『司書さんの結婚式には俺も呼んでくれよな』なんて言ったんですか」
そう、ああ私は脈無いんだと思ったのは先生のこの発言のせいなのだ。
クリスマスイブに結婚式を挙げるカップル、というおめでたいような羨ましいような二人を見てから、しばらく考え込んでいたデート相手にぽつりとこんなことを言われたら、誰だって脈無しだと思うだろう。
私に問いただされた先生は、ぱちくりと目を見開いた。そして、気まずそうに視線をそらす。
「ああ、それは……」
ごにょごにょと言葉の歯切れが悪い。
「それは?」
「……俺たちのこの身で、結婚できるかなんてわからないだろう」
絞り出すような声だった。
驚いたのは私の方だ、予想外に真剣な声だったから。
「いつ死ぬかわからないって意味でもそう。無事生き残っても、ずっとこの時代に生まれ育ってきた司書さんと『転生』した俺が結婚できるかなんてわからない。この恋が実りそうだと浮かれていたところに、そんなことをとうとうと考えて思わず、な」
ぽんぽんと、頭に軽く手が触れる。
「司書さんのウェディングドレス姿を見てみたい、ってところから考え始めたんだ、許してくれ」
先生の顔はまた笑顔に戻った、言いにくいことを言い終えて、もう満足してしまったかのような。
「まあでも、そんな先のこと今考える必要ないよな」
それでも私はそんな話に納得出来なかった。
「もう遅いし図書館に「結婚しましょう」
先生の言葉を遮る。
さっきよりもさらに驚いたような先生の顔。
「しましょう、結婚。先生と私で。もちろん今じゃないですけど、将来的に、公的にも私的にも私先生の妻になりたいです」
ああでも、もちろん
「先生が嫌だというのならば別ですが」
「いや、そんな、まさか」
口をぱくぱくさせて金魚みたいだと、使い古された表現を思う。
先生に見せる俳句に使ったら、きっと朱を入れられてしまうけど、当の先生は添削する余裕もなさそうだ。
「俺と司書さんが結婚か……そうか……」
ぼうっとこちらを見つめる先生の目から、つうと涙が溢れてきた。
慌てたのは私だ。
「え、先生そんなに嫌でしたか」
「俺は嬉し涙を流しちゃ駄目か?」
先生は髪をぐしゃぐしゃかき回し、顔を拭い、はあと今日一番大きな息を吐いた。
「ああ、こういうときなんて言うか最近知ったんだ。司書さん、聞いてくれ」
嬉し涙まで流した人が、今更一体何を言うのか興味が沸いた。
「わかりました」
先生が、私の手を両手で握った。
「結婚を前提に付き合ってください」
そんな言い回しもあったなあ、なんて思う。
そしてそんなの、答えは決まりきってる。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
私は、先生の手を握り返した。
終