KOP(ミナト受け)
雄弁シルエット
2025/08/03 23:50カケミナ
「そういえばカズオって、ああいうジャンプ飛ばないよなぁ。」
大先輩OverTheRainbow通称オバレのライブ映像を見ながら、ミナトが言った。
「ああいうって?」
エーデルローズの中でもかなりのオバレファンである二人は、頻繁にライブ映像を鑑賞して語り合っている。
カケルのふかふかのベッドに腰掛けるミナトはゆったりした口調で続けた。
「ほら、今ヒロさんが飛んでるやつみたいな。」
画面に映るヒロは、まさにアイドルという笑顔で桃色のシルエットの女の子…ヒロの煌めきが形になったものを優しくエスコートする。すると会場はその子と自分を重ねたかのような女性たちの声で溢れかえった。
「あー……こういう、ね…。」
「あんまり得意じゃない?」
「そんな事ないよん。おれっち、きゃわい~いチャンネーを喜ばせたい気持ちは誰にも負けないんで?」
「カケルとしてのキャラを貫くならそうなるよなぁ。」
「そうそう。イメージ商売っすからね~。」
カズオと呼ばれる事にもすっかり慣れたカケルはこの場所、エーデルローズでは素を出せるようになっていた。だからわざわざ女好きアピールをすることもなくなった。
画面内のヒロはジャンプを終え、次いでコウジが飛ぶ。
「…ただねぇ、やっぱ煌めきを形にするには理想の女のコみたいなのが必要じゃん?モチロンおれっちだってこういうジャンプ試したことありますよ。でもうまく形にならなかったんだよね~。多分身近にそういう女のコがいないっていうのが大きくて、」
コウジのプリズムジャンプでは、定番の紫シルエットの女性。それが彼が心に決めた相手であることは、ファンなら誰もが知っている。
「だって生まれてこの方御曹司なワケじゃん?恋なんてしてる暇なかったし、それどころか愛だって、つい最近までよく分からなかったわけで。だから決して…あ……。」
喋りすぎた。
カケルが早口で喋るのは推しのことと、イチオシの自社製品のこと。そして都合の悪いこと。
ミナトがその事に気づいていることくらい、カケルにもわかっていた。
コウジはとっくにジャンプを終え、3人同時のプリズムジャンプの真っ只中。
「ごめんな、変なこと言って。」
ミナトは眉を下げて、笑った。
◆
「さあて今日もやりますか。」
静かな練習場に、ストレッチを終えたカケルの独り言が響く。
仕事で遅くなる事が多いカケルは、皆が眠ったこの時間に練習するのが習慣だった。
右足から滑り出し、リンクを一周。
カケルは昼間のミナトとの会話を思い出す。
煌めきをシルエットにするジャンプ。実はカケルは、何度も試みていた。
二週目。
「今日こそは、ね…。」
会社で可愛いと評判の新人。よく握手会に来てくれるファン。受付のお姉様がた。取引先の美人部長。
イメージトレーニングはできた。
三週目。
だからいつものようにはならない、はず。
呼吸と脚のタイミングを合わせて、カケルは飛んだ。
「シャンパンスプラーッシュ!!!」
シャンパンの泡のように、金色の煌めきが弾ける。危なげもなく着氷したカケルは、次のジャンプを繰り出す心構えをする。
誰か、おれっちがときめかせたい相手を。
「2連続!」
つま先が氷面から離れる。
「深夜のアクアリウムキッ~ス!!!」
ジャンプは成功し、カケルの煌めきが形になっていく。
青く淡く光る魚達に囲まれながら二人、静かな水の中で口付ける。
その相手は。
「あぁぁ…やっぱり……。」
少し緑掛かった水色のシルエット。どう見ても女の子じゃない体格。
いつもそうだった。
カケルのジャンプで形になるのは、いつも彼。
こんな心持ちで三連続なんてできるはずもなく地に足をつけたカケルは、両手で顔を覆う。
「やっぱおれっち、ミナトッチの事好きなのかな…。」
