お酒事情(FlingPosse)
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「……では、乾杯とまいりましょうか。お嬢さん」
「は〜い、かんぱい♪」
クラシックが静かに流れる、和モダンなバー。
白磁のグラス越しに、幻太郎はうすく微笑んでいる。
「今夜は、実に愉快な夜になりそうです」
「……始まったばっかりだけど?」
「ふふ、それもまた愉快。
何事も“始まり”というのは、物語において極めて重要なのですよ」
上品な所作で酒を口に含みながら、幻太郎は言葉を続ける。
「あなたのように、物語の中に自ら足を踏み入れる方は、
実に“主人公気質”だ……ああ、羨ましい限り」
「私はそんな大層なもんじゃないって」
「いやいや、ご謙遜を。
物語の中心に座る者とは、実は極めて自然な顔で、
人を惹きつけてしまうものなのです」
「じゃあ幻太郎は、何役なの?」
「さて、それはあなたが決めてください。
——狂言回しか、それとも、道化役か。
あるいは……誰かのために、嘘をつき続ける語り部か」
グラスの中で氷が、わずかに揺れる。
「ポッセでいる時の私は、いくつもの仮面をかぶっている。
ですが——本当は、誰よりも“あのふたり”が、羨ましいのかもしれませんね」
「……乱数や帝統のこと?」
「ええ。彼らの“真っ直ぐさ”は、私には到底真似できませんから」
そう言って幻太郎は、微笑んだまま目を伏せた。
それは、あまりに静かな“ため息のような笑顔”だった。
「ですが……今宵は、あなたという“客人”を迎えておりますからね。
嘘を一つ、しまいましょう。
せめて、あなたの前では——そうでありたい」
「……それは、どれが“ほんと”なの?」
「さあ? それは、あなたが見抜いてください」
そう言って、グラスを持つ手が再びあなたに差し出された。
「それでは改めて。
“真実のような嘘”に、乾杯を——」
━━━━━
「……ん〜〜……」
「……? 幻太郎……?」
グラスを傾けて、すでに数杯目。
ふだんなら全く酔わないはずの幻太郎が、
少しだけ瞼を重くして、あなたにもたれかかる。
「ふふ……これは、酔ったふりに見えますか?」
「……いや、わかんない……」
「でしょうね。
私自身、これが“ふり”なのか、本当に“気が緩んでいる”のか……少しだけ、分からないのです」
「……じゃあ、そのまま甘えててもいいよ。今日は特別だから」
「……なんと寛容な。
では……お言葉に甘えて、少しだけ」
幻太郎はふっと笑って、
あなたの肩に頬を寄せた。
体温がほんのり伝わる距離感。
彼の声が、心なしかやわらかく、低くなっていた。
「あなたのような方が、もっと早く現れていたら……
私はもう少し“真っ直ぐ”でいられたかもしれません」
「……それって……本音?」
「……どちらだと思いますか?」
「答え、くれないんだ?」
「いいえ。
“あなたが信じた方が正しい”のですよ。
私の嘘も本音も、もうあなたの中で選別されているでしょう?」
幻太郎は、少しだけ酔いの色を宿した目であなたを見つめる。
「あなたに触れると、不思議と“嘘”をつくのが下手になる。
……これは、困りましたね」
「それって“うれしい困りごと”?」
「ふふ……さあ、どうでしょう?」
言葉の端々に含ませた感情は、
まるで芝居のセリフのようでいて、でもどこかひどく人間らしかった。
「次にあなたと飲むときは、
もう少し……“嘘”のない私をお見せしましょう」
幻太郎が、そっとあなたの髪に触れる。
「——それまで、覚えていてくださいね。
この夜も、この気配も……この、酔ったような言葉も」
グラスの中の氷が、静かに溶けていく。
それが幻だったとしても——
このぬくもりだけは、本物だと信じたかった。
♡Fin♡
