社畜ヒロインに優しくするヒプマイ達
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仕事帰りの夜道。
六花は肩を落として歩いていた。書類の山に追われ、上司の無茶ぶりに耐え、今日も終電ギリギリ。
スマホに映るメールは、また上司からの長文。
「明日までに確認しておいてくれ」
明日って、土曜日じゃん。
目の前がにじむ。疲れと苛立ちで、思考もまとまらない。
そこへ、ふっと影が差した。
「これはこれは、こんな時間に珍しいですね。」
顔を上げると、着物姿で夜風に袖を揺らし、どこか余裕のある微笑みを浮かべている夢野幻太郎の姿。
昼間の喧騒とは打って変わって、駅のホームに響く声はやけに優しい。
「……幻太郎さん……。」
六花は、ほっとした途端に、涙がこぼれそうになった。
幻太郎はすぐに察したように微笑む。
「顔色が良くない。少し、現実から逃げませんか?」
現実から、逃げる?
その言葉が、疲れきった六花の胸に深く刺さった。
「こんなところで立ち止まっていると、現実に押し潰されてしまいますよ。
さあ、小生と一緒に、物語の中へ。」
幻太郎はそう言うと、六花を駅前の小さな喫茶店へ連れて行った。
深夜でも営業している、不思議と落ち着く雰囲気の店。窓際の席に座らされ、温かいハーブティーを手渡された。
「……優しい匂い」
カップを抱えた瞬間、少しだけ心がほどけていく。
「では、ひとつ物語を。あなたの心を映すような、そんな話を」
2人きりで座ると、彼はテーブルの上に本を置き、静かに語り始める。
「昔々、あるところに“とても頑張り屋な人”がおりました—…」
語られる物語の主人公は、まるで六花そのものだった。
毎日働き、誰よりも我慢して、気づけば心がすり減っている。
けれど、その主人公はある日、森で出会った案内人に導かれ、
たっぷり眠って、美味しいものを食べて、
少しずつ笑顔を取り戻していく—。
「……それって、わたしのこと?」
思わずつぶやくと、幻太郎は穏やかに目を細めた。
「さあ、どうでしょう。
でも、あなたが幸せになる結末を、僕は見たいと思っています。」
その言葉に、胸の奥がじんわりあたたかくなる。
涙がまた滲んだけれど、今度は悲しい涙じゃなかった。
六花はハーブティーを両手で包みながら、幻太郎の物語に耳を傾けていた。
主人公は、案内人と出会ったあと、森の奥へ進む。
そこで見つけるのは、星空の見える静かな泉。
泉に映るのは、泣き顔の自分ーそして、少し先の未来の笑顔の自分。
「未来のあなたは、こんなにも晴れやかな顔をしています。」
幻太郎が語る声が、やさしく耳に響く。
「でも……本当にそうなれるのかな。」
六花はつい本音をもらす。
幻太郎はふっと笑って、指先で彼女の涙を拭った。
「なれますとも。だって、小生がそうなるって言ったじゃないですか。」
ああ、これが“嘘”なのかもしれない。
でも、信じたい。
この人の言葉なら、信じてみたい。
「あなたはもう十分に戦っています。
戦い続けなくても、立ち止まってもいいんですよ。」
そう言われた瞬間、六花の目からぽろぽろと涙がこぼれた。
でも今度は、泣きながら笑えた。
「ありがとう、幻太郎さん……。
明日から、また少しずつ頑張ってみる。」
「ええ。それでいいのです。
さて、今夜の物語はここまで。」
物語は終わったのに、心は不思議と軽くなっていた。
店を出ると、夜空に星がひとつ輝いている。
「見えますか?」
幻太郎が空を指差す。
「あなたの明日のために、星が輝いていますよ。
もちろん、僕の物語に出てくる嘘ですが。」
六花は吹き出した。
「……もう、幻太郎さんってば。」
でもその嘘が、こんなにもあたたかいなんて。
帰り道、足取りは軽く、背筋も少しだけ伸びていた。
♡Fin♡
