社畜ヒロインに優しくするヒプマイ達
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連日連夜残業に次ぐ残業で、もう限界だった。今日は珍しく仕事も早く片付き久々に定時から2時間の残業で帰れた
駅を降りた六花は、ふらふらの足取りで空却の寺へと向かう。
灯籠の明かりが静かに揺れていて、線香の匂いがほんのり鼻をかすめる。
玄関を開けるなり、元気な声が飛んできた。
「おぉ!六花、やっと来たか!顔ひでぇぞ!死人みてぇだな!」
「……ひどい…呼んどいてそんなこと言う?」
情けない笑みを浮かべる六花。
空却は頭をがしがし撫でて、豪快に笑った。
「おう!でもそのままじゃ潰れちまうだろ?いいか、今日は俺が整えてやっからな!」
腕を掴まれ、強引に本堂へ引っ張られる。
夜の本堂は静まり返り、畳の匂いと蝋燭の揺らぎだけがある神聖な空間。
「ちょ、ちょっと空却!?
私は家に帰って布団に入りたいんだけど……」
「ばーか!寝る前に頭空っぽにしねぇと意味ねぇんだよ!座れ!」
半ば押し込まれるように畳に座らされる。
正座もきついから、と胡坐で座ると、空却も隣に腰を下ろす。
「いいか。目ぇ閉じて、呼吸合わせろ」
「……え、こんなに疲れてるのに座禅?」
「だからだって言ってんだろ!余計なこと考えんな!今は“ここ”にいろ!」
彼の声に押されるように目を閉じ、呼吸を合わせる。
最初は仕事のことばかり頭に浮かんで、どうしようもない。
だけど、隣で「吸え、吐け。そうだ……余計な雑念、全部吐き出せ」
と低く通る声が続くうちに、少しずつ心が静かになっていく。
やがて蝋燭の揺らぎと、夜風の音しか残らない。
「……どうだ?」
「……うん、少し楽になったかも」
「だろ!俺に任せりゃこれくらい余裕だ!」
笑って肩を叩かれると、緊張の糸が切れたように六花は小さく笑った。
「……空却、ありがと」
「おう!ありがと、じゃねぇ。まだ終わってねぇぞ」
にやっと笑う空却。
その目は、まだ何かを企んでいるようだった。
┈┈┈┈┈⿻*.·
座禅が終わり、六花は膝をさすりながらへとへとになっていた。
「もう今日は帰ってお風呂入って寝たい……」そう呟く彼女に、空却はニヤリと笑って立ち上がる。
「なに言ってんだ六花。心を整えたら次は身体だろ」
「えっ、いやいやいや!? 私もう十分整ったってば!」
「黙ってついて来い!」
返事も待たずに、彼は山の方向へ歩き出す。
六花は「え、まさか、まさか……」と慌てて追いかけるしかなかった。
そして気づけば──
夜の山道を、空却に引っ張られるように登っていたのだった。
「ちょっと空却!? なんで急に山登りなの!?」
「精神と肉体は一心同体! 座禅で研ぎ澄ましたなら、次は登って全力でぶつけんだよ!」
「修行メニュー詰め込みすぎでしょ!?」
「詰め込んでねぇ! これが基本だ!」
社畜六花、反論むなしく山へ──。
┈┈┈┈⿻*.·
夜も更けて、ようやく山を下りた。
六花は足を引きずりながらもなんとか街の灯りまで戻ってきていた。
心も体も、もう限界……。
だけど、隣を歩く空却はまだまだ余裕そうで、むしろ声を張る元気すらある。
「おい、六花!」
「……なに……」
「弱ぇ顔してんじゃねぇ! 最後の最後まで全力で走り抜けんだよ!」
「い、いやもう……限界……。空却、私ほんとに……」
六花が力なく座り込もうとすると、空却がぐいっと腕を引き上げた。
まるで「倒れることすら許さねぇ」みたいな勢いで。
「ふざけんな。社畜だろ? だったら立てよ」
「社畜……だから……もう足動かないんだってば……」
情けない声を上げる六花に、空却は少し口元を歪めた。
叱責というより、呆れ半分笑い半分。
「なら、俺が動かしてやる」
言うが早いか、六花をひょいとお姫様抱っこ。
「ちょっ!? 空却!? や、やめて! 恥ずかしいってば!」
「うるせぇ!口動かす余裕があるなら、まだまだイケる証拠だろ!」
「ち、違うの! これは羞恥心で体力使ってるのであって…!」
必死に暴れようとするけど、彼の腕はびくともしない。
六花は顔を真っ赤にしながら、されるがまま抱えられて進んでいく。
街灯の下に差しかかったとき、空却がふっと小さく笑った。
いつもの闘志むき出しの顔じゃなく、どこか優しい光を帯びた表情。
「お前さ、疲れきってんのにまだ笑おうとすんじゃん」
「え……」
「そこが気に入ってんだよ。俺が無理やり引っ張ったら、限界超えれたろ?仕事なんかに支配されんじゃねーよ」
六花の胸がぎゅっと熱くなる。
社畜だから我慢して、強がって、でも本当はもうボロボロ。
そんな自分を、強引にでも整えてくれるのが空却だった。
「……空却、ありがと。私、今日ほんと無理だと思ったけど」
「思っただろ? けど、登りきった。限界は自分で決めんじゃねぇ。俺がぶっ壊してやる」
力強い声。
そしてようやく家の前に到着。
六花は空却に降ろされ、ふらふらの足で立つ。
「ほら、立てるじゃん」
「……ギリギリ、ね」
「それでいい。ギリギリで踏ん張って、そこからもう一歩いく。それが修行だ」
六花は思わず笑ってしまった。
厳しくて強引で、でも本気で自分を見てくれてる。
「空却と一緒だと……不思議。ボロボロなのに、また頑張ろうって思える」
「だろ?俺がついてんだから当たり前だ。……ほら、帰ったらメシ食って寝ろ」
「うん。……あ、それと……」
「ん?」
「空却も……ありがとう。ほんとに」
一瞬、彼の耳が赤くなった気がした。
けど次の瞬間にはいつもの笑みで誤魔化される。
「礼なんざいらねぇ! 俺の修行に付き合わせただけだ!」
そう言って豪快に笑う声を聞きながら、六花は胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。
限界をぶっ壊してくれる人。
社畜の私にとって、それはきっと必要不可欠な存在だ。
そして今夜もまた、強引で優しい空却に救われた。
♡fin.♡
空却視点
……ったく。
社畜ってのは自分の限界に鈍感すぎんだよ。
六花もそうだ。
膝ガクガクさせて、口では「もう無理」って言いながら……それでも、俺の後ろを必死に追ってくる。
その姿がムカつくくらい愛おしい。
「強ぇな」って思う。
けど同時に「ほっとけねぇな」って思う。
だから俺は強引にでも引っ張る。
限界なんざ自分で決めさせねぇ。
俺がぶっ壊して、新しい景色見せてやる。
……ほんとは、あいつに笑っててほしいだけなんだ。
仕事にすり減らされて、弱ぇ顔して、でも無理に笑ってんのを見ると胸がざわつく。
だったら俺が叩き直す。
修行って言い訳しながら、無理やりでも前に進ませる。
そうすりゃ、最後に心から笑ってくれるだろ。
……さっきだってそうだ。
お姫様抱っこなんざ俺の性に合わねぇけど、あいつが泣きそうな顔してたら、もう放っとけなかった。
それで「ありがとう」なんて言われちまったら
……赤くなるに決まってんだろ。
六花。
お前は自分で思ってるより強ぇし、俺にとって……放っとけねぇ存在なんだよ。
だからこれからも、勝手に修行に付き合わせてやる。
お前が社畜やってる限り、俺が無理やり整えてやっからな。
俺の修行相手は、お前だけで十分だ。
