社畜ヒロインに優しくするヒプマイ達
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夜10時を回ったオフィス街。
タクシーのクラクションと、工事の機械音が遠くに響いている。
一日の仕事を終えた六花は、肩からずり落ちそうなほど重たい鞄を抱え、駅へ向かう足取りをなんとか進めていた。
「……もう限界……」
思わず口をついて出た。
頭はガンガン、腰も痛い。
それでも明日も朝から出勤。
そう思っただけで、胸がぎゅっと締めつけられる。
ふと、横を通り過ぎるビルの窓に明かりが灯っているのが目に入った。
看板には「天国法律事務所」の文字。
「あ……」
スマホを取り出して時刻を見る。
こんな時間まで、まだ仕事してるんだ。
ほんの少し、心が吸い寄せられるような感覚がした。
どうせ帰っても、ひとりでコンビニ弁当を食べて寝るだけ。
気づけば、六花の足はエレベーターへと向かっていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈⿻*.·
事務所の扉の前
緊張で心臓がバクバクしている。
迷惑じゃないかな……そう思いつつも、手が勝手にノックしていた。
「……どうぞ」
低く落ち着いた声。
扉を開けると、そこにはバーカウンターに腰掛け、書類をめくる天国獄の姿があった。
緩めたネクタイ、無造作にかけられたジャケット。
渋い空気が部屋に満ちている。
「……六花じゃねぇか。こんな時間に何してんだ」
「え、あの……帰り道で、まだ明かりがついていたので、その、」
「ったく、女の子が夜にフラフラしてんじゃねぇよ」
そう言いながらも、獄は眉間の皺をふっと緩め、手招きした。
「まぁいい。ほら、座れ」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈⿻*.·
六花が恐る恐る腰を下ろすと、獄はカウンター越しにグラスを取り出し、
琥珀色の液体を静かに注ぐ。
氷がカランと音を立てた。
「飲め。水割りにしといてやった」
「…ありがとうございます」
ひと口飲むと、アルコールの熱と共に体の芯まで溶けていくようで、
思わず息が漏れた。
「はぁ……」
「相当疲れてんな。顔に出てるぞ」
「……バレました?」
「バレバレだ。仕事だろ?」
六花は小さく頷いた。
「今日は、ずっとミスの尻拭いばかりで……。やってもやっても減らなくて。
自分がいない方が会社、回るんじゃないかなって……」
最後はほとんど囁き声だった。
獄は腕を組み、真っ直ぐに六花を見た。
その視線は厳しいけれど、不思議と逃げられない温度があった。
「……バカ言え」
低い声に六花は顔を上げる。
「お前みたいに真面目に働く奴がいるから、組織は回るんだよ。
だがな、自分を削ってまでやることじゃねぇ。
会社はお前を守っちゃくれねぇんだ。守れるのは自分だけだ」
その言葉は鋭く突き刺さるのに、不思議と涙がこみ上げてきた。
「……獄さん……」
「泣くな。女の涙は似合わねぇ」
そう言いながら、獄は差し出したハンカチでそっと六花の目元を押さえる。
「いいか六花。お前はもう十分頑張ってる。
もっと自分を大事にしろ」
獄の声は、まるで裁判で陪審員を説得するかのように力強く、
それでいて温かかった。
六花はグラスを握りしめながら、小さく頷いた。
「…はい」
「よし。いい子だ」
そう言って、獄はふっと笑みを浮かべた。
グラスの中の氷が、カラン、と小さな音を立てて溶けていく。
六花は目元を拭ったあと、俯きながら小さな声で呟いた。
「……でも、私が休んだら迷惑かかるし……。
頑張らなきゃって思うんです」
獄はカウンター越しに顎に手を置き、六花をじっと見つめる。
その瞳は、どこまでも鋭く、けれどあたたかい。
「六花。よく聞け」
低く落ち着いた声が響く。
「会社にとって、お前は代えのきかない人材じゃねぇ。だがな、六花って人間は代わりがいねぇんだ。壊れたら終わりだぞ。……自分を安売りすんな」
胸の奥が熱くなる。
今まで誰にも言われなかった言葉が、獄の口から真っ直ぐに届く。
「……でも、そんなふうに言ってくれる人、今まで居ませんでした」
「じゃあ、俺が言ってやる。何度でもな」
そう言って獄は、すっとグラスを取り上げ、自分の分を注ぎ足す。
そして軽く掲げて、六花に微笑んだ。
「お前が今日まで倒れずに働いてきた、その頑張りに乾杯だ」
六花は驚いた顔で彼を見つめ、そして照れながら小さくグラスを合わせた。
その音が、なんだか特別な約束のように響く。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈⿻*.·
やがて二人は、事務所のソファに腰掛けていた。
獄は緩めたネクタイを外し、グラスを片手に寛いでいる。
六花はその隣で、気持ちがすっかり緩んだのか、ふにゃりとした笑顔を浮かべていた。
「……はぁ、なんか、久しぶりに楽になりました」
「そうか。それでいいんだよ」
獄はふっと微笑み、グラスをテーブルに置いた。
そしておもむろに立ち上がり、クローゼットからブランケットを取り出す。
「……え?」
そのまま、六花の肩にふわりとかける。
大きな手が、優しく髪を撫でる。
「もう今日は帰るな。ここで寝てけ」
「えっ……でも……」
「女が夜中にフラフラ帰る方が危ねぇだろ。
大丈夫だ、ソファは広い。俺は仕事の続きしてるからよ」
その言い方はぶっきらぼうなのに、声はどこまでも優しい。
六花の胸がじんわりと熱くなる。
「……ありがとうございます」
「礼なんざいらねぇ。……ただ、無理すんな。それだけは約束しろ」
六花は小さく頷き、ブランケットを抱きしめる。
その温もりに包まれながら、いつの間にかまぶたが重くなっていった。
最後に耳に届いたのは、獄の低い声。
「おやすみ、六花」
安心した吐息と共に、静かな夜が流れていった。
♡fin♡
