社畜ヒロインに優しくするヒプマイ達
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会社を出たとき、六花はもう限界だった。
今週だけで何回理不尽な詰められ方をされたかわからない。今日も最後の最後で上司に資料を突き返され、残業ギリギリまでやり直し。
それでも「お疲れさまでした」と笑って帰るのが社会人の義務だと、自分に言い聞かせて電車に乗った。
でも、足はなぜか自宅の駅ではなく、寂雷先生の診療所の前で止まった。
夜の診療所は静かで、窓から漏れるあたたかい灯りがやさしく迎えてくれる。
意を決して扉を開けると、受付はもう閉まっている時間なのに、診察室の明かりがまだついていた。
「……失礼します……」
恐る恐る覗くと、机に座っていた寂雷先生が顔を上げ、ふっと微笑んだ。
「やあ、六花さん。こんな時間にどうしましたか?」
その穏やかな声を聞いた瞬間、胸の奥がぎゅっとなった。
泣くつもりなんてなかったのに、目に涙が溜まってくる。
「……先生……もう……しんどくて……」
寂雷先生はすぐに席を立ち、診察椅子をすすめてくれた。
「大丈夫。ここに座って、少し休みましょう」
落ち着いた声に促され、言われるまま座ると、ふわりと温かいブランケットを肩にかけてくれる。
その瞬間、もう張り詰めていた糸が切れた。
「仕事、全然うまくいかなくて……!
今日も、上司に何回もやり直しさせられて……
私ばっかり残業で……もう……!」
止めどなく愚痴があふれて、涙もこぼれた。
寂雷先生はただ静かに聞いてくれて、相槌もやさしい。
「……それは、とても辛かったね。
六花さんのせいではないことも多かったのでしょう?」
「うん……! わかってても……悔しくて……!」
寂雷先生は黙ってティッシュを差し出し、そっと目元を拭うのを待ってくれた。
「今日はもう、何も考えなくていいですよ。
まずは、温かいお茶でも飲もうか」
ちょっと待ってね。と言うと診察室の奥の部屋に入っていき、少ししたら戻ってきた寂雷先生の手には香りのいいハーブティー。
診察室の空気が一気にやわらかくなる。
カップを受け取った六花は、深く息を吐いた。
「……先生、優しすぎます……」
「六花さんが限界になる前に、ここに来てくれてよかった。
その選択ができたのは、とても立派なことだよ」
寂雷先生の声は、静かなのに不思議と胸に響く。
そうだ、自分は今日、ちゃんと助けを求めに来たんだ。
それだけで少し、肩の重みが軽くなる気がした。
しばらくお茶を飲んで落ち着くと、寂雷先生はそっと六花の手を取った。
温かい手に触れた瞬間、心臓がドクンと跳ねる。
「脈がまだ少し速いね。深呼吸しましょうか」
隣に座り、ゆっくりと息を吸い、吐くお手本を見せてくれる。
つられて同じように繰り返すと、不思議と胸のつかえが少しずつ下りていった。
「……だいぶ落ち着いてきたね」
「……はい。先生、なんか……本当に診察受けたみたい……」
「ここは、そういう場所だからね。
心が疲れたときに来てくれるのも、大切な診療のひとつだよ」
そう言って、寂雷先生はカルテのような紙にさらさらと何かを書き、差し出してきた。
「今日の処方箋です」
そこには、やさしい字でこう書いてあった。
┈┈┈┈⿻*.·
『今日は自分を責めないこと。
帰ったら好きなものを食べること。
できれば早めに寝ること。』
┈┈┈┈┈⿻*.·
「……こんなの、初めてもらいました……」
「薬より、これのほうが効くときもあるからね」
少し笑った先生の顔が、あまりにも優しくてまた泣きそうになる。
「六花さんは十分頑張っていますよ。
辛いときは、またここに来てください。
私は、いつでも話を聞くからね」
その言葉に、六花は小さく頷いた。
診察室を出る頃には、来たときより足取りがずっと軽くなっていた。
帰り道、処方箋の紙を何度も見返しながら思う。
明日もまた頑張れるかもしれない。
だって、自分には帰れる場所があるんだから。
♡Fin♡
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