よんじゅうはちわ
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美しいステンドグラスから光が射す。薄れゆく視界に映るのは年季が入って尚大事に磨かれた十字架。主祭壇に置かれ、広がった血が床まで滴る。礼拝堂には椅子を埋め尽くす程の人が座っていて祈りを捧げていた。
どんな祈りを捧げてるかは分からない。ただ、神様がいないってのは確かだろう。
何度も怪我して、何度も治療され。体の端からちょっと体積が減っていく。こんな赤子のパーツを何に使っているのか、知る術はなく、知る必要もない。
そんな日々も今日で終わり。私の心臓を口にしたその人は黒い何かに食われて死んだ。ざまあみろ。
「■■■■」
嗄れた声の主が私を指差し笑う。その言葉がどんな意味を持っていたのか分からない。ただ寒くて寒くて、それだけだった。ひたすらに耐え続けて、いつしか全てが終わっていた。
泣き喚く私と1人の男を部屋に残し、障子越しの向こうには大人達が並んでいる。それとは反対方向からミシリミシリと畳が軋むくらいの巨体が近付く。半分以上が口の化け物は室内の男には目もくれずこちらに噛み付いた。
死ぬ間際に見たのは、その様を見て口元を弧に歪めた男の額にある真一文字の縫い目と、男が放り投げた錆びた鈴。
─────
「………。はぁ…、起きるか」
毎朝憂鬱で仕方ない。たが二度寝でもしようものならまた夢を見るはめになるので、痛みの感覚が残った身体を動かし始める。
そういえば、今日の夢は他人がよく出てきたな。見る回数も順番も不規則な前世への回帰。
あ、でも、最後の夢は初めてだったかもしれない。
「蝕衰、お前また小さくなってない?」
今日は2年の先輩達に稽古をつけてもらう予定だからまず真希さんの部屋に向かっている途中、いつの間にか横に以前見たようなサイズに縮んでいる蝕衰が並んでいたので尋ねてみた。
「…あー…昨日色々あったんよ…。亜儚に真っ二つに引き裂かれたいうか、その半分を蠱隂の餌にされたいうか…」
「なに?後半よく聞こえなかったんだけど」
「いや、何でもないよ。ひいさんは小さいボク嫌い?」
「どうでもいい」
「酷いわぁ」
へらりと笑う蝕衰を無視して廊下を再び歩き出す。どうせまた何かやらかして亜儚でも怒らせたんだろ。自分関係のことじゃないなら呪霊共の喧嘩とか心底興味ない。
──リン
どこか耳に残るような鈴の音が聞こえてきて、思わずバッと後ろを振り返ったが誰もいないし、何もない。でも確かに音はしたんだ。
「ひいさん?どうしたん?」
「いま…鈴の音が…」
「鈴?ボクには聞こえんかったけど」
「そう。……そう」
幻聴なわけがない。あんなにもハッキリと聞こえたんだから。今にもまた聞こえてきそうなくらいに。
でも蝕衰には聞こえなかったらしい。あんなに大きい音だったのに。…大きい音?いや控えめだった?澄んではなかったと思うんだけど、鈍い音かと聞かれたら迷ってしまう。
音自体は覚えている。なのに何なんだろ、この感覚。
「なんもおらんと思うよ。ボク、ひいさんと違うて呪力感知出来るからねぇ」
「一言余計なんだよ」
まあでも気にしすぎかな…。夢に鈴が出てきたものだから妙に気になってしまった。改めて考えれば鈴が鳴るくらい変なことじゃないし。どこから聞こえたかは未だ不明だけど、蝕衰が呪力を感じないって言うなら術式云々ではないんだろう。
取り敢えず忘れよ。これから特訓なのに余計なこと考えていたくないし、危険がないなら気にかける必要もない。
「ひいさんが気になるなら周囲探ってもええけど、どうする?」
「いい。つかお前も傍にいなくていい。邪魔だし」
「そないなことばっか言うんやから。小さいボクなら可愛さ倍増やろ?」
「0に何掛けても0じゃん」
くだらないことを言い始めたので足を早め置いていく。そしてもう一度だけ自分に忘れろと言い聞かせた。
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