よんじゅうよんわ
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「贄犠!!」
咄嗟に伏黒が私を押し飛ばしたおかげで、新たに現れた呪霊が放出した呪力の塊は私に当たることはなかったが、伏黒の額を抉る。
すぐに体勢を整えたけど私が動くより先に、その呪霊に伏黒が攻撃され壁に叩き付けられて気絶したのか玉犬が消える。
「ふ、しぐろ…っ!」
呪霊が追撃の為に再び呪力を放出する。今度はその動きを捉えていたので、伏黒との射線上に入り呪力を込めた手を払うことで相殺する。
蝕衰の領域展開をやって以降は呪力による強化が可能になってたから助かった。腕に多少の痺れはあるものの単純な呪力放出なら格上の呪霊でも自分の呪力で防げる。
こてりと首を傾げた呪霊が数度同じように呪力を飛ばしてくるがそれを防ぐ。呪力を飛ばすだけでは通じないことを理解した呪霊は直接襲いかかってきた。
これが困るんだよなぁ…!身体能力の強化ができるようになったと言っても、突然肉弾戦までもできる訳がない。つまるところ戦闘面においても私は1人だけだと役に立たない訳だ。
初撃は呪具で耐えた。しかしその衝撃で呪具は砕け、二発目はモロに腹に食らった。まるでボールのように跳ね飛ばされ地面に伏す。
呪霊が意識のない伏黒の方に行ったらまずいと思ったが、軽く吐いた血に反応してこっちにやって来る。近くの岩を支えに立ち上がったものの勝つビジョンは一切浮かばない。
禁錮は成功すればまず抜け出せない代わりに四肢の拘束に限定されてるから、あの呪霊のスピードだとよっぽど隙がないと当たらないと思う。汚濁は未完成、領域展開なんて無理に等しい。あー…詰みぃ…。
思考を巡らせている間に呪霊がすぐそばまで迫っている。このままやられるのは嫌だ、と思い切り呪力を込めて殴りかかるが、呪霊はニタニタと笑みを浮かべながら難なく避ける。どれだけ呪力量が多かろうが当たらなければ意味が無い。
呪霊は一気に距離を詰めその大きな口がパカリと開いて、私の肩へと噛み付いた。制服の上から肌に食い込み、噛みちぎろうとしてくる。
「いっ、たいな!!」
呪霊の顎にアッパーを食らわせば、今日初その攻撃が綺麗に入る。だが反射的にやっただけだから呪霊を倒すには威力が足りなかった。こちらの反撃に腹を立てたのか、私の首を掴み横っ面を拳の裏で薙ぐ。
そしてこちらが大人しくなったのをいいことに次は腹へと歯を立てられる。ぶつりと肌の裂ける音がして、血を啜る音がして、肉を食らう音がして。
「いたい」
こぷりと言葉と共に口から血が溢れる。
「いたいよ」
ただでさえ強い呪い。私を食べたらどうなるんだろ。
死んだことない奴って死への恐怖が足りないと思うんだ。次があるのを知らないから。死ぬほど苦痛を味わって命が終わったのにまた次だ。あれ、次があるのって私だけだっけ?まあそれはいっか。
というかなんでこんなこと考えてるんだろ。思考がぐちゃぐちゃで支離滅裂だ。
「いたいってば」
その間も呪霊は初めてデザートを食べた子供のごとく、まるで食べることが勿体なさそうに、それでいて楽しそうに貪る。こっちはこんなにも死にそうなのに、その笑みに心底腹が立つ。
「…む、しん」
力の入りにくくなってきた手を伸ばし、食べるのに夢中になってる呪霊の頭部に触れて術式の名前を呟く。掌印も何もない。それでも今は、このままだと確実に死ぬと言っても過言でない今なら、何故かできる気がした。
──死はそこにある。
──死を恐れろ。
──死を受け容れろ。
──お前の生は死で形成されている。
影が囁く。
──呪われろ。
──呪われろ。
──呪え。何もかも。この世すべてを。
──その心のままに。
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