さんじゅうきゅうわ
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「…痛い」
身体の痛みで目が覚める。瞼を開き、まず視界に映ったのは小さな死体。
「ッ、」
亡くなってから随分時間が経っているようで、腐った肉の下から白い骨が覗いている。思わず逃げようとするのに身体は言うことを聞かず、後ろ手に拘束されてる上に指先まで自分の意思で動かすことが出来ない。
…落ち着け、先に状況を把握しないと。私は確か、任務に行ってて…恐らくだけど後ろから頭を強く殴られたとこまではうっすら覚えてる。つまり拉致された…?
部屋の壁には大量の御札が貼られ、亜儚を見て気絶した後高専に連れて行かれた時のあの部屋に少し似ている。
「アッ、目ぇ覚めた?よかった、強く殴りすぎちまったかなって焦ってたんだわ」
何か情報はないかと見える限りで部屋の中を見渡していると、ドアが開き見た目は二十歳そこらの男が入ってきた。
「リンゴ食う?俺包丁使えねえから丸齧りになるけど」
男の問いかけには答えない。つかこんな状態でどうやって食べろってんだよ。いやまず食べる気もないけど。
「体の調子は?動く?俺的には動かないでくれると助かんだわ」
「……そりゃ良かったね。全く動かないから」
「そいつは何より」
その言葉を聞いて男は目の前にあった死体を乱雑に部屋の隅へと放り投げる。
「この部屋さぁ、外と中で完全に呪力を絶つ役割をしてるから、あの腐った肉塊はここに置いとかないといけねえんだよな。ここ入る度に毎回あの臭いはキッツいわ」
どういう意味だ?あの死体が呪力を持ってると?呪物とかそういう類いなんだろうか。
「あり?わかってない?でもまあわかんねえか。別にもう生きた状態が手に入ったからあれはいらねえしな」
ニヤニヤとネタばらししたくて仕方ないといったような顔をしてご死体を指差し、ご機嫌な男が言う。
「あれ、
「───は?」
「いつかのお前の死体。対面した気分はどうだぁ?」
わ、たし?いつかの私…前世の死体ってこと?なんでこの男がそんなこと知ってんだ。それで生きた状態って私のことか。
自分だった赤子の死体を目にしても頭の中は予想外にも冷静だった。
「んー、泣き喚いなりしねえの?つっまんね」
「泣くようなとこある?私は全く思い付かないけど」
「へぇ…結構淡白なんだな。黒刃から聞いてたのとちょっと違えわ。つか最近アイツと会わねえんだけど、なんか知ってる?」
黒刃、ね。死んでも迷惑かけるってどういうことだよ。どれだけ私のこと裏切ってたんだか。
「あれなら祓ったよ。私に従順じゃなかったから」
「マジ?」
「嘘か本当かは好きに取れば」
「うっわぁ、マジかぁ…。アイツあれでもいい情報源だったんだぜ?」
知るかよ。私からしたら迷惑極まりない。
「アンタの情報はさ、全部黒刃が教えてくれたんだよな。アイツは俺を利用するつもりだったんだろうけど、死んでちゃ元も子もねえわ。ま、お陰で俺は分配する必要がなくなったから総取り出来たわけだけど」
お喋りな男だけど、以前の呪詛師のように呪言を使うとかではなさそうだ。ならこの男が喋ってる間にせめてもう少し状況を把握したい。
「私の近く、呪霊がいたはずだけどよく無事だったね」
「ああ、あの特級のヤバい奴ら!いやぁ、あれはマジでヤベーよ。あれら従えてるとかアンタもとびきりヤバいんだってのが身に染みてわかったわ」
「でもそのヤバい奴らを掻い潜って私を拉致ったんだからお前も相当の実力者なんじゃないの」
「ん?違う違う。俺はアンタを使っただけだから。正確に言えばあっちのアンタだけど」
男が視線をやった先にはさっき投げ捨てられたいつかの私の死体がある。
「あんなゴミみたいなのが役に立つんだよなぁ。腐敗があれ以上進まないよう頑張って保存してた甲斐が有るってもんだ。
あれの腕をさ、1本ずつそれぞれに投げつけただけでめちゃくちゃ食い付いたんだわ!あんだけヤッバイ呪霊がお預けくらってた犬みたいによぉ!いやー、あれは面白かった!」
ケタケタと笑う男に苛立つ。どこが、というか全てが。
そして異変に気付いた。呪力が捻出出来ない…?呪力の捻出なんて普段なら意識したことすらなかったから気付くのが遅れた。
「呪力が…」
ポロリと口から出た言葉に男が過剰なほど反応する。
「やーっと気付いたのかよ。こっちはいつ気付いてくれるかなーってソワソワしてたのに。
お前の腕を縛ってるのって縄じゃなくて呪霊なんだわ。その呪霊が特殊なやつでさ、永遠と呪力を吸い続けんだよ。はじめは蓑虫程度の大きさしかなかったのに、もう鰻レベルの長さになってる。まあ俺、鰻の長さとかどのくらいか知らんけど」
飼い慣らすのに苦労したなどと話す男を無視して腕を動かそうと試みるが、まだ身体はどこも動く気配はない。
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