さんじゅうごわ
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目覚めはいつだって最悪だ。飢餓感に襲われ、痛みに悶え、死の恐怖に怯え、自分が五体満足であることに違和感を覚える。
胸糞悪い夢を思考から消したくて思わず頭を横に振ると、視界の端で黒いものが動いた。
それはいつも私の傍にいる。でも私はそれが何なのか知らない。泥のようで、影のようで、決まった形を持たない流動体なそれはおそらく私の心に呼応している。
亜儚に聞けばきっとそれの正体がわかるのだろう。あの呪いは隠し事ばかりだから。でも何故か、私はそれを知るのがこわい。
「ひいさーん、起きてはる?」
「…うるさい」
「今日は任務の日やろ?またボクの術式試してみよ?」
「まだ起きたばかりなんだけど」
「あらら。ちょっと早うに来すぎたねぇ」
「なんでそんなやる気なの」
「ひいさんと同じ何かってのはボクらにとっては凄く嬉しいんよ」
「あっそ」
少し話したお陰で身体の違和感は拭われた。
蝕衰の言うように今日は任務だ。いつもより早いけど準備するか。
「ああ、そうや。ひいさん」
「?」
「
「───なにも」
「そう。ならよかったわぁ」
残念ながら、隠し事が多いのは亜儚だけじゃないようだ。
─────
「お邪魔しマース」
ガチャリとノックもなしに扉が開く。
「五条先生…」
いやノックくらいしろよ。鍵かけてなかった私も私だけど。でも他人の自室に入る以上ノックは基本だろ。
入って来て早々に五条先生が遠慮なしにジロジロと私を見る。目隠ししてるから本当に見てるかどうかは不明だけど。
「……僕さあ、入れ込み過ぎだって言われたから高専に慣れて以降は、戻れないのは知っていたけど少し距離を置いてたんだ。自覚もあった。周囲すらそれに気付いた。だけど変わらないんだよね、どこにいようと」
「何の話ですか?」
「欲は消えないし、執着は増すばかりだ。同じように感じる奴がいると思うと、いっそのこと隠してしまいたくなる」
五条先生はまるで独り言のように呟く。私に話し掛けているのに、私の返事は必要としていないみたいだ。というか本当に何の話なんだろうか?
「共有なんて冗談じゃない。欲が生まれるのは自分だけでいい。
なのに、酷いよね。なまえは」
エッ、今私が酷いことしたって言葉ありました!?私は無実ですけど!事実無根ですよ!是非とも言い返してやりたいのだが、五条先生の様子も少しおかしいので様子を見てみる。
顔に向かって手が伸びてきて、親指がゆっくりと目元をなぞる。そのまま頬に手が添えられたかと思うと、首の動脈を指で押され、軽く爪を立てられた。
「っ、あの、ちょっと苦しいのですが…」
「もう手遅れって言葉がぴったりだよね」
「五条、さん…?」
何となく五条先生ではなく、会ったばかりの時みたく五条さん、と呼ぶと驚いたようにバッと五条先生の手が離れる。
「えっと、五条先生?どうかしたんですか?」
「……なまえはこわいなぁ」
「はい!?酷いとか怖いとかこっちのセリフなんですが!?」
朝から一体なんなんだこの人は。急に部屋に来てよくわからないこと言い出したかと思ったら、頸動脈を押さえられて、こちとら朝から生死握られてた気分だったぞ。あとノックなしで入って来た件は忘れてないからな。
「なまえ」
「はい?」
「僕はきっと欲しいんだろうね」
いや何がだ。さっきから意味不明過ぎるんで説明を要求します。
「ごめんね」
「はあ…?」
何に対する謝罪なんだろ?今の一連の出来事に対する?にしてはちょっと深刻そうな雰囲気。
「…あー、最初から何の話かはさっぱりですけど、取り敢えず着替えていいですか」
空気読めてないのはわかってるよ?でも私ずっとパジャマなんだよ。しかも学長がくれた着ぐるみのやつ。さすがに人前でこれは恥ずかしい。
しかもシリアスっぽい雰囲気の中、この格好はシュールすぎる。お願いだから着替えさせて欲しい。
「………」
«パシャ»
「あ!?おいコラ!今何撮りやがった!?」
「はあ…気が抜ける」
「どういう意味!?つか消してくれません!?」
携帯を奪おうと立ち向かうのだが、五条先生はするりと避けて部屋の外に出る。ぐ…追いかけたい。追いかけてすぐさま写真を削除したい。でもこの格好で廊下なんて出れるわけもない。
さっきまでの真剣さはどこに行ったのか、五条先生は廊下から携帯を振りながらニヤニヤと笑っている。こ、んの、クソ教師…!!
五条先生を追いかけるのを諦める代わりに、苛立ちを込めて扉を力一杯閉じる。ついでに鍵もかけた。
朝から腹立つことの連続だ。今日は厄日か…?もしかしたら更に何かあるかもしれないし、任務は特に気合い入れて行こう。
にしても五条先生は何の用事だったんだろ?
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