さんじゅうよんわ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「いたたたたた!痛い、痛いって!おい聞いてんのか!」
「この指はそうではなく、こう曲げろ」
「い、っ〜〜…!!だーかーらーぁ!人の指はその方向には曲がんねえんだよ!」
印の結び方の指導の為にとんでもない方向に指を曲げようとしてくる亜儚に蹴りを入れるが、何一つ手応えはなくその体は霧散する。
まず呪いの指と一緒にすんな。こちとら生贄だなんだって言われても身体能力は普通の人間なんだよ。普通の人が曲がらない方向に指は曲がらねえわ。
やっと解放された手をグーパーしてみるが異常はない。でも指痛い…。
もうさ、亜儚の術式無理じゃない?つか無理でいいよ。印結んでやらないと出来ないなら絶対無理。先に指折れる。
「根気のないことだ」
うるせえ。
ガサガサと草木が揺れる。一体何かと身構えたが、明るい茶髪と黒の制服が見えて警戒を解く。
「贄犠ー、五条先生にどら焼きもらったんだけど休憩にしねえ?」
人気のない森の中までやって来た虎杖がとても魅力的な誘いをしてきた。
「する!」
ちょうど休憩したかったんだよ。五条先生からの差し入れならちょっとリッチなお土産の可能性が高いから食べなくては、なんてことは決して思ってない。
準備良くレジャーシートも持参していたので、それを地面に敷き、まるでピクニック気分だ。
「何気に贄犠と二人だけって珍しいよな」
「ふぁひはに」
「伏黒は任務で釘崎は買い物だっけ」
「ん」
「ねえ、めっちゃ食ってない?」
「ふぉなは…………お腹減ってたんだよね」
八つはあったどら焼きが既に残り三つだ。虎杖が一つ食べたから、私が食べたのはまだ半分だけだしセーフだって。
「特訓の方はどう?」
「指折れるかと思った」
「それどういう状況?」
言葉の通りだよ。気持ち的にはもう大分諦めモードだからね。
「虎杖はめっちゃ強くなってたけど、どんな特訓したの?」
「どんな、どんなかぁ…。例えばぬいぐるみに呪力を流したりしたな」
え?あれやったの?てか出来たの?天才かよ。
ちなみに私は未だ完全には安定しない。つい先日もそれやってる最中に五条先生が驚かしてきたせいで四散させたばっかりだ。毎度学長先生に申し訳ないと思ってはいるが、苦手が克服出来る気配はない。
「虎杖は何でも結構そつなくこなすよね」
「そ?贄犠は器用そうに見えるけど不器用だよな」
「うぐ…ごもっとも」
虎杖の言う通り私は器用じゃない。大して要領も良くないし、人と違うのは体質とこの身の呪いくらいで特質してすごい所なんてない。
それに比べて虎杖の長所だったらポンポン出てくる。運動神経抜群。それに視野が広く、人を見る目がある。身体能力に全振りしてるって言ってもおかしくないくらい肉体的に優れてるのに、観察力もいいときた。それと性格。明るく、優しく、責任感が強く、善良で。
こんなふうになりたいという理想系に素で近い虎杖が少し羨ましくもある。出来ることなら彼みたいな人になってみたかった。
誰かに好かれる意味が欲しい。誰かに認められる価値が欲しい。もう二度とひとりぼっちにならなくていいような絶対的な理由が欲しい。
自分に自信が無いから、生贄であること以外の価値を見い出せないから、だからいつまで経っても不安がついて回るんだ。
「あと結構寂しがり屋ってのもあるかも?」
「………」
「贄犠?」
「あ、ごめん。少しぼーっとしてた」
「…特訓ってまだやんの?伏黒はまだかもだけど、そろそろ釘崎とか帰ってくんじゃね?」
「んー…もうちょいやってから戻るよ。差し入れありがと!」
「そっか。じゃあ俺先に戻っとくね」
「うん」
皆、私より強い。皆、私の遥か先を進んでる。
少しでも追いつきたい。置いてかれたくない。高専の皆と離れたくないから呪術師になると決めた私は、志からして呪術師に向いていない。それでも諦めたくなんてないから。
よし、虎杖のお陰で気合いが入った!もっかい頑張ろ。
「亜儚。もう一回やる」
「やる気になったのなら好きにするといい」
「ただ印の結び方は別のにしろ!」
「……」
言っとくがそこだけは譲れないからな!!
1/1ページ