さんじゅうにわ
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腕の痛みによって目が覚める。視界に映る白を基調とした部屋…ここ、どこだろ。
「お、起きた?」
ひょこりと私の顔を覗き込む白衣の美人は珍しくお酒の匂いを漂わせていない。
「硝子さんが素面って珍し…」
「飲んでいいなら飲むけど」
「嘘ですごめんなさい」
どこから取り出したのか一升瓶を手にするものだから、咄嗟に否定し謝罪する。傍にお酒常備って色々とダメだと思う…。
「痛みで当然わかると思うけどまだ全快はしてないよ。なまえ燃費悪すぎない?治しきるのにどれだけ呪力使わせるんだってくらい。少なくとも一日二日じゃ無理」
「あー…はい、さーせん」
そういえば蝕衰もそう言ってたしな。自分じゃわからないけど申し訳ない。
「でももう固定はしてるし、部屋には戻っていいよ。鎮痛剤も渡しとくから」
「はい。あの、団体戦からどれくらい時間が経ちました?」
「大体3時間くらい。ちなみに団体戦は無効」
「そうですか」
まあ勝敗どころじゃなかったしね。
「あと、その腕のって刺青じゃないでしょ」
「…?あっ、忘れてた…。み、見ました?」
「手当てしたんだからそりゃ見たよ」
「ですよね…」
あちゃー見られたかぁ。今までバレないように気にしてたんだけどな。
「その痕自体に害はなくとも、呪いを図に乗らせないようにした方がいいと思うけど?」
「ごもっともです…。五条先生とかにもう言いました?」
「まだ」
「内緒にしてもらったりとかって…」
ちらりと硝子さんの表情を窺うが、さすがのポーカーフェイスで感情は読めない。
「ま、いいか。後から発動する術式とかではないから、黙っといてあげる」
「硝子さん…!」
よかった。もしバレようものなら怒られそうだったから助かった。五条先生が怒るのってあんま想像がつかないけど、生徒陣からは絶対怒られる。硝子さんが内緒にしてくれて本当によかった。
それにしても五条先生に強制的に眠らされたからか、いつもより夢は見なかった気がする。一、二回しか死ななかったのは珍しい。ただ薄らと絞められた感覚の残る首をさする。
「寝違えた?」
「…そう、ですね。少しだけ」
少しだけ、普段より長く夢を引きずってるだけだ。
部屋の外に出て位置を確認すると、どうやら女子寮の空き部屋だったようだ。まあ保健室に他の生徒がいた場合、寝てる時が一番呪力が不安定な私がいると休まらないだろうし妥当だな。
「蝕衰、お前ならこの怪我治せる?」
部屋への道すがら、独り言のようにポツリと言葉にすれば当然のようにソイツは現れる。
「すぐに全部は無理やねぇ。ボクとあの反転術式が使える人間の呪力じゃ前の裂傷くらいが限界やったし、今回は中までボロボロになってるから毎日すっからかんになるまで呪力使うても一週間はみといた方がええわぁ」
一週間か…長いな。それに硝子さんの反転術式は高専にとって貴重な能力だしそんな長期間私の怪我に当たらせるわけにもいかないだろう。そうなるとやっぱり蝕衰にやらせるのが最善かな。
「部屋に戻り次第術式で治療して」
「それは構わんけど、今日には治らんよ?」
「知ってる。だから血を使う」
「え…?」
「私の血で呪力は回復するんでしょ。亜儚を監視に付けて完治するまで反転術式を繰り返してもらうから」
「ひいさん…うそやろ…?ご馳走の味見だけさせてポイやなんて、それもう拷問やん…。ボクがひいさんのお願いなら断れんから言うてはるよね?」
知るか。使えるものは使っとかないとね。
部屋に戻ってすぐ、亜儚の監視付きによる治療が行われた。蝕衰が少しでも多く血を求めようものなら亜儚から尋常じゃないほどの殺気が飛ぶ。休憩を申し出れば手が、弱音を吐けば足が出る。コイツ、予想以上にスパルタすぎるな…。なんかちょっとだけ蝕衰に申し訳なくなってきた。
「これはひいさんの為。これはひいさんの為。これはひいさんの為」
もう呪文のようにブツブツと同じことばかり呟いている。むしろあれ以外の言葉を言うと亜儚から制裁が下る。やれと命じたのは私なんだけど、なんというか、哀れな奴…。
蝕衰の奮闘によって完治した左腕をぐるぐると回す。うん、問題なし。全ッ快!
「ひいさんが嬉しそうで何よりやわぁ…」
ボロ雑巾のようになった蝕衰がへたばりながらも完治した腕を見ている。時々狡猾なところはあるけど、一応献身的ではあるんだよね。
「それで相談なんやけど、ひいさんが手ぇ切るのに使うたカッターと血ぃ拭いたタオルをくれたりとか、」
蝕衰の言葉の途中で所望してきた物に付着した血を容赦なく水道で流す。やっぱ献身的ってのは前言撤回で。
「あ、ああぁぁぁぁ………」
プルプルとこちらに手を伸ばし悲痛な声を上げる蝕衰の頭を亜儚が上から足で押さえつける。それがトドメになったようで悲痛な声は止んだ。
「腕も治ったことだし、ぶらついてくるから帰るまでにそこのボロ雑巾を部屋から出しといて」
承知した、と言った亜儚に背を向け部屋から出る。そういえば亜儚は前回も今回も何故か血の匂いに反応しないんだよなぁ…。
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