にじゅうごわ
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暗いどこかに私はいた。何故か甘い臭いがする。暗さに慣れてきた目で隣を見れば腐って変色した肉の塊が無造作に置かれている。それは人のような形をしていて。
──ああ、これは死臭だった。じきに、私もこうなる。
小さな体を吊るした梁は、ぎぃ…ぎぃ…、と微かに軋む。目線の先では小さな足がプラプラと揺れている。
霞んでいく視界で最後に見たのは我先にと吊るされた私を見上げて手を伸ばす異形共の姿だつた。
ぶちり。柔い腕はいとも簡単に千切られた。気味の悪い化け物がたくさんいて、私の体を取り合う。引っ張って、爪を立て、切り裂いて。
死ぬ間際、肉を取り合い半分以上減った化け物達と目が合った。
ここで待っているように、と狭い箱のようなものに入れられた。暫くすると上から大きな塊が降ってきて、当然のように潰れて死んだ。
──■■■。
だれ。
■■■■、■■■。
なんて言ってるの。
■■、■■■■■■■。
わからない。
■■■■■。
顔の見えない誰かに胸を開かれ、心臓を奪われる。
■■■…■■。■■■■。
それなのに何故か私の意識はまだあった。
…■■、────禁忌の果実よ、呪われろ。
「───っっ!!!!はっ、は、っ…ぁっ…は、は…はぁ…っ、………。な、に…いまの」
怖い。理由もなく恐怖が沸き上がる。
「亜儚、亜儚…っあ、もう…っ!」
何度呼んでもあの呪霊は現れない。今の夢は何。あの人は誰なの。
目が覚めたのに、今が現実なのに、生きている心地がしない。本当にここは現実だよね?まだ夢を見てるんじゃないよね…?
夢じゃない確証が欲しい。誰かの言葉が聞きたくてスマホを起動する。時間を見れば深夜1時半。こんな時間に迷惑なのはわかってる。でもどうしようもなく耐えられないくらい、何故か怖いんだ。
呼出音が鳴る。5回ほど鳴って、もしもし、と少し掠れている声がした。
「───五条、先生」
『なに?どうしたの?』
「遅くにすみません。あの、意味わからないと思うんですけど……夢じゃないって、言ってくれないでしょうか」
『何かあった?』
「あ…い、や、すみません。もしかしたら寝惚けてるだけかも。急に電話しちゃってごめ、」
『夢じゃないよ』
「────」
『今の言葉もなまえが都合のいい夢を見てるんじゃなくて、ちゃんと現実だ。だから怖がらなくていい』
「…ごめんなさい。ありがとう、ございます」
その後、軽く話して電話を切った。
夢じゃない。私の居場所はちゃんと高専にある。
壁に肩を寄せベットの枕元を見れば1年生皆で撮った写真が飾ってある。
そっか、夢じゃないなら本当に虎杖は、死んだんだ…。
さっきまで夢でないかと恐ろしかったのに、夢なんて大っ嫌いなのに、この事実だけは夢であって欲しかった。……矛盾ばっかりだ、私は。
「すぅ…ふーーー………。亜儚」
「どうした」
次は一瞬で姿を現す。やっぱコイツさっきのは聞こえた上で無視しやがったな。
「お前、何を知ってる。禁忌の果実って何のこと。誰が私を呪った」
「私が語るべきことではない。時が来れば自ずと全てを夢が見せる」
「いつ知るかを決めるのは私だ。お前が見せる夢なんぞに左右されてたまるか」
乱暴に頭を掴もうとして、やめた。髪であろう部分に指が触れた瞬間、霞のようにその接触部分だけが消え去ったからだ。どうせ徒労に終わるなら意味がない。
「おかしな事を言う。フラクタス、お前はいつだって私の夢に囚われ、殺され、怒り、憎み、死を重ね続けているというのに」
「だまれ!」
そんなこと知っている。コイツの見せる夢はいつだって私を苦しめてきた。これ以上揺らぎたくないから、こうやって強気に出ている。
それなのに亜儚はお見通しだとでも言いたげに私の心の内を暴く。
「夢を見るのは恐ろしいだろう。死にたくなどないだろう。
しかし、お前はもう夢を見ない夜が来てしまったら恐ろしいのではないか?」
「────え」
「夢を見ず、死ぬことのない夜はどのようなものか想像すら出来ないだろう?
そして幾度となく死を巡るとはいえ、夢では思考すら赤子に戻る。煩わしいことなど何一つ考える必要もない。
死は慣れる。お前は自分の死に慣れた。最も恐れる死を、最も身近に感じている。しかし他人の死は?身近な他人の死に耐えられなかったのだろう?だから今日は早くに眠りについた。お前にとって夢は、死は、逃げ道の一つになってしまっている」
否定、出来なかった。虎杖の死を考えたくなかったから、すべてを忘れて前世に還る夢に溺れた。私が、望んだ。
「だからあの夢を見た。
生き物にとって死は平等だ。一度訪れればそこで何もかもが終わる、それが理だと言うのに。それから外れた己を否定せず受け入れてしまったから、原点に至ってしまった。」
原点…。あれが…?
「望むなら忘れさせてやろう。朝になり目が覚めれば、数知れない死がお前の原点の記憶を塗り潰していることだろう。そして夢見る夜の間は、友の死すら頭から消してみせよう」
死にたくない。死にたくない。死にたくない。
でもやっぱり矛盾だらけの私はその言葉に抗うことなく、数えるのも馬鹿らしいほど何度も死んだ。
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