朽ちぬ命に価値などない
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私は藤の花の家紋の家で生まれ育った。
藤の花の家紋の家は、鬼殺隊の誰もに無償で尽くす事を約束し、鬼殺隊員が訪れると無償で食事や寝床の世話をし、隊員の去り際には見送りと切り火をして今後の任務の遂行と隊員達の無事を祈っている。
なんでも曾婆ちゃんだか曾爺ちゃんだかが鬼狩り様に助けてもらってから藤の花の家紋を家に刻んだらしい。鬼狩り様の手助けが出来るのはとても誇らしいことなんだそうだ。
いや知らねーよ。だって私が生まれた時、曾婆ちゃんも曾爺ちゃんも死んでたし。鬼狩り様がいなければ私が生まれることもなかったとか言われても実感わかないっての。
つーかさ、正直言っていい?命救われて感謝してるのはわかるけど何十年無償で援助する気?会ったこともない子孫の身にもなれよ。
鬼狩り様とやらもなんで尽くしてもらうのが当たり前になってんだって話。金も払わず家に泊まって、ご飯食べて、風呂入って。うちは無料の民宿じゃねえんだぞ。初めてお前ら見た印象言ってやろうか?お前ら何十年も図々しすぎだろ。
そんな不満を抱えながらも親に言えばめちゃくちゃ怒られるし。はあ…世の中って面倒くさいわ。
「なまえ、なんか裏の方で猫か何かが唸ってるみたいだから追っ払っといて。この辺を縄張りにされたら困るわ」
「えぇ、なんで私が。母さんやればいいじゃん」
「ならアンタが夕飯の買出しに行くのかい?あたしゃどっちでも構わないけどね」
「裏口行ってきまーす」
これ以上文句を言って怒鳴られる前にそそくさと家の裏に回る。
猫くらい放っとけばいいのにさぁ。神経質な人ってこれだから嫌だよ。直接触りたくないから扉の近くに立て掛けてあった箒をついでに拝借しておいた。
家の裏と言っても別に路地裏のように薄暗いとかではない。藤の花の家紋が描かれている玄関の反対側というだけで普通の道である。
行き交う人はいつも通り。八百屋の客引きのオッサンもいつもと変わらず頭が眩しい。
そんな日常に異物が一つ。間違えた、一人。
黄色い人が道のど真ん中で蹲ってべそべそ泣いている。その人は黄色の着物を羽織り、奇抜な黄色い頭をしていた。
道行く誰もがそちらにチラリと目線をやるが、絶対に面倒事になりそうな相手なので見なかったフリをして通りすぎる。これ追い払わないといけないのか…。母さんや、猫より困る人間がいたんですが、無事追い払ったら小遣いを寄越せ。
「あの、大丈夫ですか?」
「…?俺に言ったの?」
「まあ、はい。そうですね、貴方に言いました。具合が悪いならお医者様を呼びましょうか?」
「やさしい…」
そりゃこんな所で騒がれても迷惑だからな。うちの関係者だと思われるのはごめんだ。
「それで体調はいかがですか?」
「えっと、元気です」
は?ならなんで蹲ってたんだよ。すげえ邪魔なんだけど。
「道に迷って、何度探してもここに来て、雀は何言ってんのかわかんないし…今回は炭治郎もいないし…ぐずっ」
雀は元々何言ってるのかわからないもんだわ。というか誰だよ、炭治郎。保護者ならちゃんとこのお子様見てろよ。
「よくわからないですけど、地べたに蹲ってはダメですよ。ほらいい子だから立ってくださいね」
「うん」
同年代くらいの相手なのにまるで幼児を相手してるみたいだ。マジで面倒くせえ。
彼を立たせて服についた砂埃を叩いていたら気がついた。
黒い詰襟の洋装に藤が描かれた釦。おいおい、嘘だろ。コイツ――鬼狩り様じゃん。
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