貴女は悪い人
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鉄臭く薄暗い路地裏から、明るい大通りへと出る。雑多な人混みに紛れながら、靴裏の赤い液体を地面に擦り付けた。
夕方のニュースで最近街で通り魔が出ていると流れていた。やだなぁ、この街今までは結構治安が良かったのに、そんな物騒な人がいるなんて。引っ越しちゃうのも考えとかないと。
土曜日は特別。おろしたての服を着て、良いモノを探しながら街中を散策するのがルーティンになってる。
今日はピンヒールのパンプスを履いて、歩く度に聞こえる音が心地良い。そうして暗く細い道の先でこちらをじっと見つめる瞳に手を振った。
どうやら通り魔の被害にあった人は昨日で2桁を越えたらしい。3ヶ月くらい住んだアパートだから多少の思い入れはある。と言っても今月分の家賃にちょっと色をつける程度の愛着だけど。
今日はいつもと違う土曜日。服は動きやすいように着慣れたパンツスタイルで、ガラガラとキャリーバッグを引きながら歩く。後ろから感じる視線はもうこの街には居られないことを暗に示している。
視線の主を探す程馬鹿らしいことはない。私の意思で直接対面すればどうなるかなんて分かりきってるから。
国境を越えて別の国の大きな高級ホテルで部屋を予約した。スイートルームに泊まってみたかったから取り敢えず10泊そこで予約すると懐が随分寂しくなってしまった。
困ったな、もう1年くらいはフラフラするつもりだったけど、思ったより早く家に帰らないといけないかも。
取り敢えず10日間はのんびりホテルで過ごして、ついにチェックアウト。
携帯は昨日から充電切れのまま放置してたので、ホテルから出たその足で近くの公衆電話に向かい、なけなしのコインを入れる。呼出音が鳴り始めたと思ったらワンコールすらも待たずにお目当ての人物は電話をとった。
『もしもし』
「早いね、出るの」
『お前からの電話だからね』
「過保護だなぁ」
『過保護ならとっくに家に連れ帰ってるよ』
「でも何度も見に来てたじゃん」
『お前は無視しただろ』
「手は振ったよ」
『そうだね。それでどうしたの?』
「お金なくなっちゃった。迎えに来て」
『今仕事で近くにいないんだけど』
「仕事中に電話出るなんていけないんだ」
『もう終わってるから』
「なら迎えに来てよ。来てくれないなら他の人頼るけど」
そう言ったらミシリと何かが軋む音がした。きっと力の入れすぎであちらの携帯が限界間近なんだろう。
『13時まで時間潰してて』
「はーい。場所は、」
『知ってる』
「…だよねー」
私、この国に着いてからずっとホテルの中にいたし、行き先も伝えてないんだけど、まあ疑問に感じるまでもない。
「喫茶店でコーヒー1杯分くらいしかお金残ってないから早く来てね?──イル兄」
こう伝えておいたなら、きっと幾分かは早く来てくれることだろう。
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