微熱に溺れる
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私は物心ついた時から不運だった。
歩けば転ぶのは当たり前、その上鳥のフンまで落とされる。
クジは何度引いても大凶以外有り得ない。
誘拐されたり強盗に遭遇した数なんて片手では数えられないほど。おかげで地元では人質のエキスパートと呼ばれてる。死ぬほど嬉しくない。
言い出したらキリがないくらいの不運に見舞われた人生だけれど、人の一生の運は誰でも一定量だと言う言葉を信じて頑張っている。
今がすごく不運なら、これからとんでもない幸運が待っているに違いないと希望を持たないと日常を正気で過ごしていけない。
でも、でもさ、こりゃないぜ神様。
「好き、だ」
「気の迷いです」
「あ"?」
「私の個性です」
「勝手に決めつけてんじゃねェぞ」
「じゃあなんで好きになった?」
「…一目惚れ」
「ほらあ、やっぱ個性のせいじゃん!」
こんな事になってしまったのには重大な理由が、まあないけども…
普通科とヒーロー科は決められていないのに食堂で座る席が別れている。他のクラスと座ることは少なく、ほぼ同じクラスの人間で固まってテーブルに座ることが多い。さらに仲があまり良くないのであればそのテーブルすら離れた所を選ぶのは必然だ。
しかし今日に限っては1年の普通科がよく座っている場所に1Aの数人が陣取っていた。おそらく食堂が混んでいるせいでそこしか席がなかったのだろう。
私の個性は5秒目が合えば誰であろうと恋に落とせるというものだ。
誰彼そんな個性をかけてしまうわけにもいかないので、普段は気をつけてるのに物珍しさでジロジロ見てたら目を逸らすのが少し遅くなってしまった。
そしてこの状況だ。私が個性をかけてしまったのがヒーロー科の爆豪君。
あ、これ後から殺されるなあ…辞世の句でも読んでおこうか。て、いやいや、諦めるな私。まだ助かるチャンスはあるはずだ。
私から離れて10分程度で個性は解けるが傍にいたら永遠と継続されてしまう。何とかして彼から離れなくては。
「えーと、ですね…今は個性のせいでおかしくなってるだけで、正気に戻ったら色々と、もうほんっとに色々と後悔するから離れることをおすすめします」
「チッ、だから勝手に決めんな。俺はお前が…」
「はいはいストーップ!」
いやホントに待って。これ以上この場所で彼の醜態を晒そうものなら後日私が殺される確率が上がっていくから。間違いなく!
科は違っても彼の噂なら嫌という程回ってきている。良い噂なのかどうかは、聞いた話の善し悪しの比率を考えるならばノーコメントで。しかし普通科はそういう噂に敏感なのだ。
というか性格に関しては体育祭で意図せず誰もが知ったのだけれど。
だが困った。逃げる気満々なのだけど、片腕を彼に掴まれ逃走できない。
振りほどこうとしてるのにさすがはヒーローの卵、力が強くて外れない。それでも私の腕が痛まないようにしてくれてるのは個性にかかってる故の気遣いだろう。
まあそんなことはどうでもいいんだ。とにかく私は彼から離れなければ。多少荒い手を使おうと、恥など捨ててしまえ。
ピリリリリリリリ!!
ブザーの音がざわめいている食堂内に響く。我関せずを貫いていた他の生徒達の視線が集まる。
本来なら拐われそうになった時の為に常備している防犯ブザーだが役に立ってくれて良かった。これだけ周りの目があれば強引にも出来ないだろう。
「―――お手洗いに行きたいので手を離してください!!!」
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