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夏油くんが死んで半月が過ぎた。
自分ではもうある程度普段の調子に戻ってるつもりだけど、周囲は何故か未だにに心配してくる。ほんの些細なことだけど普段と比べたら目につくくらいは分かりやすい。
「なまえさん、任務ですか?」
「あれ、七海くんだぁ。そうそう、任務だよ。
七海くんに会えたの久しぶりだからご飯でも行きたかったんだけどねぇ。あ、今日の夜とか空いてたりしない?」
「夜までに終わる案件なんですか」
「よゆーよゆー」
「私は構いませんよ。今日は予定がありませんので」
ほら、こういうとこ。いつもの七海くんは当日の飲みの誘いは一度微妙そうな顔をして、相手が先輩だからと仕方なしに了承する。だから普段なら数日前から七海くんに声を掛ける。
もしかしたら今日は機嫌が良いのかもしれないけど、即断でOKを出すほどの機嫌の良さなんて、どれだけ良い事があればそうなるのって聞きたくなるほど無いに等しい。追求してもはぐらかされるんだろうなぁ。
「やった。じゃあ他の子も誘って飲みに行こぉ。
私は硝子ちゃん誘うから、七海くんは伊地知くんに声掛けてくれる?」
「わかりました。五条さんは、」
「不参加で」
「オイオイオイ、何僕だけハブろうとしてんだ?」
うげぇ、即効でバレた。
私の中の飲みの席で居て欲しくない人教えてあげようか?ぶっちぎりで君がNO.1だよ。個人的には楽巌寺のおじいちゃんより勘弁して欲しい。
即寝る時はまだいいけど、絡み酒の時なんて真っ先に私に迷惑かけに来るからね君。しかも翌日には忘れるし。
「僕をハブろうとした罰としてなまえの奢りね」
五条くんって私より給料高いクセして昔から私に奢らせるの好きだよね。なんの嫌がらせかな?
本当に昔から君と夏油くんは悪ガキって言葉がピッタリだよ。硝子ちゃんになら喜んで奢るんだけど、彼女は欲しい物聞いてもお酒ばっかだしなぁ。
「…何考えてる」
「? 五条くんは私に奢らせるの好きだよなぁ、って」
「なら誰のこと考えた」
「……君と硝子ちゃんだよ?」
鋭過ぎて困っちゃうなぁ。一瞬考えるのもダメなのか。
「そろそろ行かないと。七海くん、伊地知くんにちゃんと伝えてねぇ。多分店は誘った時点であの子が探してくれるよ」
「はい」
五条くんに責められてるような目を向けられ、それから逃げるように少し早めに任務へ行くことにした。まだお昼ご飯食べてなかったのにぃ…。
「なまえ。今日の任務ってなんだっけ?」
「霊園に巣食ってる
「…そう。呪霊、ね」
五条くんはとても意味深な言い方をする。私が呪いを祓うのはそんなに変?呪術師としての仕事をきっちりこなすようになったことを褒めて貰いたいくらいなのに。
「呪詛師案件が溜まってんじゃないの」
「……大丈夫、それこそ私じゃなくても出来るよぉ」
本当に彼は痛い所ばかりを突いてくる。
いいじゃない、私が真面目に仕事するようになったんだから。違いなんてたったそれだけで、あとは元通りだよ。気にすることも気に病むことも何一つない。
「時間が押してるから本当にもう行くね」
嘘だ。時間なんていつでもいい。でもこれ以上彼の言葉を聞きたくなかった。
「僕の話は終わってないんだけど。なまえ、自分がどんな顔してるのかわかってんのかよ」
横を通り抜けようとすると、腕を掴まれ引き止められる。だけど私はそれを振り払った。
「───君には関係ないよ」
ごめん、ごめんね。こんな酷いこと言うつもりじゃなかった。
五条くんが心配してくれてるのは十分に感じてる。今すぐ冗談だよって笑えば、君は暴言を吐きつつも許してくれるだろう。でもそんな余裕すら今はないんだ。
本当に、ごめんなさい。
今でも呪いを祓うのは嫌だ。それは変わらない。だけど呪詛師を殺すより、まだ呪霊を祓う方がマシだと思っている。
今の私は呪詛師を殺せない。当たり前のようにこなしていた今までの方が人間性を疑う程だと言うのに、人を殺すという行為に拒絶を示した今の方が心配されるってどういうことだろうねぇ。
自らが忘れることを許容出来ないから恐怖するんだ。忘れないから、重ねてしまうから拒絶するんだ。
それでも記憶は劣化する。今どんなにかけがえのないものと感じていても、時間が経てば他より少し色濃いだけの思い出と変わってしまう。それが、嫌だ。ただそれだけなのに。
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