バンシーの過去
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
思えば家族とは仲が良かった記憶が無い。親族すら女だから、女のくせに、と男尊女卑の激しい時代遅れ共ばかり。
相伝の術式を受け継いでるの知ればコロリと態度を変え、呪いは祓わないし禪院家の為に術式を使う気はないと宣言すれば、術式が発現する以前より酷く当たられるようになった。
女だからなんだ、禪院家に従わないからなんだ。あんな家、死ぬほど大嫌いだ。
だけど、それでも家族愛ってやつに憧れないわけじゃなかった。馬鹿なことに内心はほんの一欠片だけではあっても求めてしまっていた。家族からの無償の愛というものを。
「兄さん。本当にやるの…?」
「今更何言ってんだ。成功さえすれば俺達の間にある蟠りを清算してやるっつってんだろ」
偽りであることくらいわかってた。相伝の術式を受け継げなかったプライドの高い兄さんが十種影法術を継いだ私を受け入れるなんて有り得ない。そんなこと、知っていたはずなのに。
兄さんが私を置いて去っていった。人も寄り付かない深い深い山の奥。
きっと今の私は誰より頭の悪い選択をしている。それでも私はもしかしてと一縷の可能性に縋ってしまったんだ。
「ひと ふた み よ いつ む なな や ここのたり」
少しでも心を落ち着けようと数を数える。
「ふるべ」
ああ、怖いなぁ。逃げ出したいなぁ。死にたく、ない。
「ふるべ、ゆらゆら」
でも、逃げれる場所があるのなら、最初からこんなことしてないか。
空気が震える。身の毛のよだつ威圧を感じる。
「───八握剣 異戒神将 魔虚羅」
玉犬が高々と鳴く。恐怖も何もかもを呪力に変えて武器をとる。明日の私は、生きているかなぁ…。
口の中に溜まった血を地面に吐き出す。損傷した内臓は反転術式でなんとか治療した。もし反転術式が使えなかったら、もう3度は余裕で死んでたことだろう。
ただ極めてるわけでもないので完全に治りきるより先に新たな傷を負う。それに対して魔虚羅の傷は背中の法陣が回る度に回復する。その上、法陣が回転するとあらゆる事象に適応するようで、食らった攻撃にすら対応していた。
おそらく魔虚羅がまだ適応していない初見の攻撃でダメージを与え、回復される前に次々と新しい攻撃を当てる必要がある。しかも魔虚羅が適応を続けていくほど脅威となるから長期戦になればなるだけ不利になっていく。
言葉だけなら簡単でも、実際にやれと言われたらどんな無理ゲーだと訴えたくなるよぉ。
ずるりと影の中から呪具を取り出す。出し惜しみなんてする余裕ない。
呪具の蒐集は昔会った甚爾さんの影響が大きい。私の中で強い人となるとどうしてもあの人が浮かんでしまうから、強さを求めると自ずと式神の調伏だけでなく多くの呪具を集めてきた。
特級呪具も複数所持しているけど、これであの魔虚羅を倒せるかとなると、自信ないなぁ…。
玉犬が鳴き声で魔虚羅に見つかったことを知らせてくる。
交戦しつつ途中身を隠しながら回復、といったふうに繰り返しているが発見されるまでの間隔が短くなってきているし、このやり方ではいつまで経っても魔虚羅は倒せない。治しきれない傷が増えていけば動きも鈍る。まだ五体満足のうちに仕掛けないと。
「鵺!」
木々を押し倒して迫り来る音が聞こえ、咄嗟に玉犬を消して鵺で上空へと飛び上がる。下を見れば先程まで潜んでいた場所がごっそりと抉られていた。…やっぱもうやだぁ!アイツ全く加減しないんだもん…!わぁぁん!
私の阿呆、大間抜け。もしかしたらなんてあるわけない。だって受け入れる気が少しでもあるなら、こんな無謀な儀式やらせたりしないはずだ。何度も死にかけないとわからないなんて本当に馬鹿。
きっと兄さんは私を処分したくて唆したんだ。いくら呪霊を祓わないといっても十種影法術を継いでる私に自殺じみたことを本家はやらせないだろうから兄さんの独断で。死んだ後なら私が勝手にやったことだとか、都合のいいようにいくらでも言えるし。
歴代の十種影法術を受け継いだ術師が誰も調伏出来なかった魔虚羅を、14の私が調伏出来るなんて端から思ってるわけない。そう考えると腹立つなぁ…!
目の前まで迫る死の危険をこの数十分で幾度と体験して、やっと頭が冷静な判断をする。でもそんなの今更判断出来てももう遅い。始まった儀式は止められない。
これは歴代誰も成しえなかったことで。失敗したら待つのは死で。命懸けの儀式。
でも思い返せば命懸けなのは常も同じか。
幼い頃の体罰を伴う叱責も、三日三晩蔵に閉じ込められた兄の悪戯も、相伝の術式を受け継げなかった兄を思う母からの殺意も。いつだって私は命懸けで生きてきた。
「やってやる、やってやるんだからぁ!絶対に、死んでなんてやるもんか!」
滲む涙を強引に拭い、やっと本気で覚悟を決めた。
1/3ページ