バンシーの追憶
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私は以前、夏油くんに嘘をついた。甚爾さんに会ったことがあるのは幼少期の一度だけではない。
どうせ甚爾さん死んでたし、あれ自体なかったことにしとこ、って軽い気持ちで嘘を言った。だって殺されかけたなんて、後輩に言うのはかっこ悪いじゃないか。
─────
青は進め。黄色は注意。赤は、赤は……なんだっけ。
腕を伝って指先から血が滴る。ついさっき目の前の男から負わされた肩の傷のせいだ。
「いったいなぁ!もう!」
「そうかよ。俺は首を狙ったんだがな」
「死んじゃうじゃん!?」
「殺しに来てんだよ」
どこかで見覚えのある男性がそう口にする。どこだったかなぁ…。絶対見たことあるはずなんだよなぁ…。
肩の傷は既に反転術式で塞いだ。ただ流れた血が戻ってくるわけじゃないから、余裕とも言いきれない。
「チッ、反転術式か。こんだけ面倒そうな相手ならもっと金をせびっときゃ良かった」
「…ちなみに私の首っておいくら?」
「賞金首じゃねえが、依頼の達成金は3億だな」
「兄さんってば隠し持ってるなぁ」
「依頼者を知ってんのかよ」
「わざわざ実力者を雇ってまで私を心底殺したいと思ってる人ダントツのトップは禪院絢斗、私の兄の他にいないよぉ」
兄さんってば相伝の術式が継げなかったのは私のせいじゃないのに逆恨みしてるんだよね。兄さんが私より圧倒的に弱いのも、思いのほか私が強くなったから禪院家が何も言えなくなっちゃったのも、私を殺そうとした母さんが返り討ちにあって半身不随になったのも、全部私のせいにするんだから兄さんにも困ったものだ。
そんなことして私に正当防衛で殺されるとは思わないんだろうか。私達の間に家族の情なんてもの存在しないんだから躊躇うことすらしないというのに。
まあ、この状況を乗り切らない限りどうにも出来ないんだけどね。この人めっちゃ強そうなんだけど、倒すか逃げるか出来るかなぁ…?
「呪術高専に入学したばかりの一年生、そんで肩書きだけ準一級の泣き喚くしか脳のないヘボ術師を殺すだけで3億は美味しいって話だったから禪院なんかの依頼を受けたっつーのに、あの奇襲を防ぐだけの実力があるなら事前情報から間違ってんじゃねえか。つーかお前、本当に準一級か?」
「準一級だよ。私か弱い系だからねぇ」
「ほざけ」
酷くない?どう見たってか弱いでしょ?まあ私を殺しに来た相手に容赦はしないけど。
「お兄さんってもしかして禪院家のこと知ってるの?」
「ゴミ溜めみてえな家ってことだけな」
「酷い言い方するなぁ。でもちょっと違うと思うよ。あれはクソにも劣る家だからねぇ」
「お前も大概だろ」
「えへ。この場じゃなければお兄さんとは気が合いそうなのになぁ…」
話しながらもずっと考えてる。やっぱりどこかで見たことあるんだよね。
でも私と関わりのある人はそう多くない。呪術師とは高専に入学するまで交流があまりなかったし、そうなるとほとんど禪院家関係の人ばかりだ。禪院家にいたっけな、こんな呪力が感じられないのに強い人。…ん?呪力がなくて強い人…?
「…もしかして甚爾さん?」
「、俺と会ったことあんのかよ、めんどくせぇ…」
「あ、大丈夫!大した関わりじゃなかったから。ただ───満象」
今日初めて戦闘中に式神を顕現させる。いやホント大したことなかったんだよ?でも池に投げ落とされた時は死にそうになったから、せめて濡れ鼠くらいはなってもらわないと私が満足出来ないんだよねぇ。
満象の鼻から大量の水が噴出される。禪院家なら十種影法術のことくらい知ってるよね。だったらこれがただの水だってわかるだろうし、避けないで突っ込んでくる可能性が高い。でもそれでいいんだ。別に攻撃目的じゃなくて仕返ししたかっただけだもん。
予想通り水の勢いなどものともせず、的確に満象を破壊しに来た。彼の持つ刀が満象の首を斬り落とす寸前で術式を解除する。
甚爾さんは意味がわからないといった表情をしている。私のことを覚えてない貴方にはわからないだろうねぇ。でも教えてあげる義理もないもんね?
「何がしたかったんだ?」
「えー…秘密!」
「そうか。じゃあそろそろ殺すわ」
「死なないよぉ、私は」
私が大分押されて満身創痍の状態だ。間合いが開くと反転術式をかけてるものの、やっぱり純粋な身体能力では劣るから呪具での戦いは私が不利かなぁ。まあ彼の天与呪縛を考えたら結構抗戦出来てる方か。
それでも私は死ぬつもりなんてない。死ぬのは怖いし、戦うのも怖い。でも自分を守る為なら仕方ない。
大事なものも、守るべきものも、枷など何一つない私は自分の為なら何だってするよ。
「──
「おいおい、嘘だろ」
「…あは、これ誰かに対して使うの初めてかもぉ。あ、でも心配しないで?私共倒れなんて無謀な冒険はしない主義だから、ちゃぁんと調伏済だよ?」
「それこそ酷い冗談にしてくれよ」
「ごめんね、これは冗談ではないかなぁ。私に無理矢理儀式をやらせた兄さん以外だと、甚爾さんがこれを知るのは初めてだよぉ。
お互いが死なずに済んでも内緒にしてね?────
「ここまで全く嬉しくも欠片もない初めてなんざ、それこそ初だわ」
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