3話
夢小説設定
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「みょうじ、ちょっとええか」
放課後、まだ入部期間に余裕があるので即帰ろうとしたところ担任に呼び止められた。
「よろしくないです」
「用件くらい聞きいや」
「私の第六感が聞いてはいけないと叫んでるんで」
「このプリントなんやけど」
「強制か」
「バレー部の理石に届けてくれん?」
「ほら見ろ、面倒事じゃねえか」
「俺これから会議やねん」
「なら明日でもいいんじゃないですか?理石くんならきっと大丈夫ですって。彼はやれば出来る子だ、私は信じてる」
正直私は帰りたい。今日は単行本の発売日だから本屋に行くって決めてるんだ。バレー部になんて寄ってられるか。
「そう言わんと。飴ちゃんやるから」
手首を引かれ断るひまなく掌に飴玉を置かれる。
「ってハッカじゃないすか。絶対余りだろコレ」
「受け取ったな?余りだろうが何だろうが受け取ったやろ?よっしゃ、じゃあこれ頼んだで」
「はあ!?ちょお、まっ」
余りと認めやがった飴が報酬とばかりに、プリントが入っているであろう封筒を押し付けて担任は走り去って行った。教師が堂々と廊下を走るなよ。
…というか、まじかぁ…。
部活中であれば聞こえることはないだろうが、体育館の扉を軽くノックして開ける。
見たところ今はサーブ練の最中みたいだ。理石くんはどこだろう。キョロキョロと館内を見回していると思いの外近くにいた監督と目が合った。
「マネージャーの体験入部は終了しとるで」
「ああいや違います。理石くんのクラスメイトで届け物に来たんですけど」
「そんならええ。勘違いしてすまんかったわ。
理石なら球拾い中やからちょっと待っとき」
そう言って監督は私が目立つことのないようわざわざ理石くんを呼びに行ってくれた。気遣いの出来る大人ってかっこいいと思う。担任とは大違いだ。
「すまん、みょうじ。なんか用事やった?」
「いや私じゃなくて担任から。中身知らないけどプリントだって」
はい、と封筒を渡すと理石くんはその場で開封し始める。そういうのは後にしろ。もう帰っていい?
「! 入部届…!みょうじ助かるわ!はよ出したかったんよ」
「ああ、うん、そっか。よかったね」
で、帰っていい?つか帰るね。
理石くんに別れを告げ踵を返そうとした時に一際大きい音が体育館に響いた。反射的にそちらに視線をやると、双子の…えー、なんだっけな…あー……何とか先輩の金髪の方が打ったサーブの音だったみたいだ。
「侑先輩、やっぱすごいよなあ。俺もあんなサーブ打ってみたいわ」
隣で理石くんがぼんやりと呟く。
そして金髪の先輩から二球目のサーブが放たれる。それは惜しくもコートの外に落ちた。
「ジャンフロか」
「? みょうじ、サーブの種類わかるん?」
「…少しね」
そんな会話をしている間に三球目。三球目も先程と同じジャンプフローターサーブ。それはまたしてもコート外へと落ちてしまった。先輩は眉間に皺を寄せ不満そうな顔をしている。
……帰ろ。マネ業をやってないとついじっくり練習風景を見てしまう。そのせいでここにいると、バレーがしたくなる。
「理石くん、私もう帰るね」
「あっ、おお。本当に助かったわ!」
「お礼なら私に無理矢理押し付けた担任にでも言うといいよ。
…あと、余計なお世話だろうし、口を出すような立場じゃないけど……あの先輩、ジャンフロの時だけはもう二歩前がいいと思う」
「え?」
「じゃ、また明日」
余計な事だけ口にして言い逃げをする。後悔しても後の祭りだ。自分でしてしまったのだし仕方ない。きっと理石くんも戯言だと受け流してくれるだろう。
せっかくバレーから離れてたのに頭の中では私ならあの時こんなサーブを打つって思考でいっぱいだ。
ああ、家に帰ったらボールに触ろうかな。少し、ほんの少しだけ。
数十分前の本屋に寄るという考えなどもう微塵もなく、早く早くと競歩になりながら校舎から出て行った。
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