｢ともこー、部活決めた？｣

昼休み。暖かい陽射しで微睡みながら、眠気覚ましに話題を振る。

｢野球部の山田くんか、バスケ部の山川先輩か、テニス部の山本先輩か、陸上部の山辺くんかで迷ってんやけど…あー、どうしよ｣

｢山ばっかだな…。つか人で悩むな、部活で悩め｣

｢部活なんてもんイケメンが居らんと続くわけないやろ。自分はオカ研どうなったん？｣

｢本気で部活やってる人に謝れ。
オカ研は普段の活動がほぼない分、文化祭とかのイベントで忙しいみたいだから他の楽なとこ探してる。説明は友子も一緒に聞いたはずだけど｣

｢覚えてへん｣

｢だろうね｣

The男目当て、なコイツが入れる部活ってむしろあるのか？



｢そういえばさ、バレー部って結局何人が生き残ったんだろうね｣

｢？ 何言うてんの。バレー部はマネージャー取らんやろ｣

｢は？だって体験入部したじゃん。私らが辞める時にまだ数人残ってたはずだけど｣

｢あの残りの子らももう辞めてるで。バレー部は去年男バレのマネやっとった先輩が宮兄弟を巡って修羅場ったらしくてマネージャーは募集してへんのんよ｣

｢待て、どうやったらそうなった｣

｢女の修羅場の話はどうでもええから省略するわ。
マネージャー拒否とまではいかんからその後もマネ志望はおったみたいやけど、人気なだけあって宮兄弟には過激なファンもおるから、そのファンの圧に耐えれんかったらしいし。
ただまあ、侑先輩の方と去年同じクラスだった女子の先輩曰く、宮兄弟の顔に釣られてマジになる子は多くいるけど、ちゃんと中身まで知れば大体の女子は愛想を尽かすて聞いたで。もちろんあたしは顔重視やから性格なんてどんなクソ野郎でも大丈夫やけどな！｣

｢私はその修羅場の顛末の方が気になる。あとお前の性癖はどうでもいい｣

｢せやから長期で部活の邪魔されんように、体験入部で女子共に数日でもマネ業やらせて満足させとこうって意図や｣

｢スルーか｣

｢こんなん常識やわ｣

｢誰の常識だよ。私の四日を返せ。
そしてそれを考えた奴は女の敵に違いないわ。夜道で刺されろ｣

｢ええやん。いい思い出になったやろ？｣

｢お前のな｣

｢まあまあ、そう言わんと。今なら特別に過激派女子の間で暗黙の了解になってるマネの条件教えたるから｣

｢いらねーよ｣

｢まず男目当てやないこと｣

｢聞け？しかも友子既にアウトじゃん｣

｢黙って最後まで聞いとれ。
次にバレーに詳しいこと。バレー知らん子に一から教えるくらいなら部員がやった方がまだマシらしいから。先輩マネが居ったらフォローしてくれて違ったんやろうけど、マネは居らんから初心者に教える為に割く部員は居らんのんやて。
そんで最後が部活をサボらんこと。平日の朝夕と休みの日まで練習があるから体力とやる気がないとキツイみたいやわ｣

細けーな。んな面倒な暗黙の了解って誰が覚えてるのさ。条件として掲げてるならもういっその事どこかに文面で掲示でもしとけっての。
てか…んん？今そんな難しいこと言った？どれも当然だと思うんだけど。それすらも出来ないなら初めからマネージャーなんか目指すなよって話だ。


｢一つ、思った、アンタ全部ダメじゃね？｣

｢それな？
いやあたしのことはさて置き。この三つ兼ね備えとる奴なんかそう居らんやろ！？｣

｢えー…いるでしょ。元バレー部とか、バレー観戦好きな人とか｣

｢元バレー部なら女バレのない稲荷崎やなくてこの学校からも近くて偏差値もほぼ同じ太貫高校を選ぶやろ。そんでこっちを選んでバレーも辞めたってことはバレー部のマネを志望する理由ってなん？男やろ！
もう一つ、バレー見る専は体力なんかないわ。見るのは好きでも、きっついサポートまで完璧にこなすのなんか目的の男が居らんとやるわけない！｣

｢お前は女子をどんだけ男好きだと思ってんだよ｣

｢だってあたしはやらん！！！あんなイケメン（ごちそう）前にして男目当てじゃないなんて言うアホが居ってたまるか！！｣

｢あー、そ｣

イケメンをご馳走って言うあたりもうコイツ終わってんな。まともな部活に入れないと予言しよう。


｢じゃあ元マネージャーとかは？｣

｢それは、居るかもしれんけど、条件突破しても過激ファンが立ちはだかりよるからなあ｣

｢もうそれ無理じゃん｣

まず過激ファンがいるって時点でおかしいよ。フィクションかっての。ファンの躾はちゃんとしとけよ。



｢…ん？んんんー？｣

｢なに。ジロジロ見ないでくれる？金取るよ｣

｢そういえばなまえ、バレー詳しそうやったね｣

｢まあ、それなりに｣

｢んで真面目に部活に出て、最後まで余裕そうやし、部員の名前を覚えんくらい興味無い｣

｢…それが？｣

｢最後のはどうかと思うけど、自分、バレー部マネージャーに適任やない？タッパもあるから対面すんの女子なら躊躇うやろうし、過激ファンと言えどなまえ相手や怯みそうやん｣

｢不吉なことを言うな。フラグでも立ったら友子のツインテもぎ取るよ｣

｢こっわ！！やめーや！これはあたしのアイデンティティやで！？｣

｢いやその髪、今日アンタが振り返った時にバシッて当たったんだよね。邪魔じゃね｣

｢なんちゅー恐ろしいことを…！｣

｢バレー部のマネージャーはゼロだったってことでこの話は終わり｣

不穏極まりないことを言い出したので無理矢理話を切って、机にうつ伏せになり会話をシャットアウトする。
バレー部に、なんて、そんなことあってたまるかっての。