｢なまえちゃん、俺ら中学時代に会ったことあるよな？｣

｢知りません｣


｢水戸良（みとら）のバレー部に所属してたやん｣

｢覚えがありません｣


｢密林の王！｣

｢存じ上げません｣


｢実はめちゃくちゃバレー上手いんやろ｣

｢記憶にございません｣






｢鉄壁か！！！｣

｢頑なに拒否るもんやから、俺らのが間違うてるて思い始めたわ…｣

｢諦めた方がええんやない？みょうじもそんだけ言いたくないっちゅーことやろ｣

｢せやけど気になるやん｣

｢でもしつこ過ぎてそのうちみょうじから苦情が来るんじゃない｣


｢はい、だから来ましたよ｣

角名さん正解。毎日毎日いい加減鬱陶しくて、そのうちじゃなくて今来たわ。

｢｢ヒェッ｣｣

宮兄弟が間の抜けた声を上げると同時に一緒にいた角名さんと銀さんは無関係だと主張するかのように双子から離れる。

｢なまえちゃん…？その、えっと…ここ二年の教室やけど間違えてるん？｣

｢間違えてませんよ。先輩に用事があって来ましたから｣

｢あ、あーなるほどぉ………治（サム）にやな！｣

｢何言うてんねん！侑（ツム）に決まってるやんけ！｣

ここ最近は時間があれば邪魔になるほど来ていたのに、私の方から来てみると双子の醜い押し付け合いが始まる。こちらを無視して騒ぎ出すものだから、二人の肩をそれぞれ掴み、お二人にですと伝えれば、小さな返事と共に静かになった。


｢あ、あんな？俺らどうしても気になって、なまえちゃんも頑なやったから余計にヒートアップして…いやなまえちゃんはなんも悪ないで！？｣

｢はい｣

｢…なんでそんな隠すんかなーって好奇心が逆に湧いてきて｣

｢はい｣

｢……あーほら、気になり過ぎることがあると眠れへん時あるやん？俺らもそれやってん｣

｢はい｣

｢……………侑（ツム）が聞き出そうって最初に言いましたぁ！｣

｢はああ！？治（サム）の方こそアラン君に聞いたりしてたやろ！｣

大きめに溜息を吐けば言い争いがピタリと止まった。角名さんと銀さんはとっくに教室の端まで避難している。中々に薄情者だ。


｢もう面倒なので必要最低限だけお伝えしときますね。出身校は水戸良女学院で合ってます。それ以外はノーコメントで。
これ以上詮索してきたら───｣

｢｢してきたら…？｣｣

｢北さんに報告します｣

｢やっぱ人の過去を探るなんてよおないな！｣

｢せやな！誰にでも知られたくないことはあるし｣

北さんパワーすごいな。困ったら北の名前でも出しとけ、ってアラン先輩から言われてたけどら効果絶大だわ。勝手に名前使うのもな、と躊躇っていたけど、こんなにあっさり片がつくならはじめからこうしとけば良かった。



｢まったく、人の中学時代を調べる暇があったら中間テストの勉強でもしててください｣

｢？？｣

｢？？？｣

呆れてテスト勉強を勧めると何の話？とでも言いたげに二人揃って顔を傾げている。え、まさかこの人達、覚えてないの？

｢先輩、今日の放課後から部活ないですからね？｣

｢え！なんでなん！？｣

｢中間テスト期間だからだよ｣

マジで言ってんのか、この人ら。本来なら朝練もないはずだったのに勝手に自主練してたらしいし。

｢ちゅうかん…｣｢てすと…｣

まるで言葉の意味を理解出来ていないかのように片言で呟く双子を見ていると頭が痛くなってきた。大丈夫なのか、本気で。今回の中間テストで赤点あったら6月に予定してる練習試合の日に補習になるんだけど。


｢角名さん！銀さん！ちょっと｣

来い来いと手招きするとこちらの機嫌を窺いながらも二人が寄ってくる。

｢もうお説教は終了？｣

｢ええ。それよりこの双子、テスト期間ってこと理解してないんですけど｣

｢あーそれただの現実逃避やから気にせんでええで｣

｢いや気にするわ。それとも気にしなくていい程テスト点が良かったりするんですか？｣

そう聞くと四人全員が視線を逸らし目が合わなくなる。おい、お前らもか。

｢ちょっと待ってください。頭痛が酷くなってきた。
わかってます？赤点取ったら練習試合の日は補習ですからね？｣

｢なんやて！？聞いてへんのやけど！｣

｢…言ったわ！昨日も先週も言ってんだよ、こちとら！｣

｢ヒッ、ごめんなさい！｣

何度も伝えておいた連絡事項をまるで今聞きましたというふうに不満の声が上がったのでつい声を荒らげてしまった。いやでもこのくらい聞いといて欲しい。むしろ自分で把握しとけ。


｢はぁー…どうなってんだ、レギュラー陣｣

｢北さんなら余裕で学年上位におるで｣

｢大耳さんも多分平均は行くと思う｣

｢赤木さんも今年は受験やから気合い入れる言うてたわ｣

｢アラン君はまあ…あれや…うん……｣

3年の人達のことを言う前に自分達の勉強を何とかしろ。これ双子が赤点取ったら練習試合のセッターどうするんだろ。
さすがに2年の内容は教えられない上に理石と友子という足手まといが既にいるしな。

｢よし、こうしましょう。今日の放課後から勉強会を開きます。3年の方々に負担をかけるわけにはいかないので、2年共がそれぞれ得意教科を教え合ってください。勉強場所は提供するので｣

｢2年共…｣

｢敬いが減っていってるのが態度でわかるね｣

｢放課後、それぞれの教室に迎えに行くので、逃げんじゃねーぞ｣

うん、私の家なら学校も近いし、ばあちゃん達はまた旅行に出てるから問題ないだろう。理石と友子もうちの家で勉強させるつもりだったから四人増えたところでだ。
と、まあ気楽に考えようとしているが、今から放課後のことを考えると憂鬱で仕方ないのは思うだけで口には出さないでおこう…。