20話
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花街の夜は明るい。見世が客を呼ぶために夜半過ぎでも明かりを消してないからだ。
これだけ明るければ先を走る宇髄の進んでいった道を早々見失わない。私は鬼の気配を探るのが少し苦手で、詳しい場所の特定は難しいからその辺はすごく助かる。
走って、走って、走って。
誰かを失うのは怖い。誰かが傷つくのは怖い。近しい人なら尚更。私なら盾になれる。私なら傷だってすぐに治る。
でも、ふと思う。条件を満たさなければ何度殺しても死なない鬼と、たった一度しか死ねない人間と。その混ざりものの私は何度死を免れられるのだろうか。
自分は日輪刀以外で死ぬことはないと勝手に思ってる。それはただ私が勝手に考察してるだけにすぎない。
突然体が回復しなくなるかもしれない。突然指の先から灰のように崩れだすかもしれない。
今かもしれない。明日かもしれない。ずっとずっと先かもしれない。
死ぬのは正直怖い。でもその時がいつであろうと構わない。
ただお師様が褒めてくれるような自慢出来るような継子になりたいと思う。そして最期はお師様のことを思いながら死にたい。お師様を庇って死ねたらそれ以上ないほどの至福に違いない。そのどれか一つでも叶えば十分だ。
夜風が血の匂いを運んでくる。大丈夫、理性は保てる。
匂いの先に、鬼がいる。
確か宇髄はこっちの方向に………、建物が随分と倒壊してる。鬼の仕業か。そのせいで逃げ遅れが何人もいる。
一つ向こうの通りから轟音が聞こえた。おそらくあちらでは戦闘が始まってる。
———鬼と戦うか。一般人を逃がすか。
一般人の手当てをしていてお師様の加勢が出来なかった。その出来事が、その時の悔しさが、怒りが沸々と頭の中で甦る。
きっと私は彼らを助けたことを後悔している。彼らを助けなければお師様に傷が残ることもなかった。その場で私が盾になれたのに。
あの時から見ず知らずの他人を守ることに少し抵抗がある。良くない傾向だと理解していても、早々に矯正出来るものでもない。誰にもバレないようにゆっくり直していこうと考えていたのに。
宇髄達は戦える。でも彼らは戦えない。見つかれば多分、死ぬ。この建屋に隠しても戦闘に巻き込まれないという保証はない。
後悔、したんだ。手当なんてしなければって、ずっとお師様の傍にいていればって。すごく、すごく後悔した。
だから、私は─────
「───あの一帯で他に逃げ遅れた人は!?」
「うちの見世は全員います!」
「私の所も大丈夫です!」
「あの、わたしの…!わたしに付いてた禿が居ないんです!」
「貴方のいた見世はどこ」
「ここより北にある、井戸の近くです。黒塗りの壁が特徴で…!」
「わかった。多分ここまで連れてくることは出来ない。ただ別の場所に避難誘導はする。
残りの人はそれぞれ点呼と怪我人の手当を!誰か居ないことに気付いても決して来た道を戻らないように!」
結局私は仲間より他人を選んでしまった。きっとまた後悔する。わかりきってる。でも誰かを見捨てる選択をした時、私にお師様の傍にいる資格が消え失せる。考え方なんて今すぐ変えられない。だから今は自分のために誰かを助ける。
「待て!あんたが行っちまったら俺達はどうすればいいんだ!ここにいて守ってくれねえと困る!」
一人がそう声を上げると周りも便乗してそうだそうだと賛同の声を張り上げる。
うるさい。
「金なら払うから守ってくれよ、なあ!?」
うるさい。
「あたしらは怪我してんだよ!?鬼が寄ってきちまったら逃げられないじゃないか!」
うるさい。
「もう嫌だ!なんで儂がこんな目に…!」
うるさい。
ガンッと鞘から抜かないままの刀で近くの柱を殴りつける。その音に誰もが肩を震わせ驚愕している。
「黙れよ。仲間がまだ戦ってるんだ。お前らなんかを、助けるために。理解したならその口を閉じろ。理解してなくとも黙れ。
私達が鬼を殺す。お前らはさっきの指示通り、点呼と怪我人の手当をしろ。この建物には絶対に鬼を近付けない、私の師に誓って。この言葉は私の命よりも更に重い。それだけ頭に置いておけ」
もう少しの時間も惜しい。反論の言葉を連中が紡ぐより早く走り出し北の井戸を目指す。もし指定された見世に禿らしき子がいなかったら戦線に合流しよう。
不安で揺れる。信じろ、皆強い。私が合流するまでどうか大きな怪我はしないで欲しい───
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