36話
夢小説設定
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──私は燕青の様に初めから姫様に心酔していたわけではない。むしろお仕えしていた初期の頃はこんな我儘な皇女に付かされて外れクジだと思ったほどだ。
「お初にお目にかかります。本日より姫様の従者となりました李飛と申します」
「チェンジ」
「え?」
「目が気に入らないわぁ。燕青、外に放り出して」
「はい」
そんな理不尽な言葉で廊下へと出された私は無断で移動することも座ることも出来ず、立ち続けること6時間、やっと部屋への入室を許可された。初日から印象は最悪だった。
科挙に受かったのは正直滑り込みだし、能力面で劣る為落ちに落ちて、この末姫の従者となったわけだが、これならまだ城下で仕事を探した方がマシだと思うほど連日酷使されている。
「李飛、お茶」
「はい」
「李飛、髪」
「はい」
「李飛、あれ」
「はい」
最近ではどんどん命令が適当になってこちらが読み取らなければならない。まあ9割方間違えるからお叱りをくらうのだが。
そうして内心姫様に罵詈雑言を吐き出しながら、1年が過ぎた。1年もよく頑張った私。多分この皇城で最も耐え忍んだのは私のはずだ。
姫様は現在9歳。幼子とは思えぬほど冷たい目をされることもあるが、それ以外はクソほどに我儘な子供そのもの。燕青の奴がどうしてあそこまで忠誠を誓うのか1年も近くで見てきても欠片も理解出来ない。
我儘姫の癇癪にも悲しいことに慣れてきた頃、実家の商団が潰れたと連絡が来た。商団と言ってもあまり大きいものではない。しかも私は五男。家で受けていた待遇を考えれば同情心すら湧かなかった。
にも関わらず、血の繋がった家族なのだから云々と態々周囲に人がいる時ばかり私に集りに来るようになった。城仕え、それも末とはいえ皇族付きということもあり貯蓄はあった。だが決して奴らの為のものではないはずなのに、月日が経つ事に私はあれらに搾取されていった。
「李飛?顔色が悪いわよ。体調不良なのに傍に寄るなんてどういうこと?私に移す気ぃ?」
「いえ、そのようなことは…」
「えんせー、そこの阿呆を自室のベッドに捨てて来なさい」
「承知しました」
姫様はいつだって相手によって態度がかわる。全てを懸けて自分を崇拝する燕青には絶対的な信頼を見せ、皇帝から送られてきた嫌々ながら仕えようとする侍女には拒否を、私は受け容れられはしないものの体調の心配程度はされるようになった。心配と呼んでいいものかどうかは別として。
幼いながら彼女は聡く、自分に向けられる感情に敏感だ。私を受け容れないのは、私が姫様に忠誠を誓っていないからだろう。しかし拒絶する程ではない。それが私の現在の曖昧な立ち位置。
だから家のことは姫様に知られたくなかった。彼女が知れば私をどうするか、私自身には全く予測出来なかったからだ。1年前の時とは違う、城を辞めても実家の伝手で仕事を探すのは不可能に近い。タライ回しにやって来た紅胤姫の従者さえ辞めさせられたら、あの家族に奴隷として売られることさえ有り得る。それだけは回避したい。
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