｢よォ、やっぱ来たな｣

上空でジュダルと対峙する。この位置なら下から探知されることもない。もし誰かが近付こうものならジュダルが反応を示すだろう。
白龍兄様はもう移動したのだろうか。まああまり仲の良いわけじゃなかったから構わないけれど。

｢ええ、来たわよ。放置して待ちぼうけにでもなったら可哀想だもの。でもアンタが律儀に待てをしてるなんて意外だわぁ｣

｢白龍には小言を言われたけどな｣

｢でしょうね。だってアンタら逃げてる立場だし？
久しぶり、でいいかしら。あ、でもその前に言いたいことがあるのよ｣

｢？｣

｢てめぇ、さっきこの私をブスって言いやがっただろ！この！私に！聞こえなかったけど絶対に言った！違うなら言い訳してみろやクソ野郎がァ！｣

｢……紅胤、お前一切変わりないな…｣

はあ、とジュダルが呆れたように溜息をつく。おいなんだその態度。私が慈悲深く言い訳を聞いてやろうって言ってんのにどういう了見だ。ぶち殺すぞ。




コイツにキレたところで意味ないな。うん、落ち着こう。深呼吸だ。すぅー、はぁー。…いややっぱり殺したい。この場じゃ無理でも私をブス呼ばわりしたことは最低でもそのうち土下座させるわ。

｢で、無一文で出て行った馬鹿共はちゃんと生活出来てるの？｣

｢俺と白龍がいれば金なんてどうにでもなんだよ｣

｢あー、そ。アンタの白龍兄様贔屓もなかなかよねぇ。
じゃあ今回の目的と今後の方針はぁ？｣

｢お前に言ったら他の奴らにも伝わんだろ｣

随分と信用の薄いこと。まあ内容次第ではいくらでも告げ口するのは事実だけどね。

｢なら最後に一つ、引く気はないんでしょう？｣

皇宮まで出て行ったんだ。敵と認定したのは玉艶だけじゃないでしょうに。もし兄様達が戦争するなら私はどっちつかずになってしまうだろう。だから出来ればそれは避けたい、のよねぇ。ま、無理な話なのは分かってるけど。

｢こんな中途半端に引くんじゃ最初から反旗を翻してねえよ｣

｢そうね｣

｢お前は相変わらず甘すぎだぜ｣

｢知ってるわよぉ、ばーか…｣

｢──紅胤。こっちに来るか？｣

2度目の誘い。ここには私とジュダル以外いない。引き止めてくれる声はどこにもない。
でもその誘惑はあの雨の日に切り捨てた。

｢丁重にお断りするわ。私まだやることが山ずみなの。
何度も聞いてくれるなんて知らぬ間に慈悲深くでもなったの？ああ、もちろん私の次にね｣

｢言ってろ。
やっぱつけ込むなら傷心中の時じゃねえとなあ｣

｢おい｣

つけ込むってなんだ、つけ込むって。




｢あー…俺もう行くわ。あんま白龍を待たせてるとうるせえし｣

｢そう。次会う時は戦場かもしれないわね｣

｢お前は躊躇なく攻撃して来そうだな｣

｢やだ、迷ってあげるわよ。1秒くらいなら｣

｢ハッ｣

｢ふふ、｣

｢またな（・・・）紅胤｣

｢ええ、また（・・）──ジュダル｣


絶対に言ってあげないけど、私、戦場だろうとアンタに攻撃は出来ないわよ。家族云々を差し置いてもね。
もし全部終わったその時はまたアンタと馬鹿やりたいんだもの。今の私は手助けも守ることも出来ないけど───せいぜい死なないでよね。