1粒
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いつも私の周りを雨が覆っている。
まるで目の前の出来事はスクリーンの中のお話のようで。
何時までもあの雨が私を離さない。
きっと私はあの雨の中に全てを置いてきてしまった。
少し寒い秋の日。
足先が冷える廊下から、図書室の扉を開けると本の独特の匂いと適度に温められた空気が私の顔を抜けていく。
部屋に入ると私は真っ直ぐと図書委員が座る席へと腰掛けた。
(暖かい)
少し冷え性な私はこの図書室の暖かな空気を堪能するように椅子に腰深くかけて少しのあいだ目を閉じた。
図書委員なんてめんどくさいものをと友達からは言われたがやりたくてやっている。
本の虫という訳ではないが、紙とインクの匂いが好きだった。
なんだか、この暖かな空気と本の匂い、色々な人の思い、静寂が合わさってとても死に近い場所のように思えたのだ。
今日は雨も降っていてさらに死に近づいている気がした。
嗚呼、ここから飛び降りて死んじゃおうかな。
馬鹿な考えすら過ぎるとても良い日。
そんな私の考えは扉が開く音と共に現実に引き戻された。
(また死にぞこなった)
いつもこうだ。
私が死のうかなって考えが頭をよぎっても、何かしらの邪魔が入る。
人がいたり、道具がなかったりと。
そのたびに私はまだ死に時じゃないらしいと身を引いてきた。
いつになったら私の運命の時は訪れるのだろうか。
小さくため息を吐きながら扉を見やる。
嗚呼、またあの先輩か。
すらっとした長身と特徴的な糸目で一瞬で分かった。
テニス部という名のアイドルに興味がない私にも顔と名前が一致するくらいには有名な人だ。
頭が良く、本も相当数読むようで昼休み又は放課後の僅かな時間にここに訪れる。
どうして、読書が好きで勉強が出来るのにテニス部・・・?とも思わなくもないが、まぁ、色々あるのだろう。
私が柳先輩と接点があるのはこの5分程度だ。
その色々を私が知ることは一生無い。
柳先輩は借りたい本を決めて訪れる。
気づくと目の前に長身がたっていたなんてこともざらだ。
にしても本当大きいな。
遠めにみるだけでも存在感がある質量。
私なんて150cmしかないためいつも棚の上の蔵書には苦労しているのに、先輩は軽々とそれを手にいていた。
手が届かないためあのあたりの掃除を私はサボっていたが埃をかぶっていないだろうか。
他の図書委員の子がやってくれているかも、と淡い期待をしていたが。
先輩が軽く本を払っているのをみるとちょっと埃っぽかったのかもしれない。
ちょっとだけ申し訳ないなと思った。
お目当ての本を手にしたようで真っ直ぐこちらに向かって歩いてくる。
「返却と貸出をお願いします」
「承りました」
1、2、3、4と返却本と貸出本の数を数えて、
ピッと返却された本と貸出の本のバーコードを読み取っていく。
昔はこれをすべて手作業で行っていたらしいが、楽な世の中になったと思う。
「返却確認しました。
本日貸出の本ですが返却は2週間以内となります」
「ああ、承知した」
マニュアルどおりに話しているが、どうせ3~4日でこの人は持ってくる。
一回に借りられる限度まで借りてだ。
このあと下校時間ギリギリまで練習をして、いつ読む時間があるのか。
いつもはすぐに出て行く柳先輩がいつまでもカウンターを離れないのを疑問に思い、顔を上げると目が合った。気がした。
彼は細めすぎて良く分からないが。
「また数日後に来る」
「・・・はぁ、お待ちしております」
何の宣言か。
どうせ宣言なんてしなくても数日後にはくるというのに。
あまりに突拍子もない台詞に、地が少しだけ出てしまった。
柳先輩は、私の台詞を聞くときれいに微笑んで部活へと足を踏み出した。
それを確認すると私は窓を見てため息をついた。
しとしとと一定間隔で降る雨をみつつこれでまた数日は生きなければいけなくなってしまった。
わざわざ先輩が宣言までしたのに、その次の日にころっと死んだら多少なりとも先輩の記憶に残ってしまうかもしれない。
私は誰にも知られず、忘れられて死にたいのだ。
数日というのがまた曖昧である。
いつになったら死ねるのだろう。
少しずつ雨脚が強くなる雨の音を聞きながら仕事に慎んだ。