願いを叶えてみて
「ジニを探しに行きたくて、遅い時間に申し訳無いとは思ったんですが…家で待てばそのうち帰ってくるとは思うんですが心配で」
「あぁ、あの子…家出?」
運転しながら俺が指定した事務所に向かう。
ジニがどこにいるのか検討もつかないけれど、事務所の近辺から探す事にした。
肝心のジニに電話をしても全く反応が無い。
「家出ではなくて…事務所に泊まると嘘をついて、今どこにいるのかわからないんです」
「なるほどー」
経緯を話したらチャニヒョンは呼び出した理由を納得してくれた。
人の気配が無い事務所の前に車を路駐してあたりを探す。
繁華街の近くということもあり、飲み屋がまだ営業していたりもする地域で治安は良くは無い方だ。
営業中の店を覗いてみたり、薄暗い路地を確認したり、必死で探した。
この辺りじゃないのか?
逆に自宅の近くだったのか?
「チャンビニ、どう、見つかった?」
「まだ…」
チャニヒョンも別方面を探してくれていて感謝してもしきれない。
「急にベリーを預かって貰っていつも助かってるんだから、このくらい。未成年がこんな時間に帰って来ないんだから探さない訳がないでしょ」
気にするなと肩を叩いたチャニヒョンが心強くて心の強張りが少し解ける。
「俺のせいかもしれなくて…ジニの気持ちに応えてあげられなくて。言い方が良くなかったのか、言わない方が良かったのか…もうなんか今更だけどどうしたら良かったのか…」
「何が原因かはわからないけど、人を傷つけたくないって気持ちを持っているのは日頃の言動からわかってる。だから気にするのはやめよう」
落ち込んで蒼白のチャンビンに言い聞かせて、立ち並ぶ飲食店の裏路地に入る。
こんな所にいないだろうとは思ったが念の為に見ておく事にした。
裏路地は客が歩く事がほぼ無いから静かで明かりも最低限といった感じで、その静けさに慣れていないと不気味な雰囲気だった。
少し奥まった所に人の気配を感じたバンチャンがふと視線を正面から斜めに移すと、最低限の灯りの下で作業をする人影がひとつあった。
立ち止まり様子を見ていると、その視線に気づいたチャンビンが「あっ!」と声をあげた。
「ジニや!」
チャンビンがその人影の元に駆けつけると、チャンビンの影で手元の視界が悪くなった事に気付いてその人はチャンビンを見あげた。
「…ヒョン!」
驚き過ぎて使用済みの焼肉用の網を持ったまま尻もちをついたジニ。
余程想定外だったのか、目を白黒させて言葉を失っている。
「なにやってんの」
「あ…はわぁわわわっ」
やましい事がバレました、といった表情でここから逃げ出すか、でも仕事を置いては行けないという葛藤が見て取れた。
「事務所で練習中、じゃなかったの?」
「……あの…その…」
「ねぇ」
「…ごめんなさい」
嘘を付きました。
どう頑張っても誤魔化しきれないと諦めたらしく真っ青になって頭を下げたジニだった。 こんな所で何をしているのか。
何故働いているのか。
しろもどろになるジニに淡々と質問をしていくチャンビン。
責めているつもりは無いけれど、つい。
「あの…1人暮らしを頑張りたくて…お金がいるらしいから…」
半泣きほどにチャンビンに詰められて、ようやく白状した。
「今日は店に迷惑がかかるから仕方が無いけど、明日からはきっぱり辞めなさい」
「はぁい」
チャンビンとバンチャンに仁王立ちで見守られながら再び網洗いを開始した。
監視されるような状況に居心地の悪さを感じつつも、一生懸命に網を擦った。
「これ、時給いくら?」
暇つぶしかおもむろにバンチャンが聞いた。
多分興味本位。
こういう仕事をした事が無いからただ知りたかっただけだと思う。
「5000ウォン」
「「………5000ウォン!?」」
「!?」
チャンビンとバンチャンが叫んだらジニが驚いてまた尻もちをついた。
「おいおい、最低時給の半分以下じゃないか」
バンチャンが違法だ、と言ったがジニには今ひとつ響かなかったらしい。
法の意味もよくわからないのだろう。
「何時間働く予定でいるの?」
「えっ、と…店が終わるまでで時間はよくわかんなくて…」
「はっ!?」
自分が何時間働くのかわからない、だと?
チャンビンとバンチャンは顔を見合わせて、しゃがむジニの目線に合わせるべくしゃがみ込んだ。
「ジニや、怒っているわけじゃないから正直に答えて欲しい。今まで何日働いていくら貰ったの」
「えっ…とぉ…3日働いてこのくらい」
首からぶら下げていた財布を服の首袖から取り出して中身をチャンビンに見せた。
「15000ウォン!時給じゃなくて日給!今すぐこんな仕事やめちまえ!」
ジニの手から網を取り上げてバケツに放り込んだ。
さすがに悪質だ。
ちょうど洗浄する網を店主が運んできたからチャンビンが交渉して、すぐにジニはバイトを辞める事になった。
