願いを叶えてみて
リノからの連絡はスンミンやジョンイン達にもあり、ひと仕事をしてから部屋に集まる事にした。
ひと仕事というのはヨンボクの課題を残り数時間で終わらせる事。
「リノさん達にも協力して頂きたくて」
ジョンインが一度スンミン達を集めてヨンボクの課題の手伝いを依頼した。
「ほんとに申し訳ないんですけど、卒業課題をあと5時間でやりきらないとこの人、留年しちゃうんですよ。願い叶えて欲しそうな人を探して欲しくて」
「いいけど、その願いを叶えて寿命いただく課題ってなんなの?どういう意図の課題?寿命をいただく部署なんて厳密には存在しないよな」
リノが尋ねるとジョンインが「そうなんですよねー」とにっこり微笑みながら頭をかいた。
何か知っていそうだけれど言うつもりも無い様子にこれ以上知るのを諦めたリノはため息をついた。
「頭の良い人達が何を考えてさいるか知らないけど、そいつの親がかわいそうだから探してくるわ。どんな条件でも良いのか?」
「はい、でも…極端な極悪人とかとても可哀想な人が勉強にはなりますかね」
ジョンインの表情はニッコリしているけれど、目の奥は笑っていない。
「なにそれ、怖い」
ハンがぶるりと身震いした。
それを見ていたヨンボクも嫌な顔をした。
「…普通のでいいよ」
ヨンボクは小さな声で呟いた。
「普通でも凶悪でも可哀想でも、ヨンボガはもう学生のままではいけないよ。時間は無いから俺は探しに行く」
スンミンが静かに言ってその場を後にした。
凶悪犯の居場所なら詳しい。
営業で日頃あちこち彷徨いているから、溜まる所は把握している。
「ほら、これなんかどうだ。放火10件繰り返してまだ捕まってない。この先もやるぞ、こいつは」
リノは手当たり次第にヨンボクに紹介した。
「こいつの願いなんか叶えたくない。腹立つ」
「なら、こいつはどうだ。殺人1件起こしている。逮捕はされたが精神耗弱にて減刑。でも実は演技で反省なんかしてない」
「人を殺しといて願いを叶える?冗談じゃない!」
リノは紹介をすでに12件目で全てを断ったヨンボクに殴りかかりそうになる。
目をひん剥いて拳を振るいそうになるのを必死に理性で抑えている。
「ややや、じゃあ逆にこの人は?長年病気で入院している子供の親。子を救いたいと思う気持ちが素敵だと思う」
ハンが提案した件も「人の弱みにつけ込むなんてできない」と拒否。
「…この人、なんで99年留年したのかわかるわ…」
ハンがリノの耳元でこっそり囁く。
この課題に積極的じゃないんだな。
「あと3時間しか無いです。どれかに決めてください。僕、手伝うんで」
ジョンインが中々課題に取り組まないヨンボクの肩を叩く。
「もう逃げないで」
「でも納得いかない、願いを叶えて寿命や命を引き換えにするなんて」
ヨンボクがジョンインに抗議をする。
自己中心的な願いや切実な願いを食い物にして代償をいただいているようで抵抗がある。
「確かにあまり性格はよくない課題かも…」
思わずポロリと口だしたハンが慌てて口を手で押さえる。
「希望です」
ターゲットを探して戻ってきたスンミンが静かに言った。
「希望?」
「生き物には希望が必要です。通常であれば起こらない奇跡を有難がり、前向きになります。とくに人は。凶悪犯が突如の不幸に見舞われたり、可哀想な子が救われたり…それは命を代償にしている出来事など誰も知り得ない。あの人は悪人だから長くは生きられなかった、あの子は辛い病気だけど頑張って治した。それだけで人々の少し希望になるんです」
「奇跡を無償で起こしてあげればいいだけの事でしょ」
「何事にも代償、等価交換はつきものです。ただで願いを叶えてやる?我々の仕事は生き物の命を扱います。秩序無しでは仕事が出来ない。必ず物事には光と陰がある。良い事より不条理や暗い部分なんていくらでもある。生き物のそういった部分を目の当たりにしながらも適切に判断ができる感情を抑えられる人材を育てる事。それがこの課題の目的です」
スンミンが言うと「なるほど、世の中の法則を学び自己判断力を持った人材の育成か。個々の感情で色々変わったらいけないもんな、命を扱うだけに」とハンが頷いた。
「奇跡は滅多に起こらないでしょ。学生の実習だから数が少ないんだ。まぁ奇跡は副産物な側面なんだけどね。でもそれが人々にとっては希望になってるんだけど。我々が関与しない奇跡は一握り。事務的にはバグって言うんでしょ」
ジョンインが付け加えて言った。
「さて、理解して頂けたかわかりかねますが、俺もターゲットを選んできました。この条件はいかがですか?」
スンミンはヨンボクに紹介を始めた。
