願いを叶えてみて



自宅に帰ってからはジニがとにかく甘えた。
玄関に入れば抱きつき、食事を終えたら今日の出来事を詳細に話し、風呂が終われば再び締め上げるようなハグをし… 今日1日大変だったんだろうなぁ…と容易に想像がつく。

俺は黙ってそれを受け入れているわけだ。
新しい環境で頑張ったんだな。
寝る前にジニとベッドの上に並んで話した。

「ヒョン、明日から一緒に行かない?」

「仕事だから無理だよ」

「だってさ、いっぱい人がいるのに1人はツライよ…」

「それはこれから仲良くなる人を探すしかないよ。俺も今まで学校や会社で始めは1人だったけど、話しかけたりしているうちに1人じゃなくなったっていうか…」

言いかけたらスマホが鳴った。
あれ、先輩からだ。

「もしもし…」

『もしもし、チャンビニ?急で申し訳ないんだけど犬預かってくれないかな。急に実家に帰らないといけなくなって…』

「今からですか?」

『呼ばれちゃって。明日は有給取る予定で餌と水だけやってくれればいいから。トイレはシーツにさせたらいいし散歩はしなくていいよ』

「わかりました、待ってます」

初めての事ではなくて、もう2回預かった事があるから問題はない。
犬も躾がされているし、慣れてもいるから大丈夫だと思う。

「誰か来るの?」

ジニが俺の顔を覗き込んだ。
あぁ、前と違うのはジニがいる事だ。

「先輩のとこの犬を預かる事になったよ。噛んだりしないし可愛いから安心して」

「可愛い?……」

ジニの目つきが複雑になって俺は少し慌てた。

地雷か?
可愛いと言ってはいけなかったか?

「明日いっぱい預かるくらいだからさ、次のペットって訳じゃないんだよ」

ジニは次のパートナーの話に敏感だからな。
ちゃんとそうじゃないと安心させないと。

「…俺より可愛いの?俺よりイケメン?」

「ジニの方が可愛いしイケメンだよ」

比べる対象が犬だけど。
疑い深いジニをなんとか宥めているとジニがふっと唇を俺の唇に重ねた。

「……」

え、ええ!!
ジニがキスした!!

「人はこれすると好きになるんでしょ。テレビでやってた」

唇を真一文字にしたジニがじっとり俺を睨みつけた。 犬に嫉妬したんだな。

「ジニや、それは違う。これをしたから好きになるんじゃなくて、好きだからするんだ」

だから軽々しくするものじゃないし、間違っても誰彼かまわずするものでもない。

「犬は預かるだけ、それだけ」

再びジニが唇を重ねた。
いや、だから…

「好きだからしたけど」

多分好きの解釈が違うと思う。
よく言うライクとラブの違い、わからないかな。

「えっと、難しいかもしれないけれど、友達に対しての好きと伴侶にしたい好きがあって、こういうのは友達にはしないっていうか」

「友達じゃないじゃん、同居人だよ」

「あ、うん、同居人も同じで」

なんと説明したらいいかな。
なんかわかりやすい表現はないかな。

「例えばたけど、ジニは元々繁殖用に飼われていて嫌になって逃げてきたんだよね」

「うん、最悪だった」

「ジニはお姉さん方とは繁殖活動したくなかったんだよね。ジニがした行為はその繁殖活動の前の前の…うーん、わりと前段階なわけ」

「うん」

「だからさ、俺とは繁殖活動しないんだからそういうのしちゃ駄目です」

「あー…なるほど、繁殖活動したい相手とするやつかぁ」

「そう、それ!」

突然理解が早くて助かる。
繁殖しても良いと思える相手とする行為、と簡単に言えばそうなる。
まぁ、人間は色々複雑だからそうとも限らないかけどね。

「じゃあ、今から繁殖しよ!」

ジニが明るくニカッと笑うと俺を押し倒した。
突然突き倒された俺は目を見開いてジニを見上げた。

繁殖しよ?

頭の上に数個の「?」が浮かんでは消え浮かんでは消え。

「俺、ヒョンとなら繁殖しても良いよ!うまく出来るかわからないけど大人しくしててね!」

もしかして俺、ジニに襲われてる?
貞操の危機!?

「はぁえっ!ちょっと待て!俺はその気は無くてその道にも興味が無くてさ!」

「多分大丈夫だよー、なんとなく皆できてるもん」

そうね、動物に性教育なんてないから本能的になんとなくなんだろうね。

「ジニや!駄目だ!」



ピピピピピ ピーーー ガタン



ベッドでジニに襲われている最中、玄関のロックが解除され、小脇に犬を抱えたバンチャン先輩が俺達を見て固まっていた。

ち、違う! これは事故!


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