君が好き
チャンビンはいそいそと24時間営業のチェーン店へ向かった。
ヒョンジナが腹をすかせている!
トッポギ、おでん、トッポギ、おでん。
特に用など無かったが冷蔵庫の前で固まるヒョンジナを救出せねば。
「トッポギとおでんとキンパください」
つい余計なものも買ってしまったが、どうせ食べる。
社食を食べてはいたが、時間差で摘まみたくなる可能性は充分にある。
ダンサーはそれなりに動くからカロリーを補充しなければ。
ヨンボガも最近さらに痩せてきていてそっちはそっちで心配である。
商品を受け取って早足で自宅に戻るとテレビ電話の最中だった。
「ソゲッティン?うーん、今は出会いを求めてないっていうか…うーん…」
ソゲッティン? 誰がヒョンジナに誰を紹介をするんでしょうか?
でヒョンジナは出会いを求めてない=断る、の流れで合ってる?
ソファーに転がり俯せになりながらラフな格好で話しているヒョンジナはまだ俺に気づいていない。
「えー?あぁその子…良い子そうだったよねー」
「会うだけ?会うだけなら…」
え?揺らいでる?
そりゃそうだよな、女の子が好きなら興味くらいわくよな。
男なんだから当然か。
「ヒョンジナー、置いとくよ」
テーブルに買ってきた夜食を置いたら俺に気が付いた。
そのままシャワーを浴びに行く。
次だ、次の恋愛を探そう!
ヒョンジナは他に出会いを求めている。
このままでは俺が辛い。
いつもより長めにシャワーを浴びて出る。
「ヒョン、服着て一緒に食べよう」
いつものパンイチでリビングに出てきた俺を待っていたヒョンジナは箸でトッポギをつついていた。
2人で並んで夜食をとる。
並ぶのは横長のソファーが1つしかないからで深い意味は無い。
黙々と食べて、ちょっとした味の感想は話すけれどそれ以上の会話が無く…何話そ。
「ヒョン、作詞の調子はどう?俺、作詞するのに語彙力無くて大変」
「色々な歌詞を見てくといい表現があるから参考にしてる。自分が伝えたい事を文字におこすって意外と難しいよな」
なんて言ってるけど自分自身もまだまだ修行の身。
もっと満足いく作品を世に送り出したいと常に思っている。
作詞作曲する人は似たような思いを持っているんじゃないかな。
「語彙力無いついでの話なんだけど」
「うん」
おでんを食べながら返事をした。
「この前はごめん」
「? なにが?」
「ヒョンが俺に告白した日。なんか色々吃驚してあんまり話せなかったじゃん」
「あ、あぁ…その事ね」
俺の中ではもう終わらせる話なんだけど、今再びぶり返す?
でも事の始まりは俺なんだから話は聞いてやらないとな。
「ちゃんと話すと、別にヒョンの事を嫌いなわけじゃないから。世の中には同性が好きな人もいるしそれが悪い事ではないと思ってる。ただ自分には関係が無い世界だと思っていてとっさに言葉に出来なかったというか…」
「わかってる。俺だってまさか自分がそうだとは思わなかった。男を好きになるなんて俺自身が吃驚だわ」
トッポギを奥歯で噛みしめながら深く思う。
なんで好きになっちゃったんだろう。
世の中に認知されても棘である事には変わらないのに。
「しかも2週間くらい距離置いたじゃん。最初は吃驚して距離置いてたんだけど、そのうち寝て起きたら夢の出来事だったんじゃないかって毎日のように思っててそれが数日続いて…」
なんかごめん!
めっちゃ悩ましてた!
ヒョンジナが図太い精神であれば、すぐに忘れ去ってくれていたものの結構な繊細さんだったんだよな。
「でも、やっぱり現実の出来事で10日過ぎた頃には避けた手前話しにくくもなっちゃって…」
「いや、それは俺の方がごめん。そんなに追い詰めてたとは知らず…」
「で引越の日も絶交している訳じゃないのにあんな態度もあんまりだったかなって…今思えばね」
入室拒否のやつね。
大丈夫、恐ろしいわな。
自分を狙ってる男がいる部屋に飛び込むなんて。
わかる、わかる。
「この話ってヒョンの中では終わった話になってる?」
「うん、俺もちゃんと話しとくべきだった。これは終わった話だから忘れて貰っていいよ。ただ訂正したいのは…」
これだけはちゃんと言いたい。
「男を好きじゃなくてヒョンジナを好きになった。男が対象ってわけじゃないんだ」
ヒョンジナが目を見開いて箸で摘まんでいたトッポギをフローリングに落とした。
あ、ラグ敷いて無くて良かった。
俺はティッシュで包んでごみ箱に捨てた。
そしてキンパをがっつり食っていると横からヒョンジナがじっと見てきたけど、気づかないふりだ。
お前はソゲッティン頑張れ。
俺はこれから心ときめく誰かを見つける。
「ヒョン」
「ん?」
「キンパが…俺、まだ1口も…」
「わり!」
口の中はキンパでいっぱいで話せず…
「ヒョン…この話、いったん保留でもいいかな」
「!?」
俺は頬に餌をつめこんだハムスターのような顔で停止した。
保留?…とは?
