願いを叶えてみて



そろそろ定時を過ぎた辺りでスマホが鳴った。
ディスプレイにはジニの文字。

え、どした?

不安になりながらも電話をとった。

「もしもし?」

『ヒョン、助けて』

「どうしたん?」

初日でトラブル発生か。

『バスに乗ってたら寝ちゃって今どこにいるのかわからなくなっちゃって』

ほう、寝過ごしたと。

「循環だから乗ってたら一周するから、そのまま乗っときな」

『降りちゃった。そんで人について行ったからバス停の場所もわからないんだけど…』

「人についてった!?」

思わず声量が上がってしまい、まわりの同僚から一気に視線を集めてしまう。
今出来る事はその場に留まらせる事。
下手に動かれると探しにくい。

「近くに何か目立つものはある?」

『えぇっと…ご飯屋さんと薬屋と白い建物と…』

だめだこりゃ。
どこにでもある、ご飯屋も薬屋も白い建物も。

「近くの人にかわって」

『……もしもし』

「もしもし、すみません、私スマホの持ち主の保護者でして、彼が道に迷ったみたいなのですが今どこにいるのでしょうか」

『◯◯ですよ。バス停的には△駅近くですね』

「ありがとうございます、助かりました。彼に代わってください」

△駅ならまだ循環線を外れていないから、そのまま留まらせて迎えに行こう。
下手にまたバスに乗らせたら面倒な事になったら嫌だ。

『ヒョン』

「動かずにそこにいて。迎えに行くから」

『うん、わかった』

電話を切って身支度を始める。
初日だから仕方がない。
スマホ渡しといて良かった。

「お疲れ様です」

俺は同僚に挨拶をしてジニを迎えに行った。



地下鉄からバスに乗り継ぎ目的の△駅に向かう最中にジニを見つけたから駅で降りて迎えに行った。

「助かったー、ヒョンありがとう」

「大丈夫?」

「うん、気がついたらここだった」

「このバス、ぐるぐる同じ道を通ってるからこのまま座っとけば家の近くにつくよ」

「そうなの?」

焦って損したとジニが言った。
そして停留所で少し待つとバスがやってきてすいていたから座席に座る事ができた。
そしてジニがいつもの調子で甘えだした。
俺の腕にもたれかかって頬をスリスリ。
やめろ、公共の場では男同士がいちゃついているようにしか見えない。

「ジニ、ちょっとここでは…まっすぐ座って」

「なんで?寂しかったけど今やっと安心したのに」

情けない顔のジニが俺をじっと見て口を尖らせた。

「ほら、ここ家じゃないから。大人しくしよ」

「やっと会えたのに…何回ヒョンの事を思い出したか。いつも傍にいて助けてくれてたヒョンがいなくてすっごい寂しかった」

「や、あ、ありがと」

真剣に話すジニには悪いけどまわりの目が気になる。
まるでカップルの会話みたいで気まずい。

「だから今日は一緒に寝よ」

突き刺さる他の乗客からの視線。
違うんです、寝るって性的な意味じゃなくて純粋に寝るって意味で。

そういう関係では断じて無いです!

俺は声を大にして言いたかった。

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